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初フィールド

「あらカイン、素敵な石ね」

「うん、ユーリが買ってくれたんだ」


 買い出しが終わったルークス達と合流し、街道へつながる道を歩いていく。カイン君は髪を耳にかけ、新しいアクセサリーにご満悦のようだ。


「僕、あんまりプレゼントって貰うことないから、すごくうれしい」


 にこにこと機嫌が良さそうなカイン君を見ると、買ってよかったと思うが、わたしは精神的にどっと疲れた。「顔色が悪い」とエステラにも心配されてしまった。


「この後どうする? 特に行先は決めてないんだけど……」


 ルークス達は火の族長からの手紙を王様に届ける為と、腕試しの為に闘技大会に参加したが、そのあとはノープランだったらしい。まずはこの人工島でできることをやってから、次の島へと向かいたいところだが、一番小さいこの島ですら、日本の北海道程度の面積がある。これからの旅の為にも、先ずは移動手段を確保しておきたい。


「そうですね……魔獣の水場に向かいたいですね。そこで、魔獣を一匹捕まえましょう」


 WEFの世界には魔獣と呼ばれる不思議な生物がいる。ドラゴンだったり、グリフォンだったり、ペガサスだったり、超でっかい羊だったり、多種多様だ。魔物と違って無闇に人を襲ったりしないため、おとなしい性格のものは家畜として飼われる事もある。またグリフォンのように機動力にすぐれた力の強い魔獣は移動手段として重宝されている。ルークス達もこの島へ渡るときはグリフォンの荷馬車に乗ってきたはずだ。だが荷馬車は決まった区間の行き来しかできないので、少々使い勝手が悪い。


 ルークスの持ち物の中にあった【魔獣の首輪】は好きな魔獣を使役することのできる便利アイテムだ。イベント「ジャイアントブラックシープを捕まえろ!」をクリアすると牧場の人からお礼として貰える唯一品で、魔獣に乗って移動できるようになる。陸地の移動であればジャイアントブラックシープでも良いのだが、できれば翼を持った魔獣を捕まえたい。ちなみにジャイアントブラックシープとは名前の通り、でかくて黒い羊で、子どもサイズでも象よりでかい。もっふもふの毛が特徴の、家畜として飼われている代表的な魔獣だ。


「魔獣の水場って、南の方にある森の泉の事だろう? 結構遠いな……。ここからだと途中、村がひとつあるだけで、あとは野宿になるぞ」

「僕、野営は慣れてるから大丈夫だよ」

「わたしもまあ、キャンプ程度なら……」


 幼いころは両親とよくキャンプに行った。テントで寝起きして、バーベキューを楽しんで、川で泳ぐ程度の経験ならある。多分大丈夫。


 食料を更に少し買い足して、遅めの昼食を取り、わたしたちはエルグランスを後にした。ここから先は魔物とエンカウントするフィールドだ! より一層気を引き締めなければ! 腰を落とし、じりじりと進むわたし。もちろん左右の警戒も忘れない! うん、冒険者っぽい!


「……ユーリ、そんな歩き方してたらすぐに疲れちゃうよ? 普通に歩いた方がいいよ……」


 カイン君のアドバイスを受けて、わたしは落としていた腰を上げ、普通にすたすたと歩き始めた。……うん、これが正解だわ。


 街道を一列になってひたすら歩く。二時間~三時間程度歩いただろうか……。その間、一匹も魔物は現れなった。


「おかしいですね……魔物が一匹も出ませんね」

「そうだな。もともと街道沿いは見晴らしもいいから、そんなに魔物は出ないけど、ここまで何もないのは珍しいな」

「じゃあ少し道を外れてみる? 森の中なら魔物の数も多いだろうし……」


 エステラの提案で、わたし達は街道から外れ森の中を行くことにした。直線距離で言えばこちらの方が近いので時短にもなるだろう。森の中を進んでいくと、かなり離れた樹の上に猿によく似た魔物がいるのをエステラが発見した。……わたしには点にしか見えないが、エステラの視力は5.0とかなのだろうか……。


「新しい武器の威力も試したいし、わたしがいくわね」


 エステラは弓を構えると弦を引っ張った。すると何もないところから細かい光の粒子でできた矢が現れ、魔物に向かい、光の速さで飛んでいった。矢は間違いなく当たったのだろう。パンッ! という音と共に猿の魔物と周辺の樹の枝は霧散し、密集した樹の枝の中で、そこにだけぽっかりと空洞が出来ていた。



「「「…………」」」

「ど、どういう事!? え? なんで消えちゃったの!?」


 エステラは初めての現象に驚いていたが、おそらく……攻撃力が高すぎるのだ。この森の魔物はそこまで強くない。最強の弓を装備し、それなりにレベルの上がったエステラにとっては死体を残すことも難しい相手なのだろう。


「これは……困ったな。食料が足りないかもしれない……」


 ルークスが腕を組んで難しい顔で悩んでいる。どういうことか尋ねると、なんと今までは移動中に倒した魔物や魔獣を食べながら旅を続けていたらしい! 街で買った食料はあるが、それだけでは次の村に着くまでに食べつくしてしまうというのだ! しかもエルグランスの街で、以前に装備していた二人の武器は売ってしまったという! どこからどうつっこんだら良いかわからない!


 それ以降も、魔物の姿を見ることはなかった。エステラ曰く「時々気配はするが、遠のいて行く」らしい。……魔物の数が少ないと思っていたが、魔物の方がわたし達を警戒して距離をとっていたのだ。まさかここにきて最強装備の弊害がおこるとは思わなかった。食料を買い足す為エルグランスに戻るか、このまま進むか……悩むところだ。


「もう結構歩いちゃったし、このまま進もう。食料なら何とかなるよ」


 カイン君はあっけらかんと言ってのけ、どんどん森の奥へ進んでいく。わたし達は顔を見合わせ、進むことを選択した。陽が落ちる前に、野営地も見つけなければならない。


 しばらく歩いたところで、清流を見つけたので、今日はその近くで一泊することにした。ルークスとエステラがテント代わりの布を張り、カイン君とわたしは袋を持って食料になりそうなものを探しに行くことになった。今夜の夕食はわたし達の手にかかっている! 頑張らねば! 正直あの二人に任せていたら何を食べさせられるかわかったもんじゃない! 魔獣はともかく、魔物は食べ物ではないと思う!!






「あ、あそこに木の実がなってるね」


 カイン君が背の高い木の、かなり上の方を指さす。……みんな目がいいな。


「食べられるかどうかわからないけど、採ってみようか」


 そういうとカイン君はするすると木に登って行った。足を掛ける枝が多いとはいえ、早すぎる……。あっというまに上にたどり着くと、手を伸ばして二個、三個と木の実を採っていく。わたしはポカーンと口を開けてその様子を見ていた。


「ユーリー! 今からコレ落とすから、受け取ってねー!」


 カイン君がポイポイっと木の実を投げてきたので、わたしはスカートの裾を持ち、慌ててキャッチした。何個かはバウンドして地面に落としてしまったが、つぶれなかったのでセーフだろう。リンゴに似た赤い果物が八つも採れた。やった! わたしがリンゴもどきを袋に詰めていると、遥か頭上のカイン君からまた声がかかった。


「今から降りるから、ちょっと離れててねー!」


 うん? 降りるのは分かるが、離れなければいけないのだろうか。虫でも落ちてくるのかな? わたしは言われた通り数歩下がってカイン君の様子を見ていた。次の瞬間、カイン君は太い枝を足場にして六メートル以上はある木の上から躊躇なく飛び降りた。うえええええええ!! わたしは急いで更に後ろに下がった。


 ものすごい着地の衝撃を予想していたが、カイン君はくるりと一回転をした後、ストンと軽く降りてきた。わたしは「絶対危ないと思う! 死んじゃうよ!」と言ったが、「足から降りれば意外と大丈夫」と言って聞き入れてもらえなかった……あぁ、これはたしかに言う事聞かないわ。アメリアやオルランド中将の言っていたことが、なんとなくわかってきた。


 わたしはウザがられることを承知で苦言を呈す。


「カイン君……その……もうちょっと……自分の事を大事に扱ってくれたら、うれしいです……」

「なんで? 大丈夫だよ? ケガもしなかったし、しても僕、回復魔法使えるし」


 カイン君は本当にわからないといった顔できょとんとしている。そうか、この世界には便利な回復アイテムや魔法があるせいで、ケガに対する恐怖心が薄いのかもしれない。だが、これ以上目の前で危険なことをされてはわたしの心臓が持たない! これ以上カイン君がケガするところを見たくない!


「……わたしが、心配なので」


 ……自分で言ってて突っ込みたくなった。わたしが心配だからなんだというのだ。なにかそれらしい理由をつけようと考えたのに、口からでたのは飾りっ気なしの本音そのものズバリであった。あぁ、なんか無性に恥ずかしくなってきた。カイン君黙っちゃってるし! その辺にわたしが入る穴はないか!? なければ掘ってでも埋まりたい!


 黙って顔を伏せていたカイン君だったが、ゆっくり顔を上げてにっこりと笑った。


「わかった。ユーリがそう言うなら、これから気をつける。でも、ユーリも気をつけてね? どっちかっていうと、僕よりユーリの方が無茶してると思うけど……」


 う、返す言葉がない。ゴーレムの一件についての事を言われているのだろう。でもでも! わたしの場合はこの体のおかげでケガする心配とかないから! 今のところ無敵状態だから!


 わたしがそう言い訳すると、カイン君は苦笑いをしながら「今日大丈夫だからと言って、明日大丈夫だとは限らない」という意味合いの事を言った。うーんお説教をするつもりが逆に諭されてしまった気がする。



 果物の他にキノコを何種類か見つけて、わたし達は森の恵みに感謝しながら野営地へと戻った。

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