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レゾナンス   作者: AQUINAS
第三章 ハンザ王国~政争~
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第八十話 方針策定

 大輝がギーセンの街に来てから1週間が経ち、ようやく予定していた人物や組織全てに手紙を届け面談が終わった。これだけの時間が掛かったのはそれだけ慎重に行動したからだ。対象がフュルト家に好意的な相手であればベルナー家に敵対していることになり、ベルナー家に気取られないように動く必要があったし、裏稼業に従事している者が対象であれば人目に付かないようにするのは当然だ。また、奉公先がベルナー家に近い対象は、相手が1人になった時に接触する必要もあり下調べも含めてかなりの時間を要したのだ。


 そしてその結果、16の接触対象の内ナール商会の長であるユングを始めとした11対象が協力に賛同してくれた。実際には13対象が賛同してくれたのだが、2対象は大輝の判断で情報を絞り積極的に動いてもらうことを良しとしなかった。こっそり動くのに適さない性格だったり、状況によっては裏切る可能性があると判断したのだ。


(問題は残りの3対象なんだよなぁ・・・)


 3人の名誉爵位持ちの1人である名誉男爵、ギーセンの街の警備隊の副隊長、魔道具ギルドの支部長の3人であった。いずれもマルセルたちの作成した「信用できる者」の上位リストには入っておらず、交友関係はあるが大輝に直接見極めて貰いたいとされている人物だ。そのため、渡された手紙の中身はユングたち宛てとは違う。ユングへは協力依頼という形式の手紙だったが、3対象へは紹介状という形の手紙である。マーヤが屋敷から逃げたのがおよそ3か月前であり、その紹介状は半年前に書かれたことになっている。ちょうどその頃がマーヤたちが旅行を兼ねて王都に行っていた時期であり、道中で盗賊の襲撃を受けたことがあるのだ。それを剣と魔法、自身で作った魔道具を使って助けたのが大輝であるということにし、いずれ礼をしたいからギーセンに来てくれという内容と共に、その戦闘力と魔道具作成技能ならギーセンの街で良い職を紹介しようと書かれていた。


(ギーセンの街での公職雇用関係を司る名誉男爵、治安を守る警備隊の副隊長、魔道具ギルドの支部長・・・聞いてたよりもフュルト家に冷たかったな。すでに懐柔されたとみるべきか。)


 大輝は、盗賊を撃退したが依頼行動中だったのでそれを済ませて遅ればせながらギーセンの街に来てみたがフュルト家の屋敷は封鎖されており、わけがわからず事前に聞いていた3人の元を順番に回っている、と言って彼らの元を訪ねたのだ。 


 しかし彼らは紹介者がフュルト家に仕えるマルセルであり、その令嬢であるマーヤのサインもあることを確認した途端に顔を顰めたのだ。マルセルたちによれば懇意とはいかないまでも長い付き合いがあり、味方になってくれれば頼もしいと言われていたが、彼らはそれを望むべくもない態度だった。  


(手紙の日付的にもオレがすぐに疑われることはないだろうけど、一応警戒はしておこう。)


 大輝は情報収集も兼ねて終始フュルト家の屋敷がなんで封鎖されているのか、マーヤやマルセルたちがどうなったのか、と質問を重ねたのだ。自分はマーヤたちの逃亡とは無関係であることをアピールしつつ、フュルト家の置かれている状況を彼らがどう見ているかを探る為に。


(困惑していた名誉男爵はともかく、警備隊の副隊長は要注意、魔道具ギルドの支部長は表情が読めなかったけどその分最大限の注意が必要だな。)


 この3対象にはマーヤたちの動向はもちろん伝えなかった。だが、彼らの反応は良い情報収集にもなったのだ。好意的だった13対象からはフュルト家への同情やベルナー家の横暴についての話ばかりで別の角度からの情報が得られたというのは大きい。そして隠れ家に戻る予定の3日後まではさらに別視点からの情報を集める予定の大輝。これまで敬遠していた冒険者ギルドや酒場に顔を出して一般の人々の反応を見る予定なのだ。


 こうしてギーセンの街に10日間滞在し、自らの目と耳と足で情報を集めた大輝は隠れ家へと戻ることになる。協力を得られた11対象が直接マーヤたちと対面するのを見届ける為だ。自らの目で対象を仕分けしたが最初の面談だけはリスクを考えて大輝自身が立ち会うつもりなのだ。


(大丈夫だとは思うけど念には念を入れよっていうしね。)





 協力者たちとマーヤたちの面会は大輝が住居に仕立て上げた洞窟内のリビングで3日間行われた。協力者たちは3つのグループに分けられ、1日1グループずつの面会だ。大輝は冒険者ギルドで多少のトラブルに見舞われたものの、予定日にはしっかりと隠れ家たる洞窟に戻っており全ての面会に立ち合った。立ち会うだけではなく気配察知スキルを全開にし、自分自身も高速で移動を繰り返すことで協力者たちを追跡する者や伏兵がいないことを確認したり、言葉足らずのマルセルたちを補佐して面会をスムーズに進めるための助言を行い、協力者たちに求める内容を補足したりと大忙しだった。いっそのこと最初から大輝が主導した方がよほどスムーズに事を運べるだろうが、この大仕事の要はフュルト家でありマーヤたちなのだから仕方なかった。しかしフュルト家令嬢であるマーヤが顔を出し、フュルト家に仕えるマルセルたちが表に出て語り掛けたこの面会は成功だったと言える。かなりの情報が集まり、今後の課題も見えてきたのだ。


「うむ。大輝殿のお蔭でかなりギーセンの街の様子がわかってきましたな。感謝致す。」


「そうですわね。3か月近く離れていましたからね。」


「だが、思った以上にベルナー家はやりたい放題やってるな。」


 マルセル、レオニー、モリッツの順で全ての面会が終わった感想を述べ合う。


「おそらくベルナー家も焦っているはずです。本当はフュルト家を陥れる手筈を完全に整えてから行動に出るつもりだったのでしょう。狙っていたタイミングはヘッセン侯爵が王都から帰って来る直前だと思います。ですが、フュルト家がそれを察知してマーヤちゃんを逃がしたことが大きいですね。」


 大輝も感想を述べる。名誉爵位持ちであるベルナー家には格上のフュルト子爵家を勝手に処罰出来ないためどうしてもヘッセン侯爵の裁可が必要になる。そしてヘッセン侯爵経由でキール王へ純然たる貴族家であるフュルト家断絶を訴えてもらうつもりなのだろう。そのためにはヘッセン侯爵帰還直前に事を起こすのが好ましい。早すぎては反論反撃の時間を与えてしまうし、ヘッセン侯爵が帰還してからだと、フュルト家追い落としがヘッセン侯爵未承認の場合はベルナー家よりも格上のフュルト家に反論の機会を与えるだろうし、いきなり屋敷を封鎖するような直接行動は許されないだろう。また、ヘッセン侯爵との共謀の場合、ヘッセン侯爵は自らのリスクを下げる為に自身がギーセンを離れているタイミングを指示するだろう。ヘッセン侯爵としてはお膳立てを全てベルナー家にやらせた方が得策だし、リーダー格の者が直接手を下すような真似をしないのが当たり前なのだから。


「そうなるな。だが、税率を弄ったり、戒厳令に近い命令を発するのはやりすぎだろう。」


「領主たるヘッセン侯爵が留守で補佐役のフュルト家当主が監禁中、そうなると名誉爵位持ち3人の中で最も力を持つホーグ・ベルナー名誉子爵が実権を握っているとしても横暴がすぎますわ。」


「うむ。それだけ焦っているのだろう。そしてその分だけ協力してくれる者たちが本気になってくれている。」 


 ベルナー家は使える権力を総動員していることがわかったのだ。それもなりふり構わない形で。税務関係で言えば自家を除いた商会に一律10%の追加税を課していたし、徴収した金銭を冒険者を雇う費用に流用しているという噂もある。また、治安維持関連では警備隊に命じて秘密裡にマーヤを始めとしたフュルト家の関係者の捜索も行っているが、それに合わせて自家へ反抗的な勢力の摘発を行わせているとの評判だ。検挙された者たちの多くが冤罪を訴えており、実際にその通りである可能性が高いらしい。さらに夜10時以降の外出を制限しており、いずれかの勢力による襲撃も警戒しているかのようなのだ。


(ここまでいくとヘッセン侯爵との関係が微妙だよな・・・)


 大輝はヘッセン侯爵が監査役に徹するフュルト家を煙たがっていると聞いており、フュルト家追い落としにはかなりの確率でヘッセン侯爵のお墨付きが与えられていると思っていた。だが、ここまでの横暴を領主たるヘッセン侯爵が認めるだろうか。大輝の答えは否だ。 


(領内が乱れるような政策を許可するとは思えない。そうなるとヘッセン侯爵がボーグ・ベルナー名誉子爵ともども不穏分子の粛清を狙っている可能性もあるけど、名誉子爵の暴走の可能性が高いな。)


 フュルト家に感付かれ、マーヤを取り逃がしたことで焦っているのは明白だった。そこに付け込むことでチャンスはあるはずだと全員が感じていた。


「とにかく協力者の皆さんと共に冤罪を晴らすための証拠および証人の確保を急ぎましょう。」


 大輝の言葉に全員が頷く。そして話題はもう1つのベルナー家の動きに移っていった。


「フォルカー湿原解放作戦は3月20日から10日間を予定しているようですが、どうしましょうか?」


 レオニーの言葉通りこの問題の扱いが棚上げされたままだった。


「うむ。邪魔をするわけにもいかないが、成功されることで我々にとって困った事態になりかねん。」


「だな。だが、今のところベルナー家が集めた面子で解放可能かどうかと言われれば微妙な気もするぜ?まあ、まだ1月以上時間があるようだが・・・」


 解放作戦が1月以上先に予定されているのはギーセンの街の有力冒険者の一部がその頃まで他の依頼で時間が空かないのが理由らしい。しかし、彼らを加えてもベルナー家が抑えている冒険者たちの実力はノルトの街で『山崩し』に参戦した冒険者たちの戦力の2割にも満たないだろう。強制依頼ではないのでそれは仕方ないのだが、そこにベルナー家の次男率いる用心棒たちが加わってもたかが知れており、過去に騎士団が敗退したことを考えれば成功率は低いと思われていた。


「楽観しない方が良いと思います。」


 大輝は集められた冒険者たちのランクや数だけで判断するのは早計だと思っている。


「騎士団と冒険者では戦い方が全く違いますし、もしかしたら巨大蛇の弱点かなにかを突き止めたのかもしれません。ですから次善の策を考えておく必要があります。」 


「うむ。大輝殿の言う通りであるな。」


「確かに仰る通りですわ。」 


「だな。オレたちが何を言ってても成功するときはするし、失敗するときはするだろう。だったら悪い方の想定をして行動しないといけなかったよな。で、奴らがフォルカー湿原を解放するだけの戦力もしくは作戦を持っているとしてオレたちは何をすべきだろうか。」


 マルセルたちがああでもないこうでもないと議論を始める。その間大輝は大人の話だと思って黙って聞いていたマーヤをご褒美とばかりに抱き上げてあやす。いや、実際は大輝が癒されたい心境だったのだ。単独でギーセンの街に入って神経を尖らせた交渉を繰り返し、隠れ家たる洞窟に戻ってからも働き詰めだったのだ。この辺で幼女と戯れることで尖った神経を和らげなければ大輝が疲弊してしまうかもしれない。


「大輝が甘えんぼさんになっちゃったぁ。よしよし。」


 マーヤが抱き上げられたまま大輝の頭を撫でる。マーヤは出来る娘だった。的確に大輝の精神状態を把握しており、頑張ったご褒美を与えていた。そしてみるみると大輝の精神を回復させていく。


「うっし。マーヤちゃんに癒されて充電完了っ!」


 心優しい幼女の気遣いに感謝し、笑顔を向ける大輝が復活をオーバーリアクションで宣言する。


「マーヤは癒しの女神なのです。うっしっし。」


 マーヤも疲れた様子だった大輝が本物の笑顔を見せてくれたことで安心したようで年齢相応の表情になっていた。自分に出来る事をよく理解している幼女なのだ。そして大輝が戦線復帰するのを見送る。妙案が浮かばずに話が煮詰まっているマルセルたちの会話に戻っていく大輝。


「いくつか案があります。」


 大輝の言葉にマルセルたちの注目が集まる。


「1つ目はある意味妨害に当たりますが、フォルカー湿原解放作戦の決行日を遅らせる工作です。ベルナー家はヘッセン侯爵とルード王子がギーセンの街に戻って来る4月までに結果を出したいはずですので、彼らの決行日を遅らせ作戦終了までの間にケリをつけてしまえばいいのです。」


「だが、謀略を暴いて罪を問うても功績を挙げたことですぐに帳消しにされてしまうのではないか?」


「恩赦が与えられては結果は同じなのでは?」  


 マルセルとレオニーの指摘も最もだ。だが大輝の言葉はまだ続きがあった。


「えぇ。ただし、情報の中にあったように追加税で集めた資金を冒険者雇用に流用していたことが証明できればどうですか?」


 名誉子爵の地位が安泰のまま功績を上げその後に謀略と資金流用が明るみに出た場合と、先に謀略が明るみに出てその失態を回復させるために資金を流用して功績を挙げた場合に違いを大輝が指摘する。


「そうか!印象が全然違うのか。」


「うむ。前者の場合は為政者の1人として取り繕う事は出来ても後者の場合は罪人の悪あがきが功を奏したと見える。」


「それにルード王子の「ハンザ王国の繁栄」という合理主義の目的に照らした場合、前者は守られる可能性が高いが後者は低いのですね。」


「はい。あくまでも可能性と印象の問題ですけどね。それでもやってみる価値はあると思います。」


 フォルカー湿原解放を数日遅らせるだけでいいので妨害としては損害は少ないし、ベルナー家の権威が失墜するならマルセルたちに異論はなかった。


「2つ目の案ですが、フォルカー湿原解放の功績自体を乗っ取ることです。ベルナー家の次男が作戦の指揮官として先頭に立つそうですが、商会の警備を統括しているといっても大規模戦闘に参加したことすらないそうです。いくら個人の戦闘力があっても部隊を統率する力量は未知数です。それならオレが参加して指揮権を強奪することも出来るかもしれません。」


 使い物にならない指揮官を貶め、代わりに大輝が指揮権を奪い、そのまま解放作戦を成功させるというものだが、実際の成功確率はかなり低いだろう。いくら大輝が臨機応変に行動し、協力者たる冒険者グループが追従してくれても指揮権奪取はハードルが高い。


「うむ。大輝殿の戦闘力は信じておるし、『山崩し』の功労者であり『双剣の奇術士』の異名を持っているので可能性はあるとは思うが・・・。」


「オレもこの案は切羽詰まって他に手がない場合の手段だと思うぜ。」


「私もさすがに難易度が高いと思いますわ。」


 マルセルたちは一様に否定的だった。だが、大輝とてそれは同じであったため、すぐに案を引っ込める。


「確かに確実性がかなり低いですからね。その代わりにオレは第3の案を推します。3つ目の案はフォルカー湿原解放の功績が霞むようにすることです。」


 大輝はニヤリと不敵な笑いを見せた。






 




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