第五十八話 プレーリーレオ
メリークリスマス♪
ミッション系の学校にいたのでクリスマス礼拝とかクリスマスツリーの点灯式とかが懐かしいです。
百獣の王ライオンの魔獣化したものをプレーリーレオと呼ぶ。
アメイジアにおいてもライオンは捕食者の頂点と呼ばれており、天敵となる相手はいない。そして一種のハーレムとも言えるプライドという群れを形成している点も同じであった。少数のオスと多数のメスで構成されるプライドは多くの男性にとって羨望の的であるが、現実はそう簡単ではない。他のオスたちが虎視眈々とプライドのボスの座を狙っているからだ。時には命を懸けた決闘が行われるし、ボスたる威厳も保ち続けねばならないのだ。
「知ってるだろうが確認しとくよ。」
徐々にプレーリーレオ3頭がいるエリアに近づきながらルビーが全員に話し掛ける。
「ライオンのメスは群れで狩りをする。だからあの2頭は連携してくるだろうから注意が必要だよ。出来れば分断して仕留めたいね。それからオスが怠け者で弱いっていうのも嘘だからくれぐれも用心しな。」
「でもメスが狩りをしてオスに献上するんでしょ?オスは1日の大半は寝てるだけって聞いたけど。」
「ライオン自体が1日のうち20時間は樹上で休息する生き物なんだよ。それにオスはプライドという群れを守る為に他のオスと戦ったり、大型生物専門のハンターでもあるんだよ。つまり強敵の相手をするのが仕事さ。」
「ってことは一番強いのはあの中央に居るオス?」
「そうさ!だから3パーティーをオスに当てるのさ。メスには2パーティーずつだけど分断出来なければ4パーティー共同で当たることになる。だからこの組み分けなのさ。」
ルビーの言葉にようやく納得する遊撃隊のメンバー。樹上の作戦会議でどのパーティーがハーレム王とも言えるオスを討ち取るかで少し揉めていたのだ。全員がメスに比べて弱いにもかかわらず統率者であろうオスのプレーリーレオを討ち取る役目に就きたかったのだ。しかし、ルビーの組み分けでは大輝、『破砕の剣』、『疾風迅雷』の3組がハーレム王へと割り当てられた。それでギスギスした空気が流れ始めていたのだが、ルビーの説明で大きな亀裂にまでは至らなかった。
「あたしの組とリルの組がそれぞれメスの相手を受け持つが場合によっては共闘になる。あたしたちの連携ならメスたちの連携に劣らないだろ?それに大輝の戦闘力はブラックウルフとさっきのフォレストベアーで証明されてる。そこにあたしとリルのパーティーに次ぐ評価を受けている『疾風迅雷』と大輝と面識のある『破砕の剣』を組ませればあのハーレム王様に対抗出来るだろう?」
「出来る限り早くメスを倒して援護に向かいますのでご安心ください。」
ルビーとリルの隊長副隊長コンビがここまで言えば誰も反論しなかった。
「じゃあ、そろそろメインディッシュを食べようか。」
ルビーの気負いのない声に全員が頷く。
遊撃隊はプレーリーレオ3頭の正面からぶつかることにしていた。Bランク魔獣であるプレーリーレオを相手にして草原で奇襲を掛けるのは分が悪いと判断したためだ。そして遊撃隊30名とプレーリーレオ3頭が30メートル強の距離で睨み合う。魔獣化することで能力が強化されているだろうが、野生のライオンは持久力が低く獲物と30メートルまで距離を詰めてから襲い掛かって来ることが多い。だからこそこの距離で一旦停止して魔法による先制攻撃を行う。
「火魔法用意!」
ルビーがプレーリーレオを刺激しないように小声で指示を出す。それに従って8人の冒険者が魔法発動の準備に掛かる。歩きながら下準備を整えていた魔法士たちはすぐに準備を終えて発射指示を待つ。
「大輝、こっちの準備はOKだ。」
「私もいつでも放てます。」
ルビーとリルから今回の先制攻撃の要である大輝に声が掛けられる。『破砕の剣』との模擬戦で奇術士として密かに名が知られていた大輝の奇術が今回の初撃の肝なのだ。
「アルドさん、テンカウントお願いします。」
かなりの集中力を要するためプレーリーレオに視線を固定したまま答える大輝にアルドがカウントを開始する。
「先制攻撃10秒前、9,8,7・・・3,2、1、放て!」
アルドの声に合わせて8人の火魔法の使い手から一斉に魔法が放たれる。
最も強力な炎を放ったのは『紅玉の輝き』の魔法士たちだ。そもそも紅玉とパーティー名に付けたのは火魔法が得意な魔法士と火魔法を付与された武器を持つ剣士がパーティーを組んだからだ。中でも超一流とされる火魔法7のスキルを持つ魔法士の生み出した炎は近くにいる者たちに大汗を掻かせている。
そんな火魔法が遊撃隊から放たれた直後に大輝が風魔法を発動させる。
「竜巻旋風!」
某格闘ゲームから一部を拝借したネーミングをキー詠唱とした魔法が大輝からプレーリーレオに向かって放たれる。効果は読んで字の如く竜巻のような巨大な旋風を起こすことだ。通常、竜巻とは発達した積乱雲によって上昇気流を伴う高速の渦巻きが発生し、それが地上にまで伸びたものだとされるが、魔法でそれを完全に再現することは出来ない。やろうとすれば異世界人100人分以上の魔力が必要となるだろう。だから大輝は偽竜巻と内心思っている。
(それでも狙い通りに行くはず・・・)
大輝は慎重に竜巻旋風を操作して8人の火魔法と僅かなタイムラグでプレーリーレオへと着弾させる。
ドドッドーン!
8人分の火魔法がプレーリーレオ3頭の居た場所に着弾するも予想通り3頭は魔法を回避する。統率者であるオスを庇うように前に出ていたメス2頭は左右に飛び去り、後方に控えていたオスはバックステップで躱している。そこに大輝の竜巻旋風が着弾する。
ブゴゴゴゴッ!
大輝が狙ったのは回避したプレーリーレオではなく、火魔法が着弾した場所だ。なぜ避けられるとわかっていた火魔法へと追撃弾を放ったのか?その答えはすぐに出た。
8人分の火魔法が草原の草を燃やしているところを包み込むように放たれた竜巻旋風は次第に火炎旋風へと姿を変えていった。そして周囲の空気を取り込みつつ旋風の内部で炎が増幅され、上昇気流によって火柱へと変化している。地上付近の火炎旋風の直径がおよそ5メートルにまで達したところで大輝が次のステップへ移行する。
「火炎弾射出!」
巨大な火炎旋風へとプレーリーレオの注意を集めた大輝が上昇気流によって上空へと運ばれた炎をまるで火口から溶岩が噴き出されるかのように連続して吐き出させる。
ドーン!ッドドーン!ッドーン!
大輝は細かい狙いなどつけていない。いや、精密な狙いをつけられなかった。火炎旋風の維持と炎射出時の方向を設定するだけで精一杯だったのだ。
(っぐ!予想以上にキツイ・・・)
風魔法の竜巻旋風を維持しているだけでも相当な魔力を消費している上、8人分の火魔法を内部に抱え込み炎を増幅させる火種替わりにしているのだ。その上で上昇気流に乗った炎をプレーリーレオ3頭へ向けて放っているというこの状況は魔力的にも脳内処理的にもかなりの負荷が掛かっていた。それでも目的を達するまでは魔法を解除するつもりはなかった。
「ボケっとしてんじゃないよ!そろそろ突っ込むから準備しな!」
見たことのない炎の竜巻に目を奪われていたのはプレーリーレオだけではなく、遊撃隊もまた硬直していたのだ。事前に話は聞いていたが、実際に目の当たりにすると衝撃具合が違う。それをルビーが叱咤して次の行動の準備を促す。
「大輝の奇術で3頭へ手傷を負わせて分断したら各個撃破です!」
「それぞれの相手へと移動を開始しな!ただし、接近するのは大輝の奇術が解除されてからだからね!」
精密な狙いがつけられない大輝の火炎弾が味方に当たってしまう可能性を考慮して注意を促した時。
「っくぅ・・・」
大輝の呻き声が漏れる。そろそろ限界が近いのだ。しかし、プレーリーレオ3頭を見れば十分な成果をあげたようだった。1分近い火炎弾の嵐によってプレーリーレオたちは全身に火傷の痕が見られ、完全に分断されていたのだ。
「最後に一斉射します!」
大輝が苦し気に宣言した3秒後。
ドドドドッドーン!
火炎旋風内の炎が全て上空へと巻き上げられ、3方向に向かって飛散していく。もちろん3方向とは3頭のプレーリーレオが逃げ惑っている場所だった。
「突撃!」
轟音が鳴りやんだ瞬間に大輝を除いた6パーティー29名が一斉に標的となるプレーリーレオへと突っ込んでいった。大輝は予想以上の負荷にすぐには動けなかったのだ。
「はぁはぁふぅ・・・」
膝を突いて呼吸を整える大輝の目には、3組に分かれて戦闘を始める遊撃隊の姿が移っている。
左手ではルビー率いる10人の冒険者が左前脚を引きずっているメスのプレーリーレオへと大攻勢を掛けている。右手ではリル率いる9人の冒険者が遠距離からの魔法攻撃と剣による接近戦をリズムよく繰り返して主導権を握っている。正面の『破砕の剣』と『疾風迅雷』は統率者であるオスのプレーリーレオに対して一撃離脱に徹している。主戦力である大輝が戦線復帰するまでは時間稼ぎを行っているのだ。
「よし・・・だいぶ回復した。」
3分ほど掛かって息も整い、頭痛も落ち着いたことで立ち上がる大輝。一気に魔力を放出したことで身体はまだ倦怠感に包まれているが参戦出来ない程ではなくなっていた。改めて身体強化を施した大輝が正面の統率者に向かって走り始める。
「遅くなりました!」
『破砕の剣』と『疾風迅雷』に一声掛けて戦列に加わった大輝にアルドが声を掛ける。
「あれだけの大奇術を使った直後だ。無理をするなよ。」
このチームの役割分担は明確だった。『疾風迅雷』が風魔法と機動力を活かして牽制役を担い、大剣を持つアルドを始めとした火力の高い『破砕の剣』が攻撃を担当する。そして大輝はその両方のサポートに徹する。大輝が復帰するまでは慎重を期して『破砕の剣』が攻撃を控えていたのだ。
「そろそろ攻勢に出るぞ!」
「「 おぅ! 」」
アルドの声にミラーとビストがアルドと共に前に出る。体長は4メートル、肩高1.5メートル、体重300キロ以上のBランク魔獣プレーリーレオに臆さず前へ出る彼らの勇気は称賛に値する。
「我が手によりて吹き荒れよ、一陣の風!」
事前の手順通りにまずは『疾風迅雷』がプレーリーレオの注意を引くべく風魔法で攻撃を仕掛ける。それを合図にして投げナイフや土魔法の石礫が殺到する。すでに大輝の火炎弾によって全身に火傷を負っているプレーリーレオはこれらの攻撃を無視できなかった。万全の状態であればほとんど気にせずに狙った獲物へと集中し、順番に屠っていこうとしただろう。しかし、すでに自慢の肉体は傷つけられており、さらなる攻撃を受ける事は危険であると判断したのだ。
「っせい!」
「しゃぁ!」
身を捻って『疾風迅雷』の攻撃を躱そうとするプレーリーレオへミラーとビストが大剣を振り下ろす。しかし、体長4メートルのプレーリーレオの懐に入るのは危険度が高すぎており、剣の間合いぎりぎりで振るわれた剣はプレーリーレオがわずかに下がっただけで空を切る。そこにアルドが飛び込む。
「喰らいやがれ!」
剣術だけではなく体術と身体強化にも自信のあるアルドは連続回避によって体勢の崩れたプレーリーレオへと身体を投げ出すようにして大剣を振るう。
「危ない!」
ユーゼンの短い叫び声が聞こえる。アルドの大剣を躱せないと悟ったプレーリーレオが肉を切らせて骨を切る、とばかりに左の前肢をアルドの顔目掛けて振るおうとしていたのだ。
この時、右上段からプレーリーレオの顔に向かって大剣を振り下ろし始めていたアルドには選択肢があった。1つはこのまま大剣を振り下ろしてプレーリーレオに大ダメージを与えた上で自身も瀕死の重傷を負うこと。2つ目は大剣を手放して攻撃を止め、左前肢の攻撃に備えること。それでも全力で大剣を振りかざしたアルドには完全に避ける事は出来ず、この後戦線に復帰出来ない程度のダメージを受ける事になるだろう。果たしてアルドの選んだ道は・・・
刹那の迷いもなくアルドは大剣を振り切った。
ザシュッ!
ブォォォォッ!
斬り付ける瞬間に魔力を流して刀身に炎を纏わせたアルドの魔法剣はプレーリーレオの鬣を燃やしつつ顔面を切り裂いた。そして同時にアルドの身体に衝撃が加わる。
「ぐわぁっ!」
180センチを超えるアルドの身体が宙を舞い5メートル程横に吹き飛ばされた。全力で大剣を振り切った直後に吹き飛ばされたために受け身も取れず、地面に落ちてからも身体は回転を続け10回転ほどしてようやく止まる。そして大声で叫ぶ。
「てめえ、大輝!助けるにしてもやり方ってもんがあるだろうが!」
Bランク魔獣プレーリーレオの捨身の一撃を受けたにしては元気な、そして的外れな罵声を口走るアルドに全員の注目が集まる。状況を理解しているのはアルド本人と大輝を除けばユーゼンと『疾風迅雷』のリーダーだけだった。
「馬鹿を言うなよ?助け方はオレが決めるし、助けられた方が文句言うな!」
つい罵声に罵声で答えてしまう大輝。実際、今の大輝に他の助け方は出来なかったのだ。アルドの大剣がプレーリーレオを捉えた瞬間に風魔法で突風を起こしてアルドにぶつけたのだ。そしてアルドもその風魔法が大輝によって放たれたことを理解して抵抗せずに吹き飛ばされることを選んだ。そのお蔭で間一髪プレーリーレオの左前肢の一撃を回避できたのである。
「いや、確かにそうなんだが、お前ならもっと優しく着地させることも出来るんじゃないか?」
「万全の状態なら他にも方法があったけど、魔力と脳内処理的に今はキツイんだよ!確実に回避させるにはあれが一番だったのは間違いない。」
「まあ、確かにあれだけの奇術だからな・・・だけどよ・・・」
「そんなことよりまだ憎きハーレム王は生きてるぞ!」
イマイチ納得出来ずにぐちぐちしているアルドの意識を戦闘へと引き戻す大輝。アルドの炎を纏った魔法剣によって顔を斜めに斬られて大量の血を流しながらもまだ地に伏していないのだ。
「しぶとい!行くぞ!」
アルドを先頭にして再び攻撃を加える『破砕の剣』。そしてすでにプレーリーレオに余力がないことを見て取った『疾風迅雷』も牽制ではなく攻勢に出る。剣士が斬りつけては下がり、その合間に殺傷力の高い魔法が叩きつけられ、再び剣士が前に出る。魔獣化によって身体が強化されたプレーリーレオだが、アルドの一撃によってすでに右眼が塞がっており狭い視界によって回避が出来ず、次第に肉体を傷つけられていく。そしてついに11人の猛攻には耐えられず最期を迎えることになる。
「いい加減に逝きやがれ!」
アルドの上品とは言えないセリフと共に放たれた大剣の突きがプレーリーレオの眉間に突き刺さったのがトドメとなり、ゆっくりと巨体が倒れていく。
ドーン!
「「 やったか! 」」
何かのフラグが立ちそうなセリフがビストとゾルから聞こえてきたが、アルドがその可能性を否定する。
「完全に死んでる。統率者は倒したぞぉ!」
「「「 っしゃぁ! 」」」
歓声を上げる一同。そこに更なる朗報が届く。
「こっちも終わったよ。全員無事ね。」
「同じく討伐完了です。怪我人は出ましたが治療魔法で治せる範囲です。」
ルビーとリルたちが笑顔を浮かべて近づいてくる。遊撃隊は誰一人として犠牲になることなくBランク魔獣3頭を屠ることに成功したのだった。
「やりましたね!」
大輝も充足感で満たされていた。白き世界でもBランク魔獣と戦ったことはあったが、3頭同時に相手をすればまず勝てない。2頭が相手でも勝てる可能性は低い。仲間が居てこその勝利であり、誰一人として失うことなく勝てたのが嬉しかった。だが、勝利に酔っている場合ではないことをルビーが示す。
「まだサロン部隊長が残党狩りをしている。合流するよ!」
『山崩し』の本隊は壊滅させたが、まだロックアイベックスやロックイーグルといったDランク、Cランクの魔獣が残っているのだ。遊撃隊の面々は勝利の余韻を胸に最後の仕事へと向かって行った。
作者へクリスマスプレゼントとして評価を下さった方ありがとうございます。
クリスマス当日の今夜も期待してよろしいでしょか(笑)
年末年始も予約投稿で毎日更新が途切れないようにするつもりです。
皆さまよいお年を!




