祝勝会
「かんぱーいっ!」
「かんぱい!」
「乾杯!」
何度目かの光景。
僕たちは祝勝を記念して、飲みに来ている。
本当はただ飲みたいだけの気がするが、まあ接客業も楽じゃないしな。お疲れ様会とでも思って楽しもう。
「忘れてたけど、サンキューな、サンタ!お前のおかげで、王立研究所とかいう、ブラックなところで働かなくて済んだぜ!礼だと思って、今夜は好きなもの好きなだけ頼んでくれよな!」
「じゃあいっぱい頼みましょうっ!すいませーん!このページのメニュー、全部もって来てくださーい!」
「マイ、お前は関係ないだろ!」
「サンタさんの武器を用意したのは私ですけど?何か問題でも?」
「・・・ほどほどにしといてくれよな」
「まあ、男に二言はないもんな?ラスト?」
目の前のイケメンにあおってやると、一気にドリンクを飲み干しだして、自棄になる。
「だああ!もう、好きなだけ飲めよ!今日は朝まで飲み明かすぞお!」
「おー♪」
「ごちでーす」
楽しい宴が始まった。
―――――1時間後。
「でもまあ、この調子なら、店もリフォームできそうだよな!」
「もっとオシャレに、かわいくしましょうっ!」
「ああ、そうだよな。でも、なんか忘れてるような、、、」
時間も経って、盛り上がりもそこそこになってきたころ。
この後、話の本題は、こちらに向かってくる男によって、いきなり切り替わることになる。
「探したぞ。やはりここにいたか」
「あっ!るう、んん!昼間の人!」
「ん?ごほっ、ごほっ!てめえ、何の用だ!もう決闘は終わっただろ!どっかいけ!」
「ん、あー、オールバックじゃん。どうした?」
目の前のオールバックは前にここで会ったときと同じくらい落ち着いているが、前のようなとげとげしさは感じられない。
「それで、何の用?」
「今日の決闘で負けたからな。なんでもいうことを2つ聞く、この要求を聞いていない」
「ああー、そのことか、まあ、座れよ。ラストの隣あいてるからさ。なんか頼めよ」
「はあ!?お前何言ってんだよ!こいつと飲むだって?ありえない!」
「私もいやですっ」
「まあまあ、お願いごと2つ聞いてくれるって言うんだからさ。なんでも聞いてくれるかもよ?」
そういって笑うと、2人は何かを思ったみたいで、ニヤニヤ笑いだす。
その笑いを良いと了承ととって、席に座るように促す。
「いいってさ。ほら、座りなよ」
「それでは、失礼する」
ラストが横に移動して、僕の向かいにオールバックが来るようにして座った。
「それじゃあ、なんでもお願いを聞いてくれるって話だが、、、何にしようかなあ?」
「もうこの街歩けないくらいの、恥ずかしい思い出でも作っちゃいますかあ?」
ラストとマイが悪い大人の顔をしている。お前ら、こいつのこと嫌いすぎだろ。
「まあまあ落ち着けよ。1個はもう決まってるだろ。もううちの店の連中に手を出さないこと。いいな?」
「ああ、約束しよう」
とりあえず1個目はすぐに決まった。
あと、もう1個は僕の中では決まっているんだが、どうしようか。
「なあ、マイ。ラスト。このもう1個も、僕が決めちゃっていいかな?」
「まあ、勝ったのはお前だし、任せるぜ」
「思い出作りもしたかったけど、決闘したのはサンタさんですからね。お好きにどうぞ」
そういって微笑むが、こいつは割と黒いことを言っているな。
今後はできるだけ怒らせないようにしよう。
「ええと、んじゃあ。お前、見た目からして、たぶん金持ってるよな?」
「俺は冒険者の中でもレベルは上の方だ。金ならお前らの店の売り上げよりも高い報酬をもらっている」
「んだとこの野郎!」
ラスト、前から思っていたが、お前割と気性が荒いな。でも義理とか人情が感じられるし、なんか江戸っ子って感じがする。頭白いけど。
「まあ落ち着けよ。冒険者ならそんなもんだろ。じゃあ、その経済力で、用意してもらいたいものがある」
「なんでも言ってみろ。何なら家だって建ててやる」
「ええ、まじでそんな稼いでるのかよ!?」
「正直引きました、、痛い!」
マイを軽いデコピンで黙らせる。
嫌いなのはわかるが、僕が言われる立場だったら、もう今すぐ腹切っちゃうよ。
まあ陰でこそこそ言わないあたりは素直に好きだが。
「んん!それじゃあ、もう一つのお願いは、4人は乗れそうなそりを作りたい。だから、そのために必要な素材を、お前ができる限りの最高級の物を用意してくれないか?」
「そんなものでいいのか?」
目の前の男にとっては悪い話ではないのに、いかにも納得がいかないような返事をする。
まあ、家でも建てられるだけの財力があるのに、そり一個分の材料なんて小さいことを言われたら、そりゃ拍子抜けだよな。
「この街案外広いからな。足が欲しいんだよ」
「そうなのか?では3日後には必ず届けに行く。待っていろ」
「サンキューな!」
「でも足なんて言っても、そりじゃあこの街は滑れませんよ?もう冬も終わりますし」
「まあそのうちわかると思うよ。僕には優秀なパートナーがいるからな」
そういいながら、あの小さなトナカイ、ルドルフのことをついに思い出す。
そういえば昼から何も食べさせてなかったような。
「あ!やべ!ルドルフ忘れてた!飯食わせてない!腹減ってるかも!ちょっと連れてくる!」
「おい!待て!」
オールバックに呼び止められる。
「なんだ?まだ用か?」
「お前は決闘で、4つプレゼントがあると言っていたな。だが、俺は3つ目のプレゼントしか受けていない。4つ目は一体何だったんだ?」
「ああ、そのことか。忘れてたよ。今日は忘れ物ばっかだな」
再び戻ってきて、オールバックの正面にたって袋に手を入れる。
「まさか貴様!また何か残して、、!もういい、決闘は終わったんだ!だから暴力のプレゼントは、、、、!」
「はい」
そういって差し出した右手には、小ぶりの緑色の果実がのっている。
「・・・なんだ、これは?」
「待ち合わせに1時間も待たせちゃったからな。お詫びの気持ちとして、途中で果物を買ったんだよ。そういえば渡さなきゃなあと思ってたけど、忘れてた。店の人おすすめしてたから、きっとうまいと思うぞ」
手渡して、再び走り出す。
「お前との決闘楽しかったよ、ルウシェル。あとお前、よく見ると幼い顔してるし、前髪おろした方が良いと思うぞ。それじゃ、ルドルフ連れてくる!」
「いってらっしゃーい♪」
「あいつなんであんな全力で走って疲れないんだ、、?」
魔法、ですから。
まあメカニズムはサンタのじいさんにでも聞いてくれよ。
家への道を全力で飛ばしながら、独り言をつぶやく。
「ルドルフ、怒ってないかなあ」
―――――――
「・・・」
ルウシェルは渡された果実を見ながら、物思いにふける。
あいつ、俺との決闘が楽しかっただと?
そして、さっき、俺の名前を―――
「なにぼーっとしてるんですかあ?」
「え、な、なんでもない!」
「もしかして、あいつに惚れたか?男を惚れさせるとか、サンタ、お前ってやつはすげえよ」
「だから、違うといっているだろう!」
ルウシェルは声を荒げて否定するが、それでもあの赤い帽子の後ろ姿を想像して黙り込んでしまう。
そしてマイとラストによって、話題はサンタクロースに。
「でも好きになるのもわかるなあ。あいつ、なんか見てて飽きないんだよなあ」
「そうですよねー。人をひきつける何かがあるような。まるでこの世界の人じゃないような」
マイは少しだけ間をあけて、小さくつぶやく。
「でも私たちのために一生懸命で、そこがかっこよくて」
「ん、なんだって?」
「なんでもないですっ!オールバックの人も、飲みましょうよ!」
しばらく黙って考え事をしていたルウシェルは、マイの一言で我に返る。
「ん、そうだな。俺もあいつと話がしたい。俺も飲もう」
「よっしゃ、お前、今日は潰してやるからな!覚悟しろよ!」
「俺は17だ。酒は飲まない」
「年下かよ!んじゃあ、水っ腹にさせてやる!」
「やれるものならやってみろ」
赤帽子、もう少しだけ、やつとかかわってみるか。
負けたのに何故かさわやかな気分なルウシェルは、気分に任せて勢いよくドリンクを飲みだした。
にぎやかな雰囲気に逆らって、夜はますます更けていき、月は窓から3人をうらやましそうに覗くように照らしていた。
ご覧いただきありがとうございます。