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レゾナンス   作者: AQUINAS
第三章 ハンザ王国~政争~
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第九十二話 動き出す者たち

 大輝がベルナー家の屋敷に潜入して掴んだ情報を元に計画変更がなされたのはその翌日であった。帳簿の改竄までは想定内だったが、フュルト家に仕えていた者たちの家族が人質となっていることは予想外だったからだ。この件に関してはマルセルたちの方針が裏目に出たといってもよかった。ベルナー家に気取られないようにフュルト家の分家をはじめ、使用人に至るまでの関係者への接触を断っていたからだ。


(この辺が命についての考え方の違いなんだろうな。)


 大輝は思う。フュルト家当主であるミッテルの安否についても同じことが言えるのだが、どうもこの世界の人間たちは他人の生について薄情というか関心が薄いように思われるのだ。もちろん知ってしまえばなんとかしてあげたいという感情は湧くのであろうが、諦めが早いようにも感じる。


(地球でいえば中世後期あたりの文化レベルなのが原因なのか、魔獣の存在が原因なのか・・・)


 しばらくその理由に思いを馳せていたがふとノルトの街にいた時のことを思い出す。戦勝祝いということで遊撃隊のメンバーやココたちと『美食美酒』で飲んでいた時のことだった。


(自分の両手に抱えられる範囲ということなのかな?)


 ルビーやリルたち高ランク冒険者だけではなく、ココも似たようなことを言っていたことを思い出す大輝。そしてハルガダ帝国の迎賓館にいた頃にカンナ付の騎士をしているネイサンもそれに通じることを言っていた気もした。


(自らの手に余ることをしようとするな。それは自らを滅ぼすだけではなく周りにも迷惑だ。確かそんな感じのことだったよな。)


 ルビーやリルは冒険者として生きていく上で切り捨てなければならない命があることを知っている。ココは『直感』という天賦の才が万能でないことを知っている。ネイサンもカンナの件で忸怩たる思いを抱いていた。そういう意味では大輝も『未来視』でその限界を知っている。


(なるほど・・・オレは自分に手に余ることをやっていたのかもしれないな。そして今回も・・・)


 大輝は人質救出を主張してその意見を通したのだ。通信機ごしの会合では人質の安否についての質問や脅されている者たちへの同情の声が聞こえてきたが救出には消極的な意見が多かった。それも当然で、戦闘に特化した人員は少なく、同時に複数個所を襲撃して人質奪還作戦を実施するには大きな危険を伴うからだ。それでも大輝の意見が通ったのは、大輝が救出作戦のメリットを説いたからだ。


 大輝はまず救出しなかった場合に被るデメリットを話した。自家に仕える者さえ保護できない貴族が民衆の支持を得られるはずがないこと等をノブレス・オブリュージュ、つまり高貴さは義務を強制するという貴族の義務に交えて説いたのだ。どうやらこの世界にも同じような意識があったようで協力者たちは聞く耳を持ってくれたのだ。


 そこから救出作戦自体がフュルト家の嫌疑払拭に繋がる事を説いた。一番のメリットは人質と証言を強要された者たちがフュルト家側の証人になり得る事だ。この事に関しては異論も出た。フュルト家にとって身内同前の者たちでは有力な証人にはなり得ないのではないかということだ。秘密裡に救出したのではそのような扱いを受けるだろう。だから大輝は派手な救出作戦を提案したのだ。リスクは高まるが、街中で大きな騒ぎを起こして救出劇を街人たちに目撃させるのだ。人質奪還とは静かに、秘密裡に行うものだと思っていた協力者たちが息を飲むのが手に取るようにわかったが、大輝はそれにかまわず続けた。人質を取っているのが根っからの犯罪者であれば人質の命が危険に晒される。だが、今回人質を守護しているのはベルナー商会の警備部門である。裏を取る必要はあるが、人質についてホーグ・ベルナー名誉子爵が下っ端の警備の人間に何か説明しているとは思えず、警備の者たちは人質を守ろうとするだろう。つまり人質は安全なのだ。


 そしてそれはルード王子対策にもなると大輝は説いた。「ハンザ王国の繁栄」という目的に対して徹底的に合理主義を貫く王子に逃げ道を作らせないためだ。街人たちがベホーグ・ベルナー名誉子爵の非道な行いを糾弾する流れを作ってしまえば、例え王子といえども恩赦を与えたり揉み消したりするようなことは出来ないだろう。そんな事をすれば暴動が起こり、国が傾きかねないのだ。 


 最後に大輝はもう1つ付け加えた。フュルト家を代表してマーヤたちが直接ギーセンの街に乗り込む件についてだ。協力者たちはこの件については前回の会合で反対していたのだが、マーヤたちが再度絶対に行くと主張し、大輝が同行することを申し出たことを明らかにした。そしてマーヤたちが城門を通過するのに合わせて人質救出作戦を実行することを提案したのだ。マーヤたちが街に入る方法は正面突破だ。一応、裏からなんらかの手を回せないか画策するつもりではあったが、立ちはだかる者が居れば強硬手段も辞さないつもりだった。この際、騒ぎは大きくした方がいいのだと判断する。実際、高さ3メートル程度の城壁しかないギーセンの街は大輝の身体強化であればどこからでも侵入できるのだが、堂々と正面から行く方が良いだろうと思っていた。多少の小細工はするつもりだったが。


 結局、協力者たちは全員が大輝の案を飲んだ。リスクはあるが得られるものも大きいのだ。その分、事前準備に大輝が奔走することにはなったがそれは当然のことだった。強硬に主張した本人なのだから。


(やれるだけやろう。出来る事は全部・・・)






 大輝が人質となっている人数やその警備態勢の調査に奔走する中、ついにゲオルク率いるベルナー商会の警備部門から50人、冒険者100人がフォルカー湿原解放作戦へと街を旅立つ時が来た。


 ギーセンの街の中央にある大広場ではベルナー商会の警備部門がまるで騎士団の如く整列しており、その横にいる冒険者たちも彼らに触発されたのか冒険者らしくない集団行動を見せていた。そんな彼らの前に立つのはヘッセン侯爵を除いた領内有力者たちだ。中央に名誉子爵であるホーグ・ベルナー、その両隣には名誉男爵たちがいる。その他にも魔道具ギルドの長ギルバートや商人ギルドの長、警備隊の隊長など錚々たるメンバーが見送りと激励に集まっている。もちろん解放作戦を宣伝するためのホーグ・ベルナー名誉子爵の企画である。


「・・・・・・フォルカー湿原に巣食う魔獣どもを駆逐すれば王都への旅はより安全なものとなるだろう。そして諸君らであればそれが可能であると思っている。我がベルナー家の精鋭とベルナー家の雇いし冒険者よ、ヘッセン侯爵領とハンザ王国の繁栄は諸君らの手に掛かっていると言っても過言ではない。是非とも期待に応えてくれ!」


 しっかりとベルナー家の名前を織り込んだ演説を終えたホーグ・ベルナー名誉子爵は満足そうに檀上から下りる。続いて有力者たちが似たような激励とも売名ともいえる演説を行っていく。商人ギルドは携行食料や荷馬車の提供をしたことを声高に主張し、魔道具ギルドは魔法剣を始めとした魔道具の提供を行ったことを宣伝する。警備隊は荷馬車を曳く馬を貸し出したことを述べて街の安全を保っていることを我が手柄とばかりに主張した。完全に的外れな主張も混ざっていたが誰もが気にしていない。なぜならホーグ派の者たちは身内の主張を貶したりしないし、多くの反ベルナー家の人間は最初から白けた目で見ているからだ。


 1時間以上に渡る激励が終わってようやく出発する一行は、戦闘要員の150名と馬車を操ったり食事の世話をする者たち30名を加えた180名でギーセンの街を出た。その先頭にいるゲオルクの表情は冴えない。大量の魔道具を使える事で作戦の成功を確信している様子の父ホーグや魔道具ギルドの長ギルバートとは違ってゲオルクには現実が見えていた。それは高ランク冒険者にしても同じだ。彼らはこの無謀さを理解していた。それでも付き従うのは契約のためだ。駆け出しの冒険者ならともかく、Cランクともなると自らの評判も気にするようになるし、冒険者としての誇りもある。特に今回は対魔獣の最前線に立つ冒険者としては、いくら聞いていたより戦力が低くても一度受けた依頼から敵前逃亡するわけにはいかないのだ。


 もっとも、Bランクの2人は事前にゲオルクとその側近を交えて撤退の基準についての話し合いを行っている。ホーグ・ベルナー名誉子爵の命令でフォルカー湿原の中央に存在する沼地にいるとされる最大個体と一戦交えるまでは撤退出来ないが、交戦して勝てないと思ったらすぐに退くことになっているのだ。この件については、ゲオルクに対して大輝が忙しい合間を縫って説得したことが大きいのだが。


 



 ゲオルクに率いられた一行は3月20日10時に街を発った。フォルカー湿原の入口には翌日の昼過ぎに到着する予定であり、順調に行けば4日目に湿原中央部に到達するはずである。大輝はゲオルク一行の無事を祈りつつ己のやるべきことをこなしていた。すでにフュルト家に仕えていた者たちの所在は判明しており、人質となっている家族が軟禁されている場所についての特定も終わっているが、その警備態勢のチェックに入っているのだ。警備の人員、配置、交代時間を調査し、もっとも人質奪還に適した時間を割り出し、襲撃手順を練らなければならない。救出班の被害を極力減らすためには必須の調査であった。


 


 大輝が人質関連で動き回る中、協力者たちも本格的な行動に出た。ベルナー商会の警備部門がフォルカー湿原解放作戦で街を留守にしている間に証拠品を押さえに出たのだ。ベルナー商会の2重帳簿にホーグ派に属するメンバー間の書簡などはレオニーの伝手で協力を得た奉公人たちが所在に目星をつけており、裏ギルドに属する者たちが忍び込んで奪取するのだ。といっても強襲するのではなく、帳簿は表紙を、書簡は封書だけを偽造したものとすり替えるという手法を取る。中身を見られればすぐにバレてしまうが、3週間欺くことができればそれでいいのだ。悪事を記したものを毎日確認するようなことはないだろうという予測と、万一バレてもそれとなく内部の裏切りを匂わす噂を流すことで時間を稼ぐつもりであった。




「よし。今から20秒後に1班はAルート、2班はDルートで待機ポイントへ進め。3班はそのまま待機だ。」


 ゲオルクたちが街を発ったその日の夜、ベルナー商会本店の裏に当たる倉庫の屋根から小声が聞こえる。マーヤたちの隠れ家たる洞窟にも訪れていた裏ギルドの実行部隊の指揮官だった。そしてその隣には大輝が控えている。今夜の大輝は探知機代わりなのだ。


「警備が入れ替わります。数分待機で。」


 大輝は得意の気配察知でベルナー商会本店のある敷地内を巡回する警備部門の人間の動きをチェックし、それを実行部隊の指揮官に伝える役目だ。暗がりの中で建物の見取り図の上を警備の人間に見立てた小石を魔力操作で動かしているのだ。気配察知で掴んだ警備の動きをリアルタイムで図上に表現し、それを見た実行部隊の指揮官が大輝の支給した通信の魔道具片手に配下の者たちに指示を飛ばしている。


 大輝が直接指揮しないのは裏ギルドの実行部隊の人間が組織外の者の指揮を受け入れないということもあるが、潜入している者の力量を大輝が把握していないことも理由の1つである。さすがに大輝も裏ギルドのメンバー個人個人の力量や性格を把握する時間がなく、もっとも効率的な形を取ったのだ。


「1班はそのまま商会長執務室へ向かえ。次の巡回は1時間後だ。それまでに仕事を完了させろ。」


「1班了解。移動を開始する。」


 今回は3人1組で計3班がベルナー商会本店に潜入している。いずれも前職が冒険者の斥候役であったり国や貴族の諜報員だった者たちであり、潜入工作に適した人材らしい。


「2班は次の巡回が通り過ぎるまで待機だ。物音を立てるなよ。」


「2班了解。巡回の姿を確認。待機する。」


「3班、20秒後に倉庫入口まで移動。開錠してそのまま侵入せよ。」


「3班了解。倉庫への移動準備完了・・・・・・移動開始。」


 この世界の警備はぬるい。防犯カメラがあるわけでもなく、赤外線センサーがあるわけでもない。鍵も精々が南京錠レベルであり、開錠はさして難しくはないのだ。だからその分を人海戦術でカバーするのが常識だった。しかし、それも大輝という高性能探知機と『魔職の匠』謹製の通信の魔道具という2つによって容易に隙を突くことが出来る。もちろん、協力者による見取り図作成という援護があったのも大きいのだが、裏ギルドのメンバーにしてみればそんな準備は当然のことだったのだ。


「2班、そろそろ正面を巡回が通る。巡回が通り過ぎたら一気に会議室の隠し扉まで進め。」


「2班了解。」


「それにしてもこの通信の魔道具というのは便利だな・・・」


 潜入班が無事に最難関ポイントを通過したのを確認した指揮官が大輝へと視線を向ける。複数の部隊を率いる上で通信の魔道具の有用性は明らかだ。


「お貸ししてるだけですからね。」


 指揮官が通信機を欲していることはわかっているが、台数に限りがあるし、『魔職の匠』の遺産の1つでもある魔道具を簡単に譲るわけにはいかないのだ。いくら大金を積まれてもマーヤのように守ってあげたい相手や心から信頼できる相手にしか渡さないつもりであった。今回はマーヤの為ということで貸与しているに過ぎないのだ。


「そうか。これだけの品だ。オレたちが買えるようなものじゃないってことはわかってるさ。」


 指揮官はあっさり引き下がる。元諜報員だけあって情報の伝達速度に惹かれるものはあったが、これを持っていると領主や国に睨まれる可能性もある。ただでさえ非公認の裏ギルドの構成員なのだ。あまり目立っては自滅しかねないという思いもあるようだった。そんな会話が指揮官と大輝の間で交わされていると次々と通信が入る。


「3班作業終了。撤収準備に入る。」


「1班目的達成。警備の動きを教えてくれ。」


「2班入れ替え完了。指示を待つ。」


 どうやら無事に商会長執務室、会議室内の隠し部屋、倉庫の3カ所で証拠品をすり替えたようだった。


 こうしてベルナー商会本店潜入は成功した。そして翌日はベルナー家、翌々日は警備隊長と名誉男爵の屋敷と連続して潜入を行い、その全てで相手に気取られることなく証拠品を回収することが出来た。大輝にとっては昼間は人質の警備態勢のチェック、夜は潜入の補佐と文字通り寝る暇がないほど働き続けたが、それでも休むことなく次の行動へと移るべく街を離れる準備をする。フォルカー湿原へと向かったゲオルクたちを見届けるためだ。


(急げば最大個体との接触に間に合うか・・・)


 睡眠時間と魔力消費に目を瞑れば大輝の最大移動速度ならもしかしたら間に合うかもしれないという程度だ。しかし、街の城門は閉ざされていた。ホーグ・ベルナー名誉子爵の命で夜間の城門は完全に閉じられており正規の方法で街の外に出る事は出来ないようになっているのだ。大輝は一瞬城壁を飛び越えてしまおうかと考えたがなんとか思いとどまった。


(街の外へ出た記録のないオレがフォルカー湿原でゲオルク一行に会うわけにはいかないか・・・)


 フォルカー湿原解放作戦を遠くから見届けるだけなら城壁を飛び越えるのも手ではあるが、それではもしゲオルク一行がピンチに陥っていても手を貸すことが出来なくなってしまう。だが、数時間を惜しんだせいで最大個体との戦いを見届けられない、もしくはゲオルクたちが全滅するという可能性もある。


(オレの体力と魔力も考えると少しは宿で寝た方がいいか・・・)


 結局大輝は少し休んだ方が移動速度的にも戦闘力的にもプラスだと考えて一旦宿に戻り、日の出と共にフォルカー湿原へと向かうことにしたのだった。




   





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