地の精霊戦
「──じゃあ、うまくいくかどうかは分かりませんけどそんな感じで! あとは……戦闘開始前に詠唱を始めて、発動スタンバイ状態にしておきましょう」
新しい作戦内容を確認し、みんながそれぞれ魔法の詠唱を始める。カイン君は早いんだけど、ルークスとファルシャードは時間かかるからね。ファルシャードはノームの攻撃を一度でもくらえば命がやばいので、あらかじめガードアップとスピードアップの魔法を掛けておいてもらった。少しでも有利に戦闘を開始したいしね!
わたし達がダッシュで祭壇に近づくとイベントが発生し、帽子をかぶった小さなおじさん精霊ノームが現れた。みんなはすでに魔法の詠唱に入っているので、わたしが代表してノームと会話する。
『………………人間か…………………………何をしに来た』
「はい! 地の加護をいただきに参りました!」
『……………………そうか』
そのまま突然の沈黙。いや「……そうか」じゃないよ! 早く戦おうよ! ノーム喋るのゆっくりすぎるよ! 早くしないとせっかく掛けた魔法の効果が切れちゃう! どっか壊れてんの!?
全然動かないし、反応がないノームにわたしが焦燥感を募らせるていると、ノームはようやくゆっくりと動き出し、小さく頷いた。その間十秒。
『………………良かろう。…………………………我々に…………その力を……示すがよ──』
「すみません! 巻目でお願いします!」
わたしの焦りをくみ取ってくれたのか、ノームは無言で頭にかぶっていた帽子をとり、祭壇の上に置いた。あ、帽子大事なんだね。戦闘で汚れちゃうもんね。祭壇から離れようと、ゆっくりゆっくり歩いて行くノーム。……後ろから抱きかかえてやろうか。
あるていど歩いたところでノームは立ち止まり、こちらを振り返った。祭壇からも離れているし、この辺でいいんじゃない? さあ、早く! 超短期決戦で行きたいんだ!
『……………………では、参るぞ…………!』
わたしの膝丈ほどの身長だったノームはぐぐぐっと巨大化し、四メートルぐらいの巨人になった。両腕が異様に太く、腰は細い。見事な逆三角形だ。……やはり、狙うなら腰だな。
戦闘開始直後、ノームが両腕を上にあげ、スキル【鋼鉄の体】を発動する。伸ばされた指の先から、鈍く輝く鋼鉄のボディへと変化していくノーム。……さあ、ルークスの出番だ!
サラマンダーの加護を得て威力の上がったファイヤーボールを、連続でノームの腰へと被弾させていく。
効果は抜群だ! 本当は新しい魔法を試したかったみたいだけど、バーンブラストは爆発系の魔法だから今回は使用しないことにした。……ファルシャードが爆発に巻き込まれたら危ないからね。
続いてカイン君が水牢を発動し、ノームを大量の水が包み込む。ノームはまだ最初の位置から動いてすらいない。ダメージはそれほどでもないけれど、水の所為で余計に動きが遅くなっている。……これ思ったより楽勝なんじゃない?
ノームは早々に水牢からの脱出を諦め、そのまま魔法の詠唱を始めたようだ。空中に小石が無数に表れ始める。これはファルシャードが唱えているのと同じ【ストーンバレット】だ。単純な石つぶて攻撃なんだけど、浮遊している石礫の数が、ファルシャードの比ではない。流石、地の精霊! ……って褒めてる場合じゃないか!
あまり魔法が得意ではないファルシャードがずっと詠唱していた【ストーンバレット】をやっと発動する。しかし、ノームが発動したストーンバレットの方が圧倒的に数が多かった。ガチガチとぶつかり合って地面に落ちる小石。相殺しきれなかった小石は勢いよくファルシャードへと向かっていく。……弱い奴から叩くのが戦闘のセオリーだからね。ファルシャードはとっさに腕でガードしたようだが、体にいくつもの傷ができていた。カイン君にかわり回復役になったわたしが、薬草を持ってファルシャードに駆け寄る。
「大丈夫ですか? これを傷口に当ててください」
「ああ、ありがとう。クソッ……同じ魔法でこうも威力が違うとは……」
……だから離れて見ておけと言ったではないか。と、口から出そうになったが飲み込んだ。ファルシャードが放った小石もいくつかはノームにヒットしたのだが、コンッと音を立てて鋼鉄の体に弾かれてお終いだ。……もっと威力の高い攻撃でないと、焼け石に水だな。
「ファルシャードは少し離れて見ていてください。ルークスとカイン君がノームの体力を削りますので、作戦通り、とどめをお願いします」
「……わかった」
一度魔法を打ち合ってみて実力差を実感できたのか、ファルシャードは素直に引き下がり、少し離れた位置で戦いの様子を見守っている。よし、あそこならノームの攻撃は届かないかな?
ルークスの詠唱が再び完了したので、カイン君が水牢を解除する。先ほどと同じ腰にファイヤボールをくらわせ……いや、当たる前に寸止めして、そのままのノームの腰の周りをぐるぐる回っている。い、いつのまにそんな器用なことが出来る様になったんだ! でも作戦的にはそっちのが効率良いかも!
ノームは腰にまとわりついたファイヤボールを疎ましそうにしているが、水牢が消えたこともあって、動きが素早くなっている。側にいたルークスめがけて拳を振り下ろした。
ドゴオッっという音と共に、地面がめり込む。……パンチは早いんだね。ファルシャードに掛けてもらったスピードアップの効果もあって、ルークスはノームのパンチをすんでの所でかわしていた。あ、あぶなー!
さらに言えば、ルークスは自分のファイヤボールにも当たりそうになっていた。ゴーレムの腰のあたりが、ちょうどルークスの顔らへんなんだ。ファイヤボールに熱せられたノームの腰は、温度が上がり真っ赤になっている。……そろそろいい感じかな?
あー、ノームは地の精霊ですねー。土の精霊って書いたな……。