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スキンヘッドの大男

 昼時の食堂は、まさに戦場であった。先程アイスクリームを購入してくれたマダムが、更にたくさんのお友達を引き連れてご来店されたのだ。ご主人が心配していたランチのボリュームも、奥様方には概ね好評で、揃ってアイスクリームを注文してくれた。マダムから新感覚デザートとして絶賛され、お友達も食べてみたくなったみたい。口コミって本当にありがたいですね。


 宿泊客で昼食をとられたのは、ぽよよんお腹の商人さん一人だけだったが、一口食べてはかたまり、一口食べては目を見開き、最後の方では泣いていた。オーバーリアクションではあるが、味には満足していただけたみたい。「よその町に行った時も、必ずこの店の事を宣伝する」と約束してくれた。やっほい。


 夕食はほぼ全ての宿泊客が希望され、ダンジョン帰りの冒険者や戦士のお姉様方は実に気持ちのいい食べっぷりであった。それでも昼間の食堂に比べれば、給仕は楽なものだ。ぽよよん商人さんは、夕食も泣きながら食べていた。


 後片付けを終え、最後のお客様が風呂から出られたので本日の業務は終了だ。ご主人と奥さんに就寝の挨拶をして、わたし達は二階の一室へと向かった。サン君もみんなの話が聞きたいと言って後ろをついてくる。


 五人がベッドに座り、あまり大きな声にならないように、それぞれが本日の感想を述べていった。


「ご主人ってすごいのよ。【料理上手】のほかに【調理速度UP】と【目利き】のスキルも持っているの! レシピも知らないものばかりだったし、勉強になったわ。明日は買い出しにも連れて行ってもらえるのよ。楽しみだわ」


 エステラはすっかり機嫌が直ったようで、ご主人の料理の腕を絶賛していた。料理好きなエステラにとって、かなり有意義な時間だったみたいだ。サン君はお父さんが褒められて嬉しそう。エステラに「父さんのここがすごい!」を語り始め、エステラは真剣な表情で相槌を打っていた。


 ルークスはやはりお姉さま方にからかわれたようで、入浴中に「お湯がぬるい」と呼び出しをくらったらしい。ルークスは目を瞑ってファイヤボールを唱え、何も見ないようにして、手探りで風呂から出ていったんだと。恥ずかしがるルークスがかわいいと更に気に入られ、夕食の席でも二人に声を掛けられていた。……お疲れさまです。


 カイン君は午後もアイスクリーム売り場で頑張ってくれた。アイスクリームは、とくに町の子ども達に評判で、お小遣いを握りしめながら、走って買いに来てくれた子がかわいかったと話してくれた。


 わたしは話を聴くうちに、昼間の男の子のことが脳裏をよぎり、小さく息を吐いた。



「……ユーリ、あの子達のことまた考えてるの?」


 カイン君が心配そうにこちらを見ている。わたしは無言で頷いた。ずっとそのことばかり考えているわけではないが、ふとした瞬間に思い出してしまうのだ。


「ん? 何かあったのか?」


 ルークスにも尋ねられたので、わたしは昼間のスキンヘッドの男やこども達のことをみんなに話した。男の特徴を告げると、ルークスは何かを思い出すようにして、腕を組んで天井を見上げた。


「……その大男って、顔にトカゲの入れ墨が入ってなかったか?」


 入れ墨? ちょっと遠かったのでそこまではちょっと……


「うん、あったよ。ルークスの知ってる人?」


 カイン君にはばっちり見えていたらしい。トカゲの入れ墨……爬虫類好きなんだろうか……


「いや、知り合いって程じゃないんだけど……蛇肉と皮を売りに行った店で話しかけられたんだ。見た目はちょっと怖いけど、気さくな良い人だったよ。エステラも一緒にいた子ども達と遊んでたし、結構長い間話し込んじゃってさ。その蛇はどこにいたのか、どうやって仕留めたのか、とか。……でも、子どもを殴るような人には見えなかったけどなぁ」


 あの蛇肉と蛇皮は、結構な値段で売れたらしい。買取額を聞いた周りがどよめくくらいに。……それで目をつけられたのかもしれないね。わたしが大男について考え込んでいると、エステラと話していたサン君が、こちらの会話に入ってきた。


「顔にトカゲの入れ墨のあるスキンヘッドの大男……多分それ、しろねこ亭に泊まってる客だよ。そいつが入った店で、客の持ち物が紛失する事件が続いてるんだ。証拠がなくてなかなか捕まえられないみたいなんだけど……ひょっとして、お兄さんたちのバッグもその男が……」


 ルークスが手でサン君の言葉を遮る。


「……サン、あまり人を疑うのは良くないぞ? 証拠もなしに決めつけちゃだめだ。バッグは、きっと俺がどこかに落としたんだよ」


 ルークスの言葉にエステラもうんうんと頷いている。わたしとカイン君とサン君は、そろって顔を見合わせた。純粋培養のこの二人に、人を疑うことはできないらしい。昨晩のようにまたお説教が始まっても困るので、わたし達は三人で身を寄せて、二人に聞こえないようにひそひそ話を始めた。




「……証拠がないんなら、見つけに行く?」


 カイン君の言葉にわたしはぎょっとする。見つけに行く? それってつまり……


「しろねこ亭に乗り込むって事? いいね、面白そう」


 サン君も何やら乗り気だ。え、これって止めた方がいいよね?


「あの……二人とも、いきなり乗り込むっていうのはちょっと……」

「いきなりじゃなかったら証拠があっても隠されちゃうだろ? お姉さん、時には行動力も必要だよ」


 やれやれといった表情でサン君は首をふっているが、え? わたしがおかしい? 乗り込むのが普通なの?


「じゃあ決まりだね。明日の仕込みが終わったら、僕とユーリでしろねこ亭に行ってみよう。サンはお店をお願いね」

「えー! 俺も行きたいのにっ!」

「だ、だめですよ! もしサン君に何かあったら、ご主人に顔向けできません!」


 わたしとカイン君なら、身の安全はほぼ保障されている。……問題はどうやって証拠を掴むかだ。トラブルが起きなければいいけど……


 サン君はぶつくさ言いながら、自分の寝室へ戻っていった。さあ、わたし達も寝ることにしよう。


 部屋のベッドは全部で二つ。はじめはルークスとカイン君が床で寝ると言っていたが、わたしが全力で阻止しておいた。カイン君を差し置いてベッドに寝るだなんてそんなっ! それならわたしが床で寝ます! 


 カイン君もルークス的にも、「女性を床に寝かせるわけにはいかない!」ということだったので、結局ルークスとカイン君が一つのベッドを使い、わたしとエステラが一つのベッドを使うことになった。男性陣は少々きつそうではあるが、我慢してもらうしかない。


 わたし達は昼間の疲れもあってか、あっという間に眠りについた。




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