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旭日の西漸 第3部 異界の十字軍篇  作者: 僕突全卯
第1章 戦火の予感
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東京騒乱

お詫び


この場を借りて、読者の皆様に1つお詫び申し上げたいと思います。

此度はお見苦しい姿をお見せしてしまいました。

感想欄で不毛な言い争いを起こし、関係の無い読者の皆様には不快な思いをさせてしまったと思います。

本当に申し訳ありませんでした。

2029年10月10日 AM1:00 東京 皇居 半蔵門入り口


 強襲揚陸艦「こじま」が、遠き国の皇女を救う為の薬を積み込んで横須賀を出航したその日の夜、東京の街並みは何時もと変わることなく煌々と輝き、街中は未だ人で溢れていた。転移によって、名実ともに世界最大の都市となった東京。その姿を見たテラルスの民は口を揃えてこの街をこう呼ぶ。ここはまさしく「異世界の都」だと。

 ここを訪れた者たちの語りぐさは、まだ日本へ足を踏み入れた事のないテラルスの民の好奇心を刺激する。その連鎖によって、この国はこの世界に住まう者たちの大きな憧れとなっていった。

 そんな大都市が放つ光の影に隠れる様にして、パーカーのフードを被り日本人に化けている3人の人影が、半蔵門の付近に身を潜めていた。


「ニホン人はいつまで起きているつもりなんだ」


「まったくだ。これほどの夜更けでも街の灯が消えぬ。まるで昼のように明るいぞ」


 2人の男が、夜更けどころか昼夜問わず街の灯が落ちることの無い“眠らない都市 東京”の光輝く姿に苦言を呈した。彼らの常識で言えば午前1時ごろの街並など、首都も田舎も問わず、明かりを点さなければ出歩けないほどの漆黒の闇に覆われることが当然なのだ。


「まさに、異世界の都という訳か・・・」


 一方の男がつぶやく。直後、周りの様子を監視していた3人目の男が2人に指示を出す。


「よし、行くぞ!」


 指示に呼応し、2人は土手を滑るように降りていく。2人に続いて指示を出した男も土手を駆け下りる。彼らの目的は1つ、半蔵濠を泳いで渡り皇居に侵入することなのだ。

 土手を駆け下りた3人の前に立ちはだかるのは、皇居(旧江戸城)まで続く堀だ。掘を満たす水は街の明かりを反射し、きらきらと輝いて見えた。深さも分からないため池を目の前にして、3人は足が進まなくなった。このままもたついていれば無駄な時間が過ぎて行くだけでしかない。そのことを察したその中の1人が、口を開いた。


「・・・これは”聖戦”だ。我らが絶対神の御威光を広げるだけでなく、乱れた宗教観に溺れるこの国の民、総勢一億を救うことになるのだ!」


 男は自らに活を入れると、その右脚を堀のため池の中へと浸す。水底に足が付き、堀が浅いことが分かると、腰から下を水の中へ付けて皇居へ向かって歩きだす。続いて意を決した様子の他2人も、堀の中へ身を投じた。その時・・・


「おい、お前たち何をしている!」


「「 !!」」


 半蔵門の警備についていた皇宮護衛官が、皇居に侵入しようとしている怪しげな人影に気づいた。彼の声に反応し、周辺に設置されていたサーチライトが、一斉に侵入者3人を照らしだす。


『全警備員に告ぐ。こちら奏田! 半蔵門付近で侵入者を発見! 人数3人、全員外国人だ!』


 彼らを発見した皇宮護衛官の奏田優一は、仲間の皇宮護衛官や近衛たちに応援要請を飛ばす。直後、あちらこちらから皇居の護衛についていた皇宮護衛官や近衛たちが集まってくる。


「早く向こう岸へ! 何としても目標(・・)の身柄を掴むのだ!」


 男の1人が皇居を指差しながら叫ぶ。侵入者3名は、水の抵抗に足を取られつつも、一歩一歩確実に皇居へと足を進めていた。


「止まれ!! 止まらんと撃つ!」


 奏田を始め、半蔵門に集まっていた皇宮護衛官や近衛たちは3人に銃を向ける。しかし、侵入者たちは奏田の忠告に耳を貸すこと無く、足を進める。


「警告は・・・したぜ!」


 奏田はつぶやく。直後、彼は構えていた拳銃の引き鉄を引く。


バキューンッ!


 深夜の千代田区に銃声が鳴り響く。直後、侵入者3人の内の1人が、弾丸を体に受け、倒れた。


「デヌー!」


 1人の男が倒れた仲間の名を呼ぶ。しかし、デヌーと呼ばれたその男はすでに息絶えていた。


「「・・・!」」


 仲間の唐突な死に、残りの2人の精神に大きな動揺が走る。


「もう一度警告する! 止まれ! そして直ちに投降しろ!」


 奏田は再び警告を飛ばす。彼の言葉の中には、神聖な皇居の近傍で、発砲や殺しをこれ以上したくないという複雑な感情が混じっていた。


「くっ・・・!」


「!」


 1人の男が、自身の腰へと手を伸ばす。その様子を奏田は見逃さなかった。


「武器に手を伸ばすな! 武器を捨て、直ちに投降しろ!」


 自身の目論見を瞬く間に看破され、男は動けなくなる。


「サシラさん・・・! どうします!?」


 男はもう1人の仲間に進退を尋ねる。サシラと呼ばれた男は先程自らに活を入れていた男だった。サーチライトで照らされた彼らの影は、堀の水面にくっきりと映り、それらは皇居側の土手にまで伸びていた。

 また市街地側の土手からは、彼らに向かって皇宮護衛官や近衛たちの無数の視線と銃口が向けられている。この世界にも銃は存在する。故に2人はそれらが一斉に火を吹けば、自分たちの命の火が瞬く間に消えるだろうことを十分に理解していた。


「デーロ・・・任務は失敗だ。しかし、このまま異教徒の捕囚になる等、信徒としての”恥”だ・・・!」


「!」


 サシラはそう言うと、体に隠し持っていたナイフと取り出し、それを自らの喉元に突きつけた。その様子に気付いた皇宮護衛官の1人が、無線でその状況について伝える。


『こちら八重樫、侵入者の1人がナイフを取り出しました。やはり武器を隠し持っていた様です。しかし、ナイフを取り出した男はそれを自分の喉元に向けています。”自害”する気かも知れません!』


 その報告に、半蔵門付近に集まっていた皇宮護衛官や近衛の間に衝撃が走る。


『ただちに堀の中へ下り、侵入者の身柄を確保しろ! 被疑者全員に死なれては事だ!』


 奏田の指示を受け、集結していた皇宮護衛官や近衛は土手を下りて、侵入者の身柄確保に向かう。威圧感のある形相の人波が水をかき分け、サシラとデーロへと急速接近する。


「来たか、だがもう遅い! 私は虜囚の辱めは受けない! 神に殉ずるのだ!」


 サシはラ皇居の警備たちに向かって叫ぶ。直後、彼は手にしてしたナイフで自らの頸動脈を掻き切った。


「・・・ぎ、・・・ガ!」


「「!?」」


 男の首から血飛沫が勢いよく吹き出す。サシラは断末魔にもならない掠れた声を喉の奥から捻り出した。直後、彼の体は力なく水面の上に倒れた。彼の遺体からは血が流れだし、周りの水面が血の色に染まる。


「・・・ひっ!?」


 ためらいも無く命を絶った年長者の姿を見て、まだ若い身空であるデーロは震えていた。彼の周りには仲間2人の遺体が浮かんでいる。


『確保!』


 呆然としているデーロに向かって皇宮護衛官たちが飛びかかる。特に抵抗も示さなかったデーロの身柄はほどなくして拘束された。

 その後、彼は「皇居等侵入未遂」の現行犯として、皇宮警察から警視庁刑事部捜査第三課に身柄を護送され、その後の彼の証言や死亡した2人の所持品から、彼らが海外の宗教団体に属する人間であることが明らかになると、公安部の外事第一課に捜査権が移譲されることとなった。


〜〜〜〜〜


1週間後 東京・千代田区 警視庁公安部 捜査本部


 テラルスの民による初の皇居侵入事件という今回の一件を受け、外国政府や外国人による犯罪・テロリズムなどを捜査する課である外事課は、慌ただしく動いていた。


「先日吐かせ・・・聞き出した彼らの潜伏場所の調査結果が報告されました」


 外事第一課四係に属する公安刑事である中原零巡査部長は、咳払いを交えながら、犯人(ホシ)が自供した潜伏場所での調査結果を捜査本部長である公安部長の西原次郎警視監に報告する。


「そうか。では早速報告を」


 西原は発言を促す。


「彼らの潜伏場所は丸の内公園でした。ホームレスに紛れていた様で・・・。現場捜索の結果、押収された彼らの所持品から”国章”付きの羊皮紙と本が見つかりました。

また今回の事件の計画書や手記も発見されています。それらに依ると、彼らの日本上陸は約1ヶ月前、商船に紛れて密入国したとあります。今回の皇居侵入はかなり周到に用意してきた計画だった様です」


 中原は押収品について説明を続ける。


「成る程な。そう言えば”国章付きの本”と言うのは・・・?」


 中原が発したとある単語について、西原は尋ねる。


「はい、それについては書かれていた文字を調べた所、ジュペリア大陸中央部で使用されているものだとのことでした。翻訳の結果、聖書の類であることも明らかになっています」


 中原は押収された”本”について説明する。


「これも彼らが何らかの宗教団体に属す可能性を示唆する物品ですが、これよりも重要だったのは羊皮紙の方に書かれていた内容です」


 そう言うと中原は1枚の書類を提出した。


「見て下さい・・・翻訳の結果、こんな文章が書かれていましたよ」


「?」


 西原は差し出された書類を手に取る。彼はそれに書かれている内容を眺める。


「・・・これは!?」


 西原は驚愕の表情を浮かべる。それに書かれていた内容は「演説文」であった。


「私は”現人神”などではなく、”ただの人間”である。私は自身を”神”と称した罪を悔い改め、この世で最も偉大な真の神の御威光をこの国に広めようと決めた。その神の名は『ティアム』と言う・・・」


 西原は書類の内容を読み進めていく。衝撃的な冒頭で始まったその演説文は「ティアム」と「イルラ教」がどれほど素晴らしい存在か、それらと比較して自分(・・)がどれだけ矮小な存在であるかということを長々と綴っている内容だった。


「これは一体どういうことだ・・・!?」


 冒頭の内容から察するに、これは天皇陛下に読ませることを目的とした演説文だったのだろう。日本人として我慢ならないその内容に、西原は震える。


「彼らはこの国の”事実上の最高司祭”にして”国家元首”である天皇陛下を脅迫し、この文書をそのまま陛下に発せさせるつもりだった様です。彼らの所持品から銃も発見されましたし、最初に射殺されたデヌーという男は隠密行動に長けた魔法を使う魔術師だったそうです」


「皇居に侵入して脱出することだって至難の技なのに、脅すってどうやって・・・!?」


 西原はたった3人で皇居に乗り込むという、自分たちから見れば無謀としか言えない事件を起こした侵入者たちの、あまりにも現実味が低い目的を聞いて驚き呆れていた。そんな彼の様子を見ていた中原は、1枚の写真を差し出す。


「これは彼ら3人全員が所持していたものです。恐らく日本国内で手に入れたものだと思われますが・・・」


 差し出された写真、写っているその人物に西原は再び驚愕する。


「・・・成る程。今回の侵入の目的は陛下ご本人(・・・・・)ではなく・・・!」


 西原は3人の目的と目論見を察した。その後、中原は推測も交えた3人の計画の詳細についての説明を始める。


「彼らの今回の計画内容についてですが、まず彼らが身につけていた武器は、ナイフやこの世界では最新のものである短筒火縄銃の様な拳銃です。武器以外には、先程の演説文のコピーと皇居内の地図、さらに先程述べたデヌーという魔術師は”絨毯”を背負っていました。これは逮捕されたデーロという男の証言に依ると、”空飛ぶ絨毯”らしく”逃走”用だったそうです。

絨毯を”侵入”に使用しなかったのは、彼らは1ヶ月の準備期間で夜間に皇居上空を飛行している”ドローン監視用ドローン”の存在を把握していたからだと思われます。次に皇居侵入後の彼らの目的ですが・・・」


 中原は説明を続ける。その内容を西原は黙って聞いていた。しばらくして中原が説明を終えると、西原はため息をつき、3人が目論んでいた計画の恐ろしさに思わず頭を抱えた。


「恐ろしい事を考えるものだな・・・!」


 西原がつぶやく。


「ええ、前代未聞の海外勢力による”皇族誘拐計画”です! 例えあの時、皇宮護衛官に発見されずに外堀を越えていたとしても、御所に侵入しようとすれば、皇居内のセキュリティに確実に引っかかっていたでしょうが、万が一にも成就されていたら・・・彼らの目的通りにはならなかったとは思いますが、国内、そして政府は大混乱に陥ったことでしょう!」


 中原は今回の事件の重大さについて語る。平たく言えば、3人の目的は天皇陛下、そして宮内庁を脅迫し、皇族全員をイルラ教に改宗させ、その上でイルラ教を国教に制定するという宣言をさせることにあったのだ。もちろん、実際にはそんな事をしたところで一億の民がイルラ教を信奉することになるはずは無いが、国内に大きな動揺と混乱、波紋を広げることになることは確実だ。


「そう言えば書かれていた”国章”とは・・・いや、聞くまでも無いか」


 西原はつぶやく。ここまでの話を聞き、彼はとある国の名を思い浮かべていた。それはかつて、未だ国交が無いのにも関わらず、”布教”の名目の元、何度か宣教師に不法入国を行わせていた国の名である。


「この国章は”神聖ロバンス教皇国”のものです。間違いありません」


 中原は答える。この一件以降、日本政府は大きく動くこととなる。


〜〜〜〜〜


同日夜 神聖ロバンス教皇国 首都ロバンス=デライト 総本山


 ジュペリア大陸の広範に権威を広げる「イルラ教」・・・その総本山であり、あらゆる国々の元首たちを宗教の名の元に配下に置いている「教皇」の部屋に1人の男が入室していた。


「7日前が計画決行の日であったのにも関わらず、ニホンに派遣した彼らからの連絡はありません。恐らく失敗したものかと・・・!」


 教皇庁の役人の1人であるその男は、冷や汗を流しながら計画失敗の報告を告げる。


「そうか・・・まあ良い」


「!?」


 教皇イノケンティオ3世は素っ気なく答えた。あまりにもあっさりした教皇の返答に、報告に訪れていた男は思わず目を丸くする。


「話はそれだけか?」


「は、はい」


「ではもう良い。下がれ・・・」


 教皇の命令を受け、役人は部屋から退室する。その様子を確認したイノケンティオはため息をつくと、独り言をつぶやいた。


「フ・・・まあ、成功するとは思っていなかったが・・・。それに・・・例え王にあのような宣言をさせ、他宗教の素晴らしさを伝えた所で、民衆が付いて行く訳もない。頭の硬い盲信者どもの妄言には、ほとほと笑わされるよ・・・」


 そう言うと、イノケンティオは今回の計画を発案した、この国の政府にあたる「教皇庁」の上層部の信徒たちを鼻で笑う。


(まあ、”身代金”を取れなかったのは残念だが・・・)


 イノケンティオは“万が一”、計画が成功した場合に備えて考えていた目論見が達成出来なかったことを、心の中で残念そうにつぶやく。


(これでニホンとの仲は決裂することになるだろう。たとえ神のご加護(・・・・・)が有ろうが、我が国や駒どもだけではあのような国家を相手に出来るはずも無し。

さて・・・あの男は覚悟を決めたかな・・・)


 イノケンティオは思案を巡らす。ちょうどその時、もう1人の男が入室してきた。


「失礼致します」


 男は部屋の中に入ると、教皇に向かって膝を付く。彼は先程入室していた役人とは違い、暗闇に紛れる様な黒い衣装に身を包んでいた。


「どうだ、クロスネルの方は? ”あの男”は覚悟を決めたか?」


 密偵の様な外見の男に対して、イノケンティオは自らが独自に進めていたとある計画の進捗状況について尋ねる。


「はっ! それがまだ迷いがある様で・・・」


 男は芳しくない今の状況について伝える。


「何とも優柔不断な奴だ。最悪、”破門”をちらつかせてもかまわん。何とかその気にさせろ」


「はっ! ではその様に」


 教皇の新たな指示を聞いたその男は、一礼するとどこへともなく消える。


(・・・さてニホンよ。お前達は戦争に負けるなど考えもしていないだろうが、世界最多(・・・・)を誇る軍事力の前でも同じことが言えるかな・・・)


 イノケンティオは不敵な笑みを浮かべながら天井を見上げる。彼の視線の先には、天井に彫られたジュペリア大陸の姿があった。

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