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怒りのサラマンダー戦

 カイン君が詠唱完了していたブリザードをサラマンダーに向けて放つ。優位属性だけあって、かなりのダメージが入ったはずだ。続けざまにルークスとカイン君が剣で斬りかかる。だが、いかんせん体がでかすぎる為、深くまで剣が届いていない。サラマンダーは二人の絶え間ない攻撃を受けてもけろりとしている。それどころか、纏った炎から無数の火の玉をつくりだし、わたし達に向けてぶっ放してきた。


 やばい! これ魔法じゃなくてスキルの【火多流ほたる】だ! エステラにもダメージが入ってしまう!


 詠唱なしで発動可能のくせに、ファイヤボールの玉数の数十倍はあるスキルだ! 一発のダメージは大したことはないが、連続で受けると地味に痛い! わたしのところにも何発か飛んできたが、すり抜けてそのまま壁に当たっていった。こわっ。


 何かの魔法の詠唱に入っていたエステラは、サラマンダーの攻撃を受けてせっかく途中まで唱え終わっていた呪文が無駄になってしまったようだ。だが、離れていたこともあって着弾数はそれほどでもなかったみたい。再び呪文の詠唱に入っている。


 カイン君は自分とルークスにウォーターヒールをかけている。ルークスは殆どの火の玉を受けてしまっていたが、ウォーターヒールと鎧の自動回復機能で持ち直したようだ。


 わ、わたしも何かしないと! サラマンダーに近づいていき、もはや定番となったトリモチを作ってくっつけてみる。しかしくっつけた途端、トリモチはサラマンダーの熱でじょわっと溶けてしまった。……やっぱりね! そんな気がしたんだ! 後、わたしに何ができる? 応援実況ぐらいしかできないよ!


 わたしがそんなことを考えている間に、エステラがトルネードを発動した。普通の敵なら、風に切り裂かれながら上空まで押し上げられ、そのまま落下。という、なかなかに強い魔法なのだが、天井まできちきちに大きくなっているサラマンダーにはあまり効果がなかったようだ。皮膚を切り裂かれた程度だが、傷はしばらくすると完全に治っていた。


 言っても炎系最強であろうドラゴンを倒したわたし達だ。完全にサラマンダーを格下と思い、舐めていた。だが、なんだか思ったより強敵だ。しかもよくよく思い出してみれば、サラマンダーは炎による自動回復系のスキルも持っていた。剣でちまちま攻撃しても回復されては意味がない。今回はアシッドレインが使えないので、なにか他の方法で継続ダメージを与えるか、HPを一気に削りきる攻撃を仕掛けるかだ。わたしは近づいたついでに、サラマンダーの事を鑑定してみる。……うん、ドラ子ほどではないが、なかなかに強いですね……。


 わたしはなるべく邪魔をしないように気を付けながら、カイン君とルークスにサラマンダーの自動回復スキルを伝えた。というか、ルークスは鑑定持ちなんだから、強敵の場合だけでも自分で確認するようにしてほしいな……食べ物の可食判定以外で使ってるとこ見たことないよ……。


 サラマンダーのスキルを聞いて、カイン君は戦闘方針を変えたらしい。サラマンダーから距離を取ると、呪文の詠唱を始めた。ルークスは変わらず前線で頑張っている。エステラも弓でサラマンダーを攻撃し始めた。……魔法の効果があまりなかったためだろう。


 サラマンダーはルークスに斬りつけられながら、またしても【火多流】を飛ばしてきた。今度も殆どがルークスに当たってしまっている。カイン君の方にも何個か飛んで行ったが、詠唱を止めることなく器用に避けている。……普通にすごい。エステラが回復の為に癒しの風を発動して、みんなの体力が回復した。


 その内にカイン君が唱えていた魔法が発動した。サラマンダーの巨体の周りに、更に大きな水の檻が出現する。巻き込まれないように、ルークスが素早くバックステップで避けていた。


 サラマンダーの炎は水の檻の中で弱まったように思う。……完全に消えていないところがすごい。水の中でも燃え続けている。でもその表情は、今までと違って苦しそうだ。わたしが鑑定すると、徐々にではあるが、体力が減り始めていた。


 す、すごい……。すごいけど、カイン君これずっと維持するつもりなの? サラマンダーが大きくなってしまっているので、それをカバーできるだけの水牢を作るのはかなりの魔力が必要なはずだ。しかも、何やら別の魔法の詠唱も始めたようだ……。


 サラマンダーは水の檻から逃れようと、突進してきた。が、動ける範囲が少ないため、すぐに壁に激突した。踏みつぶされては困るので、わたし達は入り口に繋がる通路まで一端避難した。


「なんだか、すごいことになっちゃったわね……」

「そうですね……わたしもサラマンダーがここまで大きくなるとは思いませんでした」

「俺も剣で攻撃するか、火の魔法しか使えないし……カインに任せた方が良さそうだな」


 ゲームの中のサラマンダーはこんなに大きくはならなかった。なれたのかもしれないけど、ならなかった。普通に戦って、普通に勝てる相手だったと思う。……怒らせなきゃね。


 殆ど一人で戦っているカイン君は、極限まで大きくしたアイシクルエッジで、サラマンダーの体を穿っている。水牢とあわせて、サラマンダーのHPはゴリゴリ減っていった。わたし達は完全にサポートにまわって、エステラがカイン君の回復役、ルークスはカイン君の攻撃力を上げる魔法を掛けていた。……わたしにできることは特にない。


 カイン君は更に詠唱を始めた。サラマンダーがカイン君に向かって突進しては方向転換、突進しては方向転換している。だが、水の中にいる為か動きはそこまで早くない。身軽なカイン君は、上手に祠の中を駆け回っている。踏みつぶすことを諦めたサラマンダーは、魔法の詠唱を始めたようだ。


 えーとサラマンダーが使える攻撃魔法は【バーンブラスト】と【イラプション】と【ボルケーノ】か。どれも狭いところで使用されるときついな……。


 そうこうしている間に地面に複数の魔法陣が展開される。数と大きさからしてイラプションだろう。……ここもやばいかも。わたしはルークスとエステラにイラプションが来ることを使える。ドラ子戦の恐怖がよみがえり、二人はそろって青くなった。いや、あの時みたいにエステラにくっ付いておけば問題ないんだから、好きにくっついとけばいいと思うよ……。


 改まってくっつくのは恥ずかしいみたいだが、エステラを後ろから抱きしめる形で最終的には合意したらしい。ルークスの手が回されると、エステラの顔が真っ赤になった。ルークスの顔ももちろん赤いのだが、お互いの位置からは見えない。わたしは目の前で繰り広げられる青春の甘酸っぱさを直視しながら、一人戦っているカイン君への申し訳なさを感じていた。

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