こんな私が、二次元世界を導こうと思います。
──────ここは、どこだろうか。
日差しがさんさんと降り注ぎ、私の知っている猛暑を遥かに超えた紫外線の強さがインドア肌を刺激する。街のど真ん中に座っているだけで鉄板で焼かれているような気分だ。豚さん牛さん、今までごめんね。
さて、街のど真ん中に座っていると言ったが、これは比喩でもなんでもない。れっきとした事実である。
私は今、知らない街の知らない道でへたりこんでいる。
え? 詳しく説明しろって?
無茶言うな! 私とて三分前にここで目覚めたばっかだよ。
そもそも道のど真ん中で死んだように眠ってる人いたら助けない? あれ? 私の常識が間違ってる?
そんな錯覚にまで陥ってしまうほど、この街の人々は優しさってものがないらしい。市場のような場所だからか人はわんさかいるのに、誰ひとりとして私に目を向けない。
そもそもここはどこの国なんだ?行き交う人の顔はみな彫り深く、とある映画じゃ「平たい顔族」なんて呼ばれてる日本人に比べるとよほどハッキリした顔立ちをしている。おかげで私の顔がかすんでいる。
「はいはい、買った買った! 美味しい林檎だよー!」
「お兄さん、このランプなんかどうだい?」
「今なら特別に安くしてやるよ! おじさん、買わない?」
耳をすませば商売上手を匂わせる饒舌ぶりが嫌というほど聞こえてくる。この国の商人、どれだけネットで騒がれたいんだろう。
ネットという言葉でハッとする。日本じゃながらスマホの大量発生のはずの街中で、電子機器らしきものが全く見当たらない。携帯どころかイヤホンやカメラまでもだ。
この国、発展途上国だろうか。
まぁ、そんなことはいいんですよ。
ここがどこだろうとね? どんな人がいようとね? 今の私にはどうでもいい情報でしかないわけだよ。
問題は何故私はここにいるのかってこと。
昨日は歯磨いてトイレ行ってベッド入って寝たよ。確かに寝たよ。それがなんで彫り深い顔国にいるのだよ私。
こうしていても仕方ないと足を踏ん張って立ち上がると、ガクッと膝が折れた。しばらく力を入れてなかったみたいだ。私、どれだけ長いこと眠っていたんだろうか……。
ふらふらと立ち上がって、またも気づく。自分の服装が制服であることに。昨日はスウェットで寝床についたはず。何故……。
こんな夢のような二次元のような展開なら普通「これは夢……?」とかってなるんだろうね。しかし二次元を愛しながらも現実を生きる私としてはこの感覚が夢ではないことなどとっくに分かっている。夢だった方が現実的だけど、空気に触れている感じとか筋肉の疲労とか、とてもこれが夢だとは思えない。
にしても、この国で制服はあまりに場違いだ。誰も気に止めてないとは言え、なんだか気恥ずかしい。結婚式に喪服で来てるようなもんだ。
どうしたものかと立ち止まっていると、故意に何かにぶつかられる。がっしりと筋肉質な肩が私の鼻に激突すると、背の高い男が大袈裟に肩を抑える。
「いってぇー……。何してんだよ、ガキ。」
あのね、今のどう考えても私の方が痛い───────って、あれ。
「日本語……?」
思わず口に出してしまう。明らかに西洋人な男の人がスラスラと日本語を喋っているんだ。違和感しかない。
「は? 何言ってんだよ。
つーか……変な格好のガキだな。」
そりゃ、まぁ。発展国の日本人ですから。
「おいおい、黙ってねぇで金出せよ。」
「は……?」
「慰謝料! 当たり前だろ、この国じゃ。」
どんな国だよ。
それにしても厄介だ。完全にカツアゲにあっている。
あまりに不思議なことが起きすぎて忘れていたが、ここもれっきとした人間の住む国だったってことだ。ロマンの欠片もない。
どうしようかと俯いていると、痺れを切らしたらしい男が私の胸ぐらを掴みあげた。
い、痛い痛い!
「まだシラ切るつもりなら、女だろうが容赦しな────」
「おいおい、待てよ!」
「っ!?」
突如、目の前の男が吹っ飛んだ。それはもう速いとか言うレベルではなく、なんかこう、炎の塊のようなもので押しのけられたみたいな。
行き交う人々はあまりの事態に足を止め、吹っ飛ばされた男に巻き込まれた商人たちはその犯人を唖然として見つめる。
そしてそれは私も同様であった。
──────いや、訂正しよう。完全に同じではない。
彼らが驚いているのは炎でガタイのいい男を吹っ飛ばしたという事実だろうが、私にはそれ以前の問題である。
男を退けた少年を、私は知っていた。
「あーもーめんどくせ。おい、走るぞ!」
少年に手を引かれ、その場をあとにする。その華奢な見た目とは裏腹に案外力がある───────じゃなくて。
「な、んで、 ルーファス が──────!?」
「あとで説明するから。とにかく走れ!」
彼はルーファス。
私がこよなく愛する二次元キャラクターのひとりである。