ドレス選び
「こっちとこっち、どっちが良い?」
「あ……じゃあこっちの地味な方で……」
わたしはなるべく落ち着いた色合いのドレスを指さす。アメリアの部屋には色々な人から贈られたドレスがあるらしく、メイドにしては衣装持ちだ。アメリアは私が指さした方のドレスを睨む様にして見ると、首を振った。
「駄目よ! ユーリの髪の色に全然あっていないじゃない!」
……じゃあ最初から選択肢に加えないでいただきたい。
「もういいわ! 私が決めるから! えーとドレスはこれで靴はこれ。髪は自分でなんとかしてちょうだい」
……お願いします。
わたしは村娘の衣装のままパーティーに参加しようとしたのだが、アメリアに激しく止められた。自分はメイドとして給仕をするので、ドレスを貸してくれるというのだ。……正直恥ずかしい。
アメリアへの贈り物として贈られたドレスは、当然アメリアに似合う物ばかりで、まずサイズが小さいというか、細い。次にデザインが若い女性向けで可愛らしい。あと意外と露出が多い。……わたしには似合わないと思う。
「さぁ、服を脱いでちょうだい」
「はい……って、ん?」
わたしは腕を交差してスカート部をつかんだまま、何度か力を加えてみるが、服が脱げない。
「どうしたの?」
「んー……脱げないですね」
スカートの裾の部分などは生地をつかめるのだが、肌と密着している部分がくっついたようになっていて、引っ張ると皮膚も一緒についてくる。
「なんで?」
「なんででしょう?」
この服はあちらの世界から着てきたものだ。もしかしたら初期装備のまま、衣装チェンジは不可なのだろうか? 今のところ無敵状態なので、装備にこだわりはないが、これから先ずーーーーーっと洗濯をすることも、風呂に入ることもできないのは……流石に嫌だ。まあ脱げないならしょうがない。今日のところはこの服でパーティーに参加することにしよう。
「ちょっと触らせて」
アメリアがわたしのスカートに触ろうとするが、手は空をつかんだ。
「これってあなたの体を触ろうとしたときと同じよね……。ひょっとしてその服も体の一部なんじゃない?」
「えぇっ、そんなまさか……。そうなんですかね?」
透明人間における眼鏡の様なものだろうか。脱げないならこの服でいっか。とわたしはすぐに諦めたが、アメリアは諦めなかった。わたし以上にわたしの体について興味をもってくれている。
「あなたのその体……なんなの?」
「一応ステータスに【魔素の体】って書いてあったので魔素なんだと思います……!」
「魔素……っていうことは魔法の元の事よね。魔法で体をつくってるって事かしら……」
「はぁ、そうなんですかね」
魔素についてはゲーム中であまり触れられることのなかった要素なので、わたしもざっくりとしか知らない。ただ、魔法を使うために体内に取り込む物質。という認識だ。
「……ねえ、魔素から体がつくれるんなら、服も作れるんじゃない?」
「……はい?」
「だからね、あなたは魔素から体をつくってるんでしょう? それでおそらくその服も体の一部として一緒につくられているのよ。ということは、服もつくれるってことよね?」
「……ちょっとよくわからないです」
「なんでよ! あぁ、もういいからこれ! このドレスを着た気になってちょうだい!」
アメリアは自分が選んだドレスをずずいっとわたしの前に押し出してきた。わたしはそのドレスを隅から隅まで眺め、目を瞑ってイメージする。……わたしが着ているのはこのドレス……わたしが着ているのはこのドレス……でももうちょっとデザインがおとなしめで、背中が開いてなくて、サイズが大きいとうれしいな……。
「できたじゃない」
アメリアの声に目を開ける。鏡に映ったわたしは確かにドレスを着ていた。自分がイメージした改良版の。
「便利な能力ね。着るものに困らないのは羨ましいわ。さ、あとはその髪を何とかしないとね」
わりとすごい能力が発覚したと思うのだが、アメリアは便利の一言で済ませてしまった。魔法が存在するこの世界ではそういうものなのだろうか。鏡の前に座り、アメリアからの指導を受けながら髪を編み込み、イメージで作り出した髪飾りで留めてみた。うぅ、普段髪をいじることがないのでぐちゃぐちゃだが、くせ毛のわたしは、少々崩れていても気にならないらしい。一応の及第点をもらえた。
「うん、いいわね。かわいいわよ、ユーリ」
完成したわたしをみてアメリアは満足げだが、美少女にかわいいと言われても素直に受け止められないひねくれ者なわたしは、曖昧な笑みを浮かべた。どうせなら服を改良した様に自分の容姿も改良してみようかと思ったが、イメージが定着してしまっているせいか、顔立ちは変えられなかった。残念。
「さあ、行くわよ! 胸を張って歩かないとだめよ。 あなたいつも背中が曲がってるわ」
猫背を指摘されたので、シャキッと胸を張って歩いてみる。……歩くだけで疲れた気がした。