サンタクロースに連れられて
「くそ、なんでこんなことに、、、」
見慣れた青い空、白い雲。
しかし、見慣れぬ西洋風の建物。
鎧をきて、武器を担いだ男や女ども。
「あのじいさん、ふざけた真似しやがって、、、!」
空を見上げながら、今までの経緯を振り返ってみる。
どうしてこうなったのか。
~少し前~
「ただいまー」
深夜だからか家族からの呼び声は帰ってこない。兄貴の部屋の電気はついているが、まあヘッドフォンでもしてるんだろうな。
眠いし、風呂もいいからさっさと寝よう。
しかし、自室に入ってすぐ、僕の眠気は一気に飛ぶ。
赤い帽子に赤い服、長すぎるほどの白いあご髭、手には大きな白い袋。昔読んだ絵本にそっくりだが、少しだけ痩せた、今日という日にふさわしい、サンタクロースのような恰好をした老人が、僕の部屋のベッドに腰かけていた。
「だ、誰だ!?」
ふぉっふぉっふぉ、という笑い声を上げながら、僕を見る。
「やあ、青年。私の名前はサンタクロース」
「サンタ、クロース?」
「知ってるだろう?年に一度、良い子にプレゼントをもってやってくる。あのサンタクロースだ」
ほれ、というと、二階にある僕の部屋の窓からトナカイが顔を除いて、首を振ってりんりんと鈴の音を鳴らす。
その異様な光景に、目の前の老人はサンタクロース本人なんだと、いやでも思い知らされる。
「今日は君に、お願いがあってきた」
「お願い、、、?」
「ああ、いきなりかもしれないが、君にはこことは違う世界にとんでもらいたい」
「異世界?」
「そうじゃ。その世界はここと違いすべてが平和ではなく、人間だけがすむ世界ではない。魔法も存在し、魔物といわれる連中や、火を噴くドラゴンや、魔界を統べる王も存在する君たちの言葉でいうならファンタジーな世界じゃ」
「なんでそんな世界に、、?」
「君にはその世界の、サンタクロースになってほしいのじゃ」
「はあ、なんだって?」
「実はな、私はいろんな世界を飛び回り、トナカイたちとともに、一人でクリスマスに仕事をしているんじゃが、最近は年を取ってきたからかのう、危ない世界はおいぼれのじじぃに行くには危険すぎる。そこで、サンタクロース代行として、君には私に代わって人々に夢と希望を与えてほしい」
「いや、意味わかんないっすよ。異世界?サンタクロースの代理?それよりも、どうして僕なんだ?」
「それは、今の君をみて、きっと君なら私に代わってやってくれると思ったからじゃ」
目の前の老人は僕を頭から足の先までなめるように見る。
頭には赤い帽子、そして赤いパーカー。背中に背負った白い袋。
クリスマスに彼女がいないもの同士慰めあうという名目の友人のパーティで、かわいそうだしプレゼントでもと思い、サンタクロースに近い格好をしていた僕は、どうやらサンタのじいさんに目を付けられたようだ。
「待ってくれよ!そんないきなりやってくれ、なんて言われても、僕だって簡単には受けられない!」
必死で説得する。怖いもん、行きたくないよ。
「そういうだろうと思ったよ。では、君が私のお願いを聞いてくれるように、魔法をかけてあげよう」
「魔法?」
パチンッ!
サンタクロースが指を鳴らすと、部屋の中から僕の私物は一切消え、部屋は物置のように様々なものであふれかえった。
「この世界から、君への記憶をすべて消した」
ベッドではなく壊れかけの椅子に座ったサンタクロースは、僕にこう告げる。
「え、、、?」
「この家には、君は生まれていない。そして、君の友人たちは、今日のパーティを、君なしで楽しんだことになった」
「ちょっとまてよ、、、」
慌ててジーパンにつけたウエストバッグからスマホを取り出し、今日のパーティでとった集合写真を見つめる。
肩を組む友人たちの後ろで赤い帽子をかぶってピースをしていた僕の姿は、初めから何もなかったかのように、きれいさっぱり無くなっていた。
「嘘、だろ、、?」
「本当じゃ。どうだい、これで行く気になったじゃろ?」
世界から隔離されたという実感をその身で受け止め、僕は跪く。
「こんなの、、やるしかないじゃん」
「ふぉっふぉっふぉ。ありがとう。それでは早速、向こうの世界に行こうか。じゃが、その前に、サンタクロースである証を、君にプレゼントしよう」
パチンッ!
再び指が慣らされる。
僕の周りを光がつつみ、やがて消える。
「さっきの帽子は、偽物の帽子じゃ。そんなものをかぶって仕事をされては、私も黙っていられない。」
頭の帽子は、さっきまでと同じ帽子だが、質感や触り心地がちがう。
かぶっていると不思議と癒されるような。落ち着くような。
「それと、君が望むものを、1つだけプレゼントしよう。クリスマスプレゼントじゃ。たいそうなものは用意できないが、好きなものをいうといい」
落ち着いてきたので、気持ちの整理ができた。
立ち上がって、少し考えてから僕は言う。
「それじゃあ、昼も夜も寝なくても大丈夫なくらい、何があっても絶対に疲れることがない体にしてくれないか」
「よかろう」
パチンッ!
僕の体は光に包まれ、そして消える。
「ついでに、向こうの世界の言葉が、すべて日本語に見えるように、君に魔法をかけておいたよ。では、私からいうことは何もない。私に代わって、向こうの人々に、夢と希望を与えてきてくれ。期待しているよ」
「わかった。任せてくれ、ところでどうやって行くんだ?」
「こうするんじゃ」
サンタクロースは手に持った袋を開くと、僕に向けて、見せるように開いた。
覗き込もうとした瞬間、ものすごい勢いで袋に体が吸い込まれ始める。
「な、なんだ!?うわああああああああ!!」
頼んだぞ、青年。メリー、クリスマス。
袋の中に吸い込まれながら、老人がそういったように聞こえて、僕の意識は途切れた。
――――――
そして、目が覚めて、今に至る。
思い出してから、一気に怒りがこみ上げる。
「くそ、くそおおおおおおおおおおおおおお!」
こうして、僕の新しい人生が、幕を開けた。
始めまして、サンタクロスです。
なんとなく書きたい話がありましたので、ここならかけるよということで、書かせていただくこととなりました。
ご拝読いただければ幸いです。