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宝石泥棒

 よし! 新スキル、早速使ってみよう! カイン君に早くご飯食べさせてあげたいし! わたしは脳裏に浮かぶ通話候補者の中からルークスを選択し、話しかけてみる。……普通に携帯電話を使って話す感じでいいんだよね?


「もしもーし! ルークス、聞こえますか? ユーリです! 今、どこにいますか?」

『うわっ! ……え? ユーリ!? なんだ!? どこから聞こえてくるんだ!?』


 おおっ! つながった! 本当に携帯電話みたい! 側にいるカイン君には、ルークスの声は聞こえていないようだ。わたしは完全に独り言状態。……路地裏で良かった! わたしは新スキルを使って話しかけていること、おなかが空いたのでなるべく早く合流したい旨をルークスに伝える。


『ああ、すまない! 詳しいことは……会ってから話すよ。ファルも一緒にいるし、俺達がそっちに向かう方が早いかな。場所を教えてくれないか?』


 わたしは「エルグランスで一番立派な宿屋の横の路地を入った所にいる」と伝える。ほどなくしてルークスとファルシャードが現れた。心なしか、ルークスの顔に疲労の色が見える。


 話しを聞く前にまずは昼食を。ということで、近くにあったレストランに入る。カイン君もアメリアと入ったことがある人気店らしい。いつもは行列が出来ているみたいだが、昼時をかなり過ぎているためか、すんなりと席に着くことができた。オーダーを取りに来た女の子に、店お勧めのミートソースパスタのセットを人数分注文する。


「……で、二人はどこに行ってたんですか? 宿屋を探してみたけどいなかったんで心配してたんですよ?」

「ああ、すまない。話せば長くなるんだが……俺が会計を済ませて振り返ると、ファルが男ともめていたんだ」

「……ほう」


 お前が原因か……。と、わたしはファルシャードを横目で見た。ファルシャードは手の平を自分の胸に当て、わたしに身の潔白を訴える。


「誤解しないでくれ、ユーリ。俺は間違ったことはしていない」

「お待たせしましたー。セットのサラダとトマトスープでーす」

「わー、良い匂いだね! いただきまーす」

「おいしそう! いただきまーす!」


 ファルシャードよりまずはご飯だよね! 特産品であるトマトをふんだんに使ったやや酸味の強いトマトスープは、鶏からとったダシとトマトの旨味が合わさっていて、文句なしにおいしい! サラダにかかっているドレッシングは、玉ねぎをすりおろしたものがベースになっていて、しゃきしゃきのレタスにも、ここにも入っているトマトにもよく合う! おいしい!


「……話を続けるぞ。で、俺が二人に事情を聴くと、ファルは女性が男性に付きまとわれているのを助けたって言うんだ」

「ふむふむ。……レタスおいしい」

「だけど実際は、男性は宝飾品を取り扱う店の店主で、女性はそこの商品を盗んで逃げていた最中だったんだ」

「……なんと、こんな真昼間から!……大胆ですね」

「このスープ懐かしい味がするー。城でも良く出てたんだよね」

「嫌がる女性の腕を引っ張って無理やり連れていこうとしてたんだぞ? 見てられないだろ」

「お待たせしましたー。当店自慢のミートソースパスタでーす。サービスで更にチーズを追加できますが、いかがなさいますか?」

「はいはい! わたしお願いします! チーズ大好きです!」

「かしこまりましたー! それでは削っていきまーす! お好きなタイミングで止めてくださいねー!」


 うわー! 憧れの追いチーズだー! わたしはゴリゴリと削られ雪のように降ってくるチーズをうっとりと眺める。皿全体が白くなりかけたところでストップの声を掛けた。みんなは追いチーズはしないみたい。……おいしいのになんでだろう。


「……で、ファルが男性を止めたせいで女性に逃げられて……男性が怒ってファルに文句を言っていたんだ」

「それは……怒るでしょうね」

「なあ、これはどうやって食べるんだ?」

「フォークでくるくる巻いて食べるんだよ。……こんな風に」


 カイン君がパスタをおいしそうに食べているのを見て、わたしも急いでフォークをくるくる回してぱくっと食べた。ミートソースうまー! チーズのコクがいい仕事してるね! たまりませんな!


「……で、知らなかったとはいえ、こっちにも責任があるから、男性に謝って一緒に逃げた女性を探していたんだ。ユーリ達に声を掛けてから行こうと思ったんだけど、人が多くて見失ってしまって……」

「あ、いや、わたし達もラダマンさんのお店を見つけて、近くまで見に行ってしまったんです。ごめんなさい。……それで女性は見つかったんですか?」

「いや、探している途中でユーリから連絡が入って──とりあえず男性に女性が盗んだ商品の代金を立て替えておいた。……女性が見つかれば返してもらえるかもしれないが、望みは薄いな」


 ルークスは勝手にお金を使ったことを謝ってきたが、わたしもカイン君も別に気にしていない。今、財布の中は最高に潤っているからね。


「ちなみに逃げたのはどんな女性なんですか?」

「うーん、俺も直接は見てないからな。ファルは覚えてるか?」

「ああ、よく覚えてる。波打つ濃紺の長い髪に、深紅の瞳の妖艶な女性だ。口元にほくろがあった。身長は俺より少し低いぐらいで細身だな。肌は白いが健康的で、服装は──」


 ……んー? なんか……覚えがある特徴だな。ひょっとして──


「もしかして、その人って……蝶の柄のタイトなスカートに、首に黒いストール? ……長い布を、ぐるっとまいて両側から垂らしてる感じの服装ですか?」


 わたしが口にした特徴を聞いてファルシャードが驚いた。あー……正解っぽいね。


「ユーリ、すごいな。合ってるよ。どこかで見かけた?」

「いえ……見かけてはいないんですけど、知っているといいますか……」


 なんなら名前も知っている。仲間に入った後に裏切って、最後に有り金全部持って逃げてくキャラだよ。序盤の所持金が少ない時ならいざ知らず、今それをされると流石にダメージがでかいよ。


「あー……立て替えたお金は諦めましょう。……世の中には関わり合いにならない方が良いことってあるんですよ」


 むしろこの程度の被害で済んで良かったと言うべきだろう。はい! この話はもうおしまい! パスタ冷めちゃうから早く食べよう! 話すのに一生懸命で料理に手を付けていなかったルークスだが、食べ始めると早かった。みるみる内になくなっていくパスタ。最終的にはみんなほぼ同時に食べ終わり、大満足で店を出た。さあ、今夜の宿を決めないとね!

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