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中央との関係

 ファルシャードの為に娘さんが肉を焼き始めたので、わたしは手の空いたナヴィドさんにお招きいただいたお礼を言いに行った。


「ナヴィドさん今日はありがとうございます。もう、全部! 全部おいしいです!」

「喜んでいただけて何よりです。もともと、ビッグホーンを倒したのはあなた方ですから、本来でしたらこちらがお礼を言うべきなのですが……」

「いえ、そんな! わたし達だけでは食べきれませんし、野菜もお米もお肉と同じくらいおいしかったです! 全部この村で採れたものなんでしょう? 魔王の所為で作物の収穫量が落ちてるって聞いていたんですが、そんなこともないんですね」

「そうですね、この島は地の精霊様に守られていますから、他の島に比べればまだそれほど被害も出ていません。ですが、雨はしばらく降っていませんね……。私達には水路がありますので、苦労をせずとも川からの水を引いてくることができますが、このまま雨が降らなければ何れは──」


 ふむ、言われてみればこの世界に来てからというもの、雨が降ってるところを見たことがない。というか、ゲーム中で天候が変わったところも見たことがない。そもそも、この島って雲の上なんじゃない? 雨ってどうやって降ってるの? ファンタジックな降雨方法でもあるのかな? 土砂崩れ前に豪雨だったって話は聞いたことあるけどね。あ、そういえば──


「今思い出したんですけど、お城の宝物庫に人工降雨装置があったような……。他にも農業の役に立ちそうな物が何点か。王様にお願いして貸してもらうことってできないんでしょうか?」

「人工降雨装置ですか……? 城にそのような物が……。ですが、おそらく中央が私達の為にそれらを貸し出すことはないでしょう」

「……なぜですか?」


 王様もオルランド中将も良い人そうだったけどな……。困っている人がいたら助けてくれると思うんだけどな。


「一つは私達が商売敵だからですかね。土の島と同じように、中央も農作物の輸出に力を入れています。そのような便利な道具があったとしても、まずは自国の為に使うでしょう」


 そりゃそうか。オルランド中将も文献でしか見たことのない貴重な物だって言ってたしな。それによくよく考えてみれば、ずっと城の地下に眠っていたものが問題なく使用できるのかどうかさえ分からない。……思い付きで余計なこと言っちゃったな。わたしはその理由だけで納得したのだが、ナヴィドさんはいつもの柔らかい笑顔とは違う、どこか怒ったような顔で話を続けた。


「もう一つの理由として、中央は私達大地の民のことを、自分達と対等の民族とは考えていません。その証拠に、戦争が終わり自治を認められた今でも、連れ去られた仲間の多くは帰って来ていません。今も中央の貴族連中に飼われているのです。長も何度か交渉に行ってくれたのですが、なにかと理由を付けては面会さえ断られています」

「それは……」


 何かの間違いでは? と口にしようと思ったが、ナヴィドさんの表情を見た後では躊躇われた。わたしも王様のことを深く知っているわけではない。優しそうに見えた王様にも色々な側面があったのだろうか。 


「すでに連れ去りから数十年経っていますので、亡くなった者や年老いた者、子を成した者もいるでしょう。無理に連れ戻したいのではありません。彼らがせめて中央の者と同等の扱いさえ受けていれば、こちらも納得ができるのですが……」


 盛り上がるファルシャード達とは対照的に、わたしとナヴィドさんとの間に重苦しい空気が流れる。


「……すみません、せっかくの楽しい席でする話ではありませんでしたね。そろそろ暗くなってきたので、灯りを持ってきましょう」


 ナヴィドさんが席を立ち、家へと入って行った。わたしはちびちびと用意された酒を飲み、みんなが仲良くできる方法を模索してみたが、わたしなんかがちょっと考えただけでは勿論良い案は浮かんでこなかった。



「ユーリ、楽しんでる? 何飲んでるの?」


 ナヴィドさんがいなくなって空いた席にファルシャードが座り、わたしの手にある酒をのぞき込んできた。


「これはお酒ですよ。ファルシャードは未成年でしょう? 飲んじゃだめですよ。それより、娘さん達の相手はいいんですか?」

「嬉しいな、ユーリは俺の名前覚えてくれてるんだね。女の子達なら問題ないよ、代わりにルークスとカインを置いてきたから」


 見れば確かにいままでファルシャードがいた席にルークスが座り、色気たっぷりの上の娘さん方にちやほやされている。まだ小さい娘さん達はカイン君が相手をしているようで、こちらはほんわか和やかムードで笑いあっている。


「なんか元気ないね。ナヴィドと何話してたの? まさか口説かれたとか?」

「いえ、違います。ちょっと……」


 ファルシャードも純血の大地の民だ。聞いてあまり気分のいい話ではないだろう。


「話したくない感じ? じゃあ俺と楽しい話でもしようか?」


 いや、そういう気分でもないんだよな……。それに楽しい話って、どうせ口説き文句でしょう? ファルシャードって女の子口説いてるかメフリと喧嘩してるかだもん。楽しい話しができるとは思えないな。そういやメフリはどうしてるんだろう?


「あの、メフリは今何をしてるんですか?」


 わたしがメフリの名前を出すと、ファルシャードはあからさまに嫌そうな顔をした。


「メフリ? さあ、家にいるんじゃないかな? あいつがどうかした?」

「いえ、せっかくのバーベキューなのでメフリも呼んだ方が楽しいかと思って……」


 メフリのことも苦手だと思っていたが、決めつけるのは良くないよね。わたし達はお互い話したこともないのだ。ゲーム上で描かれた、わたしが知っているメフリがすべてとは限らない。


「いや、あいつはこないよ。俺がいるなら絶対ね。……妹ながら、可愛くないやつなんだよ」

「でもせっかくなんで、わたし本人に訊いてきます!」


 ちょうど一人になりたい気分でもあったし、長の家まで行って帰って来ればその間にもやもやした気持ちも落ち着くだろう。わたしは灯りを持ってきたナヴィドさんにひと声かけて、メフリを誘いに行くことにした。暗くなってきたのでナヴィドさんがランプを一つ貸してくれる。「一緒に行こうか?」とカイン君から声もかけられたが、断った。……カイン君から誘ってもらった方がメフリは来るかもしれないけどね。


 ナヴィドさんに案内された道を、今度は一人で歩いて行く。畑で働いていた人たちも家へと帰っていくようだ。ビッグホーンの肉は各家庭にまで行きわたったようで、わたしの顔を見て何人かはお礼を言ってくれた。わたしが倒したわけじゃないが、ルークスの代わりにぺこりと頭を下げておいた。

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