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エステラの故郷

わーかなり間が空いてしまって申し訳ないですー!

 うーむ。初めて入った村だけど、建物も住人も特に変わった様子はないみたい。よくある長閑な村って感じ? ただ一つ気になることをあげるならば、住人の赤毛率が異様に高い。今のところ百パーセントだもんね。髪も瞳もカラーバリエーション豊富なこの世界の住人にしては、かなり珍しい。


 加えてみんな同じ緑の服を着ている。背格好の似た髪の長い女性を見つけ、エステラかな? と思って近づき顔を覗き込んでみると、別人なのだ。その上、わたし達がよそ者だからか、話しかけようとすると怪訝な顔で足早に立ち去られてしまう。明らかに不審者扱いだ。


「困りましたね。どの人も特徴が同じすぎて、全員エステラのそっくりさんに見えます……!」

「そう? 髪の色が同じなだけじゃない? ……あ、あそこにも人がいるね。今度は僕が話しかけてみるね」


 カイン君は畑で収穫作業を行っている一人の女性を見つけ、後ろから静かに近づいて行った。なるほど……! 周りは柵で囲まれているし、作業中ならいきなり逃げられるってことはないだろうし、今まですれ違った女性達よりは話を聞いてくれそうだ! もくもくと鎌を使って野菜を切り取っている女性は、まだわたし達に気が付いていない。


「あの、すみません」

「……はい?」


 女性と二メートルぐらいの距離を保って、柵の外から声をかけるカイン君。畑にしゃがみ込んでいた女性は作業の手を止め、顔を上げてわたし達を見た。一瞬表情がこわばったような気はしたが、逃げることなくその場にとどまっている。


「……何か御用ですか?」


 しゃがんだまま、こちらを警戒した低い声を発する女性。手にした鎌に光が反射し、きらりと光る。こ、怖っ。それに対し、カイン君は圧倒的美少女スマイルをたたえ、裏声を使って歌うように話し始めた。


「はい。私達、最近こちらに戻ったエステラの旅仲間なのですが、彼女の居場所をご存じないですか? 会って話しがしたいんです」


 エステラの名前を出した途端、今までとは違い、少し悲しげな表情を見せた女性。立ち上がってかぶっていたほっかむりを取ると、その下から見事な波打つ赤毛が現れた。……この人も赤毛か!


「……エステラの知り合いなのね。ついてきて、お茶ぐらいだすわ」


 そう言うと女性は野菜をかごに移し、畑のそばの家に運んで行った。わたし達も急いで柵をまわり、女性が入っていった家へと向かう。家の中に入ると、すでに女性はテーブルにカップを並べ終えていた。


 わたし達が席に着くと、即座にポットから注がれる湯気の立ったお茶。……準備、早くない? いくら柵を回り込んだっていっても、ほんの数十秒だと思うんだけど……?


「……どうぞ」

「いただきます」


 上品なしぐさでカップに口をつけるカイン君。その様子を見て、慌ててわたしもお茶をいただく。……うん。紅茶に近いけど、もっと優しい味がする。砂糖やミルクをいれなくても十分おいしいし、なにより香りが良い。お花のお茶かな?


「おいしい……! それに良い香りですね!」

「そう? ありがと。うちで育てた花から作っているのよ」


 お茶を褒められて初めて笑顔を見せてくれた女性。そばかすのある顔でくしゃっと笑われると、なんだか勝手に親しみを感じてしまう。カイン君もお茶の味を褒め、女性とにこやかに談笑を始めた。社交能力に自信のないわたしは会話には参加せず、聞き役にとどまった。そして会話が落ち着いたところでゆっくりとカップのお茶を飲み干し、「ごちそうさまでした!」と女性に伝える。


「良かったらお代わりもあるわよ」


 そういって女性はポットに手を伸ばす。底に軽く手を当て、「少し冷めちゃったかしら……」と言うと、ぶつぶつと何か唱え、持ち上げたポットに手をかざした。するとポットの注ぎ口から再び湯気がゆらめきだした。


「さ、どうぞ。冷めない内に」

「あ、ありがとうございます」


 今のって魔法かな? 一般の人がこんな自然に魔法使うのって珍しい。そう思いながらわたしが二杯目のお茶に口を付けると、カイン君がメインの話しを切り出した。


「それでエステラのことなんですけど、何かご存じなんですか?」


 女性は自分のカップを手に取り、コクンと一口だけ口にした後小さな声で話し始める。


「……今は清めの塔にこもっているわ。あと三日は出てこないと思うわよ。……本当なら、まだエステラの番じゃなかったんだけど……仕方がなかったのよ」

「エステラの番?」


 何? 掃除当番みたいなもの? 順番で塔にこもって掃除するとか? 連日泊まり込みで清掃作業とか、結構ハードだな……。


「この村に住んでいるのは、全員花嫁候補だから。村で一番魔力が高くて、身も心も清くて美しい純潔の女性が花嫁に選ばれるの」


 ……ん? 花嫁候補? 花嫁修業として塔の掃除するの? え? と言うことは?


「え? エステラって、結婚するんですか?」

「そうよ? その為に身を清めているんじゃない」


 あ! 清めるの、塔じゃなくて自分ね! ってか、なんて言った? 村人全員が花嫁候補!? 待って! 情報量多すぎて頭が混乱する! 聞きたいことも多すぎる!


「ち、ちなみにその結婚相手というのは……?」


 女性は壁にかかった一枚の絵に目を遣る。そこには美しい湖のほとりで重なり合う赤毛の少女と一角獣ユニコーンの姿が描かれていた。


「……え? ま、まさか……」

「エステラは、聖獣ユニコーン様の花嫁になるのよ」


 え……ユニコーンって、馬じゃない? ……獣婚? いや、そうじゃない。ちょっと待って。結婚? するの? じゃあ旅は? 続けられないってそう言うこと!? 寿退社ならぬ、寿離脱だったのですね! 


 ……ダメだ! 全然お祝いする気にはなれないよ!

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