ロープなしバンジーの結果。
カイン君は自分を対象にして水牢を発動した。落ちていくわたし達に合わせ、水も一緒に落ちていく。ほどなくして地面へと着地。ぼよよんと水が揺れはしたが、カイン君無傷。
よ、良かった……! 心底焦った……! 揺らめく水の中で、口からこぽこぽと息を吐きながらにっこり笑うカイン君と目が合う。次の瞬間、バシャンと音を立てて水は消え、びしょ濡れのわたしはその場に座り込んだ。
カイン君は立ったまま髪やマントを絞り、さも何でもないことのように笑いながら「怖かったねー」と言った。いや! 温度差っ!
「──いやいやっ! 怖かったじゃ済まされないですよ! 危ないじゃないですか! なんでカイン君まで落ちてるんです!? 助かったから良いようなものの、魔法の発動が一瞬でも遅れれば死んでたんですよ!? わたしが落ちても死ぬことはないんだから、ほっといてくれて良かったんですよ! ……でもありがとうございました!」
「え? あ、うん。そうだね、ユーリは怪我しないって分かってるつもりだったんだけど、咄嗟のことだったから……ごめんね」
しゃがみ込み、わたしに目線の高さを合わせるカイン君。先ほどまで笑っていた綺麗な青い瞳が悲しげだ。瞬きと同時に、濡れた前髪から水滴がぽたりと落ちた。──違うよ! 謝ってほしいわけじゃないんだよ! 伝わらない思いに思わず声が大きくなる。
「なんでカイン君が謝るんですか! どう考えたって、わたしが悪いじゃないですか! ほんと、役に立たないだけじゃなくて迷惑まで掛けるなんて! わたしごときがこの世界に存在していてすみません! ごめんなさい!」
「そ、そんなことないよ。迷惑だなんて思ってないよ? 気にしないで──」
「──おーい! 二人とも大丈夫か!?」
地面に頭をこすりつけ土下座していたわたしが声が聞こえた方を確認すると、ドラ子に乗ったルークスが上空から猛スピードでやってきていた。ルークスはホバーリング中のドラ子から飛び降りると、カイン君に怪我がないことを確認し、胸をなで下ろしている。
「よ、良かった……! この高さだから、流石に助からないかと……」
そうそう、これが正しい反応だよ! 普通死んでるからね!? わたしは腕を組んでうんうんと頷く。
「ルークス、ファルは大丈夫? まだ戦ってる?」
「いや、もう大丈夫だ。……カインまで飛び降りたからもんだから、早く追いかけなくちゃいけないと焦って俺が思わず片翼を落としたんだ。今ファルが首輪をつけてるところだよ」
「つ、翼を落としたんですか!? じ、じゃあ空が飛べないんじゃ!?」
ファルシャードへの手切れ金が! ど、どうしよう! わたしがオロオロしていると再び上空から声とバサバサという風切り音が聞こえた。
「ユーリ! 大丈夫か!?」
「ファルシャード!? え、シームルグ!? 翼は!?」
たった今、片翼を切り落とされたと聞いたシームルグだが、全然全く普通なんですけど。元気にパタパタ飛んでるんですけど。ファルがひらりと背中から降り、わたしの質問に答えてくれる。
「ああ、羽ならくっつけたよ」
「く、くっつけた? ど、どうやって?」
「羽根を使って」
「…………」
……一度訊いただけではちょっとよく分からなかったが、改めて詳しく説明してもらうと、どうやら切断した翼を押し当て、シームルグ自身の羽根で撫でたところ、たちどころに傷が治り、切断前と同様に動かせるようになったらしい。……シームルグの羽根ってそんなに回復できるアイテムだったのか。今後の為にと何枚か頂いて、アイテムバッグの中へとしまっておく。……回復アイテムは何個あってもいいからね。カイン君が怪我したときに使おう!
ファルが羽根を貰ったお礼にシームルグの首の辺りを撫でると、シームルグは「ぴるるる」と可愛らしい鳴き声を出し、ファルにすり寄ってきた。……おお、従順。首輪の効果はあったみたいだね。
その後、ルークスに頼んでカイン君の髪と服を乾かしたもらった。風邪でもひいたら大変だ。わたしは新しいローブを創造し直して、髪をタオルで拭いて終わり。そんなに長い髪でもないので、両手を使ってわしわしとタオルドライすれば、ほら、もう乾いてる。……ん? なんか、忘れてるような……。わたしは自分の両手をじっと見つめる。あ! 杖! 杖もってない! 落としたんだ!
落下中に思わず手を放してしまった杖をみんなに探してもらい、地面に刺さっているところををルークスが見つけてくれた。……良かった。杖もどこも壊れてないみたい。お花も無事──って、あれ?
わたしが杖を握った途端、花の色がひとつ紫に変わる。……これってほんと、何基準で誰が判断してるんだろ? まあ良いか。まだまだ白い花の方が多いからね。問題ないない。
なにはともあれ、カイン君も怪我しなかったし、ファルシャードの飛行魔獣も手に入った。これでようやくエステラを迎えに行ける。えーと、まだ一週間たってないよね? 早く着く分には問題ないだろうし、ルールタークで待っておくことにしよっと。