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レゾナンス   作者: AQUINAS
第二章 ハンザ王国~冒険者~
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第六十話 双剣の奇術士

「大輝、おかえりなの!」


「ご無事のお戻りでなによりです。」


 プレーリーレオを討ち取り、ロックアイベックスとロックイーグルの残党狩りを終えた大輝は一旦司令部に戻って討伐完了報告を行い、アッシュ公の終結宣言を見届けた後は宴会に参加せずに真っ直ぐ『食道楽の郷』へと戻って来ていた。アッシュ公に振る舞われた酒には興味がなかったし、連戦の疲れもあったが、なによりも統率者を倒した遊撃隊は目立ちすぎたため大輝は速攻で避難したのだ。


「ただいま。流石に疲れたよ。飯食って寝たい・・・」


 しかしココとシリアがそれを許さなかった。


「お話聞かせて欲しいの。」


「戦闘中も街へは戦況報告が届いていましたし、アッシュ公の終結宣言が出たことも知っています。でも、出来れば前線に立たれた大輝さんから詳しくお聞きしたいのです。」


 美少女と美女のお願いを断れない大輝は身体を清める時間だけをどうにか確保して夕食がてら今日の出来事を語ることになる。




「じゃあ、魔石爆弾は大活躍だったの?」


「もぐもぐ・・・あぁ。予想以上に最後の改良が効いたみたいだったよ。」 


「製法をアッシュ公や王国がアース魔道具店や制作に協力してくれた方々に問い合わせても兵器化は出来ないと思っていいのでしょうか?」


「んぐんぐ。いや、兵器化出来ない事はないと思う。ただ、すぐに今日使った規模の爆発は起こせないはずです。研究を重ねればいずれ完成するでしょうけど。」


 いつもの白米と味噌汁にフォレストウルフと野菜の醤油炒めを頬張りながら話を続ける大輝に対してシリアの関心事は大輝発案の魔石爆弾だった。現在ハンザ王国と敵対しているわけではないが、隠れ村にとって脅威となる可能性はゼロではないからだ。そして当然大輝もそれを考えていた。


「魔石爆弾の仕組み自体は簡単ですからね。オレじゃなくてもいずれ誰かが考え付きましたよ。」


 魔石から一気に魔力を放出する魔法陣を刻むだけなので、それを遠隔操作することに気付けば魔道具職人なら誰でも作れる。


「でも、ただ暴発させるだけなら魔獣はもちろん人間だって殺せません。せいぜいが大怪我する程度の威力ですから。威力を増幅させる手段の全容を知っているのはオレだけです。それに出来る限り制作過程は分業にさせましたし、それらを連鎖的に発動させる手段だけはオレが1人で作業しましたから。」


 大輝が二重三重に機密保持の策を講じていた事を確認して安堵するシリア。その点ココの興味は大輝の活躍ぶりのみであった。


「で、大輝が統率者を倒したの?」


「統率者への先制攻撃はオレが主導したけど、トドメを差したのはアルドさんだよ。」


「『破砕の剣』のあの人がやったの?」


「そうだよ。あ、アルドさんで思い出した。戦闘中に不謹慎なんだけど、遊撃隊の中で賭けをして勝ったから明後日の夜に食事を奢ってくれることになってるんだよ。ココとシリアさんも一緒に来るかい?この街のトップ冒険者パーティー2つが奢ってくれるんだよ。」


「食べ放題なの?絶対行くの!」


   




「まいったな。」


 『山崩し』の翌日を魔石爆弾の制作に協力してもらったアース魔道具店を始めとした人々への挨拶周りへと費やし、その翌日にルビーとリルが奢ってくれるという店へ向かう大輝は神経を尖らせていた。


「何か困ってるの?」


 大輝に便乗して夕食会場へと満面の笑みでついて来ているココが尋ねる。


「いや、あちこちから見られてるせいで監視者なのかどうか判別できなくなってるんだよ。」


「今話題の人物だから諦めるしかないの。」


 迎撃隊の前でブラックウルフの首を切った男として名前と顔が知られ、統率者との一戦に参加した者たちから火炎旋風という未知の魔法でプレーリーレオ3頭を蹂躙した男として誇張した情報が広められたため、今や大輝の名前と顔はノルトの街で急速に広まっていた。結果、出歩くたびに無遠慮な視線とコソコソと囁く声に晒されている。


「そうは言ってもな・・・。一昨日までは監視が復活していないことは確かだけど、この状態だと再び監視が付いても気付かない可能性がある。それだと不味いんだけどなぁ。」


「大丈夫なの。有名人に手を出すようなことはしないはずなの。」  


「確かにこれだけ視線を集めてればそれだけ安全か・・・」


 大輝は諦め顔だが、ココは注目を浴びる事を楽しんでいるようで大輝に向けられた視線に対して手を振って応えていた。後方をついてくるシリアはいつもよりさらに1メートルは距離を取って他人のフリをしようとしていたが。


「ここだな。『美食美酒』っていかにもあの人たちが行きそうな店だな。」


 約束の店の前に到着した大輝の感想である。ノルトの街を代表する冒険者パーティーである彼女たちは稼ぎ頭でもある。貴族たちが通うような店構えではないが高級な部類に入る店であったのだ。イメージ的には結婚式の二次会に使われるような店である。


「早く入ろうなの。」


 ココに背中を押されて店の扉を開けた大輝はすぐに声を掛けられる。どうやら大輝たちが最後の到着だったようだ。


「おぅ!こっちだ。」


 全部で40席程ある店内の中央に配置された一際大きなテーブルからアルドが声を掛けた。大輝と共に奢られる身分の『破砕の剣』が5人、奢る側のルビー率いる『紅玉の輝き』が5人、リル率いる『瑠璃の彼方』が3人の13人がすでに席についていた。


「すいません、遅くなりました。」


 軽く頭を下げてから急いで席に着く大輝に冷やかしが飛ぶ。


「『双剣の奇術士』殿、本日はようこそお越しくださいました。」


「我々の奢りですので思う存分飲み食いしてくださいませ。」


 くくくっと肩を震わせながら茶化すのはルビーとリル。すでにノルトの街で囁かれている大輝の渾名で呼んで楽しんでいる。二つ名と言われないのは大輝がまだEランク冒険者だからだ。これがBランク、せめてCランクの冒険者であれば二つ名として認知される。


「その呼び方としゃべり方はやめて下さい・・・」


 二つ名だろうが渾名だろうがあまり嬉しくない。それに奇術と呼ばれるのも納得がいかなかったし、自分より上位ランクである彼女たちに渾名と共に変な敬語を使われるのも困るのだ。


「まあ、とにかく今日は一昨日の賭けの負け分というだけじゃなく、共に戦った戦友として楽しく過ごそうじゃないか。」


「ルビー姐さんに賛成です。」


「「 ごちになります! 」」


 ルビーが元の豪快な姿に戻ったところでココとシリアを紹介した大輝もようやく一息つく。これだけ話題の人物が揃っている中に入る事で周囲の人々の視線が和らいだからだった。そして飲み物が配られてすぐに姉御肌のルビーが音頭を取る。


「よし、全員杯を持ったね。じゃあ、無事に統率者を討てたことを祝って乾杯!」


「「「 かんぱーい! 」」」


 アルドたちは奢りということもあり、かなりのペースで麦酒を飲んでいる。大輝は果実酒をちびちびと飲みながら大皿の料理を突っつきつつ冒険者同士の交流を楽しんでいた。主な話題はやはり一昨日の『山崩し』の戦闘についてだ。対魔獣戦には珍しい陣地構築やそれを利用した戦術、魔石爆弾、大輝の奇術と次々と話題が提供されてはそれぞれの意見を述べ合う一同。


「いや、何度もいいますけど、奇術じゃなくて魔法の応用ですから。」


 大輝もいい加減流すことを覚えればいいのだが、奇術と呼ばれることに思わず抵抗してしまっていた。


「確かにさっきの説明を聞けば魔法なんだってことは理解出来るんだが、それを思いつく大輝自体が奇人なんだよ。」


「じゃあ、双剣の奇人って呼ぶように噂でも流すか?」


「もう奇人だけでいいんじゃなですかね。」


「いや、それだと貴人と勘違いして平伏する人が出るからまずいのでは?」


 年長の者たちがココを除けば最年少に見える大輝をからかう。しかし、大輝も戦友だと思っているだけに悪い印象は全く持たず、それに真っ向から乗っていた。そして話題は論功行賞に流れていく。


「今回の強制召集の褒賞は過去最高になるって噂ですが、実際どうなんでしょうね?」


 冒険者は褒賞については敏感である。依頼に対して命がけになることも多い彼らに取って当然のことだ。そのビストの質問にはルビーが答える。


「強制召集は滅多にないことだから知らない奴もいるか。強制召集に応じた者への最低報酬はランクごとに違う。Eランクは金貨2枚、Dランクが3枚、Cランクが4枚、Bランクが7枚、Aランクだと10枚が保証される。」


「危険度の高い強制召集の割には少ないですね。」


 ミラーの言う通り、強制召集とは街の危機に対して発動されるため通常依頼より格段に危険度が高い。


「最低保証額がそれなんだよ。実際に支払われる額はそれより多い。今回の場合は3日後の論功行賞のパーティーの時に発表されることになってるのさ。今回は2,000以上の魔石を始め、肉や毛皮といった素材も大量に採取される。今、ノルトの街総出で討伐した魔獣を回収して解体作業を行っているだろ。その売却益が分配されることになるのさ。もっとも、陣地構築や魔石爆弾に経費が掛かってるだろうし全額分配されるわけじゃないだろうけどね。」


「陣地構築は人件費が大半でしょうけど、魔石爆弾は結構お金掛かってると思います。」


 リルの言う通り魔石爆弾の経費はかなりの高額である。1つあたり金貨10枚では済まない。


「分配が減るか。でもアレがなかったら相当数の死人が出ただろうからな。」


「だな。12年前に比べて圧倒的に死傷者が少なかったのはアレのお蔭だから文句は言えん。」


 ゾルとユーゼンも納得顔だった。


「アッシュ公が持ち出しをしてでも褒賞はきっちり払うと宣言してくださったから心配無用だと思いますよ。」


 リルが司令部での内輪話を暴露したことで褒賞に対する期待感が上がる一同。そして褒賞とは金銭だけではない。冒険者ランクも上がる事があるし、手柄を上げた者にはより良い仕事が回ってきやすくなる。


「アルドはBランクに上がるかもしれないね。統率者を討ったのはあんただからね。」


 ルビーの言葉にミラーたちが気色ばむ。


「それを言うなら姐さん方だって貴族に準じるAランクの可能性があるでしょう。」


 現在30名程しかいないAランク冒険者になるということはおそろしく名誉な事である。各国の貴族と同等の待遇になるのだから。


「さすがにAランクにはならないと思うけど、それなりの褒賞はもらえるだろうね。それにあたしとしては一番の手柄は大輝だと思ってるしね。リルもそう思うだろ?」


「はい。戦闘での活躍だけではなく準備段階からの功績もありますから。対策会議に出ていた方々はそのことを知っていますからね。」


 ルビーとリルは調査依頼からノルトの街の冒険者代表として全てに係わっており、大輝がシハスを通して様々な提案をしていることに気付いていたのだ。


「Eランクから一気にBランクに3階級昇格って可能性もあるね。」


「「「 マジですか! 」」」


 大輝の実力を身をもって知っているミラーたちが声を揃えるが、彼らの声音を聞く限りは嫉妬の色は混じっていない。しかし、大輝はそれを苦い顔で聞いている。Bランクになれば街の移動ごとにギルドに報告が必要となり、監視者たちに足跡を残すことになる。


「Bランクなんて早すぎですよ。もしそんな話が来ても受ける気はないです。」


「「「 え!? なんでだよ? 」」」


 相変わらず声が揃う3人衆に尤もらしい理由を説明することにする大輝。本当のことを言えないから仕方ない。


「戦闘力があるだけで高ランクを名乗っちゃダメなんですよ。オレはまだ冒険者歴3か月ちょっとなんですよ。」


「別にいいんじゃないか?」


「いえ、絶対にダメなんです。オレはこれまでに街中と郊外の雑役依頼と配達依頼しかこなしたことがないんです。護衛依頼も魔獣討伐依頼も盗賊討伐依頼も未経験なんですよ。そんな経験不足の人間がBランクはまずいと思います。だって、依頼中は高ランク冒険者に指揮権があるわけですよね?経験がないオレが指揮権を持つなんてありえないですし、依頼者もBランクのくせになんだコイツって思うはずです。それでは依頼者にとっても一緒に行動する冒険者にとってもよくないですし、ギルドの信用問題にもなりかねません。もちろんオレ自身にとってもキツイです。」

 

「あぁ・・・そう言われればそうだな。」


「ってか、大輝ってまだ3か月の初心者なんだな。」


「ちょっと凹むわ。」


 ようやく声が揃わなくなった3人衆。共に戦場を回ったお蔭でわだかまりはなくなったのだが、少し劣等感を感じているようだった。だから事実を混ぜて気遣いを見せる大輝。


「戦闘力だけはガキの頃から仕込まれてきたんでそれなりに自信があるんですが、先輩方に比べて経験値が圧倒的に不足してるんですよ、オレ。」


「そうか。討伐依頼や盗賊退治ならオレたち経験あるからなんでも聞いてくれ。」


「なんならそっちの嬢ちゃんたちも一緒に2パーティーで一緒に依頼を受けてもいい。」


「あ、言っとくけど、下心はないぞ?」


 大輝のBランク拒否理由に納得し、いらぬコンプレックスも消えたミラーたちを見ながら大輝はそっと周囲に視線を巡らす。先ほどから妙な視線を感じていたのだ。最初は昨日から続く興味の視線を向けられていると思って無視していたのだが、どうやら違ったようだった。視線の主たちを確認した大輝は努力の末に身に着け、師匠によって強化された記憶力をフル活用して相手を検索し、彼らの素性を割り出すとともにその目的を推測する。


(こっちの人たちは買収か勧誘だよな。でもあっちの人たちはなにが目的なんだろう?)


 大輝が頭を捻っている最中に片方のグループが中央の一際大きいテーブルに陣取る大輝たちに近づいてくる。そしてルビーの前まで来て話し掛けて来た。


「遊撃隊の皆さまですね?少しいいかしら?」







 

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