新しい家族
ルウシェルとの決闘から3日後の昼下がり。
伸びてきた髪の毛を指でいじりながら、店の外で接客もせずルドルフとともに店の外に椅子をおいて、ルドルフの相手をしている。
僕も接客した方がいいといったのだが、客寄せをやってくれたのは僕だからといって、ほとんど自由に退屈させてもらってる。
相変わらずポーションの売れ行きはいいが、決闘の時のマイのパフォーマンスが功をなしたのか、毎日1、2回くらいのペースで注文が入っているようだ。
注文が入ると、面倒くさがらずにとてもうれしそうな顔をしているので、仕事というよりも本当に作るのが好きなんだと思う。
「よう赤帽子、メリークリスマス!」
「ああ、いつもありがとう。また来てね」
たまにこうして声をかけてくる客に同じ返事をして右手を上げる。
赤帽子、という呼び名が定着したようで、サンタクロースと呼ぶ人はいない。
たいていは帽子の人とか、赤い帽子にちなんだ呼び名だ。
そして何故かはやっているこの、メリークリスマスという単語。
気になったのでスマホのアプリの英和辞典で意味を調べてみると、メリーは「楽しい、陽気なという意味らしい。
楽しいクリスマスを、というのが直訳になるわけだが、毎日がクリスマスみたいに聞こえてきてある意味ハッピーになるが、独りものには氷河期だ。
「うー、さぶっ」
しばらくして客足が途絶え、最後の客が僕に声をかけて出ていく。
やはり言われた聖夜のあいさつに、独りだということを再び思い出して鬱な気持ちになりながらルドルフにゼリーを食わせていると、僕の前に誰かが歩いてきて、日光がさえぎられる。
「ん?あんた、誰?」
「ルウシェルだ!」
目の前の緑色の男はそういって、少し声を荒げる。
オールバックではなくなっていたので、パッと見じゃ誰だか判別ができない。
おろされた前髪は顔の幼さを引き立て、青少年騎士という感じがする。
「ああ、ごめん。気づかなかった。髪、似合ってんじゃん」
「そうか、そうだろう」
少しだけ胸をはって、何か誇ったような顔をしている。
よくわからないが、髪型、気に入ってるんだろうな。
「それで、今日はどうしたんだ?僕は接客やってないから、買い物なら中の2人に声をかけてくれ」
「今日はそんな用ではない。約束の品を持ってきた」
気づくと牛よりも一回り大きい、しっぽの無いトカゲのような生き物が引いてきていた荷台を親指で指して言う。
「約束、、ああ!そりの材料か!」
「サンタ―、今日も完売だ!って、あ」
「サンタさーん、お昼にしましょう♪どうしたんですかラスト、あっ」
店から出てきた2人は目の前の緑髪をみて察したように「あっ」という。
「おう、ちょうどいいところに。見てくれよ、そりの素材が届いたぞ」
「まじか!おお、すげえ!カラアレオンじゃん!金持ちって本当だったんだな!」
「ついでだ、この馬車ごとお前らにやる。好きに使うといい」
「本当ですか!やった♪この子、なんて名前を付けましょうか?カラちゃんとか?」
「お前ら、そこじゃないだろ。後ろの荷台に目を向けろ」
「まあそうだけどさ。だってこいつ、この街じゃなかなか見ないんだぜ!しかも、赤と緑の混色!混色なんてレア物、こいつ一匹分でそこらへんに家が建てられるレベルだぜ!」
「カラアレオンは、森に生息する中型モンスターなんです。こうやって荷台を引くこともできるし、力もあるので、ビーストテイマ―の人たちの間でも人気があるんです。数が少ないから、なかなか手に入らないし、ほとんどは王国の方に行っちゃうので、ここらへんじゃお目にかかれないんですよっ!」
へえ、カラアレオンって言うのか。
カメレオンみたいで、大きさは僕より少し高い。頭が三角にとがっていて、帽子が似合いそうだ。
体は服を着たように体が赤くなっていて、顔と四肢は緑色をしている。
「この子たちは個体によって色が違うのが特徴なんですが、中でも二つ以上の色を持つ混合色はものすごく希少で、とにかく高いんです!そんな子がうちに来るなんて、すごいことですよ!」
「へえー、そうなんだ。ルウシェル、ありがとな」
「別に、俺が持っていても使い物にならないからな。それに、そりの材料だけじゃあ、俺も納得できない。ありがたく受け取るんだな」
「んじゃ、名前を付けようぜ!」
「そうですね!何がいいですか!」
「おいおい、そりの材料、、まあいいか、名前、何がいいかな」
もうそりなんておまけそのものだ。
さっさと名前を決めて、本題を戻そう。
「お前は何がいいと思う?ルウシェル?」
「そうだな。新緑の紅蓮龍、なんてどうだ?」
あー、こいつ、あれだ。中二病入ってる。
鞘の装飾とかも派手だったし、マントもしてるし、なんとなくそうかなとは思ってたけど。
「ここは無難にアカミドリにしようぜ!」
単純すぎ。昔やったゲームの愛称みたいだ。
「いやいや!もうカラちゃんしかないですって!ねえ、サンタさんっ!」
だめだこいつら、ネーミングセンスのネの字もねえ。
こんな奴らに任せたら、キラキラネームを付けられて、死ぬまでその名を背負い続ける悲しい運命をたどってしまう。
「却下。もらったのは僕だから、僕が名前を付ける。いいな?」
「ちぇー、じゃあ、良い名前をつけてやってくれよな」
「かわいい名前でもいいですよ♪」
「いや、高貴な名前だ。それしかない」
「「「ぐぬぬ、、、」」」
意見がそれぞれ分かれ、にらみ合って火花を散らしている。
さて、どうしたものか。
やはりサンタクロースといったらトナカイだろう。
昔なんかの本で見たが、サンタクロースはトナカイに名前を付けてたんだっけ。
ええっと、なんだっけ。たしか―――
「コメット」
「え?」
「そうだコメットだ。よし、今日からお前はコメットだ!」
思い出した達成感で、勢いに任せて命名する。
「コメット。うん、まあ、いいんじゃないか?」
「かわいい名前ですねっ!賛成ですっ!」
「ほう、貴様のカラアレオンだ、好きにするといい」
「よし、じゃあ、よろしくな。コメット」
「グエエエアアァァ」
頭をなでると、目をつぶって頭をこちらに摺り寄せてくる。
気に入ったようだ。よかった。
鳴き声が不気味だが、まあそのうち慣れるだろう。
新しい家族を、僕たちは笑顔で迎え入れた。
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