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親友が眼鏡をやめたいそうだ。

微妙にタイトルを変更しています。

いつまでも《連載版》とついているのもあれなので、すっきりさせました。

今後ともよろしくお願いいたします。

 我が親友は近頃、調子が出ていないらしい。何かに思い悩んでいるような素振りが比較的わかりやすくなっている。


 ……実はこの「わかりやすく」というのは俺の知るコージンには至極珍しい現象なのだ。なにせやつはいつも胡散臭え笑顔を垂れ流しまくり、何考えているのかいまいちつかめん悟り系男子というのが俺の知る通常営業のコージンなのである。


 それが非常にわかりやすくぼうっとしていたり、しきりに「あの」指輪の箱を眺めたりしているのだから、事の重大さがわかるだろう。一緒に働いている身としては気になって仕方がない。


「おい、お前、なんかあったかよ。店の売り上げでも悪いのかよ」

「まさか。売り上げはぼちぼちだよ。会社の資産運用も上手くいっているから、倒産の心配もない。山田を路頭に迷わせるまでもないから安心しなよ」


 打てばぽんと返ってくる返事は相変わらずだな。だがいつもより情け容赦がない気がする。棘を隠しきれてねーぞ。


「なあ、山田」

「ん。何だよ」

「今度コンタクトにしてみようと思うんだけど、どう思う?」

「あぁ? 急になんだよ。昔言ってたじゃねーか。眼鏡は僕のアイデンティティーだーっつって」

「はいはい、人の過去を勝手に捏造しないで」


 山田に聞こうと思った僕が馬鹿だったのかもね、とコージンから非常に辛辣なお言葉をいただいてしまった。おい、本当に何があったんだよ。


「……いや、まあ。考えてみれば当たり前の話なんだけれどさ」


 どうやら俺に話してみる気になったらしい。パソコンをいじっていた手が止まり、俺の方を見上げた。俺もきりよく棚の上段に荷物を乗せてから向き直る。


「人間社会で生きていく上で大勢の人間に接するわけなんだから、常に同性に囲まれているわけにはいかないんだよなぁ、とね。この間、ちょっと実感したんだよ。それで、そのことに気づいた自分に驚いた。当たり前のことなのにね」


 ……。おやおかしい。話の筋が読めないぞ。相変わらずのことながら、こいつの話し方は小難しくてかなわん。馬鹿な俺にもわかりやすく教えてくれ。


「この間、梢さんが帰省していた時に電話をかけたんだよ。さみしくなったから」

「うんうん、さみしく……って、おい」


 さらりととんでもない発言しやがったぞ、こいつ。そういうことさらっというなよな! どきっとしちゃったじゃないかよ。

 俺は男として負けた気分になった。俺に彼女が出来たとしても、絶対こうはなれんな。


「最初の方は普通に話せたんだよ。でも最後の方に男の声がわけいって、梢さんに親しげに話しかけていたんだよ。あれはたぶん、僕とそこまで年が変わらないぐらいの男だった」


 ここで、俺が冗談でも「あ、それ浮気相手なんじゃね?」と言ったものなら、俺とコージンの友情に亀裂が入ったかもしれない。それぐらいはわかった。


「従兄らしいんだよ。梢さんは『悠くん』と呼んでいたな。……まぁ、二人がどうこうしているってことはないんだろうし、そのときはあまり気にしなかったんだけれど、後になってじわじわときたわけ。梢さんにも、僕の知らない交友関係があって、そこには僕の知らない男もいてさ。できれば、他の男に接してほしくないなぁ、って思ってしまったんだよね」


 コージンは気の抜けたように笑っている。ほんの少し、自虐も入っているようだ。


「……これでも結構心が広いつもりでいたし、彼女や結婚相手を下手に束縛したくなくて、そういうことは自分では考えていないつもりだったけどね。自分の新たな一面を発見して、もてあましているんだよね。自分でも暗い思考に陥っているのはわかっているんだよ」

「んで、答えは見つかったのかよ」

「微妙。あぁ、でも梢さんが前より一層可愛くみえてきて困った。一回、ぎゅっと抱きしめてみたら満足できるかな」

「……俺なら満足できずにエスカレートするがな」


 ぼそっとこぼしてみれば、コージンのとんでもない眼光が飛んできた。こえー。


「あげないよ」

「いや、待ってくれ。一般論ってやつだよ。さすがに親友の彼女をどうにかしようとかしないわ。あぁ、そうだ。さっき言ってたコンタクトにしたいという発言にはどう繋がってくるんだ?」

「今後眼鏡が邪魔になる機会があるかもしれないと思って。キスするのに」


 今まで女っ気なしだった男がさらっと発言する「キス」にはそれなりの破壊力があった。だってまさか、あのコージンがなぁ……。時が流れるのは早いぜ……。俺、なんでまだ独りなんだろう……。


「まぁ、待て。もしかしたら眼鏡男子が好きなのかもしれん。ほら、女ってよくわからんところに萌えたりするって言ってたぞ、テレビで」

「ふうん」


 あ、絶対こいつ信用していないな、とわかった。


「その辺りは直接聞けばいいか。僕は梢さんの好みに合わせるよ」

「好きなようにすればいいだろ」


 ってか、俺に聞くことじゃなかったじゃんよ。あーあー、リア充め。

 話は終わったとばかりに、再びパソコンに視線を戻したコージンは、あ、と思いだしたように声を出した。


「そう言えば、山田の好みってどんな女の子なの?」


 よくわからない質問だったが、素直に答えた。


「あー、ありのままの俺を受け入れてくれる子かな。できれば可愛くて、美人で料理もできて、しっかりもので、でも優しくて、俺が馬鹿だから頭のいい子だとなおよくて。あと、胸と尻がでかければ最高かも……」

「……山田」

「……なんだよ」

「ありのままの現実を見ろ」


 お前に言われたかねーよ!





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