4話
チケットを使って電車に揺られる事約3時間半。ようやくついたその場所は東京の都心に住んでいた俺にとって実に不便な場所だった。宿泊予定の宿に連絡するとそこまで迎えに行きますとのこと。手持ち無沙汰に駅前まで出ると古びたバス停があった。その側にはベンチもある。鞄を持ち直して近づくとそこに1人の男が座っていた。……あれ、さっきまでこんなやついたっけ?いや、今座ってるって事は居たんだろう。適当に結論付けて端に座らせてもらう。暫し無言。まぁ当たり前だ、見知らぬ人間に声を掛けられるほどの勇気を俺は持ち合わせていないのだから。バスの時刻表を何気なく見ると1時間にしか来ないようだ。隣の彼はきっとそのバスを待っているのだろう。
「二見浦は初めてですか?」
携帯ゲームでもしようかとゲーム機を鞄から取り出そうとした俺に隣の男が声をかけてきた。まさか声をかけられるとは思わなかった俺は多少動揺したがそれを表に出さないように愛想笑いをして「ええ」とだけ答える。すると彼はびっくりしたように目を丸くしてまじまじと俺を見た。何か俺、おかしな事をしたっけ?内心狼狽える俺を他所に彼はすぐににこりと取り繕った笑みを浮かべて会話を続ける。
「そうですか……観光ですかね?」
「いや……友達を、探しに来てて」
なんとなく、嘘がつけなくて正直に答える。俺と彼女の関係は友達と言えるのかよくわからないが、間違いではないだろう。
「……へぇ。見つかりそうですか?」
「見つかりは、すると思うんすけど……ね」
見つかりはするだろう。だが、先輩の指令は”彼女を救え”だ。どうしようもない。そもそも俺なんかが人様を救えるわけがないのだ。彼は俺の答えに首を傾げていたが俺の鞄についていたストラップを見ると顔を強張らせた。
「……それ、どうやって手に入れたんですか?」
緊張した面持ちで真剣に尋ねてくる彼がなんだが怖くて「その友達に貰いました」と小声で答える。変な顔をした猫のストラップだった。高校時代、修学旅行で彼女がお守りだと俺にくれたものである。俺の答えに暫く考え込んでいた彼はニコリ、と笑った。
「そうですか……それ、大事にした方がいいですよ」
「え」
「その”友達”も、ね」
意味深に告げる彼。どういう事かと問いただそうとしたが背後から聞こえたクラクションに思わずそちらに目を向けると、宿の人が「どうかされましたか?」と俺に不思議そうに尋ねた。どうかされたか、と聞かれると何でもないのだが。なんとはなしに適当に愛想笑いを浮かべるとベンチに座る彼を見やる。
そこには何故か、誰もいなかった。




