表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/64

キャラメル味のポップコーン、味見しますか?

 郊外のショッピングセンター……と言っても、私が想像した、だだっ広い田んぼにでん、とたっているものじゃなかった。普通に街中だった。郊外の意味ってなんなのだろうと思う。


 車から降りようとしていたら、菱川さんが先にドアを開けてくれた。


「じゃ、行こうか」


 掴まる手まで用意されていた。梢お嬢様は胸をどきどきさせながらも、せっかくだし、と甘えることにした。


 あぁ、でもどうしよう……。こんな扱いに慣れちゃったら、絶対他の人とは付き合えないよ……あ、でもいいのか、菱川さん以外の人と付き合う予定はないもん。


 外も暑いけれども、身体の芯からも熱が出てくるようだった。恥ずかしくて、嬉しい。


 ショッピングセンターには休日だからか結構人が多い。その中を菱川さんと手を繋ぎながら歩く。菱川さんと私ってちゃんとカップルに見えているのかな。


 映画館を探して、案内板を覗き込んでも気がそぞろだった。


 映画館の前まで来た。二人で窓口に並ぶ。


「あの映画でよかったよね?」


 菱川さんが指さした看板は私が観たいと言った映画だった。


「菱川さんは他のじゃなくても大丈夫ですか? 色々やっていますけれど」


 そんなに人を選ばない冒険ものの洋画だったけれど、菱川さんが無理して観るというのもなんだか違う気がする。


「ん? 大丈夫だよ? この中で選ぶなら断然この映画だって僕も思うしね。独特の世界観があるよね。前作も面白かったよ」

「あ、この間もテレビで公開記念とかで放送してましたよね! 私原作を読む授業を取っていたので、すごく関心があって。今回も楽しみにしていたんです!」

「それって英米の瀧山先生ので授業かな? あの先生、独特だけど結構面白い授業をするよね。 僕も一年生の頃に授業取っていたよ」


 私は目を丸くした。

 

 え? ちょっと待って。まさか、菱川さんって……。


「菱川さんって、大学の先輩……?」


 菱川さんは苦笑した。



「忘れてた……そういえばまだ言ってなかったね。僕は、そうだね、梢さんの……七年先輩になるのかな。学部は違うけれどね。一応経済学部だったよ」

「へぇ……」


 地元にある大学だからそのまま進学したってことかもしれない。……しかし、経済学部かぁ。バリバリ仕事できそうなイメージだなぁ。何を勉強するのかちっとも把握できてないけれど。うちの大学の経済学部生……同じ高校からそこに進学した子たちを何人か思い浮かべると、やたらチャラそうな……。私の中での経済学部生のイメージはイケイケなオシャレさん。おぉ、チャラいのはともかく、オシャレさんは菱川さんのイメージにあってる!


 世間ずれとモサさに定評のあるうちの学部とはエラい違いだ……。


 あと何気に菱川さんの年齢が発覚した。二十七、八ぐらいかぁ。ちょっと年が離れてる。社会人と、片や大学生。菱川さんからしたら、私は子どもっぽいのかもしれない。


 やがて窓口までやってきた。


「大人二枚でお願いします。はい。……梢さん、字幕と吹き替えどっちがいい?」

「え、えっと……吹き替えで」


 二時間近くも字幕だけを追うのは嫌だったので。

 

「では、吹き替えで。……ありがとうございます。始まるまで時間があるからポップコーンとか買おうか」


 今度は売店の列へ。コーラとキャラメル味のポップコーンを確保した。荷物は全部菱川さんが持ってくれました。本当にそつのない人というか……。

 

「ポップコーン、思ったよりも量がありますね」

「ビックサイズにしたからね。二人で食べるからあっという間だよ。あ。少し味見してみる?」


 お言葉に甘えて。菱川さんがつまみやすいように軽食の乗ったプレートを少し下ろしてくれたので、その場で一つ摘まむ。うん、この味だ。


「まだ温かいです。美味しい」

「出来立てだったんだね。僕もちょっと味見させてもらってもいい?」

「あ、わかりました」


 だったら、と代わりにプレートを受け取ろうとしたらさっと避けられてしまった。なぜ。


「……食べさせて?」


 菱川さんの口が少し開いている。ここに、と言わんばかりだ。

 唐突の試練到来。ピンチです、お母さん。……ええい、ままよ!


 私は動揺を表にださないように、さっと菱川さんの口にポップコーンと放り込んだ。嘘。伸ばした手はぷるぷる震えていたし、顔だって真っ赤になっていたと思う。人差し指の先が誤って菱川さんの唇に触れたから。表面はカサついているけれど、すごく柔らかそうな……。


 私は慌ててその指ごと自分の方に引き戻して、誰かに見えないように指先を丸めた。い、一体何を考えていたんだか……。


 これを目撃していた人がいたら、食傷気味になっていることだろう……怖くて確かめられなかったけれど。


「ありがとう。キャラメル味もたまにはいいものだね」


 菱川さんは優しげに目を細めつつ、シアターAはあっちみたいだ、と私を促した。


 私は菱川さんの斜め後ろを歩いた。まだ心臓がバクバクと音を立てている。


「もっと近くを歩いてもいいんだよ?」


 菱川さんはそう言うけれど。菱川さんの両手が空かないのをいいことに、距離を取ってしまった。不可抗力です、不可抗力……。


 今わかった。菱川さんが私と手を繋ぎたがるのは、互いの距離を詰めたかったからだったんだ。


 確かに繋いでなかったら、私は今みたいに恥ずかしくて距離を取っていたかもしれない。


 私は意を決して、立ち止まっている菱川さんへ、そろそろと二、三歩近づく。へ、平常心、平常心……。

 これから暗い映画館の中、隣同士で座るんだよ!? 頑張るんだ、私!


「す、すみません……」

「僕こそ。手が空いてないから梢さんと手を繋いであげられなくてごめんね」


 ふおぉっ? 菱川さんの返事が高等すぎて、心臓がますます痛くなるよ……。

 なんなんだ……ほんとうに、なんなのだろう、この人は。素敵すぎて困る。









世間ずれとモサさに定評のある云々は主人公の主観でしかありません。どこにだっておしゃれな人は存在します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ