火の加護ゲット
サラマンダーのイラプションよりもわずかに早く、カイン君の【スノーマン】が発動した。ぽこぽこぽこっと、白い雪だるまが魔法陣から生み出されていく。愛らしいそのフォルムとは裏腹に、数の暴力で相手を完膚なきまでにぶちのめす、氷結魔法なのか物理攻撃なのかの判断が際どい魔法だ。
祠の中はイラプションが発動し、溶岩が噴きだしている。カイン君はというと、雪だるま達に担ぎ上げられ、流れる様に溶岩から逃げていた。こ、これはライブ映像でよく見るクラウドサーフ? 雪だるま達は溶けても溶けても生み出され、山のように重なっていく。カイン君はその雪だるま階段を上っていき、ついにサラマンダーの顔の真ん前まで登り切った。
カイン君は水牢を解除するや否や、威嚇に為に大きく開かれたサラマンダーの口内に、剣を突き立てる。ルークスの補助魔法で攻撃力が上がっていたこともあって、その一撃が決定打になったようだ。サラマンダーの巨体が、砂埃を上げながらずしんと倒れた。
どうやら戦闘は終了したようだ。わたし達はカイン君の元へ駆け寄っていく。カイン君はかなり無理をしていたようで、大量の汗をかいてぐったりしている。ルークスがアイテムバッグから泉の水を取り出し、渡していた。これでひとまず体力は回復するだろう。水分補給にもなるといいけど……。
ふと足元を見ると、サラマンダーが仰向けになって倒れていた。体は元の小さな蜥蜴サイズに戻っている。これ……死んでないよね? わたしはお腹を指でつんつんと触ってみた。
『……はっ! な、なにをする! 我らに触るなど、身の程知らずにも程があるぞ!』
あ、良かった。生きてる。サラマンダーはしっぽの反動を使い体を起こすと、威厳を保つように首を天高く伸ばしながらこう言った。
『其方らの力、しかと見せてもらった! 我らを倒すとは見事である! 不本意ではあるが、其方らに加護を授けよう!』
倒したのは殆どカイン君一人の力ですけどね……。わたしなんて、今回なんにもしてない……。
『そこの! そこの金色の頭! そうお前だ! 見たところ其方は火の資質を持っているようだな! 其方に火の精霊サラマンダーの加護を与える!』
サラマンダーの言葉と共にルークスにふわりと光がとんでいき、体に溶けていった。よっしゃ! 火の加護ゲットだぜ!
『我らはこれより、壊れた祭壇の修復にかかる! 其方らは邪魔なので、早々に立ち去るが良い! ほれ、さっさと行け!』
……サラマンダーにしっぽで追い払われてしまった。ていうか、祭壇って自分で修復するんだ。そんなに信仰心が薄い人ばっかりなのかな? まあいい。加護も得られたことだし、もうここに用はない。わたし達は来た道を戻ることにした。
「カイン君すごかったですね! ほとんど一人で倒しちゃいましたし! かっこよかったです!」
「……そう? スノーマン達のおかげかな……あと、エステラが回復してくれてたし、ルークスも……」
「わたしは何もしてないわ。カインが一人で頑張ったんじゃない」
「俺も何もしてないのに加護だけもらっちゃって……なんか悪いな……」
おや? なんだかカイン君の顔が赤い。さっきはエステラとルークスの顔が赤かったが、今度はカイン君まで? 照れてる感じでもなさそうだし……そんなに暑いのだろうか。外に近づいていっているので、暑さは和らいできているはずなんだけど……。
「カイン君、まだ暑いですか?」
「……ううん、今は……どっちかっていうと寒いかな……」
寒い? ……いやいや、寒くはないよ。火の島の気候は常夏だし、ここは火の祠だよ? さっきここを通った時は暑いって言ってたし……って、もしかして……!
「カイン君、ちょっと失礼します!」
わたしはカイン君のおでこに手を当ててみる。……熱い。これ、熱があるんじゃない? わたしはカイン君のステータスを確認してみる。ばっちりバッドステータス【風邪】の表示があった。あわわわ! 大変だ! カイン君が風邪ひいちゃってる!
「カ、カイン君風邪ひいてますよ! 大丈夫ですか!?」
「……風邪? あぁ……道理でだるいと思っ……」
話しながら、カイン君がぐらりとよろめいた。あわててルークスが腕を伸ばして支える。カイン君、歩けないぐらい具合悪いの!? と、とにかにどこかで休まないと!
ルークスがカイン君を抱きかかえてくれた。カイン君は申し訳なさそうだが、このくらい何でもないとルークスは笑っている。わたし達は外に出るとドラ子を呼び、すぐ近くにある村へと運んでもらった。