3話
大学一回生、6月の第二月曜日。その日が14日だった。ぽつん、と彼女のいない部室で1人椅子に座る。5時を告げる鐘と共にがらりと戸が開いた。淡い期待を抱いてドアの方へ顔を向ける。
「やぁ、橘くん」
先輩が笑顔で手を振ってそこに立っていた。落胆しつつも「こんにちは、早かったですね」と返すと先輩は無言で笑顔のまま俺の席の前に座り、じっと俺を見た。
「ねぇ橘くん」
「何ですか?」
「君、田上ちゃんの事が好きなのかな」
「うぇい!?いいいいいやその!」
そんなに分かりやすかっただろうか!分かりやすかったか!分かりやすいですよね!むしろ分かってくれない彼女がおかしいよね?!
「その反応はやっぱり好きなんだよね?」
確認を取るように再度問う先輩に嘘がつけるわけもなく渋々頷く。ああ、何故彼女に告白する前に先輩に言わねばならないのか。俺がチキンだからだ。
「そっか……」
確認だけ取ると先輩は何かを考え込み出した。わけがわからず俺が「先輩?」と声をかけるとゆるりと顔をもたげて俺を見る。
「ねぇ、橘くん」
「なんですか」
「君、あの子を助けてあげてくれないか?」
「は?」
思わず間抜けな声が出た。もちろん彼女に何かあるならば助けるが。突拍子がなさすぎてわけがわからない。もう少し話の道筋を立てて欲しいものである。
「突然すまないね」
「いや、ええと……どういう事ですか」
「そのままだよ。彼女を助けて欲しいんだ」
そう言って先輩は何故か新幹線の切符を取り出し俺の手に押し付けた。日付を見ると7月14日。行き先は名古屋。ちなみにここは東京である。遠い。しかもその日は平日である。
「え、なんですかこれ」
「三重県伊勢市二見町。そこに夫婦岩ってのがあってね。彼女はそこの近くの墓場に毎月14日に通っているんだよ」
「は!?」
今まで謎だった彼女の行動をあっさり先輩にバラされ素っ頓狂な声が出た。何故先輩はそれを知っているのかだとかそこに俺を行かせてどうするつもりなのかだとかを聞きたいが聞きたい事が多すぎて口から出てこない。先輩はそれを汲んでくれたらしく滔々と話してくれた。長いし回りくどい言い回しをする先輩だったが我慢して聞いた。その結果、俺は彼女について知った事が増えた。
彼女が毎月14日に学校を休む理由は、彼女の兄がその日に死んだからならしい。
彼女の兄は、彼女を救って死んだ。




