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レゾナンス   作者: AQUINAS
第二章 ハンザ王国~冒険者~
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第六十四話 奇術ショー

「まずは火の章から御覧に入れましょう。」


 演目を観客に伝えた大輝は戦闘エリアの四方に焚かれている松明の1つへと走りその火に手を翳す。ここからはかなりの魔力を消費することになるため、すでに存在している現象を利用することにしたのだ。


「鳳凰顕現!」


 特にキー詠唱が必要なわけではないが、ここからはショーとして魅せる予定なので敢えて雰囲気を出す大輝。


 大輝の言葉と共に松明から炎が分離され、次第にその形を変えていく。大輝がアメイジアに降り立ってから65日目を境に日課となっている魔力操作訓練の結晶がここにあった。


「な、なんだアレは・・・」


「鳥か?」


 観客たちから声が上がる。大輝が作り出したのは全長1メートル程の火の鳥だ。その鳥の姿は平等院鳳凰堂の屋上にある鳳凰像を模したものだ。一万円札に描かれている鳥と言った方がわかりやすいかもしれない。


(演出上、鳴き声とか出せたらいいんだけど、伝説の鳥だけにどんな声だかわからないんだよなぁ。)


 演出家の才能がないことを嘆きつつも細やかな魔力操作に注意を払い、次の動きを開始する。


「鳳凰よ、友を呼び起こせ!」


 大輝の言葉に従って翼をはためかせた鳳凰は炎の糸を垂らしながら別の松明へと飛び込んでいく。そしてその松明の中から2羽となって再度出現する。そして新たに生まれた1羽が次の松明へと飛び込みまた1羽増える。その1羽が戦闘エリアの四方に掲げられた最後の松明へと飛び込み合計4羽となり新たに現れた1羽が大輝のいる最初の松明へとやってくる。これで四方の松明の上に4羽の鳳凰が現れたことになる。


 呆気に取られる観客たち。火魔法をこのように使う者などいない。攻撃魔法であれば炎を球状にして飛ばすのが一般的であるし、魔力量の多い魔法士であれば広範囲を焼き尽くすために絨毯のように広げることもあるが、知られているのはその程度の応用であった。だからインパクトがあった。


「鳳凰よ、舞え!」


 大輝の言葉に頷いて見せる4羽の鳳凰。もちろん大輝の自演であるが。


 戦闘エリアの四方にある松明の上で翼をはためかせて円を描くように舞う鳳凰たちを見て、試合中にもかかわらずムトスは口を開けて眺めているし、観客たちも優美な姿と優雅な舞に見惚れている。


(掴みは上々。)


 大輝の口角が僅かに上がる。しかし、余興とはいえ今は試合中。魔力消費も大きいためこの辺りで火の章は終えなければならなかった。


「鳳凰よ。我らが敵を炙ってやれ!」


 本当なら「焼き尽くせ!」と言いたいところだが、実は鳳凰たちを模る炎の温度はそれほど高くないのだ。魔力量の問題もあるし、なによりもムトスの命を奪うつもりがないのだ。だが、大輝の命に従った4羽の鳳凰たちに視線を向けられた戦闘エリア内のムトスは肝を冷やしていた。


「行けっ!」


 実際に鳴き声は出ないが、顔を天に向けて口を開けた鳳凰たちはまるで返事をしたかのように見える。そしてすぐさま四方からムトスへ向かって殺到する。


「く、来るなぁ!」


 火の鳥という未知の生物だと思っているムトスは大声で拒絶の意を発しながら1羽に向けてエストックを突き出す。しかし、鳳凰は松明の炎を魔力によって増幅して模ったものであり、当然ながら実体はない。ムトスのエストックは1羽の鳳凰の胸をすり抜けていくだけだった。


「ぎゃぁぁああ!」


 4羽の鳳凰に纏わりつかれたムトスが悲鳴を上げる。まるで獄炎に焼かれているかの形相である。


(そこまでの火傷じゃないはずだけど・・)


 すでに鳳凰はその姿を消しているがムトスはまだもがき苦しんでいる。


「おいおい、やりすぎだろ・・・」


「奇術こえ~。」


 観客たちから地面を転がるムトスへ同情が集まるが大輝は平然とした顔で言う。


「いや、あの鳳凰は大した威力籠めてないないんですけど。」


「「「 へ!? 」」」


「いや、だって、あんなに苦しそうじゃないか!」


 せいぜいがⅠ度熱傷レベルのはずなのだ。つまり表皮と呼ばれる皮膚の表層にしかダメージが浸透しておらず、数日で傷跡すら消えてしまうレベルだ。それにもかかわらずムトスが業火の中に居るかのような反応を示すのは思い込みだ。松明の炎4つ分に焼かれるだけでも十分に恐怖であるが、大輝によって魔力で強化され、さらに未知の生物と化していると思うことで数倍にも恐怖感が増しており、自分が重度の火傷を負っていると思い込んでいるのだ。


「皆さん。よく見てください。」


 地面を転がって苦痛の声を上げているムトスを指さす大輝。


「ムトスさんが着込んでいる鎧はおろか、服や髪の毛だって燃えてないじゃないですか!」 


「「 あっ! 」」


「「 ホントだ! 」」


 大輝と観客たちの会話が耳に入ったのか、突然動きを止めるムトス。そしてゆっくりと立ち上がってから自らの身体を確かめる。肌が露出している箇所を中心にそれなりに赤く腫れてはいるものの大した火傷ではないことを確認したムトスは火傷以上に顔を赤くして叫ぶ。


「き、貴様謀りおったな!」


「謀ったもなにも・・・」


「見かけ倒しで大した火力もない技など最早通用せんぞ!」


 大勢の前で情けない姿を晒してしまったムトスはそれを忘れようと自然と声が大きくなっていた。だが、大輝は冷静に言い返す。


「鳳凰も高温に出来ますけど。確かに4羽全てを超高温にするのは魔力的に厳しいですが、1羽、2羽なら可能ですよ。今は余興だから低温に抑えているだけです。」


「ふんっ!全てが威力を持ってこその多角攻撃だろうが。」


「そうでしょうか?見破れるのならそれでもいいでしょうけど、先程の様子を見る限りでは姿形に惑わされていたようですし、その中に本物の攻撃力が1つ、2つ隠れているだけで十分だと思いますが。」


「さっきは油断しただけだ!」


「それなら今度は油断しないで下さいね。本当の攻撃が隠されているかもしれませんから。では、次のステージに行きましょう。水の章。」


 頭に血が昇ったムトスとは会話が噛み合わない事からさっさと次のショーを始めることにする大輝だった。


(ま、冷静でない方がありがたいしね!)


 両手を空へと翳し大気中の水分を魔力を使って集め始めた大輝にムトスと観客の目が集中する。


 大輝が次に選んだのは水龍の顕現だ。松明の火を利用した鳳凰に比べて大気中の水分を集める事から始めなければいけないため、かなりの魔力を消費すると共に顕現まで時間が掛かるのだがムトスは警戒してか攻撃してこない。


「水龍召喚!」


 実際は大気中の水分を集めて形を整えただけなのだが、雰囲気作りのキー詠唱を高らかに宣言する。そして3体の水龍が姿を現した。西洋の翼を持ったドラゴン型ではなく、東洋の蛇型の龍であった。大きさは鳳凰と同じ全長1メートル程。尻尾をウネウネと振る姿は愛らしい。しかし、鳳凰の時と同様に観客たちは息を飲んでいる。


「じゃあ、行きますよ。水龍よ、我が敵を撃て!」


 大輝の言葉に反応した3体の愛らしい水龍が空を舞いながらムトスへと向かっていくが、今度はムトスもしっかりと水龍に対して警戒態勢を取っている。


ボッボッボッ


 3方向から水龍が口を開けて小さな水球を飛ばす。正確には大輝が操作して水龍の身体を構成する水を口から吐き出したかのように分離して射出している。しかし、周囲の観客たちにはまるで水龍が魔法を発動させて水球を作り出したかのように見えていた。


「なぬ!あの龍は魔法も使うのか!」


「奇術ではなく古の召喚術なのかっ」


 驚きの声があちこちで上がっているが、水球で狙われたムトスはそれどころではなく、3方向から次々と放たれる水球を避けるので精一杯だった。


「っく!くそが!」


 普通の魔法士ではこれだけの数の水球を連続して放つことは出来ない。だからこそムトスは低威力だと侮って水龍の放つ水球を被弾することは危険だと認識していた。剣で迎撃することも避け、体術のみで回避に専念する。しかし、これも大輝の思惑通りであった。龍という伝説上の存在を模し、ありえない量の魔法を放ち続ける事でムトスに警戒させているのだ。実際はただの水鉄砲のような水球を。


(でも、そろそろ気付かれるだろうからさっさと次にいこう。)


 水龍の身体を構成している水から分離させて水球を撃っているため、遠目から見ている観客たちは水龍が徐々に小さくなっていることに気付き始めていたのだ。ムトスが気付く前に次のステージに移行しなければならない。


「ええい!水龍よ、飲み込んでしまえ!」


 明らかに芝居がかった声で水龍に命令を下す大輝。その声に従って3体の水龍がムトスに向かって特攻していく。


「舐めるな!」


 水龍の放つ水球を回避し続ける事で戦闘意欲が上がっていたムトスが吠える。ムトスの正面と左右から突っ込んで来る水龍をエストックで迎撃に出るムトス。その場に留まっては3方向同時に捌かねばならなくなるため、まずは正面の水龍へと自ら飛び込んで刺突特化のエストックをまるで片手剣のように振りかぶって叩きつける。


ビシャッ!


 頭にエストックの振り下ろしを受けた水龍が砕ける。そして宙に浮いていた水龍を構成していた水は大気中に溶けていく。一撃で正面の水龍を粉砕したムトスは左右に分かれていた2体の水龍も次々と叩き落していく。


ビシャッ!ビシャッ!


 あっという間に3体の水龍を片付けたムトスが大輝へと向き直る。


「ふん!所詮こけおどしよっ!」


 得意顔を浮かべたムトスだが、大輝は動じない。そこに観客たちからムトスへ声が掛かる。


「ムトス部隊長!後ろっ!」


「喰われるぞ!」


 慌てて後ろを振り返るムトスが見たのは、数十センチまで迫ってきている2メートル以上の巨体を持つ水龍だった。そしてその水龍が大きく口を開けてムトスを飲み込もうとしている。  


「う、うぉぉ!」


 咄嗟にエストックを水龍の口の中に突き入れたムトスだったが、今度の水龍は意に返さずそのままムトスを丸呑みにしてしまった。3体をいとも簡単に破砕出来たことでムトスは剣で水龍は倒せると思っていたのだが、実際はムトスの剣に合わせて大輝が水龍を霧散させたのだ。そして3体分の水分をムトスの背中側で再構成させて一飲みにしたのだった。


「んぐんぐごぼっ!」


 2メートル大の水龍に頭から飲み込まれたムトスは水龍の体内で溺れていた。


(おいおい・・・ほんの少し魔力を体表に纏わせればそんなことにならないだろ!?)


 魔力は他者の魔力と反発する性質があるため、今の大輝が行使している程度の魔法であれば簡単に相殺できるはずなのだ。なにせ大輝にはムトスを傷つける意図がないのだから。鳳凰に始まった大輝の奇術によってすでにムトスが冷静でなく、魔法戦の基本である身体の表面に魔力を張り巡らすということすら忘れる程にパニックになっているからこそこのような事態になっているのだ。


(う~ん、どうしよう。まだ風の章と土の章それから最終章が残ってるけど、この人もうダメそうだな。)


 剣の技量や体術には目を見張るものがあったが、自分の想像の範囲外のことには滅法弱かったムトス。未だに水龍の中でもがいている姿を見てこれ以上一緒に余興を演じるのは不可能だと判断した大輝は風と土の章を公演中止とすることにした。


(振動を利用した風魔法とゴーレムもどきを動かす土魔法もショーとしては見せたかったけど仕方ない。最終章でこの人には眠ってもらおう。)


「ゲホゲホッ、ゲホッ!」


 一旦水龍を解除してムトスに息継ぎをさせた大輝は一気に終幕へと向かう。器官に入った水を必死に吐き出しているムトスの位置を確認した大輝がコロシアムで使った魔法を発動させる。この魔法なら体験者であるゾルや見学していたアルドたちが解説してくれるだろうと思って。 


「ミスト!」


 ムトスと大輝を中心に半径5メートルが霧に覆われていく。


「今度は霧か・・・」


「これじゃ見えないじゃないか。」


「オレはコレにやられたんだ・・・ぐすん。」


 観客たちが騒ぐ間に大輝は気配を殺して未だに咽ているムトスの背後に回る。そして左腕をムトスの首に巻き付け、スリーパーホールドを掛ける。スリーパーホールドは相手の頸動脈を締め付け、脳への血流を遮断することで意識を奪う技である。喧噪が大輝の気配を隠すカムフラージュとなっていたことと、器官から水を吐き出すことに必死だったムトスは簡単に大輝に落とされた。


「解除!」


 大輝の言葉とともに霧が晴れ、観客たちはようやく余興の結末を見ることが出来た。地面に力なく横たわるムトスとその傍らに立ち、腰を90度に折って観客たちへ礼をしている大輝がいた。


「ムトスさんは無事ですがお疲れのようでお休みになっています。ですから余興はここまでということで。」


 頭を下げたままの大輝が立会人のマインツ副団長に試合終了の合図を求める。そしてムトスの状態を確かめたマインツ副団長が試合終了を告げる。


「勝者大輝!これにて余興終了とする。」


「「「 おぉぉぉ!! 」」」


「火の鳥や水の龍とか面白かったぞ~」


「最初の剣舞もよかったよ!」


 どうやらショーとして冒険者たちには受け入れられたようだった。一方、王都で名を知られている王都守護騎士団の部隊長が呆気なく敗れたことに茫然としている騎士も多かったが。




2014年も本日で終わりますね。


振り返ると、本業は中の下、副業の投資は上の下といったところでした。


11月から始めたこの連載は趣味の1つになるのですが、考えていたより1話投稿に時間が掛かっていて見込みが甘かったなぁ、と反省気味です。基軸となるストーリーメモはあるのですが、読み返すと矛盾があったり、掘り起こそうとして予定話数が倍増しそうな気配が漂っていたり・・・この趣味に関しては来年が不安です^^;


では2015年が良い年になりますように★



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