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くろねこ亭の跡取り息子に、萌えというものを教えてあげました。

 翌朝、わたしは昨夜の内に創っておいた大量のカップと木製スプーンを厨房に運んだ。どうやって用意したのかとご主人に問われたが、それは企業秘密だ。次に従業員用の制服としてルークスとカイン君に執事服、エステラにメイド服を手渡す。さあ! 早く着替えておくれ! さあ!


 みんなが着替えるまでの間、わたしは男の子と一緒に洗い物のお手伝いをする事にした。わたしにだってこのくらいのことはできる。食器を洗う手を休めることなく、男の子が話しかけてきた。


「……まさかお姉さん達と一緒に働くことになるとは、思ってなかったよ……」


 う、耳が痛い。自分が呼び込んだお客さんに、お金持ってません! なのでその分働きます! とか言われた日には、わたしならショックで倒れてしまうかもしれない。


「……すみません、ご迷惑をお掛けします。でも絶対にお客さんを増やしてみせますから! わたし、頑張ります!」

「うん……よろしく頼むよ。……はぁ」


 あれー? あんま期待されてない感じかな? まあそうだよね。わたし達の意見を聞いてくれた、旦那さんの方が変わってる。


「あ、そういえばこの宿の悪い噂ってなんなんですか? 昨日旦那さんにも訊いたんですけど、はぐらかされてしまって……」

「……父さんはなんだかんだで伯父さんの事、嫌いになれないみたいだからな。俺が知ってることで良ければ話すよ」


 男の子……あ、名前訊きました。サン君です! 太陽のような明るい笑顔にオレンジの髪の色、オマケに跡取り息子でサン君! 覚えやすいよ!


 そのサン君の話によると、ここの旦那さんとしろねこ亭の旦那さんは兄弟で、もともとは二人のお父さんがしろねこ亭を営んでいたらしい。お父さんが亡くなった後も、お兄さんが経営、弟であるご主人が料理をそれぞれ担当しながらうまくやっていたんだそうな。


 でもお兄さんはどんどん利益を追求するようになってきて、クオリティ重視のご主人と意見が対立することも増えてきた。あるとき溜まりに溜まった不満が爆発してご主人は独立。いままで住んでいた家を改造して、このくろねこ亭をはじめたんだって。


 そこまでは普通の話。よくある事だ。だが、お兄さんは自分に反発して独立した弟の事が許せなかったみたいで、くろねこ亭のオープン当初から町によくない噂を広め始めた。「ぼったくり」「料理の味が分からないやつは馬鹿にされる」「妙なものを食わされて、腹をこわす」などなど。おかげでくろねこ亭は常に閑古鳥が鳴いている状態で、開店資金として借りた借金もかさむ一方……


 サン君はどうにかこの状況を打開したいと、画策しているのだが、幼い身でできることは少なく……「ならばせめて、自分にできることを」と、今日もお手伝いに励んでいるのだ。


「しろねこ亭は、最近じゃかなりガラの悪い客も泊めてるみたいで……周辺の店とのいざこざも増えてるんだ。じいちゃんが生きてたら、そんなこと絶対に許さなかったのに……!」


 サン君はギリリと歯噛みして悔しがっている。六年前に亡くなったおじいさんはかなり厳格な人で、その厳しさを持って、意見の食い違う兄弟の仲ををまとめていたらしい。だが、すでに亡くなっている人にすがっても、これからの問題は解決しない。今いるメンバーでなんとかしなければ。わたし達が手伝うのも一時的なこと。頑張れよ! 跡取り息子!




 わたし達が大量の食器を拭き終わった頃、三人が着替えを済ませて階段から降りてきた。


「なあユーリ、ココとココがぶかぶかなんだけど……」


 普段から鎧を身につけているルークスの体型はよくわからなかったので、ところどころサイズが大きかったみたいだ。わたしはサン君に見られないようにこっそりとサイズを直した。筋肉はしっかりついてるんだけど、腰とか意外と細いんだな。うんうん、金髪イケメン執事風ですな。前髪をちょっと斜め分けにしてみよう。……はい、良いと思います。


「ユーリ、わたしはボタンが閉まらなくて……」


 グラマラスエステラさんは、大きめにつくっていたはずのメイド服でもまだ小さかったらしい。恥ずかしそうに胸元を隠しながら耳打ちされた。一緒に風呂に入った仲ではあるが、あまりジロジロ見るのも失礼かと思い、現物を確認してはいなかった。わたしの想像を遥かに超えた、たわわ具合だったんですね。すみません。すぐさまサイズを調整し、ボタンを留めてあげた。


「僕はぴったりだったんだけど……変なとこない?」


 普段から見つめている、カイン君のサイズだけは完璧だ。全然変じゃないです! かっこかわいいです! はぁ……執事服、良い……! 髪はおろしててもかわいいけど、結んでみるのもきちんと感があっていいかも……し、失礼します! わたしはカイン君の髪の毛を手櫛でまとめ、服に合わせた黒いリボンで結んでみた。あああぁっ……いいよっ! すごくいいよっ! 体の中から溢れ出てくる感情の波を、必死で押さえつける。……カイン君に引かれないように、表情を取り繕わないと!


 あれ? わたしの様子もおかしいが、なにやらサン君の様子も変だ。


「お姉さん……俺なんだか、あの三つ編みのお姉さんを見てると、胸が苦しい……」


 サン君がエステラを見て胸を押さえ、頰を紅潮させている。少年には少し刺激が強かったかな? だが、まだだ。……まだまだ行くよ!


 わたしはホワイトブリムのかわりに、エステラにあるものを手渡す。これはアイスクリームと並ぶ、くろねこ亭の起爆剤だ。



「え? これは何? どうやって使うの?」

「……頭につけるだけですよ」


 わたしの言葉を受けて、エステラがそっと秘密兵器を装備する。その瞬間、ルークスが膝から崩れた。サン君も自分の服の胸の部分を握りしめ、前かがみになって苦しそうだ。カイン君はにこにこしながら「エステラかわいい!」と絶賛していた。


 そう……猫耳萌えは万国共通! 猫耳メイドさんの完成だ!


 わたしは戯れにカイン君にも猫耳を渡してみる。はぅ……黒髪に黒い猫耳が馴染んでて、まったく違和感がない。もともとそこに存在していたかのように超似合ってる……! そしてかわいさは、倍増どころか百倍増だ……! これはやばい。わたしの理性がやばい。


 ……だめだ。これを世の中にだしてはダメだっ! こんな可愛い子が猫耳をつけて呼び込みをしていたら、悪い大人に目をつけられてしまうかもしれないっ! エステラにはルークスをボディガードとしてつけるから良いとして、カイン君の猫耳姿はわたしだけの中に留めておこう……



 わたしはすぐさまカイン君の猫耳を外し、そっと封印した。

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