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旭日の西漸 第3部 異界の十字軍篇  作者: 僕突全卯
第4章 終局への道
40/51

道中お気を付けて

新年1発目です。

2月13日 早朝


クロスネルヤード帝国東部 ミケート・ティリス市 北側の沿岸部


 全ての車輌の揚陸を終えた陸上自衛隊員と少数の在日米海兵隊員からなる「ジュペリア大陸派遣部隊」は、この日ついに、内陸部にある“帝都”リチアンドブルクへと向かう態勢を整えていた。

 出発の時を今か今かと待つ車輌の群れを見れば、兵員輸送用の各種装甲車や各種自走砲、そして戦車、弾薬供給車などの戦闘車輌だけでなく、物資輸送用の輸送車や架橋装備等、合計222両の様々な車輌が、その荘厳な面構えを並べている。

 追加の物資については、ミケート・ティリス沖に停泊中の強襲揚陸艦3隻に搭載されている、オスプレイ各機によって届けることになっている。その為、航空科に属する陸自隊員たちは、その多くがこの地に残ることとなった。


『施設隊全隊、出撃準備完了です!』

『同じく、機甲団全隊、出撃準備完了しました!』


 82式指揮通信車に乗る滝澤陸将補の下へ、部隊を構成する各団から、出発準備完了の報告が届けられる。

 全ての団の準備完了を確認した滝澤は、全隊に向けて命令を発した。


『我々の最終目的地は、ここより西北西へ890kmの地点に位置する“帝都”リチアンドブルクだ。行軍途中に3本の川、1つの森林を横断する。全隊発進、前へ!』


 指揮官の発進命令を皮切りに、前方にある車輌から、1台また1台と動き出す。それらはやがて長大な隊列を形成し、222輌の車輌による大行進がスタートした。ミケート・ティリスの市民たちは、様々な感情を湛えた目で、大地を震わせる巨大な大蛇の行進を眺めている。


 彼らの行き先は、此度の上陸戦の最終目標である“帝都”リチアンドブルク、そして目的は、同都市を制圧し、今回の戦争の“表向きの首魁”であるクロスネルヤード帝国第27代皇帝アルフォン1世と、その他閣僚の身柄を確保することだ。

 首都制圧後は、確保した首脳陣から事情聴取、または政府機関の捜索を行い、此度の戦争が「神聖ロバンス教皇国」の謀略によって触発されたものだと言う証拠を得る。

 そして全てが終わった後、現在、ショーテーリア=サン帝国の首都ヨーク=アーデンにて亡命政権を樹立している“皇太子”ジェティス=メイ=アングレムが首都入りして凱旋を行い、クロスネルヤード帝国第28代皇帝として即位、両国は正式に講和する。これが日本政府が建てたシナリオだ。


(この戦争の行く末は、俺たちにかかっている・・・。首都を攻略し、3ヶ月続いたこの戦いにケリをつけてやる!)


 82式指揮通信車の中で部隊を引率する滝澤は、恐らくは最後の戦いになるであろう首都攻略に熱意を燃やしていた。


・・・


同日昼 ミケート騎士団領西部


 出発してから5時間後、車窓から見える風景はがらりと変わり、ミケート騎士団領を突き進む隊列の周りには、草原とわずかな木々が広がっていた。そんなのどかな風景の中を、彼らは土煙を上げながら、街道を道標にして進む。

 隊列の周りには、周辺を監視する為のドローンが数機飛ばされており、各機が撮影している映像は、82式指揮通信車の中に設置されているモニターに映し出されていた。

 更には、在日アメリカ海軍から貸与された無人航空機ブラックジャック(RQ-21)5機が「あまぎ」から飛ばされており、派遣部隊の進行を支援する為に、遙か高空から各種センサーを用いて地上の監視を行っている。

 そして大地を進むこと数分後、隊列の前方を飛んでいたドローンの映像に1本目の川が映り込んだ。


「橋が落とされてるな・・・」


 その映像を、82式指揮通信車の車内で見ていた滝澤陸将補は、本来なら川に架かっている筈の橋が落とされていることに気付いた。恐らく、上陸作戦時に内陸へ撤退して行った軍勢による工作だろう。橋を落とすことによって、彼らジュペリア大陸派遣部隊の足止めを企てた訳だ。


「まあ、元々渡れたもんじゃないですけどね」


 同じくその映像を見ていた、通信隊隊長の藤井博巳三等陸佐/少佐がつぶやく。この世界の橋は、一般車ならともかく、戦車などの重量には耐えられないことの方が多かった。


「施設科に連絡、92式浮橋を用意せよ! ・・・ついでに、昼飯を隊員に摂らせよう」


 指揮官の口から発せられた言葉の後半の内容に、それを聞いていた藤井三佐の表情が明るくなる。その後、1つ目の川を越える為、指揮官の命令が隊列の前方を走る施設科団へと伝えられた。


・・・


ミケート騎士団領西部 エルマ川沿岸


 数分後、川までたどり着いた隊列は停止し、命令を受けた施設科隊員たちは、他の隊員たちが昼食を摂る時間を利用して架橋作業を行っていた。


「オーライ、オーライ!」

「良ーし、降ろして!」


ザッパン!


 7tトラックの荷台に載せられていた浮橋が川面に滑り落ちる。水しぶきを上げるのと同時に、折りたたまれていた浮橋が開き、橋を作る為の1つのパーツと化す。

 緑服の軍団が行っている架橋作業の様子を、付近の住民たちは興味津々な様子で眺めていた。


「この川だけ川幅が60mを超えていて、07式機動支援橋(07MSB)じゃあギリギリ届かないのよね。だからこの次の川では07MSBを、更にその次の最後の川で91式戦車橋と07MSBの両方を架けるわ」


「了解!」


 架橋作業を指揮する施設隊隊長の水乃宮三佐は、作業に従事する施設科隊員たちに今後の予定を伝える。

 次々に川面へと降ろされる浮橋は、同様にトラックから降ろされた作業用ボートによって運ばれ、隊員たちの手によって連結されていく。1つまた1つと繋がれていく浮橋の群れは、程なくして1つの橋の形を呈するに至る。


 2時間後には架橋が終了し、各車輌は完成された浮橋の上を1台ずつ通過する。全車輌が渡り終え、その後また2時間かけて浮橋が回収されたのを確認した滝澤陸将補は、全部隊に再び前進の指示を下した。

 斯くして、222輌の車輌の隊列と、3,000人近い隊員たちによる大部隊は、焦らず、だが迅速に帝都リチアンドブルクまでの距離を縮めつつあった。


〜〜〜〜〜


皇帝領 コヨーフ平原 


 陸上自衛隊が進行を続ける一方で、アルフォン側も彼らを迎え討つ為の行動を起こしていた。

 アルフォン1世より出撃命令を受けた、“皇帝領内に残留していた皇帝領軍”と一部の近衛兵団から成る3万5千人の部隊は、“ミケート・ティリスから敗走してきた皇帝領軍”、その他3地方の軍から成る計9万人の軍勢と、皇帝領内に位置する「コヨーフ平原」にて合流を果たしていた。


・・・


同日・夜 司令部天幕


 強行軍の末、平原に集結したばかりの12万5千の兵士たちが夜営を行う中、1つの天幕に軍の幹部たちが集まっている。

 ラスペル=テュリムゲン率いる皇帝領軍と共にこの地まで撤退してきたレターンクン軍、ホスダン軍、ノースケールト軍の軍団長、それにラスペル自身を加えた4人、そして帝都から3万5千の兵団を率いてきた皇帝領軍の将官であるウィデリック=エッツォを合わせた、計5人の姿がそこにあった。


「ふん・・・無様な負け方をしたものだ。奇襲を受けたとは言え、“地の利”と絶対的な“数の利”がある戦いで、よもやおめおめと負けて帰ってこようとは・・・。やはり内務庁のお役人に、軍を率いるのは無理だった様だな」


 生粋の軍人であるウィデリックは、内務庁に属する文民でありながら、ミケート軍の指揮権、及びミケート・ティリスに集結していた35万の軍勢の統括を任されていたラスペルを揶揄する。


「っ・・・!」


 ラスペルはウィデリックを睨み付ける。それは他の3人も同様だった。彼の言葉に不快感を抱いていたのは、ラスペルだけでは無かったのだ。


「貴方はニホン軍の真の実力を知らない・・・、故にそんな口が聞けるのだ!」


 ホスダン騎士団領軍を率いる軍団長のジークリー=アスカニンは、ウィデリックの言葉に反論する。しかし、ウィデリックは鼻で笑いながら、言葉を返した。


「確かに海戦と空中戦では、ニホン軍の力はすさまじいと聞く。しかし、陸戦においてはこれと言った功名は聞かん。落ち着いて適切な采配を行えば、勝てる戦いではなかったのか!?」


「何を言う!」


 楽観的とも言えるウィデリックの理論に、ノースケールト辺境伯領軍の軍団長であるモーリッツ=エルバティンが声を荒げた。


「・・・」


 沈黙が流れる。険悪な様相を呈す会議の雰囲気に、沈黙を保っていたレターンクン騎士団領軍の軍団長であるティツェーロ=シュテンが一石を投じた。


「同軍内でいがみ合いをしている場合では無い! 敵はこの間にも迫って来ているのだぞ!」


 ティツェーロの言葉に、火花を散らしていた4人の内、ジークリーとモーリッツ、ラスペルの3人は、はっとした表情を浮かべた。しかし、ウィデリックは未だ、自身の非を認める様子は見せない。

 不穏な空気をはらんだまま、幹部による会議は、敵をどのようにして迎え討つかという本題に入る。


「奴らが追ってくるであろう街道上の数地点に兵を配置してある。敵の動向の偵察と、可能であれば奇襲をかけろと命じた。報告に依れば、敵は200台近い“自走する砲と荷車”に乗ってこちらへ来ている。ここへ戻る途中にいくつか橋を落として来た故、それで大分時間は稼げるはずだ。その間に、我々も策を練らねば・・・」


 ラスペルは、日本軍の監視を行っている各小隊からの報告を伝える。それを聞いたウィデリックは、自信に満ちた顔で述べる。


「このコヨーフ平原で迎え討てば良い。数の差であっという間に制圧して見せよう」


「!?」


 したり顔を浮かべるウィデリックとは対照的に、彼の提案を耳にした他の4人は、驚きのあまり目玉が飛び出しそうになる。


「敵が繰り出す空からの爆撃を受けてはひとたまりもないぞ! こんな開けた平野に留まっているのは、そもそも危険なんだ!」


 ノースケールト軍団長のモーリッツは、テーブルに乗り上げながら、その提案が如何に無謀かをウィデリックに訴えた。モーリッツの気迫に気圧されながら、自身の提案を頭ごなしに否定されたウィデリックは眉をひそめながら反論する。


「ではどうするのだ? 帝都より東側は全体的にのどかな平野・・・。峡谷や山岳の様な効果的な奇襲を掛けられる地形は無い・・・。やはり平原で迎え討つしかないぞ?」


 彼の言葉を聞いたレターンクン軍団長のティツェーロは、地形が描かれた地図を取り出し、ウィデリックの案を何とか引っ込めさせる為、自らが思い描いた案の説明を始める。


「ではこうしよう。ミケート・ティリスから帝都まで向かうには、1つだけ大きな森林を抜けなければならない。それがこの皇帝領内にある“メストーの森”だ。この森を貫く街道の両脇に兵士たちを潜伏させ、敵の隊列が森に入った所で一斉に奇襲挟撃を行う。敵の隊列は長大だ。恐らく、全兵士を投入した方が良い。

接近さえ出来れば、遠大な射程を誇る“敵の銃器”も“我らの銃”も、さして変わらん。さすれば本来、圧倒的な“数の利”がある我々が有利になる筈だ」


「成る程・・・」


 ティツェーロの提案に、ラスペルは手を顎に当てながら頷いていた。一方で、モーリッツは1つの懸念を提示する。


「しかし、敵は空を飛ぶ“機械仕掛けの鳥や羽虫”を用いるのだろう? 奇襲をかけようにも、上空から発見されやしないか?」


「その“上空からの監視”を避ける為に森に潜むのだ。いくら何でも、大地を覆う木々の枝葉を透かして、潜伏する我々を見つけるなど不可能だろう」


 ティツェーロが答える。しかし、間髪入れずに今度はウィデリックが更なる懸念を提示する。


「じゃあ竜騎はどうする? 40騎程我々が連れて来たが・・・森の中の戦闘では真価を発揮出来んぞ」


「街道上を行く敵の隊列や“自走する荷車”に対して攻撃を行えば良いかと、それなら木々の枝葉は邪魔にはならない」


 再びティツェーロが答える。その内容に、ウィデリックは渋々納得した表情を見せた。

 日本軍を迎え討つ為の作戦会議が続く。そして会議が終わりに向かいつつあった時、1人の兵士が息を切らして、この司令部がある天幕に現れた。兵士は左膝を地面に付けながら、街道上に配置されていた偵察隊からの報告を伝える。


「報告します! 奴ら、1刻(2時間)程で新たな橋を架け、エルマ川を渡り終えたとのこと!」


「!!」


 兵士の報告に、5人の脳裏には衝撃が走る。


「時間稼ぎにもならなかったか・・・、早急に兵を移動させねば!」


 報告を聞いたティツェーロは立ち上がり、知らせを持って来た兵士に指示を出す。


「全軍に伝えよ! 翌日の夜明けと同時に、我々はここより西北西に40リーグ(28km)行った先にある“メストーの森”に向かうと!」


 彼の言動を見て、司令部メンバーの1人であるウィデリックが立ち上がり、異を唱える。


「ちょっと待て、何故勝手に全軍の指揮を執る? 少なくとも皇帝領軍の兵たちは私の配下だ!」


 皇帝領軍将官のウィデリックは、1地方の軍団長でありながら、まるで総指揮官の様に振る舞うティツェーロの態度が気に食わず、彼が“全軍”に指示を出したことに反発していたのだ。しかし、ティツェーロは悪びれる様子も無く、堂々とした態度で答える。


「此度の作戦を発案したのは私だ。そして貴方もこの作戦を了承した。ならば、此度の作戦については発案者である私に指揮権を委任して貰う!」


「・・・! ちっ!」


 目をそらしながらウィデリックは舌打ちをする。しかし、彼は何も言わなかった。引き下がった様子のウィデリックを見て、彼とティツェーロの言い争いを端から見ていた他の3人は、ほっとした表情を浮かべていた。


 その後、コヨーフ平原にて野営を行っていた“現皇帝に与する4地方の連合軍”総勢12万5千人の兵士たちは、夜明けと同時に、司令部によって決戦の地と位置づけられた“メストーの森”へ進軍を開始するのだった。


〜〜〜〜〜


翌日 ミケート・ティリス沖


 両軍の激突が間近に迫っていた時、ジュペリア大陸とウィレニア大陸に挟まれた海「中央洋」の上では、ショーテーリア=サン帝国に派遣されていた使節団数名、そして「クロスネルヤード帝国亡命政権」、すなわち元皇太子ジェティス=メイ=アングレムと、その妃であるレヴィッカ=ホーエルツェレール・アングレム、そしてテオファ=レー=アングレムの3名を乗せた海上自衛隊の護衛艦「かが」が、ミケート・ティリスに向かっていた。

 上陸作戦終了後、首都攻略には参加せずに同都市に残ったアメリカ海兵隊員、及び陸上自衛隊員、そして正規の主の下に戻ったミケート軍兵士によって、街中に逃げ込んだ敗残兵の捕縛が行われていたが、それがほぼ完了し、都市の治安が大きな回復傾向を見せた為、亡命政権をこの地に移動させることになったのだ。


・・・


「かが」艦橋


 艦長の反谷大二郎一等海佐/大佐を始めとして、艦橋に集っていた隊員たちは、窓の外に広がる巨大な大陸を眺めていた。その中には、明らかに場違いな衣装に身を包む2人の男女の姿がある。


「感慨深いな・・・」


「ええ・・・」


 艦橋の窓から故郷の地を眺めるジェティスの言葉に、彼の妻であるレヴィッカが頷く。彼らがジュぺリア大陸に帰還したのは約3カ月ぶりなのだ。3ヶ月振りに目の当たりにした故郷の大地を見つめる彼らの心中には、何やら熱いものが灯っていた。


・・・


「かが」居住区画


『間も無く、目的地ミケート・ティリス港に到着します』


 戦闘指揮所(CIC)から発せられたアナウンスが、艦内の至る所で響いている。着港を知らせるその内容に、居住区画に居た日本国使節団の面々は、ほっとした表情を浮かべていた。


「やっと着くのか! 今回も長かったな」


 使節団代表を勤める外務事務次官の東鈴稲次は、ぽつりとつぶやく。

 最初は日本からショーテーリアへ、次にショーテーリアからミケート・ティリスへと、外務省の命令によって次から次へと長距離移動をさせられる使節団の気疲労は相当なものだった。


 そんな使節団の面子の中に、民間人2人の姿がある。1人は、AIDSを患う皇女テオファの現主治医である感染症内科医の郷堂恵一、そしてもう1人は、元海上自衛隊の医官で、その後勤務した“リチアンドブルク赤十字病院”では皇女の主治医を勤めていた脳神経外科医の柴田友和だ。

 AIDSを患う“皇女の健康状態の維持”と“皇女自身の希望”に基づき、彼女の病状に詳しい彼らが外務省に雇われて使節団に同行することになっていた。


(3ヶ月振りだ・・・。『AIDS調査班』は、神崎たちは無事だろうか?)


 その2人の医師の片割れである柴田は、3ヶ月前の開戦時に帝都から脱出した際、大陸に置き去りにしてしまっていた同僚の身を案じていた。

 この世界のHIV/AIDSについて調査する為に、日本政府の要請を受けて急遽組織された「北方AIDS調査班」。総合内科医の神崎志郎を首班とし、5人の医療スタッフと10人の陸上自衛隊員の計15人からなる彼らは、日本とクロスネルヤード帝国の間に戦いの火蓋が切られた2029年11月5日の6日前、すなわち10月31日に、HIVの発生地と目される北方の地方「シーンヌート辺境伯領」に向かって出発していた。

 その後、アルフォン1世によって宣戦布告が成され、帝都に残っていた赤十字医療団35人については、皇女テオファと共に国外脱出に成功したのだが、シーンヌート辺境伯領に出発した調査班については連絡が取れず、安否が不明なままだったのだ。


「・・・神崎先生たちの身を案じているのかい?」


 柴田が座る寝台の隣で横になっていた郷堂が、心の中を見透かす様に、柴田が考えていたことを言い当てる。

 日本赤十字社に属する医師である神崎と郷堂は、神崎がリチアンドブルクに派遣される前までは同じ病院で勤めていた為に顔見知り同士だった。当然付き合いは新参者の柴田より長い。


「大丈夫だろう。あの人は悪運だけは強いから・・・ハハハ!」


 そう言って郷堂は笑い飛ばす。しかし、その笑顔は少し歪なものだった。神崎を含む医療スタッフ5人、そしてその護衛である陸自隊員10人、3ヶ月に渡って大陸に残してしまった彼ら15人の身を心配するのは、当然ながら柴田だけではないのだ。


 1時間後、「かが」はミケート・ティリスの港に着岸する。斯くして、クロスネルヤード帝国の正統な皇帝(おう)を称する亡命政権の面々は、3ヶ月振りに祖国の地を踏むに至ったのだった。

 彼らの帰還は、ミケート・ティリス市民、そしてこのミケート騎士団領を治める一族である“騎士団長位”インテグメント家の人々によって、歓声と歓喜を以て迎えられることとなる。


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