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レゾナンス   作者: AQUINAS
第二章 ハンザ王国~冒険者~
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第六十五話 詭弁

明けましておめでとうございます。


2015年が良い年になりますように^^b

 大輝とムトスによる余興試合が終わり、一同はパーティー会場に戻ってきていた。スリーパーホールドによって就寝中のムトスだけは別室だったが。


「大輝、お前やっぱりBランクに昇格しちまえよ。」


「その戦闘力でCランクじゃオレたちが困るっての。」


 大輝は冒険者たちに囲まれていた。大量の食べ物と飲み物が持ち込まれ、先ほどのムトスとの一戦や『山崩し』での戦闘についての話題を肴にしておおいに楽しんでいる。騎士たちに囲まれていたときのような戸惑いはなかった。なぜなら、冒険者たちは互いの過去を深く詮索することも魔法などのスキルについて追及することもしないのだ。もちろん興味本位で尋ねる位はするが、本人が一回拒否すればそれ以上は触れない。命がけの戦いに赴くことの多い冒険者を職業とする者は悲惨な過去を持っていることが多いし、スキルは冒険者にとって飯の種でもありパーティーメンバー等の仲間内にしか話さない事は常識なのだ。


(やっぱり正解だったな。)


 見た目重視の奇術ショーを行うことで冒険者たちの注目を惹き、部隊長であるムトスを撃破することで騎士たちから距離を取ると言う目論見は上手くいっていた。例えムトスが騎士たちに毛嫌いされていたとしても、同僚騎士を倒した冒険者に擦り寄る事は憚れるだろうという予測は正しかった。大輝や冒険者たちの話に耳を立てているだけで積極的に交流しようとする騎士は居なかったのだ。


「やってくれたな。」


 大輝を中心にして冒険者だけで集まっていた場所に苦笑いを浮かべた男がやって来た。


「アッシュ公のご子息、ガーランド様でしたね。なにか問題でも起こりましたか?」


 平然と会話をする大輝に比べて、冒険者たちは公爵家嫡男の登場に少し緊張気味だ。


「大問題だよ、大輝。」


 3日前に『美食美酒』で会ったときに比べて鷹揚な口調なのはこの場が公爵家主催のパーティーだからであろう。


「君のせいでグラート王子派と中立派の雪解けの切っ掛けが台無しだよ。」


 肩を落として大きく溜息を吐くガーランドだが、獲物を見る目で大輝を見ている。


「さて、なぜでしょうか?私にはさっぱり心当たりがありませんが。」


 なにやら思惑がありそうだと思った大輝は言葉遣いを冒険者用から切り替えて対応する。


「それはないだろう。グラート王子派のトップである王子と中立派のトップであるアッシュ・リューベックが揃うパーティーでグラート王子旗下のムトス部隊長をぶちのめしたのは君じゃないか。」


 わざとらしく周囲の冒険者にも聞こえるように話すガーランド。


「それがどういうことかわからない君じゃないだろう?君はグラート王子の顔を潰したんだよ。」


 王子の機嫌を損ねたというガーランドの言葉に冒険者たちが動揺する。国とは独立した組織である冒険者ギルドに所属しているとはいえ、実際はどこかの国の中で活動しなくてはならない彼らは国に睨まれては生きていけないのだ。戦功を挙げてパーティーに招待されている者たちだけにすぐさま大輝から距離を取る者はいなかったが、大輝を憐みの目で見る者はいた。しかし大輝は動じない。


「ガーランド様は面白いことをおっしゃいますね。」


 面白いと言われて少しムッとしたガーランドだがそれを表に出さずに続ける。


「このままでは君は大変窮屈な思いをするだろう。だが、君は今回の『山崩し』の功労者の1人だし、リューベック公爵家としても君を高く評価している。君を失うような事になって欲しくないのだ。」


 暗に罪を着せて牢獄に幽閉されるか闇討ちに遭うことを仄めかすガーランド。


(あぁ。そういうことね。ストレートな勧誘ならまだしも、こういうやり方は嫌いだな。)


 大輝はガーランドの意図をすべて理解した。


「そうだな、リューベック公爵家が間に入ろう。いや、公爵家の庇護下に入りたまえ。私の配下となるのだ。グラート王子はリューベック公爵家が君を監督するという名目であれば納得してくれるだろう。」


 ガーランドは父であるアッシュ公から大輝勧誘を指示されていたのだ。アッシュ公は大輝の能力を高く評価していたし、ガーランドには次期公爵家当主として有能な部下を使いこなす術を覚えて貰いたかったために大輝の雇用から任せる事にしたのだった。


「あはは。ガーランド様はホントに面白い冗談がお好きなんですね。」


 成り行きを見守る冒険者たちを尻目に笑い始める大輝。


「なにが面白い?自分の立場がわかっているのか?」


 心から笑っている大輝につい感情的になってしまうガーランド。


「まあ、折角ガーランド様が私たち冒険者に政治の世界の講義をしてくださっているのですからここは乗らせて頂きましょう。」


 大輝の言葉を不思議そうに見ている冒険者たちにもわかるように語り始める。


「さて、思い返してみましょう。確かにこのパーティーにはグラート王子とアッシュ公が同席されており、それぞれの派閥の雪解けの機会となるやもしれません。しかし、このパーティーは国家とは独立した組織である冒険者を労う事を目的としたものであることを忘れていませんか?」


 パーティー本来の目的を思い出させる大輝。


「そうです。私たち冒険者が主役なのですよ、このパーティーは。そして我々はハンザ王国内の闘争とは無縁の冒険者です。なぜ私たちが王国内の力学に気を使わねばならないのですか?それが主催者であるリューベック公爵家の方針なのですか?違いますよね。ですから私たちが余程礼を失する態度を取らなければなにも問題はないのです。」


 自分たちがこのパーティーの主役であることを強調する大輝。


「そして私とムトス部隊長の余興試合についてですが、皆さん思い出してください。試合を申し込んだのはムトス部隊長であり、それを認めたのはアッシュ公です。」


 大輝はムトスの求めに応じただけであり、このパーティーの主催者であるアッシュ公公認の試合でもある。


「もちろん応じたのは私ですが、試合の成立過程においてなにも問題はありません。そしてこれはアッシュ公が余興として取り扱う旨を宣言されています。なぜ余興と宣言したかは皆さんも予想されていると思いますが、遺恨を残さないためです。そして立会人のマインツ副団長の提示した戦闘エリア外へ影響を及ぼさない事と致死性のある攻撃を行わないというルールは守られ、立会人による私の勝利が宣言されました。」


 試合の成立過程と試合内容に問題がないことを確認する大輝。


「さて、どこか私に非がありますでしょうか?」


 もちろん誰も答えられない。ガーランドでさえも。


「ここまで問題がないことはパーティーに参加している方は全員ご承知でしょう。では、その上でグラート王子が腹を立てるでしょうか?まあ、気分的には良いものではないかもしれませんが、それを理由にして私を貶める事はなさらないでしょう。そんなことをすれば王子自身が誹りを受けてしまいますから。」


「では、試合に負けたムトス部隊長の所属するハンザ王国の騎士たちはどうか?こちらも問題ありません。立会人を務めたのが同じく騎士であるマインツ副団長だからです。試合の成立過程や内容に文句をつけることはできません。おそらくそこまで考えてアッシュ公はマインツ副団長に立会人を受けてもらったのでしょう。」


「最後にリューベック公爵家ですが、当主であるアッシュ公が認めた試合ですし、庭の提供もしています。そしてパーティー主催者として余興であることを宣言している以上は何一つ問題にしないでしょう。逆に、これに難癖をつける相手が居れば諌めてくれることでしょう。」


 つらつらと講釈を垂れた大輝にアルドが質問を挟む。


「ってことはなんだ?ガーランド様が言っているようなことは起こらない?」


「ええ。間違いなく。」


「じゃあ、なんでガーランド様は大輝を脅すようなことを言ったんだ?」


(オレを手駒にしたかったんだよ、きっと。魔石爆弾の件もあるしな。)


 大輝が言葉を飲み込んでいる間に冒険者たちから不審の目がガーランドに向けられる。完全に形勢が逆転してしまったガーランドが言葉に詰まっているところに大輝が助けに入る。決して善意からではない。このままでは面倒な事に巻き込まれるからだ。


「最初に私が言ったでしょう?ガーランド様は冗談がお好きだと。そして政治の世界の講義をしてくださっていると。」


「んあ?そういえばそんなこと言ってたな。どういう意味だ?」


 アルドが首を捻りながら答える。


「我々を試したのですよ。」


「試すって何をだよ。」


「状況を理解出来ているか、をです。このパーティーには我々冒険者以外に貴族であるアッシュ公や王族であるグラート王子がいらっしゃいます。為政者である方々が居る以上、その場にはどうしても政治が絡んできます。先程のグラート王子派と中立派のお話のようなね。私たち冒険者は戦闘力でもって戦いますが、政治に関係する方々は弁論でもって戦います。思い出して下さい。先ほどのガーランド様の発言に皆さん思わず納得してしまいましたよね?グラート王子のご機嫌を損ねたのではないかと。」


「あ、あぁ。そうだな。」


「もし私の立場だったら皆さんはどうされましたか?リューベック公爵家の庇護下に入る事を承諾してたのではないですか?」


「ん、確かにそうしないとまずい気がしたな・・・」


「ですが、状況をきちんと把握していればその必要がないことはわかりましたよね?」


「確かにそうだな。全く危険がないわけではないが、その可能性は少ない。」


「そういうことです。」


「ってことはガーランド様がお前を貶めようとしたってことか?」


 再びガーランドへ厳しい視線が向けられるがそれもすぐに大輝の笑い声と共に霧散する。


「あはは。だから講義なのですよ。我々冒険者もこうして戦功を挙げれば上流階級の方々が参加するパーティーに呼ばれることがありますし、アルドさんもBランクに昇格した以上はそういう機会が増えるでしょう。だからこうして弁論を武器とした為政者の恐ろしさを身を持って知っていただこうと一芝居打ってくださったのですよ。全ては我々の為を思ってガーランド様が成されたことです。感謝しないといけませんね。」


「そ、そういうことか!」


「すいませんでした。疑ってしまいました。」


「ガーランド様のご厚意に気付かず失礼しました!」


 冒険者たちが次々に謝罪の言葉とともにガーランドへと頭を下げる。慌てたガーランドだが、大輝の話に乗ることでこの危機を脱するしか手はなかった。


「ん、あ、いや、そんな大したことではない。確かに大輝の言う通り我々は政治的な思考から抜け出すことはできない。為政者同士のやり取りだけではなく、騎士や冒険者、商人が相手でもそれは変えられないのだ。だからこそ皆も注意して欲しい。こういうパーティーでは皆を取り込むためにさっきのような切り口をする者もいるからな。」


 慌てたガーランドはつい大輝を取り込もうとしたことを認めるかのような発言をしてしまったが、大輝の誘導のせいで誰もがガーランドが一芝居打ったと思っており完全に流されていた。





「ガーランドよ、してやられたようだな。」


 大輝の元から逃げるように去ったガーランドに声を掛けたのはアッシュ公だった。ガーランドも大輝も周囲の冒険者を巻き込むように声量を上げて話をしていたためにアッシュ公にも全て聞かれていたのだ。


「父上・・・」


 大輝の取り込みに失敗したガーランドは肩を落としたまま答える。


「何がまずかったか自分でわかっておるか?」


 アッシュ公は頭ごなしに息子を叱るようなことはしない。まずは自身を振り返らせるのが彼のやり方だった。


「・・・詭弁を弄したことです。」 


 ガーランド自身もわかっていたことだ。ではなぜ詭弁でもって脅迫するかのような手法を取ったのか。


「父上に勧誘の命を受けてから大輝を調査しました。3日前には直接観察も行いました。大輝はBランク昇格の打診を受けても経験不足を理由に断る程臆病もしくは慎重な男です。ですから王子と敵対する可能性を示唆すれば身の安全を優先して我々の庇護下に入ると読みました。」


「詭弁を弄したことも浅はかだが、その根拠はもっとひどいな。」


 父であるアッシュ公の言葉に小さくなるガーランド。


「まず、お前程度の弁舌で丸め込める為政者などそうはいないことを自覚せよ。そして相手を見極める目を磨け。大輝が臆病で慎重な側面を持つことは確かかもしれんが、私が将来お前の側近にと推す男がその程度の者であるはずがなかろう。」


「申し訳ありません。」


「まあ、よい。大輝が私の想像以上に頭の回る男だったということも確かだからな。」


 腕組みをしたまま少し考えたアッシュ公。


「ガーランド。お前の一番の欠点は相手を自分以下だと思い込むところだ。大輝の件も冒険者と侮って対応したことが問題の根幹だと私は思う。先ほども大輝に助けられたことは理解しているな?それなら明日にでも誠意を持って謝罪と感謝を述べてこい。自分と同格もしくはそれ以上の存在だと思って対応しろ。」


「はい。わかりました父上。」


 アッシュ公はこのタイミングで大輝を公爵家に引き込むことを諦めた。というより引き込める相手ではないと判断した。その代わり息子であるガーランドが年下の大輝と接する事で傲慢さが消える事を願った。そのために大輝がノルトの街に滞在している間は出来る限り訪ねさせることを決めたのだ。あわよくば友誼を結んで欲しいとの思いを胸に。




「そういえばさっきは気付かなかったけどよ。」


 だいぶ酔いの回ったアルドが大輝に話し掛ける。


「お前はよくガーランド様の意図に気付いたよな。」


 実際のガーランドの意図は大輝を配下に加える事だがもちろん大輝はそんな事を漏らさない。


「ん、あぁ。ああいう交渉には慣れてるんだよ。」


 すでにアルドとはかなり打ち解けており、実年齢に近いアルドにはついタメ口になっていまう大輝。


「まさか・・・お前どっかの貴族の落とし胤じゃないだろうな?」


「違うって。庶民だっての。ただ、色々と巻き込まれて商人とか上流階級の人たちと渡り合う機会があったってだけだよ。」 


 異世界召喚というものに巻き込まれてハルガダ帝国の宮殿で皇帝とも渡り合ったし、日本でも仕事上大企業や政治家、名家といった魑魅魍魎を相手にしていたのだ。ガーランドが仕掛けて来たものは言葉遊び程度にしか思っていない。ただし、その言葉遊びに負ければ命の危険があるのがこの世界だが。


「そうか。お前も若いのに苦労してるんだな。でもよ、オレもBランクになっちまったからこれからは気を付けないと危ないんだな。」


「そういうこと。でもユーゼンさんがいれば大抵のことは捌いてくれるんじゃないかな?」


「そうだな。こういう場はユーゼンを前面に押し出すことにしよう!そしてオレは酒と上手い飯を食うことに専念しよう。そうしよう!」


 こうしてユーゼンが今後の『破砕の剣』の苦労を一身に背負うことが決まりつつパーティーが終わっていった。 









 

新たにお二方から評価を付けていただけました。

ありがとうございます。


実は2章だけですでに当初想定していた話数を大幅にオーバーしており現在執筆中の3章も・・・このままではその後もお察し・・・

全7章150話程を予定していたのですが無理です。新年早々に諦めました。

ということで長くなる覚悟で進めて行きたいと思います。


本年もよろしくお願い致します。

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