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神様のマネージャー

 ──最悪だ。


 シャワーを浴びながら壁にもたれかかる。神様に乾いた服に着替えてもらう間、私はシャワーを浴びることにした。一人きりの空間は、嫌でも先ほどの己の勘違いっぷりを思い出させる。控えめに言って、穴があったら入りたい。


 だが! 恥ずかしがってばかりもいられない。わたしには大事な使命があるのだから!

 拳を強く握りしめ、自らを鼓舞する。がんばれわたし! 負けるなわたし!! そう、目的の為ならば、神様でさえも利用してやるのだ!




 髪を乾かしながらダイニングに戻ると、神様はちょこんと床に座っていた。流石にフローリングに正座は痛そうだったので、わたしは椅子を勧めた。


「お待たせしました。えーそれでは撮影を始めたいと思います」


 生憎本格的なカメラは持っていないので、スマホのカメラ機能を使うが、画素数は多いし手ぶれ補正機能も付いていて、素人の私でもなかなかいい写真が撮れる。画像処理アプリを使えば加工も簡単だし、なによりネットにアップするのが容易だ。


「はーい、笑ってくださーい」


 カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャッ!


 フラッシュをたいて、連写機能を使い、様々なアングルから神様を撮影する。被写体が美形なので苦労せずにいい写真が撮れた。


「よーし、つぎ立ち上がってみましょうかー。ここの壁に手をついてー」


 ちょっと古いかもしれないが、壁ドン風な写真も撮っておく。神様は言われるがまま、素直に指示に従ってくれた。流石、モデル慣れしてるね。だんだん面白くなってきた私は、色々なポーズをとらせては撮り、とらせては撮り、気が付いたときには太陽がすっかり高くなっていた。


「こんなものですかね」


 大量の画像の中から、特によく撮れているものを何枚か選んでネットに上げていく。


「先ほどから一体何をしているのだ?」


 指示には従っていたが、良くはわかっていなかったみたいで神様は不思議そうに首をかしげた。


「まあ、任せてください。さて神様、この手作りミニ神社がとりあえずのあなたの社です。力を吸収出来る様に登録をお願いします」


「わかった」


 神様が手作りミニ神社に手をかざすと、製作費二千円は神々しい光を放ち、やがて落ち着いた。


「しかし、ここに参拝客を招くのか? この様な狭い部屋に何人も入れるとは思えぬが……」


 軽くディスられた気もするが気にしない。私は神様に手にしたスマホの画面を見せた。


「いいですか、神様。この光る板は、写真が撮れるだけではありません。インターネットという仮想空間とつながることが出来る、通信機器なのです。インターネット上には様々な人間の思いが渦巻いています。溢れています。いわば意思の世界です」


「なんと面妖な。そのような小さな板に神通力が備わっているというのか」


 わかりやすく驚いていただき、ありがとうございます。

 神通力っていうか科学の力なんだけど、まあそれはいいや。私は更に続ける。


「今この板を通じて、世界中の人が神様の写真を見ています。それからえーっと……」


 わたしは紙に赤マジックで簡単に鳥居を描き、カメラで撮ってアイコンに設定した。ついでにミニ神社も撮影してホーム画像に設定してみた。


「……ここからが重要です。いいですか、神様。このアカウントは鳥居です。鳥居ったら鳥居です。つまり、この神社への入り口です」


 わたしはスマホと神社を交互に指さして説明をする。

 神様の表情は固まっている。


「神様、このアカウントを通じて神社に信仰を捧げられるよう、登録をお願いします!!」

「いや、でも、これは鳥居では……、ただの紙に描いた絵で……その……」


 手作りミニ神社は許容できたが、絵に描いた鳥居は受け入れがたいらしい。しどろもどろになりながら絵に描いた鳥居を否定してきたが、わたしは負けずに繰り返す。


「要は! ……力の通り道さえ設定してしまえばいいのです。大事なのは本質です!! もう一度言います。神様、これは鳥居です。意思の世界とこの神社をつなぐゲートなのです!」


 神様はまだ何か言いたそうだったが、わたしの気迫に観念たのか、視線を落とし溜息をついた。


「……あいわかった」


 しぶしぶ試してくれた神様だったが、やってできないことはなかったみたいで、無事SNS上のアカウントは鳥居として認識され、神社を通して神様に力が流れ始めた。


「そういえばアカウント名を決めてなかったですね。神様はなんていう名前なんですか?」

「うむ、私はまだ神となって日が浅く、誰からも名を賜ってはおらぬ。別にこれといった決まりも思い入れもないので、其方がつけてくれても良い」


 えーなんにしようかなー。名前考えるのとか苦手なんだよね。えーとえーと、桜の神様と言えば……


「……木花咲耶姫コノハナサクヤヒメとか」


 唯一知っている日本の桜の神の名前を候補に挙げてみたが、どうやら神界に実際にいらっしゃる神のようで「恐れ多い」と却下された。神となった時招かれた宴で初めてお会いした咲耶姫は、それはそれは美しい方だったらしい。まあこの神様は姫って感じでもないしね。



「えーと、じゃあ漢字を変えて、朔夜はどうですか? 朔月の朔に夜でサクヤです」


 神様もそれならば……と納得してくれたみたいで、名前は朔夜サクヤに決まった。

 この間みたドキュメンタリー番組の、新宿ナンバーワンホストからとった名前というのは秘密だ。



「そういえばまだ其方の名を聞いていなかったな。名は何と申す」

「あ、村岡です」


 わたしと朔夜は遅くなった自己紹介を済ませ、改めてよろしくと握手を交わした。今までの人生で握手など数えるほどしかしてこなかったが、なかなか良いものだ。手を通じて気持ちが繋がる気がする。お互いの目的の為、これからもWINWINな関係を続けていきたい。

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