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初級魔法講座

「普段からわたし達は呼吸や食事によって体の中に魔素を取り入れているの。集中すると、血の流れと同じように魔素の流れを感じるでしょう? それが魔力よ。使いたい魔法の属性の精霊に、魔力を捧げることによって力を貸してもらうの。呪文は精霊に力を貸してくださいってお願いする言葉よ」


 エステラ先生、すみません。魔素の流れを感じません。


 森の中を歩きながらエステラ先生による初級魔法講座が行われているのだが、いまいちピンと来ない。どうやらいきなり躓いてしまったようだ。ルークス先生は「ガーっと集中してバッってやるんだ!」と教えてくださり、カイン先生は「慣れてきたら簡単だよ。精霊にお願いするだけだよ」とアドバイスをくださった。


「うーん、じゃあいきなりだけど実際に使ってみましょうか。六属性の内どれかは資質があるといいんだけど」


 WEFの世界は火土風水光闇の六属性の精霊がいる。火は土に強く、土は風に強く、風は水に強く、水は火に強い四竦みの関係で、光と闇は他のすべての属性に強く、お互いに弱い。資質があればその属性の魔法を覚えることが出来る。更に精霊に愛されるか、力で打ち勝てば加護を得ることが出来る。加護持ちは便利だ。同属性と優位属性の魔法ダメージを軽減してくれる上に、同属性の魔法の効果をあげてくれる。


「光属性のヒールはどうかしら? 使える人も多いし、回復魔法が使えると便利よ。呪文は無理に古い言葉でなくても、精霊に気持ちが伝われば大丈夫だから」


 エステラは森を歩いている時にできた、腕の小さな擦り傷を見せてくれた。よし! この傷を治すぞ!


 わたしはヒールを使うために集中した。


『光の精霊さん、光の精霊さん、お忙しいところ恐れ入りますが、わたくしに力を貸していただけないでしょうか? 大変お手数ではございますが、そこにおりますエステラの腕の傷を治していただきたく存じます。お礼と言ってはなんですが、わたくしの魔力をいくらでも差し上げますので、何卒よろしくお願いいたします!』


 なるべく下手に出てお願いしたにもかかわらず、光の精霊は無反応だった。


「うーん、光の資質はないのかもね。じゃあ次は風の魔法にしてみましょう」


 エステラ先生がお手本としてウィンドカッターを見せてくれる。空気の刃でスパスパっと木の枝が落ちた。わたしも目標として目の前の低木を定め、集中する。


『風の精霊さん、風の精霊さん、あなたの素晴らしいお力で、目の前の木の枝をスパスパっとやっちゃっていただけないでしょうか? お礼はたんまりといたしますので、何卒よしなに……』


 若干テイストを変えてお願いしたにもかかわらず、風の精霊も無反応だった。


 ルークス先生に教えてもらってファイヤボールも試してみたが火の精霊も無反応。残すは水と闇のみだ。


 ルークス先生にかわり、カイン先生がお手本を見せてくれる。アクセサリーの効果もあってか、カイン君が作り出す氷片は以前見たものより大きく、鋭くなっていた。……いや、まだサイズが変わってきている。パキパキと音を立てながら、氷片はどんどん大きくなっていく。もはや氷片というよりは氷塊だ。どうやらカイン君はお手本役として張り切ってくれているらしいが、これは最早アイシクルエッジというより、別の魔法だ。


「アイシクルエッジ」


 最終的に巨大な氷の柱のようになってしまったので、まったくエッジはきいていないが、目標の大岩にドコドコ当たっている。岩が砕けたのをみて満足気なカイン君が、くるりと振り返り「じゃあ、やってみて」と促した。


 わたしは水の精霊に呼びかける。


『水の精霊さん、水の精霊さん、先程のご活躍拝見いたしました。あの百分の一のサイズで構いませんので、どうかわたくしめにもそのお力の片鱗を見せてはいただけないでしょうか? 薄氷一枚でも良いのです。当方魔力だけは無限にございますので、お好きなだけ、ご自由にお持ち帰りくだいませ』


「……反応ないね」


 わたしは肩を落とし、とぼとぼと歩き続ける。せっかくカイン先生に素敵なお手本を見せていただいたが、わたしに水の資質はないらしい。残されたのは闇属性だけだが、闇の資質持ちは少ない。望みは薄いだろう。


「うーん、僕ちょっと水の精霊に訊いてみるね」


 そういうとカイン君は立ち止まり、空中に向かって何やら話し始めた。わたしはルークスとエステラに尋ねる。


「え? あそこに精霊がいるんですか?」

「俺は水の資質がないからなぁ。カインが一人でしゃべってるようにしか見えない」

「わたしにも見えないわ。でも風の精霊の姿も見たことないから、カインが特別なのかもしれないわね」


 あぁ、加護持ちだからなのかな? 離れたところでしばらく待っているとカイン君がやってきた。


「えっとね……言いにくいんだけど、ユーリの魔力じゃ嫌なんだって」


 嫌? 嫌とはどういうことだろう?


「魔力って体内に取り入れた魔素なんだけど、人によって個性が出るっていうか、その……味が違うんだって」


 へー精霊もグルメですな。じゃあ精霊の魔力の好みがそのまま資質の違いってことかな? カイン君の魔力はさぞかし美味しいんですね? わかります。


「でもユーリの魔力は……その辺りを漂ってる魔素そのもので、味がないっていうか……あえて力を貸してまで食べたいものじゃないみたい。多分、他の精霊もそうだって」


「え……じゃあ、わたしは……」

「……魔法が使えない」



 ガガーン! 雷に打たれたような衝撃が走った。



 ……なんということでしょう。魔力だけは無限にあるから「魔法が使えたらきっとカイン君のお役に立てる! 傷だって治してあげられるし、背中も任されちゃったりなんかして! ふふっ、一緒に旅の仲間としてレベルアップするんだ!」と妄想していたのに、計画丸つぶれだ。


 爆弾は禁止され、魔法は使えず、体力と攻撃力はゴミで、飯だけは食う。一体わたしはなんの役に立てるというのだろう? 役に立つという触れ込みで旅に同行させてもらっているのに、これでは契約違反になってしまう!


「げ、元気出してユーリ。魔法が使えない人も沢山いるわ。他の良いところを伸ばせばいいのよ」

「そうだぞ。俺も魔法より剣の腕の方が上だし、ユーリも得意な技を磨けばいいんだよ!」


 落ち込むわたしを、エステラとルークスが両サイドから励ましてくれる。こいつらいい奴だな……。しかし、甘えてばかりもいられない! カイン君を守るためにも、できるだけこのパーティーに居座りたい! クビだけはまじ勘弁!


 わたしは、わたしの有用性を必死に考える。……そうだ! わたしには、まだスキルがあるじゃない! 創造のスキルを使って新たな武器か必殺技を生み出そう! 今のところ思いつかないけどっ!


 新たな目標を胸に、わたしは森の中を歩き続けた。


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