宝を目の前に
「ほんっっとうに申し訳ございませんでした!!」
わたしはおでこを床に擦りつけ、カイン君に土下座して謝った。この世界に土下座という文化があるのかはわからないが、わたしにとって一番誠意ある謝り方がこれだったのだ。
「気にしなくていいよ。ユーリが悪い訳じゃないし、ケガだって……ほらもう治ったよ」
ゴーレムに撃ち抜かれた方の足で、片足ジャンプをみせてくれるカイン君。なんて優しいのだろう。全面的にわたしが悪いのだが、あの謎の声に関することは話すことが出来なかった。
「そうよ、ユーリ。結果的に早く倒せたんだから良かったじゃない」
今回わたしの見通しの甘さで多大なるご迷惑をおかけしたエステラさんまでもが、わたしに暖かい言葉をかけてくださる。わたしはみんなの優しさが心にしみ、泣いた。
「それはそうと……あれどうするんだ?」
ルークスが宝物庫の方を指さす。ゴーレムは倒すことが出来たが、その巨体を形作っていた瓦礫は宝物庫へ続く扉を完全にふさいでいた。……うーん、困ったね。
「ルークスのアイテムバッグに入れて運ぶ? 手で運ぶよりは早いと思うけど……」
エステラがルークスの腰についたバッグを見ながら提案する。アイテムバッグとは空間圧縮魔法が掛けられている魔法のバッグで、見た目に反してかなりの物量を収納することが出来る旅のお役立ちグッズだ。バッグの口より大きなものも楽に収納できる優れもので、瓦礫であっても持ち上げさえすれば、バッグに入れることが出来る。
「うーんでもかなり大きな塊もあるし、俺たちだけでは難しいな……」
「僕、オルランド中将に報告もしないといけないから、ついでに相談してくるよ」
カイン君はそういうと階段を駆け上っていった。……足、治って良かった。……いやいや、治ったら良いって問題でもない。……わたしって、カイン君に迷惑かけてばっかり……はぁ。またしても落ち込むわたしを見て、エステラが励ましてくれた。
「……元気だしてちょうだいユーリ、そうだ! わたし、かなりレベルが上がったのよ」
エステラがにこにこと報告してくれる。彼女の笑顔は本当に癒される。ゴーレムがかなり高レベルだった為、戦闘に参加していたエステラにも経験値が多く入ったのだろう。わたしはエステラに一言断った後鑑定をしてみた。
名前 :エステラ
職業 :旅の弓使い
LV :35
HP :3580/3580
MP :2010/2010
攻撃力:980
防御力:842
素早さ:767
スキル:【百発百中】【料理上手】【隠密】
加護 :
魔法 :【ウィンドカッター】【ヒール】【トルネード】【癒しの風】
おぉ、かなりレベルが上がっている。しかも全体回復魔法である【癒しの風】を覚えているのはありがたい。MPも高いので、パーティーの回復役として活躍してくれそうだ。しかし、エステラのレベルがこれだけ上がったのだ。実質ゴーレムを倒したわたしのステータスも期待できるのではないだろうか? わたしはわくわくしながらステータスを確認した。
名前 :ユーリ
職業 :神の眷属の預言者で爆弾魔
LV :46
HP :55/55
MP :∞
攻撃力:50
防御力:47
素早さ:48
スキル:【魔素の体】【管理者権限】【鑑定】【創造】
加護 :
魔法 :
職業おかしいだろう。足していけばいいってもんじゃない。しかも爆弾魔ってなにさ。まだ一回しか使ってないし。あ、結構レベル上がってる! ……って、まってまってまって。レベルの割にパラメーター低すぎない? いや、確かにレベル1の時からすれば上がってはいるけど、最低限過ぎない? え、こんなもん? 帰宅部だったから? 運動部に入っていればまだ伸びが良かったの?
わたしが自分のステータス画面とにらめっこをしているとカイン君がオルランド中将を連れて戻ってきた。
「……信じられん。本当に倒してしまったのか……」
オルランド中将はゴーレムの残った掌に触りながら、感嘆の声を洩らした。
「けど、宝物庫への扉がふさがれてしまって中に入れないのです。何とかなりませんか?」
「わかった。少し離れていなさい」
わたしたちは言われた通り、少し離れたところからオルランド中将を見守る。魔法の詠唱が始まったようだ。かなり長い呪文を唱えている。
「カイン君、オルランド中将はなんの魔法を使っているんですか?」
「闇属性の魔法だと思うけど、僕も中将が魔法使ってるところは見たこと無いんだ」
なんと、闇属性。闇属性の魔法を使える人物はかなり少ない。カイン君が後半ちょっと覚えるくらいで、他のパーティーメンバーは全く使用できない。わたしも敵キャラが使ってくるところは、見たことがあるが、NPCにも保有者がいたとは。
オルランド中将は全体的に黒でまとめられた鎧を身につけているので、イメージ通りといえばその通りなのだが、ゲームプレイ中は、王様の横に控えている人という印象しかなく、とくに注目することはなかった。こうして改めて見てみると、白髪が混じり始めた黒髪に、鋭いダークグレーの瞳、高い鼻、まなじりと眉間には皺が刻み込まれている。すらりと伸びた長い足に、引き締まったウエスト……スタイルの良さもあって、おじさんというよりはナイスミドルといった感じだ。……オルランド中将ってかっこよかったんだ。さすがゲームだけあって、美形率高い。
わたしが変なところに感動していると、オルランド中将の魔法が発動した。黒い小さな球体が空中に浮かんでいる。
中将が指で誘導すると、球体は瓦礫を吸い込み始めた。……これは便利な掃除機……もとい、小型ブラックホールだ。ふよふよと浮かびながら次々に瓦礫を吸い込んでいく姿は、食事風景のようでなんだかかわいい。
「……かわいいですね」
「そう? 僕は怖いと思うけど……」
あっという間に大量の瓦礫はすべて吸い尽くされ、役目を終えた小型ブラックホールはすうっと消えていった。
わたしたちはオルランド中将にお礼を言うと、閉ざされた扉の前に立った。試しにわたしが扉を押してみるが、ビクともしない。なんで!? わたしがパニクっていると、後ろで見ていたカイン君とルークスが、二人掛かりで押し開けてくれた。……単純に力が足りなかったらしい。
ギギギッと、音を立てて扉が開かれる。
宝物庫の中は文字通り、金銀財宝であふれていた。