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レゾナンス   作者: AQUINAS
第二章 ハンザ王国~冒険者~
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第六十九話 魔法陣

「大輝、これどう思う?結構面白いアイディアだと思うんだが。」


「ちょっ!兄さん今はオレが話をしてるんだよ?」


「ばかやろう!兄貴の言うことに逆らうのか?」


「こういう時だけ兄貴面しないでくれよ。それに同時に弟子入りした以上は同格扱いのはずだろ?」


 年の瀬が迫った頃、アース魔道具店では大輝を巡ってナイルとザイルの兄弟が争っていた。


「あの、お2人ともその辺で・・・オレでしたら今日は時間ありますので。」


 ナイルとザイルは大輝を期間限定入門者としてではなく同格以上に扱っているのは『魔石爆弾』という新たな魔道具を大輝が考案したからである。魔道具職人として評価される新規の技術を開発したわけではないが、既存の技術、それも爆発事故を起こすような失敗例を利用した新魔道具を生み出した大輝の発想力に敬意を表したのだ。


「この魔法陣はな、温度上昇効果をもたらすってことはわかってるんだが制御不能ってことでお蔵入りしてるんだ。だが、温度を制御するのにこっちの水を生み出す魔法陣の水量指定を表す部分を組み込めば温度調整が出来ると思うんだが・・・」


「オレはこの風魔法を再現する魔法陣の弱体化がイケると思うんだ。風の魔法剣用に開発された魔法陣なんだが、威力を弱めれば夏場に涼しさをもたらすことが出来ると思わないか?」


 ナイルとザイルは自分たちのアイディアを次々と大輝に披露していた。突拍子もないものもあれば、日本の家電製品に近いアイディアもあった。彼らはこれまで魔道具の基本知識を学ぶと同時に他の魔道具職員同様に魔法陣解明を目指していたのだが、大輝を見て発想の転換を知ったのだ。これまで500年以上、数万人という魔道具職人たちが解明できなかった魔法陣の全容解明に挑戦するよりも、既存の魔法陣を別視点で捉える事や改良することに注目した方が成果が出るのではないかと考えたのだ。


(これって、オレが雑談の中で話したことが原因だよな・・・それならちゃんと聞いてあげないと。) 


 彼らが大輝を認めたきっかけは『魔石爆弾』だが、発想を変えたのは大輝との休憩中の会話が発端だ。何気ない会話の中で大輝が日本に居た頃に使っていた道具を思い浮かべて話をしていた事がヒントになっている。


「ココとシリアの冒険者デビューでエレベ山腹に行ったんですが、寒い中で冷えた飯はやっぱり辛いんですよ。弁当を温かいまま保存する魔道具とかないんですか?」


「家の中は暖炉があるからいいですけど、外は寒いでの携帯用の保温道具とかありませんかね?」


 そんな話をしていた大輝にナイルとザイルの兄弟は目を輝かせたのだ。彼らにとっては大輝が新たな魔道具のヒントをくれたようなものだったのだ。大輝にしてみれば日本にいた頃より不便を感じていた事に対しての愚痴に近かったのだが・・・。


 だが、これによって大輝も大きな恩恵を受けることになった。期間限定入門者である大輝は魔道具の歴史とすでに一般的になっている魔道具の作り方しか教わることが出来ないはずだったが、ナイルとザイルが次々と新アイディアと共に一般公開されている魔法陣以外の魔法陣やボツになった魔法陣を解説して意見を聞くようになったため、自然と門外不出の魔法陣を目に出来るようになったのだ。


 そして重要なことに気付く。7歳で始めた脳と記憶トレーニングのお蔭で。柔軟な思考と分析力を養う為にトレーニング初期に取り組んだロジックパズルや数列パズルやアナグラムといったパズル訓練が役に立ったのだ。


(魔法陣は表意文字を使った数式?)


 表意文字とは、一定の「意味」を文字や絵という形に置き換えて表したものの集まりを指す。漢字も表意文字に近いが、漢字は意味だけではなく言語の語を構成することがあるため純然たる表意文字とはいえない。しかし、表意文字とは何も古代語ではない。現在でも立派に使われている。その代表格がアラビア数字である。そして数式とは数学的な文字や記号が一定の規則に従って結合した文字列を指す。


(うん。どう見ても言語に直接結びついた文字じゃなくて言語とは別の表意文字だな。だから魔法と魔術に区別してるのかな。で、魔法陣が正しく起動しなかったり暴走する原因は表意文字の書き損じだけじゃなく、数式の求める規則性にそぐわないという理由もありそうだな。) 


 大輝は魔法陣の深遠に一歩近づいていた。おぼろげながら魔法陣を構成する表意文字らしきモノの意味や数列らしきモノの法則を理解しつつあったが説明のつかないことが沢山残っていた。


(全部を見せてもらった訳じゃないけど、ここまでは火・水・風・土のいわゆる4大元素を数列に当てはめた魔法陣しかない。じゃあ、召喚魔術を可能にした魔法陣はどうやって作ってるんだ?4大元素の配分で調整してる?いや、本当に4大元素しか魔法陣に組み込めないなら無理だな。4大元素とはそもそも世界を構成する物質の源と言われているものだ。構成の根幹である4大元素は物質的な基盤。異世界との橋渡しをするとは考えにくい。・・・それならアリストテレスの第五元素?いやいや、オレはなにを突拍子もないことを考えてるんだ。そもそもここは異世界なんだ。地球の考え方が当てはまらない事だってあるんだから。)


 魔法陣の秘密の一端に触れた大輝はつい自分をこの世界に招き入れた召喚魔術について考えてしまっていた。そこに珍しく店長兼師匠のカイゼルが大輝を自室に来るようにと呼ぶ声が聞こえてきた。カイゼルの登場にナイルとザイルが慌てて広げていた魔道具を隠す。門外不出の魔法陣を大輝に見せていたことを思い出したのだ。しかし、カイゼルはそれを咎める事なく大輝に再度声を掛ける。


「大輝、話がある。来てくれ。」





 カイゼルの私室に入った大輝は少し緊張していた。はじめて私室に招かれたこともあるが、カイゼルの醸し出す雰囲気が重かったのだ。


「2つ話がある。」


 自身が椅子に座り、大輝にも椅子を勧めたカイゼルが口を開いた。


「まずはお前の考案した例の爆発する魔道具についてだ。」


 大輝はカイゼルの雰囲気が重いことの理由を察して顔が曇る。


(オレの予想より早いけど、魔石爆弾の再現が上手く行かない事でカイゼルさんのところに探りを入れに来たんだろうな。)


「リューベック公爵家からは表立った要請はないが、騎士団からは技術提供の申し入れがあった。」


「ご迷惑をお掛けします。」


 大輝が深々と頭を下げる。


「それは構わん。こうなることをわかっていて協力したんだからな。あの爆発する魔道具がなければノルトの街が危機に瀕するだろうことは儂も理解していたし、お前さんがあの魔道具を広めたくない理由にも賛成だからな。」


 カイゼルは毅然とした態度で言う。


「だが、いいのか?今回は騎士団も大人しく引き下がったから話さなくて済んだが、このままではお前さんが執拗に追われるぞ?」


 カイゼルを始めとした魔道具職人たちは大輝考案の『魔石爆弾』製造を手伝っている。彼らには分業させておいたが、情報を集めれば『魔石爆弾』の仕組みは簡単に知る事が出来る。だが、いくら情報を集めてそれを再現しようとしても戦場で使われた威力までは出せない。せいぜいが大怪我止まりの威力だ。威力を最大限発揮するための条件と小さな魔石を誘爆させる細工については大輝しか知らないのだから。そしてその事実を騎士団や公爵家、国などによってカイゼルたちが脅迫された場合には漏らして良いことになっている。ただし、漏れる情報は大輝によって大輝しか使えない奇術が重要な要素であるらしいという情報に書き換えられているが。


「それこそ覚悟してます。」


 大輝はカイゼルから視線を逸らさず、真っ直ぐに向き合う。


「そうか。ならばその件についてはもう何も言わん。」


 カイゼルはわかっている。『魔石爆弾』は今回の『山崩し』のように対魔獣にのみ利用されれば極めて有用だが、悪人に利用されれば大きな脅威になることを。だからこそ秘匿しなければならない技術であると思っている。そして、大輝が期間限定とはいえ師匠である自分にさえ技術の全面開示をしないことが秘匿のために、そして今回製作に携わった職人たちの安全のために必要なことであることも理解していた。だからそのお礼と合わせて次の話に移る。


「ではもう1つの話だ。大輝、魔法陣を解読しつつあるな?」


 カイゼルの眼光は鋭かった。魔法陣については『魔職の匠』が残した秘伝書と呼ばれる書物の中に例示されている魔法陣についてしか知られていない。過去に多くの者が全面解明を試みたが、例示されている魔法陣の一部解明しか出来ていないのが現状だ。だが、大輝は短期間に深遠に一歩踏み込んでいた。


「ふん。儂を舐めるなよ?最近のナイルたちとお前の会話を聞いていればその位気づくわ。」


 大輝がどう答えるか悩んでいる間にカイゼルが話しを続ける。


「魔法陣についてお前が教えてもいない内容を当然のように理解していることを見れば一目瞭然じゃわい。もっとも、ナイルたちは気付いていないようだがな。付け加えるならアイツらがお前に魔法陣を見せていることを咎めるつもりはない。だが・・・」


 当然のように話すカイゼルだが、内心は複雑だ。初見の魔法陣を見て内容を理解するということは、数百年に渡って自分も含めて多くの職人たちが研究を重ねている魔法陣について入門わずか数週間の新人が追いつき追い越していることを示しているのだから。


「お前さんはなぜ気付いたことを話さない?」


 カイゼルは大輝に魔法陣について気付いたことを話せとは言わなかった。その代わり、なぜ話さないのかを問う。


「いくつか理由はあります。」


 大輝は隠せないと思い正直な気持ちを吐露する。


「1つはまだ確信が持てない事が沢山あるからです。」


 大輝は魔法陣に描かれている表意文字の一部はすでに理解していたが全てではない。そして数列についての規則性も同じだった。発動魔術の属性、威力、範囲の順で記さなければならないことと、最後に発動魔術の固有名詞を記さなければならないことは理解していたが、複数属性を同時に記せるのか、その他の要素つまり攻撃魔術なら発射速度であったり発動時間といったものが組み込めるのかといった内容については判明していなかったのだ。


「2つ目は、『魔職の匠』は秘伝書として託した魔法陣以外については封印したのかもしれないと思ったからです。」


「封印だと?」


 カイゼルは1つ目の理由については聞き返さなかった。予想が出来ていたからだ。だが、2つ目については驚きと共に興味を惹かれた。魔道具の祖である『魔職の匠』の心に触れられるかもしれないと。おそらくは尊敬する『魔職の匠』と同じ世界から来たであろう目の前の期間限定弟子を通して。


「はい。カイゼルさんも賛同してくれたように、オレの考案した『魔石爆弾』は兵器であり、進んで世に出すべき魔道具ではありません。これまでは研究が進まなかったために破壊兵器としての魔道具は存在しませんでしたが、研究次第では便利なだけではなく大量破壊兵器にもなってしまうのが魔法陣を使った魔道具です。」


「つまり・・・『魔職の匠』は・・・」


「異世界人である『魔職の匠』は知っていたんだと思います。そして危惧した。だから魔法陣の全容を解き明かした『魔職の匠』は魔獣に対抗出来るだけの魔法陣と生活の利便性を上げる魔法陣だけを託そうと厳選したんだと思います。そしてそれ以外のモノは封印した。オレが『魔石爆弾』の真の製造法を秘匿したように。」

 

 科学は世の中を便利にしようとする人々によって発展してきたが、その結果が全て良い方向に使われてきたわけではない。


(『魔職の匠』がいつの時代から召喚されたのかわからないが、きっとそういうことなんだろうな。)


 『魔職の匠』が魔法陣を構成する表意文字と数列の全てを解き明かしたかどうかは確認しようがなかったが、魔法剣や認証プレートといった魔道具を世に広めた者ならば大量破壊兵器の可能性には気づいたはずだ。そして地球でいえば中世並の文化のこの世界にそれを伝える事の危険性にも気づいたのだろうと思う大輝。


「そうか・・・我々魔道具職人は魔法陣の研究をすべきではないのか・・・」


 大輝の言葉の中に真実を見た気がしたカイゼルが落ち込むが大輝はそうは思わない。


「カイゼルさん。それは違うと思います。『魔職の匠』は異世界人だったのでしょう?彼はこれ以上は踏み込むべきでないと考えたんだと思います。」


「どういう意味だね?」


「異世界人である彼が全てを指導したのではこの世界の人々の歩みが止まってしまう、もしくは歪められてしまうと思ったんだと思います。」

 

 大輝は言葉を紡ぎながら遥か昔の偉人に思いを馳せる。


「言葉は悪いですが、『魔職の匠』が本気で作った魔道具を世に広める事は子供に魔法剣や魔石爆弾を持たせるようなものなんだと思います。おそらく『魔職の匠』の居た世界はこちらより遥かに進んだ技術を持っていたでしょうから。」


 話しながら大輝は想像する。もしかしたら『魔職の匠』は江戸時代や室町時代から来たのではなく大輝と同じかもしかしたら未来から来た可能性もあるのではないかと。


「つまり、この世界の住人が自分たちで研究開発を進めないといけないことだと考えて最低限だけの資料を残して姿を消したんじゃないでしょうか?」


 『魔職の匠』と『救国の魔女』が同時に姿を消した理由はこれ以上自分たちが係ることでこの世界のバランスを崩すと思ったのではないかと考える。実際、ハルガダ帝国が大輝たちを召喚した理由も世界のバランスを変えるためだ。帝国が辿る勢力縮小の道を拡大の道へと変える手段として。


「儂らが自分たちのスピードで技術や文明を発展させるべきだということか?」


「オレはそうだと思います。彼が残した秘伝書というのはその礎と考えるべきだと思います。」


「つまり、それを参考にして新たな魔法陣や魔道具を生み出すことは『魔職の匠』の心には反しないという訳か・・・」


「反しないどころじゃないですよ。わざわざ当時の弟子に秘伝書を託したということは、これを元にして頑張れというメッセージじゃないですかね?」


「むぅ。確かにそうかもしれん・・・」


 カイゼルの瞳に活力が戻る。そしてやはり自分の想像は正しいのではないかとも思った。大輝という弟子は『魔職の匠』と同じ異世界人であろうと。すでに見当はついていた。正統なる『魔職の匠』の弟子たちが引き継いだアース魔道具店には秘伝書と共に伝承がある。噂で聞いた大輝が使ったという霧を発生させる奇術は『救国の魔女』が海戦で使ったものと同種だし、詠唱不要で行使出来る魔法を持つというのも同じだ。そして魔法陣への理解力と今の話で確信したのだ。だからこそ託したい事があった。


「大輝。この先、王都アルトナへ行くのであればアース魔道具店の本店に行け。紹介状は儂が書いてやる。」


 




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