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レゾナンス   作者: AQUINAS
第三章 ハンザ王国~政争~
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第八十七話 疑問と約束

 大輝が『魔職の匠』の秘密工房に籠もって5日目。1つの疑問を抱いていた。そして呟く。


「どう考えても現代日本人だよな・・・下手したらオレがいた時代よりも未来の可能性もある。」


 それは『魔職の匠』の正体であった。


 日本人であることは居住空間の机にあった日記と実験記録が日本語で記されていることからわかったことだ。大輝が普段マーヤたちや街の人間と話しているのは日本語ではない。アメイジア大陸では人種、種族が別でも皆共通の言語を操っており、共通語と呼ばれている。大輝だけではなく侑斗たちもこの言語を学んだことはないのだが会話はもちろん読み書きも出来る。大輝は自称神の遣いが肉体を最盛期にして送り出す際に細工したのだろうと思っている。便利だから特に疑問に思わなかったのだ。


「『魔職の匠』が存在したとされる500年前。もし時間軸が地球と同じなら江戸時代初期だ。その時代の人がオレたちと同じ書体、言い回しをするはずないもんな。」


 日記や記録を大輝は全く苦労することなく読めたのだ。実験記録については読めはしたものの理解には至っていない箇所が多数あったが、それは魔道具や魔法陣についての知識不足が原因である。そしてもう1つ『魔職の匠』が現代日本、もしくは未来日本から来たと思う理由があった。


「発想がどう考えても電気製品なんだよなぁ。」


 全てではないが、倉庫に残されている魔道具と実験記録の半数以上が電気製品の再現を目指した物だったのだ。冷蔵庫にホットプレート、録音装置に通信機といったラインナップが倉庫に並んでいる。そのうち録音機器もしくは通信機に関してはギーセンの街での噂話から想定しており、大輝が欲していたものである。そして真っ先に使い方を調べ、現在でも稼働するかどうかの検証を済ませていた。


「これだけの物を一から思いついて作るのは有り得ない。つまり身近にその存在を知っているからこそ再現しようとしたと考えるべきだよな。」


 それ以前にも認証プレートのように生体認証、いや、魔力認証機能を付けていることからもその可能性は考えていた。そしてこの秘密工房を見て確信へと変わったというべきだった。


「召喚魔術は時間さえも超越するのか・・・それなら送還魔術があればあの瞬間に戻れる?」


 そこまで考えて大輝は首を振る。今の大輝はどう見ても見た目未成年だ。27歳の会社社長ですと言っても信じて貰えないだろう。もちろん10年前の容姿をしているし、ⅮNA鑑定をすれば本人であることは証明出来るのだろうが、なぜ若返ったのかと聞かれれば答えようがない。異世界に行ってましたと言えば病院に担ぎ込まれるだろう。しかも魔の悪いことに召喚される前から大輝は気が触れたのではないかと世間では噂されているのだ。なにしろ前代未聞の巨額を国家に寄付し、その使い道を国民投票させるという行いをしているのだから。


「そうなると、戻るなら10年で送還魔術を完成させてそのタイミングで戻るしかないか。」


 戻るなら、と注釈を付けている時点で大輝には絶対に戻ろうという決意がないことは明白だ。大輝としても家族や友人、協力者たちには無事な姿を見せたいと思っている。だが、それ以外については特に思うところはなかったのだ。だから中途半端になってしまう。


「それよりも今やるべきことを優先しないとな。」


 マーヤのことでありフュルト家のことである。そこでようやく思い出す。


「やばっ!隠れ家に戻らないと!」


 フュルト家の冤罪を晴らすための証拠、証人集めは協力者が中心となって進めてくれており、メンバーの能力や立場とその意気込みを見る限りは彼らに任せておけば大丈夫だとは思うが、定期的な会合があるのだ。大輝は独立した行動が認められているとはいえ全く参加しないわけにもいかないし、そろそろマーヤに顔を見せないと泣かれること間違いなしである。大輝は大慌てで秘密工房を離れる準備を開始した。 




 

 1時間後、大輝の姿は管理小屋の前にあった。そして管理人の男からの胡乱な眼差しと質問を得意の弁舌でのらりくらりと躱していた。


「いやぁ、参りましたよ。隠し部屋がないかと廃坑内の全ての壁をコイツで叩いて反射音を確かめながら進んでいたんですが、3日間掛けて調査したことを記した地図を落としてしまったみたいで腹が減るのを我慢して必死に探してたんですよ。下手に魔獣や動物に踏みにじられる前に回収しようと思いまして。」


 秘密工房の実験室にあった金槌を手に壁を叩くフリをする大輝。


 あきらかに嘘くさかった。


 大輝が廃坑に入った時の荷物は背中にある小さな背負い袋だけであり、5日間も廃坑に籠もっていられるだけの準備があったとは思えない。それに身なりも小奇麗なのだ。秘密工房内の浴室を毎日使っていたのだから当然だった。さらにいえば血色も良い。とても食糧不足の中で必死に落とした資料を探し回っていた人間には見えなかった。


 だが管理人として魔道具ギルドから派遣されてきたこの男は気付かぬフリをして大輝を労った。


「それは災難だったな。だが次からは気を付けてくれよ?こっちも救助隊を送るべきか悩んでたところなんだ。」


「すいませんでした。しばらくは英気を養う為に休養しますが、次に来る時は気を付けます。」


 大輝は丁寧に男に謝罪をしてから立ち去った。そしてそのまま街には戻らずにマーヤたちの居る洞窟を改装した隠れ家へと向かった。





 現在、大輝の視線は真正面よりやや上に固定されている。そこに映るのは、ゆるやかなウェーブを持つ肩まで伸びた金髪、クリッとした愛らしい瞳、大きく膨らんだ赤く染まった両頬、わずかに後方へと反らした胸、腰の斜め後ろに当てられた両手、肩幅に開いて全身を支えている両足。『怒ってます!』のポーズを取っている幼女だった。


 大輝の視線がやや上向きな理由は正座させられているからだ。大輝の座高が90センチ弱、正座しているためにもう少し視点は高いのだが、地球よりも若干発育のよいこのアメイジアに暮らすマーヤ4歳の身長はおよそ110センチであり、また、大輝が反省を示すために身を竦めていることもあって見上げることになっているのだ。


「お兄ちゃん。ううん、大輝くんっ!約束したことは守らないとダメなんだよ?」


 何故か呼び方を訂正した上、語尾が疑問形になり、小首を傾げる『怒ってます!』ポーズの幼女。どうやら用意していたセリフを思い出しながらしゃべっており、セリフに自信がなかったようだ。あまりの可愛さに表情が緩みそうになる大輝だがなんとか堪える。今はマーヤに怒られ、反省することが大輝に求められていることである。


「約束を破ってごめんなさい。」


 真剣な面持ちのままマーヤに向かって頭を下げ、土下座態勢になる大輝。本来なら昨日のうちに隠れ家に戻り、今日はマルセルたちの訓練を見て、午後はマーヤと過ごす約束になっていたのだ。そして明日の会合に参加したのち、再度ギーセンの街もしくは廃坑へと向かうというのが当初の予定であった。


「もう約束は破らないってマーヤと約束出来るなら許してあげますっ!」


 マーヤの言葉を聞いてようやく頭を上げる大輝。そしてもちろんその条件で異存がないと答えようとしたが、なにかに気付いたのか当のマーヤが自らの発言を取り消す。


「やっぱりそれだけじゃダメですっ!明日のお仕事まではマーヤとずっと一緒にいることを要求しますっ!」


 これで合ってる?とばかりにマーヤの後に控えるマルセル、モリッツ、レオニーを振り返るマーヤ。どうやら彼らの入れ知恵のようだ。予定日になっても戻らない大輝を心配し、また10日以上も頼りにする兄貴分がいないことで寂しかったであろうマーヤと過ごす時間を取って欲しいという彼らの願いを大輝も感じ取った。だから素直に了承する。


「マーヤちゃんがそれで許してくれるなら喜んで。ホントにごめんね。」


 大輝の言葉を聞いてマーヤはようやく大輝が隠れ家に帰って来てからずっと保っていた『怒ってます!』のポーズを解除した。そして見る見るうちに瞼に涙が溜まっていき、それを見せないために大輝に抱き着いた。


「うぅぅ~」


 喋れば泣いているのがバレると思っているのか唸るだけのマーヤ。当然隠せるものではないのだが大輝はもちろん誰も指摘しない。確かにこの洞窟の隠れ家は大輝が整備しただけあって逃亡生活中の野営とは比べ物にならない程に快適に暮らせる。だが、マーヤにとって絶体絶命のピンチを救い、ひもじいところに美味しい食事を食べさせてくれた大輝は守護者の象徴なのだ。その大輝が一緒にいるのといないのとでは天と地程に安心感が違っているのが今のマーヤの置かれている状況だった。


「よし。まずは風呂だ!マーヤちゃんもオレが出掛けてからは入ってないでしょ?」


 住居に改装したこの洞窟の奥には水場はあるが、風呂として使える温度ではない。だからマーヤたちは毎晩身体を布で拭くことで清潔な状態を保つしかなかったのだ。だが大輝なら魔法1つで適温に出来る。大輝は空気を読んで裸の付き合いを申し出たのだ。案の定、野営の際に星空の下で入って以来風呂好きになっていたマーヤが潤んだ瞳を輝かせる。


「入るぅ~!」


 その返事を聞いた大輝はそのままマーヤを抱きかかえて設置してある浴室へと向かい、水場から魔法で水の橋を作って浴槽を満たす。そして野営の時と同サイズに揃えてあった浴槽に溜まった水を適温に整える。


「っとぅ!」


 バッシャ~ン


 大輝が魔法を使って湯の準備をしている間に衣服を脱いでいたマーヤが掛け湯もせずに浴槽へと飛び込む。


「お兄ちゃんも早くおいでよぉ!」


 あまりに無邪気な幼女に大輝も身体を流してから入りなさいと叱ることが出来ずに苦笑いを浮かべるしかなかった。そして約束を破ったお詫びにマーヤが寝るまではひたすら甘やかそうと決めた。






 翌日、マーヤのフライングボディープレスで大輝の1日は始まった。昼食会を兼ねた会合が行われる為に食事の準備や周辺の安全確保の為に大輝だけではなく全員が忙しなく動いていた。もちろんマーヤもお手伝いに励んでいる。そんな彼らの姿を見て大輝は感心していた。一生懸命に働いていることに感心したのではない。


(訓練頑張ったんだな。)


 マーヤはまだ幼いこともあって大輝は訓練の対象外としていたが、マルセルたち3人にはそれなりに負荷のあるメニューを作成していた。いざという時に逃亡するだけの余力は残すように、また、3人全員が同時に訓練で疲労状態にならないように気を付けるようにと口が酸っぱくなるほど言い聞かせて置いたのだが、それを守ったとは思えない程に魔力の扱いが上手くなっていたのだ。


 流石に大輝と同等どころか比べるには程遠いがわずかな期間にしては上出来だった。洞窟周辺の見回りのために高速移動していた大輝に遅れる事なくついて行くというのは相当な身体強化レベルが要求される。だが、マルセルとモリッツだけではなくレオニーですら最後まで問題なく哨戒を終えたのだ。


 そして昼が近くなり、歓待の準備が出来た頃に続々と協力者たちが隠れ家たる洞窟内に集まってきた。

 

 今回は協力者一同が隠れ家に集まる最初で最後の機会だ。協力者たちはナール商会の長であるユングを筆頭に全部で14名が魔法で作られた土製の椅子に着席している。そこにフュルト子爵家令嬢のマーヤとマルセルたち3人、最後に大輝を加えた19名がこの会合の参加者であった。協力者の数が11名ではなく14名なのは組織として協力を要請した相手がおり、長の他に証拠品奪取の実働部隊を率いる者たちもこの場にいるからである。そしてその相手はすでに大輝が面談済であった。最重要人物であるマーヤの居る場所に招く以上は大輝が審査しないはずはないのだ。


 そして会合が始まった。



 


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