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レゾナンス   作者: AQUINAS
第二章 ハンザ王国~冒険者~
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第六十六話 邪魔者

 12年ぶりの『山崩し』から1週間が経ったノルトの街は日常を取り戻しつつあった。魔獣との交戦地帯の処理もほぼ終わり、今は街中での魔獣素材の取引とそれを素地とした生産活動に移っていたのだ。


 アッシュ公の館でのパーティーから2日はまともに動けなかった大輝、ココ、シリアの3人もようやく本来の目的に沿った行動が出来るようになった。大輝の魔道具修行とココの社会勉強だ。


「今日はやっと冒険者としての初仕事が受けられるの。」


「色々あって随分と遅れちゃったよな。」


「『山崩し』があったから仕方ないの。でも昨日と一昨日の人たちは余計なの。」


 朝食を終えた3人が冒険者ギルドへと依頼を探しに出掛けた道中でココがご立腹だった。本来ならパーティーの翌日に大輝同伴でココとシリアの冒険者デビューの約束だったのだが、一昨日の朝はガーランドが謝罪と称して大輝を訪ねて『食道楽の郷』までやってきて昼過ぎまで解放してくれなかったのだ。結果、ギルドに到着したときには目ぼしい依頼は残っておらず、アース魔道具店へ行くことになったのだ。


「まあ、ガーランド様も悪い人じゃなかったでしょ?」


 大輝がココを宥める。


「美味しいお菓子をいっぱい持って来てくれたことには感謝してるの。」


 将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、とばかりにココやシリアへの貢物が大量にあったのだ。『山崩し』以後、大輝を観察していただけあって連れに対する気遣いは完璧であった。


「確かに私までお洋服とか貰っちゃいましたからね。」


 ココには貴重な砂糖を使った焼菓子や髪飾りが、シリアにはパーティーにも着ていけそうなドレスを始めとした衣装数点と高そうな宝石の着いたネックレスが贈られたのだ。そして大輝には後日プレーリーレオの犬歯を加工して魔道具化させた指輪が贈られることになっていた。恐ろしく高価な品であり、大輝が受け取った『山崩し』の褒賞額を軽く10倍は超える代物である。なにしろ、上級魔法士1人分程度の魔力を貯蔵できる魔道具なのだ。


「全部受け取るつもりはなかったんですけどね。」


 ココを恨めしい目で見る大輝。大輝が受け取る前に差し出された焼菓子に手をつけ、満面の笑みで言ったのだ。「全部ありがたく頂きますの。」と。それでも別名レオリングと言われる魔力貯蔵リングだけは高額すぎて後でなにを要求されるか怖くて拒否したのだ。だが、パーティーで功労者である大輝を脅した事に対する謝罪だけではなく、あの場でフォローしてもらえなければガーランドだけではなく公爵家が傾いていたからと目に涙を貯めて受け取ってほしいという押しに負けたのだ。実際、ガーランドの詭弁はグラート王子を侮辱していると取られてもおかしくなかったのだ。そこまで聞かされれば受け取らざるを得なかった。


「きっとレオリングは大輝の役に立つの。」


 『直感』の優れるココにそう言われると反論は出来なかった。


「だからガーランド様の件はもういいの。でも昨日の人たちは嫌いなの。」


 ココに嫌われたのは冒険者ギルドの受付嬢の1人とアリス・バイエル一行だ。


「大丈夫だよ。オレも嫌いだから。」


「私もです。あの方々とは会話が成り立ちません。」


 大輝とシリアも昨日のことは腹が立っていた。ギルドマスターであるスレインやシハス、リリスが間に入らなかったら大輝がアリスたちをボコボコにしていただろう。だからこそ慌てて冒険者ギルド幹部職員総出で仲裁に入ったのだ。その時の彼らの青い顔が脳裏に浮かび、少し気の毒になる。


(冒険者ギルドとハンザ王国の関係的には悪いことしちゃったかなぁ。)


 僅かな反省と共に昨日を思い出す。






 ガーランドの訪問で1日延びた冒険者デビューにココがワクワクしつつ冒険者ギルドの扉を潜るのを見た大輝が声を掛ける。


「ココ、まずはどんな依頼があるかこっちで確認だよ。」


「はいなの!」


 入口左手にある掲示板を真剣に見つめるココを微笑ましく思いながら大輝がこなせそうな依頼をピックアップし始める。


「基本的にはココとシリアの2人で出来る依頼にしような。オレはあくまでもサポートに徹するから。」


「了解なの。エレベ山の下の方で出来る依頼を探すの。」


 偉そうに言う大輝だが、雑役と配達依頼と強制召集以外に街の郊外に出る依頼を受けたことはない。


「『山崩し』があったせいでエレベ山に入らないと採れない山菜や薬草採取の依頼がいっぱいあるの。」


 朝早いこともあってかなりの量の依頼が張り出されており、ココが目を輝かせていた。


「3人で行けばかなりの量を確保できるはずだから、2,3個同時に受けた方が効率がいいだろうね。」


 熱冷まし用の薬草と傷薬用の薬草の群生地域が近いことからその2つを受けることにした大輝たちは3人揃って『依頼受理』の札の掛かっている受付カウンターへ向かう。パーティー登録していれば代表者だけで依頼受理が出来るのだが、ココとシリアは年が明ける前に村へ戻る約束なので大輝とは正式なパーティー登録をしていないのだ。


「依頼の受理手続をお願いしますなの。」


 14歳の割に幼いところのあるココが自分がやりたいといって3人を代表して受付嬢へと依頼書と3人分の認証プレートを出す。 


「お預かりします。」


 ノルトの街の冒険者ギルドの中ではベテランと思われる受付嬢が早速依頼受理手続に入ろうとするが、認証プレートを確認したところで手が止まる。


「あの、このたびCランクに昇格された大輝様でらっしゃいますか?」


 認証プレートから大輝へと視線を移した受付嬢が緊張した面持ちで大輝に尋ねる。


「はい。そうですが。」


 すでに名前と顔がノルトの街全体に知れ渡りつつある大輝は特に驚かない。ここ数日で値踏みするような視線や羨望の視線等様々な目で見られており今更なのだ。だから内心はまたか、と思いながらも務めて平静に対応する。しかし、受付嬢はそのどれにも当てはまらなかった。


「そうですか。それではこちらの採取依頼を受理することはできません。受理できるのはココさんとシリアさんのみとなります。」


 軽く首を横に振りつつ受理手続を中断する受付嬢。


「どうしてでしょうか?この依頼にはランク制限がなかったはずです。」

 

 受付嬢の不可解な対応に大輝は困惑するが、すぐにその答えが返って来た。


「大輝様には指名依頼が届いておりますのでそちらをお受けいただかねばなりません。詳しいお話は別室にてさせていただきます。」


 それだけ言うと大輝に有無を言わせずに若い職員たちにカウンターを任せるとともに大輝を別室へ案内するように指示するベテラン受付嬢。


「なんか感じ悪いの。」


 ココが頬を膨らませている。昨日のガーランドに続いて冒険者デビューを邪魔された気分だったのだ。


「受理してもらえないんじゃ仕方ない。とりあえず話だけでも聞こう。」


 ココとシリアだけでエレベ山腹に行かせるわけにはいかないため、手続きを引き継ごうとした若い受付嬢に断りを入れて3人で示された別室へと向かう。そして15分程待たされたところでベテラン受付嬢が入室した。


「お呼びしたのは大輝様だけなのですが。」


「パーティー登録こそしていませんが、この街での私は彼女たちと行動を共にすることにしています。ですので気にしないでください。」


「しかし、指名依頼の内容を当事者以外の方へお教えするわけにはまいりません。お二方には退出をお願いします。」 


「そうですか。では私も一緒に失礼させていただきます。」 


 そう言って席を立つ大輝。依頼内容を漏らせないというベテラン受付嬢の対応はギルドとして当然の事である。それでも大輝が席を立ったのは、この受付嬢の態度に違和感を感じたからだ。


「お、お待ちください!」


 慌てて引き留めるベテラン受付嬢は渋々ココとシリアの同席を認める。


「お二方にはこれからお話する内容は他言しないようお願い致します。」


(やっぱりおかしい・・・)


 短い期間に目の前の受付嬢から複数の違和感を感じ取った大輝は警戒レベルを引き上げる。  


 通常なら受付嬢は依頼書にランク制限等の特段の記載がない限り依頼受理拒否は出来ないし、例え指名依頼であっても大輝の意向を無視して強制的に依頼を受けさせることは出来ないのだ。


(それに、指名依頼の指名対象はBランク冒険者以上というルールのはず・・・)


 ベテラン受付嬢とのファーストコンタクトで違和感を感じた大輝は、何者かがココやシリアと分断させようとしているのではないかと危惧したために同席させたのだが、どうやら狙いは大輝本人で間違いないようだった。


(オレを慌てて引き留める様子といい、こんなに簡単にココとシリアの同席を認めるなんてやっぱり何か裏がある!?)


 目立ってしまった大輝を勧誘しようとする者たちがココやシリアから調略しようとしているのではないかと疑った大輝の考えすぎだったようだ。


「では、依頼内容についてご説明致します。」


 正面に座ったベテラン受付嬢が早速説明を開始しようとするが、大輝が機先を制する。


「その前に確認させて頂きたいことがあります。指名依頼ということでしたが、私はCランク冒険者であり依頼を受ける資格がないはずです。まずはそこからご説明願います。」


 なんらかの思惑が働いていることを確信している大輝は揺さぶりをかける。


「あ、あの、それは・・・、確かに指名依頼の対象者はBランク以上の方に限定されていますが、例外も認められています。」


 一瞬言葉を失ったベテラン受付嬢だが、すぐに例外事項を持ち出す。確かに例外はある。大輝が帝都ハルディアで冒険者登録を行った時に渡された規約冊子にも載っているのだ。記憶力を強化されている大輝は当然覚えている。


「依頼内容に必要な特殊能力を持っていることが例外規定の条件でしたよね?」


「は、はいその通りです。今回はそれに該当すると思っていただければ・・・」 


「それには無理がありますよね。例外規定にある特殊能力はスキルで判断されるはずでしたよね?冒険者ギルドに対してスキル開示をして初めて認められるもののはずです。そしてそのスキルが本物であるかを認証プレート提示で確認するはずでは?私は一切のスキル開示をしていませんがどういうことでしょうか?」


 帝都ハルディアでもスキル開示を勧められたが、大輝は今後必要であれば開示しますと拒否している。つまり冒険者ギルドは大輝の所有スキル情報を持っていないのだ。 


「そ、それは、『山崩し』での大輝様のご活躍から推測して、わたくし共とし」


「このオバサンの説明は破綻してるの!」


 しどろもどろのベテラン受付嬢の言葉を遮るココ。冒険者登録してからすぐに『山崩し』のせいで宿に籠もることを強いられたココは規約冊子を熟読しており、ベテラン受付嬢の説明がなっていないことを理解していたのだ。


「い、いえ、ですから今回は特例ということでして。」


 例外や特例という言葉で納得させようとするがそういう話がいかに危険であるかを知っている大輝は裏付けがない限りは乗らない。


「つまり、ギルドマスターであるスレインさんや幹部職員の認定ということですか?」


 シハスという幹部職員と知古であり、いつでも確認できる大輝に対してベテラン受付嬢は額に大粒の汗を浮かばせている。


(この件にはギルド上層部は無関係っぽいな。)


 目の前で言葉に詰まるベテラン受付嬢を見てこれ以上は時間の無駄だと思った大輝は依頼者についての情報を聞き出すことにする。裏に誰がいるのかを確認しなくてはならないのだ。しかし、大輝が質問の声を発する前にすぐにわかることになる。


トントンッ


「アリス様がお出でになりました。」


 大輝たちをこの部屋まで案内してくれた受付嬢の1人がノックと共に声を掛けて来たのだ。そして中にいる大輝たちの返事を待たずに扉が開けられ、アリス・バイエルと3人の騎士が入室して来た。


(あぁ、このメンドクサイ人が裏にいる相手か・・・)


 大輝が内心盛大な溜息を漏らす。 


 アリスは『山崩し』の際に大輝たち遊撃隊を小馬鹿にしたグラート王子の側近である。そしてシハスから予備隊を無断で動かすように王子に進言した人物であることも聞いている。『美食美酒』で下手な小細工を仕掛けて来た相手でもある。良い印象などこれっぽちもない。そして目の前のベテラン受付嬢の裏にいるのがアリスなら100%碌でもない話であると推測出来た。


(ほんとに勘弁して欲しい・・・)

 






 

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