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なんちゃって魔導士

 朝目覚めると、わたしの体力は全快していた。良かった。これ以上カイン君に心配をかけたくはない。元気に背伸びをして、ベッドから飛び降りる。今日は村の店を見て回る予定だ。ルークスとカイン君は食料の買い出し、わたしとエステラは武器屋を覗きに行くことにした。わたしのお小遣いはエルグランスで使い切ってしまったので、新たに金貨を一枚もらった。「使いすぎるなよ!」とルークスに念を押される。



 小さな村なので、さほど歩かずして武器屋に辿り着く。こじんまりとした店内には、鋼の剣や木の杖が無造作に立てかけられている。これは売り物? それとも誰かの忘れ物? やる気のない陳列状態からして、あまり大したものは置いてなさそうだ。おひげがたっぷりのたれ目のおじさんが、カウンターに寄りかかりながら「いらっしゃい……」と、これまたやる気のない声をだした。


 エステラは攻撃力の低い新しい弓を購入するみたいで、早速しなり具合を確認している。わたしも弓は無理だったが、ボウガンのように自動で矢が射出されるタイプならば使えるかもしれない。弓のコーナーには見当たらなかったのでおじさんに聞いてみることにした。


「すみません、ボウガンって置いてますか?」

「ボウガン? いや、置いてないな……」


 あー、残念。ボウガンならわたしでもそれなりの攻撃ができると思ったのに……。もっと大きい街ならあるのかな? エルグランスで見ておけばよかった……


「じゃあ、力がなくても使えるような武器って何かありますか?」

「……子どものおもちゃならあるよ」


 コトリとカウンターに置かれたのはスリングショット。いわゆるパチンコだった。……これは流石に。


「ほ、他には何かないですか?」

「んー、あとは投げナイフぐらいかね……」


 コトコトリとカウンターに置かれたのは薄い刀身のナイフ数枚。こ、これを投げるの? わたしが?


「これって素人でも使えるんでしょうか……」

「さぁ……本人のやる気と訓練次第じゃないかね……」


 そうだよね。武器を扱おうと思ったら、ある程度の身体スキルが必要だよね。あー銃火器に頼りたいっ! バズーカとかマシンガンとか売ってないのか!? ないよねっ! 爆弾ですら禁止されるんだもんねっ!


「ほ、他にはないですか?」

「……そんなに力がないなら魔法で攻撃するのはどうだい? 魔導士用の杖ならいくつかあるよ」


 おじさんは壁にたてかけてある杖を指さした。……あれ売り物だったんですね。でもわたしは魔法で攻撃しようにも魔法が使えない。魔法が使えないのに杖って意味あるんだろうか。……なにか特殊効果が付いてるものとかあるかな? わたしはこっそり杖を鑑定してみた。


【木の杖】

 なんの変哲もない木の杖。殴られるとそれなりに痛い。わずかに魔法の効果がアップする。


 いや、まんまかよ。その横の杖はどうだ!?


【木の杖】

 なんの変哲もない木の杖。殴られるとそれなりに痛い。わずかに魔法の効果がアップする。


 一緒じゃん! 次っ!


【木の杖・改】

 なんの変哲もない木の杖……だったものを賢者が戯れに禁術の落書きを施したことによって、持ち主の魔力を吸い取りながら成長を続ける呪われた杖となった。


「こっこれ! これにします!」

「……毎度あり。変な落書きがあるから安くしとくよ」


 店を出ると、エステラがわたしが持っている杖を見ながら眉をひそめた。


「なんだかその杖、気味が悪いわ……呪われてるんじゃないかしら?」

「あ、はい。そうみたいです。持ち主の魔力を吸い取りながら成長する杖らしいです」


 だが、魔力∞のわたしにとっては呪いでもなんでもない。ただの成長する杖だ。


「成長……するの? 杖が? どういう風に?」

「いや……そこまではちょっと……」


 珍しかったのでノリで買ってしまったが、どういった成長を遂げるのかまではわからない。だんだん攻撃力があがるってことかな? まさか杖自体がみにょーんと伸びはしないよね? あまり長いと持ち運ぶのに不便だ。


 右手に握った杖にはわたしの魔力が絶えず流れていっているのだろう。落書き部分がうっすらと鼓動のように点滅している。……確かにこれは気持ち悪い。


 道行く人たちが、わたしのことをちらちらと見てくる。この杖そんなに気持ち悪いかな? と思っていたが、どうやらわたしが着ているこの服のせいらしい。WEFの世界では村ごとに衣装の特色があり、レナウ村は茶色と緑をベースにした地味なものだ。村の服を着てはいるけれど、こいつ誰だ? って感じなんだろうな……。


 気に入っている服だが、ちょうど良い機会なので、杖に合わせて衣装も着替えることに決めた。冒険者用の装備ならどこの村にいってもそこまで目立つことはないだろう。防具屋の中で魔導士用のローブをじっくりと観察する。隅から隅まで眺めたあと、店を後にした。きつね顔の店主が嫌な顔をしたが、気にしない。


 宿屋に戻った後で、わたしは村娘の衣装から魔導士のフード付きローブへと衣装チェンジした。ポケットにカイン君のハンカチを入れるのも忘れない! うん、魔法は全く使えないが、格好だけは魔導士だ。この杖でぼこぼこ殴って魔物をやっつけるぞ!


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