2話
高校を卒業して何ともなく大学に入学した。その説明会で前に座ったのはまたしても彼女だった。
「奇遇だね」
そう言って三回目に席が前後になった時のように笑う彼女に俺も「そうだね」とだけ返した。運命染みたものを感じたのはきっと俺だけだっただろうから。彼女は本当に偶然に、奇跡的に。俺と同じ学部だった。名前の順番も「田上」と「橘」。入学式中、隣で眠たげに舟を漕ぐ彼女のせいで俺は寝る事もままならなかった。
そのまま流れで俺たちはLINEの連絡先とメアドを交換し、同じサークルに入る事になった。文学サークル。彼女の高校時代の部活の先輩がそこに所属しているらしい。そういえば、彼女は昔から暇があれば小説を書いていた。
「君があの橘くんか」
出迎えた、松島 由依と名乗ったその先輩はボサボサの長い黒髪を掻きあげてニヤリと笑った。あの、とはどういう事だろうと首を傾げる俺に彼女がその先輩ににこりと笑いかける。目が笑っていなかった。先輩はその笑顔を見て顔色を悪くし、真面目にサークルの説明を始める。力関係のよくわかる図である。曰く、基本的に活動日は決まっていないから好きにしていい。書きたい人は書けばいいし書きたくない人は書かなくていい。そういった、実に緩いサークルであった。ゆるゆると、平凡で特にドラマもない日常がまた始まる。同じ学部故に、日に1コマは授業が彼女と被る。別に約束したわけでもないのに、やっぱり彼女と俺は前後の席に座った。高校時代よりもほんの少しだけ縮まった距離がこそばゆい。放課後は、暇があれば部室へと顔を出した。彼女もそこにいたから。月曜日は先輩や同学年のサークルメンバーが集まるのが遅い。月曜日の4時半から5時半までは彼女と俺しか部室にいない。会話こそないけれど、俺は幸せだった。彼女についてわかった事が増える。彼女はラムネが好きならしい。それからチョコレートに目がない。小説は必ずルーズリーフに下書きをしてから原稿用紙に移す。けれども、毎月14日に休む理由だけはやっぱりわからなかった。




