表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旭日の西漸 第3部 異界の十字軍篇  作者: 僕突全卯
第2章 聖戦の開幕
22/51

迫る危機

11月10日 リチアンドブルク 皇宮・御所 皇帝の執務室


 この日、1人の兵士が報告の為にこの部屋を訪れていた。兵士の目の前では、この国の長たるアルフォンが座っている。


「現在、ニホン国の大使たちには尋問を行っておりますが、未だ先帝陛下暗殺の指示については認めようとせず、更にはニホン人の医術士たちが先帝陛下を殺害したことについては“欺瞞”だと述べる有様でして・・・」


 ジョルデ=クロンカイトの報告内容、それは現在彼らが捕らえている日本人である大使館職員に対して行っている“尋問”についてである。その目的は大使館職員の口から、日本人医師たちによる暗殺を指示した、という内容の自白を取ることだった。

 しかし、そんな事実はない。厳しい“尋問”にも彼らは屈することはなく、身の潔白を主張し続けていたのだ。


「まだ意地を張るか・・・。少し厳しく問い糾せ」


 日本人の強情さにやや煩わしさを感じながら、アルフォンは非情な命令を下す。


「・・・は、その様に」


 皇帝の命令を拝聴したジョルデは、頭を下げると部屋を後にする。扉から出て行く彼の後ろ姿を眺めていたアルフォンに、隣に立っていたオリスが話しかける。


「ニホン人の多くは自らジュペリア大陸から脱出・・・、この大陸は清浄を取り戻しつつあります。しかし、これで終わりではありませんね・・・? 罪人は滅しなくては」


「・・・」


 総本山から教皇直々の命によって派遣されている密偵オリスの言葉は、アルフォンの心にこの上無いざわつきを生んでいた。


「分かっている! いずれはニホン本土へ侵攻する、それは変わらない! それに先立って、最初の目標をニホン軍の基地があるエルムスタシア帝国のルシニアに定める」


 皇帝の言葉に、2人と同じく部屋の中に居た、宰相のヴィルヘン=リンフォイドは驚く。


「亜人帝国を敵に回すのですか?」


 日本軍の基地があるとは言え、ルシニアはエルムスタシア帝国の領土にある。ここを攻撃するということは亜人帝国を敵に回す可能性があるということだ。

 エルムスタシア帝国の戦力は非列強国としてはかなり大きい。日本に対して宣戦布告している最中、この国まで敵に回すとなると、こちらとしてもそれなりに覚悟が要る。


「基地を破壊して、ニホン軍の補給源を絶ちさえすれば良いのだ。何もルシニアを占領する必要は無い。確かにエルムスタシアの屈強な兵士たちは、陸戦では脅威だが、海戦や空戦は“銀龍”を有する我々の方が有利。それに基地に常在しているニホン軍の艦もわずか4隻ほどと聞く。数で押し切れる」


 不安を露わにする宰相ヴィルヘンを、アルフォンは強い口調で説得する。しかしながら、ヴィルヘンは迷いの感情を拭いきれていなかった。そんな彼の様子を余所に、アルフォンは彼に1つの指示を出した。


「直ちに各地の長、及び各国に送れ。最初の攻撃目標はルシニアのニホン軍基地だとな!」


 皇帝の命令を受けた宰相は、先程の兵士と同様に部屋を後にする。

 程なくして、13人の長と対日戦への参戦を表明した各国の元首たちに、ルシニア基地侵攻が通達された。


〜〜〜〜〜


11月13日 日本国 東京


 異世界に転移して2度目の戦火勃発を、各マスコミが騒ぎ立てる。今回の敵国であるクロスネルヤード帝国が、以前の敵であるアルティーア帝国と比べてどれほど強大なのか、兵力差はどれくらいあるのか等、2国間の格の違いを示す様な報道が多く、国民の不安を煽る様であった。


 そんな中、国防を司る防衛省の大臣執務室、そこで防衛大臣である安中洋介は1人、思案にふけっていた。彼が考えていたのは「この戦争はどうすれば終わるのか」である。

 首都を陥落させて終わったアルティーア戦役とは違い、今回の戦争は様々な勢力の集合体が相手となる。特定の何かを倒せば、果たしてそれで終わりになるのだろうか。


 神聖ロバンス教皇国を攻め落とす?

 否、そうすればイルラ教国家群の士気に火を付けるだけだ。教皇の仇を討つ、といった具合に各勢力の団結力を強める結果に終わるだろう。それに世界宗教の総本山への攻撃は、確実に後世に禍根を残す。


 リチアンドブルクを攻め落とす?

 この世界で最大勢力であるクロスネルヤード帝国でさえ、日本には敵わない。その事実を突きつければ、他の国々も戦線を離脱していくだろうか。しかし、その為には首都侵攻に先だってクロスネルヤード帝国全体の戦力をかなり削いでおかなければならない。今、首都にヘリボーン作戦を仕掛けて占領に成功したとしても、各地方を守る18の軍隊に四方八方から攻められてジ・エンドだ。


「しばらくは・・・相手の出方を見るしかないか・・・?」


 もどかしい思いに、安中は駆られる。

 この日、第1護衛隊群8隻と第41航空群を乗せた第2遊撃隊所属艦のあかぎ型2番艦「あまぎ」、そして補給艦2隻がルシニア基地増援の為に出航している。更には無誘導弾や砲弾、ミサイル等の武器弾薬を乗せた輸送艦や、陸上自衛隊の装備を準備中の強襲揚陸艦も、各港で出航の準備を進めている。それらも間も無く出航し、増援部隊に参加する予定だ。

 また、日本政府は屋和半島のアメリカ合衆国にも協力を要請しており、彼らとの交渉が全て上手く行けば、未完成(・・・)の海上自衛隊第42航空群に加え、第1海兵航空団の第12海兵航空群に属するF/A−18Dをあかぎ型1番艦の「あかぎ」に載せて、先遣隊の後を追わせることになっている。

 各イルラ教国の港でも、上空を飛行する人工衛星から撮った高解像写真から、艦隊出撃の準備が着々と進んでいる様子が確認されていた。


〜〜〜〜〜


同日 エルムスタシア帝国 ルシニア 在エルムスタシア軍用基地


 港街ルシニアには、リヴァイアサン討伐の見返りとして、エルムスタシア帝国政府によって設置が許された自衛隊基地が存在する。政府内では「シックススベース」と呼ばれており、海外・外地を含めた日本国外の自衛隊基地としては、規模が大きい方だ。

 第13護衛隊が母港をここへ移しており、都市の外れには、ジェット旅客機も離着陸可能な滑走路も建設されている。そこには3機の哨戒機オライオン(P-3C)と10機の戦闘機F−2の姿があった。

 基地に駐在する隊員は陸海空合わせて900人近くに及んでいる。基地には清掃員や事務員として現地住民も雇われており、基地の存在はルシニアの街に大きな経済的恩恵をもたらしていた。




基地内 会議室


 基地に勤務する幹部自衛官たちが、一同に会している。基地司令にして第13護衛隊司令の大浦慶子一等海佐/大佐を中心に、先任伍長の鄭和成助海曹長/兵曹長や上野彦栄二等海佐/中佐をはじめとする幕僚たち、航空自衛隊からの出向組の1人で、彼らの代表である倉場健剛二等空佐/中佐など、基地を束ねる顔ぶれが並んでいた。


「多分、敵は最初にこん『ルシニア基地』を狙って来らす。我々(ウチら)にとってもジュペリア大陸本土へ侵攻する際には、最も重要な補給地点となるけんね・・・。

また、クロスネルヤード皇帝は将来的な日本本土への侵攻を掲げておるき、日本へ大規模な艦隊を送ろうとしてこらすたい。そやっけん、彼の国内は軍事的に手薄になる。そん時、ルシニア基地の海上自衛隊は、兵力を日本へ向けて派遣した彼らにとっては大きな脅威になるやろう」


 方言と標準語混じりの言葉使いで、基地司令の大浦一佐は自らが立てた推論とその根拠を説明する。


「成る程、ならば敵は、それを先に排除しようとしてくるという訳ですか」


 彼女の部下の1人である上野二佐は、彼女の訛りを特に気にすることなく、大浦の言わんとしたことを理解する。


「すでにジュペリア大陸の各地では、艦隊派遣の為の準備が進められているとの報告が入っております」


 幕僚の1人である古賀順次郎三等海佐/少佐は、本国より届けられたメッセージを伝える。


「そいが全部、ここへ来るとかね?」


「いえ、それはまだ分かりかねます。ただ、その可能性は高いでしょう」


 基地司令からの質問に、古賀三佐は端的に答えた。

 先日、海上幕僚監部からルシニア基地増援の為に第1護衛隊群と空母「あまぎ」を派遣したという連絡が入っている。増援は願ってもないことだが、それにも時間はかかる。もし「ロバーニア海戦」と同じ規模で敵の艦隊が、増援よりも先に現れたら・・・。


「敵の動向をいち早く察知する必要があります。今までの哨戒活動はオライオン(P-3C)3機が1機ずつローテーションで行って来ましたが、これからは2機体制で行うべきかと」


 古賀三佐は哨戒網の強化を具申する。


「・・・そやね、それでよか」


 大浦一佐が答える。指揮官の決定に、会議に参加している幹部たちは特に異を唱える様子は見えない。

 その後、会議は終了し、幹部たちはそれぞれの持ち場に戻った。


〜〜〜〜〜


11月16日 クロスネルヤード帝国 ドラス辺境伯領 主都ドラス・ティリス


 帝国南部に位置するこの港街には、多くの軍艦が並んでいる。みすぼらしい恰好をした男たちが、各軍艦にせっせと物資を運び込んでいる。別のところを見れば、整備兵たちが銀色に輝く鱗を持っている龍を、艦の中へと連れ込んでいる様子が見えた。


「明日の正午にルシニアへ向けて出航する様にという、皇帝陛下のご命令だ! 準備の遅れは許されないぞ!」


 指揮官と思しき軍人の男が、作業に汗を流している男たちに怒号を飛ばす。この様な光景は、クロスネルヤード帝国、そしてその属国の各地の港で見られていた。ミケート・ティリスにおいては、すでに皇帝領海軍の艦80隻以上が、南へ向けて出航していた。

 そして翌日11月17日の正午、ついにこのドラス・ティリス、及びその周辺の港街からも、ドラス軍と皇帝領軍を合わせて180隻以上の艦がルシニアへ向けて出航した。

 その後、これらの艦隊は、クロスネルヤード属国群の港から派遣された艦と合流し、大小合わせて実に490隻の艦隊となって一路、日本軍の根城となっているルシニアに向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ