1限目
やっと待ちに待った放課後。
葵希はHR終了の合図と共にそそくさと教科書やノートなどの自分の荷物を学校指定鞄にまとめる。
勉強や人付き合いの苦手な葵希はぶっちゃけ学校が苦手に感じているが、唯一学校に来て楽しみなことがひとつある。
それは『部活』。
意外にも人付き合い絡みの多そうな部活が葵希の楽しみであった。
しかも、『演劇部』と協調性を求められるような部活なのだが、実際…、葵希の所属している演劇部は皆が思い描いているような部活ではない…。
そこはもう…『アニメオタク部』化としている部活だった。
去年の3年生のいた時期まではちゃんとした『演劇部』だったらしいのだが、2年生のほとんどが『声優』を目指した、所謂『2、5次元オタク』で3年生の部活引退と共にいつの間にか部活の趣旨が変わってしまったそうだ。
アニメオタクで、もちろん声優も大好きな葵希にとってはこの上なくありがたいことなのだが、そのせいで先輩の数名が演劇部を辞めていき、他の一般生徒からも遠巻きに見られ、顧問の先生もあまり部活に顔を出さなくなってしまったくらいだ。
そんな部活に入るか実のところ迷ったが、同じオタク仲間の友人の誘いもありとりあえず演劇部に入ってみたもの、同じ趣味の仲間がいるという空間は何とも居心地がよくて、葵希の学校での唯一の癒しの場と化していた。
さっそく、部活である教室に入るとそこでは先輩を含め数名の部員たちは部活活動…というかアニメ雑誌を開いては今日放送されるアニメの話や、今度新しくアニメ化されるアニメの話で盛り上がっている。
ぶっちゃけ、『演劇部』ではなく『アニメオタク研究部』に変えてしまってはどうなのかと改めて思ってしまう。
そんな事を考えながら、部室の扉に立っていると、葵希の存在に気付いた部長が『そんなとこに立ってないで早く入ってきなよ』と声をかけてくれる。
おもわず、『すみません』と謝りながら教室に入ると、『何謝ってんの!』と豪快に笑いながら教室に入った葵希をバシバシっと叩きながら、『それよりこれ見てよ』と先程から見ていたアニメ雑誌を見るように促す。
彼女は2年生であり、演劇部部長『中村千絵』先輩。
人見知りのない明るい性格で、そして豪快な人物でもある。
そしてかなりの声優好きでもあり、演劇部をアニメオタク部化とした張本人でもある。
そんな中村先輩は一般生徒からしたら遠目にみたら『変な奴』らしいのだが、葵希たち部員含め複数の生徒からみたら、変な人…というのは変わらないが、明るく誰にだって声をかけてくれる、そして自分の意思をはっきりと尊重出来る人物なのだと憧れを抱いているものもいる。
そして何よりなんだかんだといって部長を引き継いだこともあり、演技に関しては部員の誰よりも上手く、指導力もあるので部員の憧れのような存在となっていた。
葵希は部長に言われた雑誌を見る。
するとそこには『アニメ化決定』と告知はされていたが、まだ声優が決まっていなかったアニメのメインキャラの声優決定発表というページだった。
そしてメインキャラということもあり有名所の声優だったこともあり、部長を含め部員の数名が雄叫びをあげながら、萌え死んだ。
『やっぱり主人公は○○さんだと思ってたー』
『うーん。ヒロインは○○さんが良かったのに…。』
『このキャラの声優さん、○○だって!普段声低いのに、こんなマスコットキャラでどんな喋り方するんだろう!』
などなどと盛り上がっている。
今話しているアニメは少年雑誌の漫画でもあり、冒険を中心としたストーリーだ。
葵希が中学だった去年のころから、アニメ化決定と告知はされていたが、今日やっと雑誌にてそのアニメの声優が決定されたそうだ。
テンションMAXの部長は、『そうだ!』と言いながら、自分の鞄から出したそのアニメの原作である単行本を取りだし、『今日はこれを読み合わせしよう!』と提案する。
『と、いうかわざわざ持ってきてたんですね』
とツッコミたいけど、とりあえず胸のうちに閉まっておくことにした。
そして、AチームBチームと別れてとりあえず今来ている部活メンバーでの朗読が開始される。
そして台本ではなく、一冊の漫画を広げながら数名で囲みながらそれを朗読するというような貴重な体験…。
嫌ではないが、本当にツッコミ処満載だなぁと実感する。
そして役割も分けられ、それぞれ自分の役を演じて読んでいく。
そしてAチームBチームと朗読が終わった後も、また『アニメ化されたら、どんな風に喋るんだろう』とか『どっちの演技に近い演技をしてくれるかなぁ?』
というような新アニメの話の持ちきりで、本日の演劇部改め、アニメ研究部の部活動は終わりのチャイムと共に終わった…