対シームルグ戦
ドラ子は高層タワーもとい、古代遺跡ダンジョンの周りをぐるぐると回りながら飛んでくれた。……塔に対して垂直に飛ばれなくて良かった。ワンフロアずつガーディアンを倒しながら上っていくのと違い、外から一気に塔の上まで飛んで行くことの早さといったら。常識にとらわれていた過去の自分が恥ずかしい。
「……早いですね。もう屋上に着きましたよ」
『気を付けろ……すでにこちらに気が付いている』
塔の屋上には、孔雀のような美しい尾をもつ神鳥シームルグがいた。明らかにこちらを警戒しており、巣の周りを旋回するわたし達から視線を外さない。
「やっぱり後ろからそっと近づいて首輪をつけるのは無理だな。戦闘に入ろう」
そういうとルークスはシートベルトを外し、立ち上がり剣を構えた。カイン君もファルシャードもルークスに続いて戦闘態勢に入っている。……ここで戦うの!? 飛んでるドラ子の背中だよ!?
「わ、わたしは今回お役に立てませんけど! 応援してます! 頑張ってください!」
「ああ、見ててくれユーリ。俺は塔の上に降りてそこで戦うよ」
ファルシャードはドラ子の背中から塔の屋上へと飛び降りる。シームルグは大きく翼を広げ、耳をつんざくような鳴き声を上げた。戦闘開始だ!
シームルグはファルシャードをついばむように高速で嘴攻撃を繰り出している。事前にスピードアップの魔法を掛けておいたファルシャードは華麗に攻撃をかわし続け、羽毛に包まれたシームルグの腹にパンチをした。効果音を付けるなら、ぼふっ! うん! 効いてない!
シームルグがファルシャードに気を取られている間に、ルークスとカイン君からの援護が入る。ルークスはファイヤボールを連続でシームルグの口内に向けて放ち、カイン君は巨大アイシクルエッジで翼を穿った。あ、ドラ子戦で使った戦法だね。飛ばれると戦いにくいもんね。
だが次の瞬間、シームルグは自身の羽根を嘴で抜き取り、穴の開いた翼を一撫でする。すると光と共に、即座に穴が塞がった。あー、この回復スキルは面倒だな。
「あの鳥、回復できるんだ。じゃあもっと強い魔法の方がいいかな……」
「いや、倒してしまっては意味がないんだろう? あんまり強い魔法だとまずいかもな。俺達も降りて剣で戦うか?」
確かシームルグの体力はそんなに多くなかったと思う。倒すだけなら楽勝なんだけど、捕まえなきゃだからね。ルークスとカイン君が戦闘方針を話し合っている間にシームルグはその巨大な翼を広げ、飛び立った。ファルシャードが屋上でぴょんぴょんしている。
「わー飛んでるところも綺麗だねー。ファルが欲しがるのもわかるな」
「ですね。しっぽの部分も綺麗ですけど、頭の部分のふわふわの毛が可愛いですね。本当に冠みたい!」
「……二人とも、戦闘中だぞ!」
のんきなわたし達の隙をつくように、シームルグは飛びながらウィンドカッターの魔法を放ってきた。ルークスとカイン君はそれをひらりとかわす。わたしは別に避けなくても大丈夫だから、杖にだけ当たらないように気を付けて──
ザシュッ──
「え?」
なんの音かと思えば、わたしを支えていたはずのシートベルトが見事に切断されている。えーーーー! 服は切れてないのに! 同じ創造で作ったのに! なんでーーーー!?
間の悪いことに、その時丁度ドラ子が体を傾けた。といっても、立ってバランスを取っているルークスとカイン君は平気なレベル。だが、わたしは違う。バランスを崩し、ドラ子の背中からころりと転げ落ちた。
「いやあああああああああああああああああああああああああっ!」
「ユーリ!?」
高い高い高いっ! バンジージャンプなんてレベルじゃない! この塔何メートルあるんだっけ!? 地面に着くまで何秒!? 多めにみて十秒くらい!? どうする!? 何か創造する? ダメ! イメージがまとまらないっ! 落ちても死なないだろうけど、ひたすら怖い!
いっそのこと意識を失ってしまいたいが、そんな気配はまったくない! 風でローブがバタバタと音を立てる。あ、ムササビみたいに手足広げてみる!? ちょっとは落下スピードが遅くなるかも!
スカイダイビングの映像を思い出し、思い切り手足を大の字にしてみる。丈の長いローブを着ていたこともあって、風を受けてスピードが落ちた……気がするけどやっぱり速い! 怖い!
せめて下を見るのをやめようと、ぐるりと体を回転させたところで更に恐ろしいものを見た。
なんと、カイン君までもが落下しているではないか! えーーーー!? なんで!? もしかして、わたしを追いかけて!? っていうか、わたしだけなら落ちても死なないけど、カイン君はそういうわけにはいかないよ!? 逆にどうしよう!! わたしは何とかカイン君の近くまで空中を泳いでいく。
「な、なんでカイン君まで!?」
「あー……なんか思わず飛び降りちゃった。時間がないから、ユーリ僕に抱き着いてくれる?」
なんだかよくわからないけど、とりあえず言われるままにカイン君に抱き着く。地面すぐそこ! やばい!