地の精霊の祠
大地の民の村と地の精霊の祠はそう遠くない位置にある。人の手によって整備された幅の広い階段を降りていくと巨大な地下空間があり、そこに地の精霊ノームを祀った祭壇がある。前回の反省を踏まえ、わたしはイベントが発生する前にみんなに地の精霊戦についての簡単な説明をすることにした。
「えーじゃあ、戦闘に入る前に作戦会議に入りましょうか。地の精霊ノームは自身の防御力をノータイムで上げる固有スキルを持っているので、とにかく硬いです。戦闘開始直後から使用してくる上に、効果はずっと持続します。物理攻撃でダメージを与えるのは難しいので、魔法で攻撃する方が無難でしょうね。【地】には【火】が優位属性ですので、主にルークスに頑張ってもらうことになると思います」
「わかった! 最近まともに戦ってなかったからな、ようやく新しい魔法を試せるな!」
体がなまるからって言ってカイン君としょっちゅう手合わせをしていたように思うが、流石に村の中で魔法をぶっ放すわけにもいかなかったからね。ほんと、ルークスがまともに戦うのっていつぶりだろう。……火炎草戦でも詠唱途中でつかまっちゃったしね。今度は詠唱に集中しつつも、目は開けてもらいたい!
「カイン君の魔法も効かないわけじゃないんですけど、今回はエステラもいませんので回復等の支援に回ってください。余裕があれば攻撃に参加する感じで」
「うん、わかった。僕じゃ一度に全員の回復ができないから、こまめに回復するね」
わたしは……魔法が使えないので、今回も待機で。あ、でもカイン君の回復が間に合わなかった時の為に、薬草をいくつか用意したよ! 誰かが倒れたらすかさず使うよ!
「……そんなところですかね。よし、じゃあ行きま──」
行きましょうか。と、口にしようとしたところで、期待に満ちた目を輝かせているファルシャードと目が合った。……すっかり忘れてた。
「ユーリ、俺は? 俺は何をすれば良い?」
「あー……えーと」
本音を言えば、死なないようにじっとしててほしい。ファルシャードをそっと鑑定してみたが、レベルは三十五。わたし達の平均レベルは六十近い。よってノームのレベルもそのぐらいなはず。……しかもファルシャードの専用最強防具、取りに行ってないんだよね。攻撃力も……うーん。土魔法も覚えてるけど、相手はノームだしな……。強いて言うなら防御力アップの魔法と、素早さアップの魔法を覚えていることがありがたいか……。
「……ファルシャードはみんなのサポートに回ってください。【スピードアップ】と【ガードアップ】の魔法が使えますよね? あとは敵の攻撃を回避しつつ、……待機で」
「……それだけ?」
……う。でも下手に死なれると困るし。ネクタル一個しかないし。こんなとこで使いたくないし。うーん。
どうやって説得しようか悩むわたしに、ファルシャードはコホンと咳ばらいをして自分の有能さを語り始めた。
「ユーリは出会ったばかりでまだ知らないと思うけど……俺、こう見えてもかなり強いんだよ? レベルも三十五だし。ちなみに、みんなのレベルは?」
うん、レベル三十五ってその辺の村人の中では間違いなく強いだろうな。パーティー加入のタイミングさえ早ければ、別にファルシャードは弱くない。ただ、わたし達のレベルはすでに──
「……六十二です」
「俺は五十八」
「僕も五十八」
予想外の高レベルにファルシャードは言葉を失っている。しかし、持ち前の打たれ強さですぐに持ち直したようだ。二度目の咳ばらいをして再アピールを始めた。
「ま、まあレベルだけがすべてじゃないよな? 俺は大地の民だし、力だって強いから、こんな風に──」
ファルシャードはすぐ横にあった自身の身長ほどもある岩を軽く撫でた後、拳を握り、振りかぶって殴りつける。次の瞬間、岩にビシビシと亀裂が入ったかと思うと、音を立てて崩れ落ちた。ルークスが「おおー!」と驚きの声をあげ、カイン君が拍手をしている。
「素手で岩ぐらいなら砕ける。な? 役に立ちそうだろ?」
うん、すごいよ? 確かにすごいよ? でも──
「……ノームは、自身の体を鋼鉄に変えることができるんです。流石に、鋼鉄は……無理でしょう?」
自信に満ち溢れていたファルシャードの笑顔がみるみる陰っていく。握りしめたままの拳を見つめ「鋼鉄は……無理かも」と、ぼそりと呟いた。先ほど砕いた岩の破片を握りしめ、繰り返し粉砕してはため息をついている。
「はぁ、岩ならいけるのに……」
分かりやすく落ち込んだファルシャードを見て、カイン君とルークスが小さい声で話しかけてきた。
「……ユーリ、ファルが可哀想だよ」
「……そうだな。俺達もサポートするから、別の作戦にしないか……?」
「うーん……。分かりました。他の作戦を考えましょう」
改めて、ファルシャードが死なないように気持ちよく戦闘に参加できる作戦の練り直しだ。