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初キャンプ

 わたし達が果実とキノコの入った袋を抱えて戻ると、ルークスが鎧を脱ぎ、川に入って魚を捕ろうと奮闘していた。エステラは河原の石で竃を作り、鍋で水を沸かしている。カイン君が採った果物とわたしが見つけたキノコは、鑑定の結果どちらも食べられるものだったので、エステラもとても喜んでくれた。


 ルークスは先ほどから、水しぶきを上げながら素手で魚を捕獲しようとしているが、なかなか捕まえられないらしい。釣り竿でも創ろうか……とわたしが考えていると、カイン君が川べりに寄って行った。


 ルークスと何か言葉を交わし、ルークスが川から上がった。カイン君は魔法の詠唱を始めたようで、若干光っている。詠唱が終わると、小川の一部が魚ごと凍ってしまった。ルークスが伝説の聖剣で氷を割り、両手で抱えてこちらへやってくる。


「見てくれ! 捕れたぞ!」


 ルークスが抱える氷には、魚が四匹閉じ込められていた。ルークスが氷を置き、カイン君が魔法を解除すると、氷は溶け、魚はぴちぴちと跳ねだした。それをエステラが素早く捕まえ、棒に刺し塩を振る。それを火の周りに並べられた石の間に上手く挿し、固定した。わたしも真似をして、採取したキノコを棒にさして塩を振ってみた。うん、キャンプっぽい!


 ルークスはアイテムバッグの中からショートパスタ、細かく刻まれた塩漬けの肉、トマト、乾燥させたハーブのようなものを取り出すと全部一緒に鍋の中にぶち込んだ。程なくしてパスタが柔らかくなった頃、トマトのいい匂いがしてきた。エステラが最後に塩をひとつまみ入れ、味見をして頷く。


「よし、食事にしよう!」


 ルークスがみんなに食器を配ってくれる。エステラがスープをよそってくれる。カイン君が果物を剥いてくれる。わたしはおとなしく座って待っていた。


「いただきまーす!」


 まずは注がれたスープを一口飲む。味付けはシンプルに塩のみだが、塩漬け肉とトマトの旨味がよく出ている。じんわりとお腹のあたりが温かくなるような気がした。この辺りはトマトが名産品らしく、城の食事にも多く使われていた。ハーブのようなものは乾燥させた薬草だったらしい。傷口に直接使う他にも、こうして食べることによって体力を回復させることができるんだとか。


 魚も文句なしに美味しかった。背中からかぶりつくと、まずその皮の香ばしさに驚いた。ほろほろと崩れる柔らかい身は脂が乗っていて、歯を入れた瞬間湯気と一緒に旨味が溢れ出す。エステラの絶妙な塩加減が、更に美味さを倍増させていた。


 唯一自分で採取したキノコは、肉厚なシイタケの食感と、マイタケの香りを合わせたようなハイブリッドな味わいで、みんなおいしいと言ってくれた。欲を言えば醤油がほしいところだ。


 デザートの果物も瑞々しくて美味しいかった! ほのかな酸味とさっぱりとした甘みはやはり林檎に似ていて、森に自生していたとは思えない味だった。特にカイン君が採取して自ら剥いてくれたという点がポイント高い。うまさ倍増。


 わたしとカイン君には大満足の食事だったが、ルークスとエステラは少々物足りなかったらしい。残っていた果実を渡すと、ルークスは皮のまま噛り付いた。エステラも同様だ。皮に含まれる栄養とカロリーを逃すわけにはいかないらしい。それを聞いたので、わたしも剥いてもらった皮をしゃりしゃりと食べ始めた。


 食事の後片付けを終え、わたし達は火を囲み色々な話をした。ルークスとエステラの出会いについてや、火の族長に会って聞いた話。牧場から逃げたジャイアントブラックシープを捕まえるまでの苦労話。ルークスはもうこりごりだと言っていたが、わたしは是非とも一度はもふりたい! 子どもサイズでいいので!



「そういえば、ユーリはどうやってあのゴーレムを倒したんだ?」


 ルークスが火に小枝をくべながらわたしに質問してきた。どうといわれても……


「えーと、爆弾をつくって投げ入れました」


 わたしは正直に答えたが、三人の顔には疑問符が浮かんでいた。


「ばくだんって何?」


 え? 爆弾ないのかな? それとも火薬がないのかな? わたしは簡単に「魔法じゃなくて、誰にでも使えて、火をつけたらバーンってなるやつ」と爆弾の説明をした。といってもわたしも詳しくはない。そもそもニトログリセリンの作り方を知らない。


 わたしの説明を聞いた後、三人の表情は曇った。なぜだ。エステラが心配そうにわたしに尋ねる。


「ユーリ、ひょっとして……それって古代兵器なんじゃない?」


 現代では、魔法文明が発達していた時代を旧時代、科学文明が発達していた時代は古代と呼ばれている。人々は化学兵器によって汚染されてしまった地上を憂い、科学は禁忌とされた。爆弾が科学に該当するならば、質問への答えは「はい」だ。


「そうかもしれません」


 今度ははっきりとエステラの顔が青くなった。絶対に誰かに知られてはならない、二度と爆弾をつくってはならないと念を押される。予想以上にこの世界の人たちの、科学に対する忌避感が半端ない。これはやばい……わたしのステータスにはすでに爆弾魔のワードが入ってしまっている。が、万が一鑑定されたとしても爆弾の意味が分からなければセーフだろう……そう思いたい。


「ユーリはなんで古代兵器がつくれるの? どこの島の出身?」

「島というか……わたしは異世界からやってきました」


「「異世界?」」


 そういえばこの二人にはちゃんと説明をしていなかったことを思い出す。わたしは異世界からやってきたけど、目的は二人と同じだよ? 魔王を倒す為にここに来たんだよ? と、一生懸命説明した。爆弾がつくれる理由についてはわたしにもよくわからないので答えようがないが、とりあえずそういうスキルだという説明もした。わたしの一生懸命さが伝わったのか、具体的な回答は何一つ得られていないにも関わらず、二人は素直に納得してくれた。今日も安定の純粋っぷりである。


 しかし唯一の攻撃手段であった爆弾が禁止されたのには困った。なにか別の攻撃手段を考えるか、魔法攻撃を習得するかしなければパーティーのお荷物になってしまいそうだ。正直、文明社会で生きてきたわたしにとっては、科学がダメで魔法はオッケーな理由がいまいちわからない。どちらも使い方次第だと思うのだが「郷に入っては郷に従え」だ。それにゲームの世界にきたからには、魔法というものを使ってみたいのが心情! わたしもかっこよく呪文を唱えたい! うん! 爆弾のかわりに魔法でも全然オッケー!


 今日の夜は交代で火の番と見張りを行い、明日になったらみんなから魔法を教えてもらえることになった。

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