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ゴーレム戦

「じゃあ、行ってきます!」


 囮役として、わたし以上の適任はいないだろう。みんなが心配して……とくにオルランド中将が「女性にそんな危険な事をさせるなんて!」と激しく抗議してきたが、物理攻撃が効かないわたしの体を、実際に触ってもらったので最後には納得してもらえた。その様子をそばで見ていたルークスとエステラも驚いていたが、「便利!」の一言で済ませていた。


 アーチ状の出入り口を抜け宝物庫に入ると、奥に大きな扉があり、その扉を塞ぐように一体の巨大な石像、ゴーレムが鎮座していた。宝はこの扉の向こうだ。わたしの体は不意の場合を除いて、壁や物をすり抜けたりはできない。よしんばすり抜けたとしても、手にした宝はゴーレムをすり抜けることはできない。つまり、宝を持って帰るにはゴーレムを動かすしかないのだ。


 うぅ、わかっていてもこわい……!


 わたしが恐る恐る石像に近づくと、石像の目が赤く光り、物凄い音と砂埃を立てて動き出した。


 で、でかいっ!!


 立ち上がったゴーレムは、五メートルはあろうかという巨体だ。天井の方が低いのだろう、肩から首の部分は前に曲げられ、赤い瞳は常にわたしに向けられている。


 ゴーレムはわたしを捕まえようと、その長い腕を伸ばしてきた! 巨体に似合わず意外と動きが早い! ゴーレムの攻撃はがっつりわたしに当たったのだが、物理攻撃無効の体のおかげで事なきを得た。ほんとスキル様々だ!


 わたしはゴーレムと一定の距離を保ちながら元来た部屋へと戻っていく。ゴーレムは単純な命令しか与えられてないようで、わたしに対し、当たらない攻撃を繰り返しながら、付いてくる。わたしはゆっくりと後ずさりしながら宝物庫をでた。


「エステラさん! お願いします!」


 エステラの放った矢が、わたしの横をヒュンッと音を立て飛んでいき、ゴーレムの石の体に刺さる。ゴーレムは出入り口から腕だけを出してわたしを捕まえようとするが、当然捕まえることはできない。みんなには安全のために部屋の端まで下がってもらっている。万が一、ゴーレムの攻撃が当たれば即死だ。


「あれがゴーレム……」

「で、でかい……」


「第二射お願いします!」


 わたしが声をかけるとハッとしたルークスはエステラに次の矢を手渡す。時間が勿体無いので、さくさくいってもらいたい。


 エステラは休みなく矢を放ち続け、ゴーレムの体力を確実に奪っていく。わたしはゴーレムの認識範囲から出ないようにして再び矢を作り始めた。あとは根気の勝負だ!



 一時間後

「も、もう腕が上がらないわ……」

「カイン君、エステラさんにウォーターヒールをお願います!」

「わかった」


 二時間後

「豆が潰れて、血で矢が滑るわ……」

「カイン君、エステラさんにウォーターヒールをお願いします」

「わかった」


 四時間後

「ユーリ! エステラが泣いている!」

「ルークスが励ましてください」

「……わかった」


 八時間後

「申し訳ないが、私は一旦外させてもらう。皆も休息をとるように」

「あ、じゃあ、僕みんなの分の食事をもらってくるね。……あと毛布も必要かな」


 みんなの顔に疲労の色が見える。……ここで休むよりは部屋でゆっくりしてもらった方が良いだろう。


「いえ、今日はここまでにしましょう。皆さんは一旦部屋に戻ってもらって結構です。また明日頑張りましょう!」


 エステラはルークスに抱えられるようにして階段を登っていった。わたしは一人床に体育座りをしてゴーレムを見つめる。ゴーレムは相変わらず、わたしに腕を伸ばして攻撃を加えようとしている。鑑定で残りの体力を確認してみたが、あまりの果てしなさに見なかったことにした。わたしは一人でもくもくと矢を作り続ける。


 しばらくすると、カイン君が食事と毛布を持ってきてくれた。ゴーレムの攻撃が届かないぎりぎりのところにおいてもらい、わたしは久しぶりの食事にありつけた。そういえば、朝から何も食べていなかったな……エステラにも無理をさせすぎたかもしれない。わたしが反省しているとカイン君が話しかけてきた。


「ユーリが神の使いって本当だったんだね」

「え?」


 ──ブオンッ


「だってこんな宝物庫のことまで知ってるし、その矢を作ってるスキルもすごいし、しかも魔力が無限とか……。神様の使いっていうよりユーリが神様みたいだね」

「いえいえそんな! わたしはただのダメな異世界人です! 神様がいろいろと便宜をはかってくれたおかげでこうして生きていますが、ハードがよくてもソフトがダメなので……生かし切れてない感じですね」


 ──ブオンッ


「え? ごめん聞こえなかった」

「あ、なんでもないです」


 定期的にゴーレムからの攻撃が入るので、風を切る音が邪魔でカイン君とうまく話ができない。せっかく二人きりなのに!


「そういえばカイン君はどうして旅に出ることにしたんですか?」

「あぁ、そうだねユーリにはちゃんと話してなかったね。うーん、一番は自分の力不足を感じたことかなぁ。アメリアのこと、ちゃんと守りたかったけど……僕じゃうまく立ち回れないしね……。グラン少尉のことでも結局心配掛けちゃったし……もっと大人になりたい。それでもっと強くなりたい」


 ──ブオンッ


 ……カイン君今絶対いいこと言ってるはずなのに、ゴーレムほんと邪魔。


「僕がいない間、アメリアのことは隊長が守ってくれるって約束してくれたし……あ、隊長多分アメリアの事好きなんだよね。身分が違うから、うまくいくかどうかは分からないけど。アメリアもまんざらでもないみたいだし、隊長も悪い人じゃないから二人には幸せになってほしいな……」


 ん? カイン君ってアメリアの事好きなんじゃなかったの? あ、二人を思って身を引く感じ? け、けなげ! わたしは自分の瞳が潤むのを感じた。


「本妻は無理でも愛妾ぐらいなら……。アメリアも自分が若くてきれいな内に城の有力者に嫁ぎたいって言ってたし……隊長の実家って裕福な貴族なんだよね……人柄もいいし、かっこいいし、独身で若いし……かなりの優良物件……これ以上の良縁はないと思うんだ。間違ってもグラン少尉なんかには渡せないな……。あいつ性格悪いし、態度でかいし、他にもいろんな女の子に手を出してるみたいだから、アメリアが幸せになれるとは思えない……」


 ──ブオンッ


 カイン君は何やらぶつぶつと呟いていたが、声が小さい上に、ゴーレムの所為でうまく聞き取れない。わたしがなんと言っていたのか尋ねると、「何でもないよ」と言ってにっこり微笑まれた。


 テーブルがない為、少々食べづらく時間がかかったが食事も終えたので、カイン君に自室に戻る様にお願いする。カイン君は心配でついていてくれようとしたが、カイン君に万が一、ゴーレムの攻撃が当たったらと思うとわたしが心配で眠れない。何度も説得して、ようやく部屋に戻ってくれた。


 わたしはカイン君が持ってきてくれた毛布にくるまる。……仄かにカイン君の匂いがする。……幸せ。この毛布にはゴーレムも触れられるので、わたしは奪われない様に細心の注意を払い眠ることにした。部屋に入った時は便利だと思ったオートライトシステムは、目を瞑る今のわたしにとっては、煩わしいものでしかなかった。



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