表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レゾナンス   作者: AQUINAS
第二章 ハンザ王国~冒険者~
62/145

第五十七話 遊撃隊出撃

「来たわね。」


 ムトスが2頭のプレーリーレオの奇襲に遭っていた頃、遊撃隊のいる樹上からは援軍が向かって来るのが見えた。そしてその先頭に『疾風迅雷』のメンバーがいるのを確認する。彼らが率いて来たのは包囲殲滅戦で出番のなかった右翼と左翼の後方に控えていた騎兵500と包囲殲滅戦に参加していた者たちの中からまだ戦える有志100名の合計600名だった。


「すぐに作戦会議に入るよ!」


 遊撃隊の隊長であるルビーの呼び掛けで遊撃隊7パーティーのリーダーと騎兵500を率いるサロン部隊長の8人が車座になって最終決戦の段取りを打ち合わせる。サロン部隊長はすでに撤退を開始している予備隊が気になって仕方ない様子だったが、アッシュ公とシハスに遊撃隊の指揮下に入るように厳命されていたことと、樹上で待機中だった大輝たちによってすでに作戦が立てられており、打ち合わせというより自分たちへの作戦説明だったことで大人しく聞いていた。そして打ち合わせ開始からわずか3分で行動に移る。 


「決着を着けに行くよ!」


 ルビーの声に頷く630名の戦いが始まる。




 行動を開始したルビーたちの目の前では予備隊が撤退戦を行っていた。すでにロックアイベックスへと突撃を行っていた騎兵の姿はなく、フォレストベアーと対峙していた騎士たちも倒されるか撤退戦に加わっているのだろう。大盾を持った重装歩兵が殿となって西にあるノルト砦へと徐々に後退していた。


 魔獣の群れの追撃は激しかった。ロックイーグルが上空を旋回しつつ圧力を加えており、殿を務める重装歩兵に対してロックアイベックスが突撃を繰り返し、フォレストベアーがその太い腕を大盾に叩きつける度に隊列が崩れていく。それでも騎士たちは歯を食いしばって耐えている。


「まずは予備隊と魔獣の群れを引き離すよ!騎兵の準備はいい?」


「いつでも行ける!」


「くれぐれもフォレストベアーの近くは通らないでよ。一撃で吹き飛ばされるからね!じゃあ、よろしく!」


 ルビーとサロンが言葉を交わすとすぐに騎兵500騎が前に出る。


「第一陣250騎は重装歩兵の後方30メートルを!第二陣は重装歩兵のすぐ後ろを駆け抜ける!奴らを予備隊から引き離すぞ!」


「「「 おぅ! 」」」 


「第一陣突撃!」


 サロンの突撃命令で250騎が駆け出す。フォレストベアー10頭は現在重装歩兵の最後尾に取り付いており南から北へ向かって突撃する第一陣の進路上にはいない。第一陣の目的は魔獣の後方部隊の行軍を止めることと、重装歩兵の最後尾に取り付いている群れの注意を引くことである。


「第二陣突撃!」


 第一陣が動いてから30秒後に再びサロンの号令が掛かる。サロンを先頭にした第二陣が出撃していくが、彼らの目的は第一陣の突撃によって後方に注意が向いた重装歩兵の最後尾に取り付いている魔獣たちを完全に引きはがすことである。また突撃の際に予備隊へ陣形を維持せずに砦へと全力疾走するように促すことも任務の1つであった。


 ルビーたちが魔獣の群れと予備隊を引きはがす目的は2つ。1つ目はグラート王子を助ける事だ。当初は見殺しにする判断を下していたのだが、それは遊撃隊だけしか戦場の近くにいなかったからだ。騎士団から騎兵500騎を借りる事が出来た今は騎士団の面目のためにも、グラート王子に恩を売って謝礼をもらうためにも救出を選択したのだ。もう1つは、単純にこの後の作戦に予備隊が邪魔だからだった。


「サロン部隊長のタイミングと行軍速度は抜群だね。」


 ルビーが笑みを浮かべていた。騎兵がフォレストベアーにかち合わないながらも注意を引きつけるのに最適なタイミングを計り、騎兵に損害が出ない範囲で目一杯馬の速度を落として予備隊から魔獣を引き離していた。予備隊の方をみれば、サロン部隊長の指示に従って完全に敗走している。これで第一段階は完了だった。


「投擲準備は出来てるわね?」


 ルビーが振り返った先には20人が頷いている。投擲と言っても、ナイフや槍を投げるのではない。彼らが投げるのは黒い液体に濡れたままの麻袋だ。そのソフトボール程の大きさのボール状になっている麻袋にはやはり黒い液体に濡れた紐がついている。


「魔石爆弾・手榴弾バージョン行ってみましょう!」


 大輝の付けた名前が気に入ったのか、楽しそうに言うルビー。


(オモチャみたいに言うけど、それは兵器です・・・)


 大輝が頭を抱えるがそれを見てさらに笑みを濃くするルビーが号令を掛ける。


「目標はわかってるわね!投擲開始!」


 身体強化によって腕を強化された投擲部隊が一斉に助走をつけて魔石爆弾・手榴弾バージョンを魔獣の群れに向かって投擲する。


(うん。やっぱり予備隊と魔獣の群れを引き離して正解だったわ。)


 50メートル先に正確に投擲するのは難しい。完全な球体でもなく、重心のブレもある魔石入りの麻袋なのだから当然だった。着弾予定の場所から20メートルも逸れているものすらある。だがルビーはそれも想定内とばかりに爆破を指示する。


「起爆スイッチオン!」


 アメイジアには無い言葉だろうが大輝が漏らした言葉をそのまま宣言するルビーとその意味を理解した投擲部隊が手元の紐へと魔力を籠める。


ッドッドドドドーン!


 予備の魔石爆弾として司令部に残されていた20個を手榴弾バージョンとして使ったのだが、その威力は凄まじい。騎士団の突撃によって足を止められていたロックアイベックスが30頭ほど宙を舞い、その倍程の数が衝撃で転倒している。さすがにCランク魔獣であるフォレストベアーは全頭生き残っているが血を流している個体もいることからそれなりのダメージを与えられたようだった。


「よし!第二段階も成功!次に行くよ!騎兵に合図を送って。」


 ルビーはご機嫌だった。予備隊と遭遇したときの不機嫌さはとっくに消えていた。


ヒュリロロロ~


 鏑矢が珍妙な音を響かせるのに合わせてルビーたちも動き出す。ここからは接近戦なのだ。


「魔法士たちは上空のロックイーグルの牽制、近接戦闘が出来る者は魔法士の護衛だよ。突撃!」


 北からはサロン部隊長率いる騎兵500騎がロックアイベックスとフォレストベアーを引き離すべく隊を細かく分けて突撃を開始している。第三段階での騎兵の役割はロックアイベックスとフォレストベアーの分断とロックアイベックスの殲滅である。すでに半数近くが魔石爆弾・手榴弾バージョンによって倒されるか手傷を負っていることから問題ないだろう。


 100名の有志たちは上空のロックイーグルの牽制を受け持つこととプレーリーレオの監視、遊撃隊の7パーティーはそれぞれが最速でフォレストベアーを討ち取ることが求められていた。


「おそらくすぐには動いてこないと思うけど、プレーリーレオが動き出す前にフォレストベアーは沈黙させるよ!」


 遊撃隊の面々に念を押して自ら手近なフォレストベアーに斬りかかって行くルビーたちを見てそれぞれが自分たちの獲物を定めては攻撃を開始する。 


(オレの獲物はっと。)


 ソロで1パーティーに数えられている大輝は1人でフォレストベアーの相手をしなければならない。前回フォレストベアーと戦った時はエリスたちの魔法の援護があった。援護とは言っても、直接的な攻撃は一切させなかったが。


(エリスたちは元気にやってるかな?)


 1人でCランク魔獣を相手にするというのに4人の女の子の事を考えている大輝はやはり異常と言える。だが、これは敢えて大輝が自分の精神状態を落ち着けようとした結果であった。


 魔獣との戦いにおいて、慢心はもちろんしてはいけない事だが心に余裕がないのも非常に危険なのだ。冷静な判断力が失われた者から倒れていく。それに比べれば大輝の状態は非常に良いとも言えた。


「よしっ!」


 標的の前に到着した大輝は双剣を構えて気合の声を上げながら再確認する。フォレストベアーの攻撃で注意しなければならないのは膂力を活かした前肢の攻撃と鉤爪により切裂きである。また毛皮と筋肉に覆われた肉体は強靱そのものであり、中途半端な攻撃は跳ね返されてしまう。だから前回は目と口を狙った。


 だが、今回は時間を掛けてタイミングを見極めてから仕留める訳には行かない。これまでの予備隊との戦闘を見る限りプレーリーレオはすぐに動かないと予想しているが、予想外の行動に出られると厄介な為出来る限り早くフォレストベアーを倒しておきたいのだ。 


(最初から全力で行く!)


 決めていた手順を開始する大輝。身体強化を全開にした上で切れ味を優先して造られた右の小剣に風魔法を纏わせる。アルド戦で使おうとした旋風を纏わせるタイプではなく、電動ノコギリをイメージした高速振動を風で再現したのだ。そして防御に重点を置いた肉厚の刀身を持つ左の小剣には炎を纏わせる。ただし、こちらはフォレストベアーの視線を引き寄せる為の餌であるため一見派手に見えても攻撃力はほとんどない。次に戦うプレーリーレオの為に魔力を温存する必要があるからだった。


 そして準備の整った大輝がフォレストベアーへ急接近する。


(まずは魔獣の嫌う火魔法で目晦ましだ!)


 あと3歩でフォレストベアーの前肢の射程圏内に入るというタイミングで左の小剣に纏わせた炎から一部を切り離して火球を形成する。そしてフォレストベアーの顔目掛けて発射した。


「グォォ!」


 明らかに威力の低い火魔法にもかかわらずフォレストベアーは嫌がる素振りを見せて顔を背ける。その隙に小剣の届く範囲に侵入した大輝が炎を纏わせた左の小剣を振りかぶってフォレストベアーの顔に叩きつける。


ッジュ!

 

 弱い炎ではあるが、顔をガードしたフォレストベアーの左腕の体毛がわずかに焦げている。そして炎と共に接近した大輝を遠ざけようと左腕で顔をガードしながら闇雲に右腕を振るい始めるフォレストベアー。しかし、顔を半分以上隠しているために視界が極端に狭まっており大輝には当たらない。そして振るわれる右腕に対して確実に右の小剣でカウンターを取っていく大輝。その狙いは正確で、切れ味を強化した小剣によって手首の同じ位置に3度刃を当てたところで斬り落とすことに成功する。


「グォォオオ!」


 炎を嫌がった結果右手首を失ったフォレストベアーが吠える。しかしこれも大輝が狙っていたタイミングの1つだった。痛みによって吠える時にはどうしても身体が硬直する。それはフォレストベアーに残された攻撃手段である左肢による攻撃が来ないことを意味する。


(それならば全力で攻撃するまで!)


 立ち上がって吠えるフォレストベアーは4メートル近い高さになる。エリスたちとの共闘では口に小剣を突き刺したタイミングだったが今回は違った。フォレストベアーの後方に回り込み、身体を大きく右に捻ってから切れ味の上がった右の小剣を無防備な後肢に叩きつけたのだ。そして間髪入れずにもう片方の後肢にも斬りつける。


ドドーン!


 大輝によって左右の後肢の腱を斬られたフォレストベアーが前のめりに倒れた音が響く。手首と両足の腱を斬られたフォレストベアーは息は合っても攻撃手段どころか移動手段も失った。それでも健在な左腕だけでも近づけば危険なため大輝はトドメを差す。無防備に晒されている脊髄へと飛び上がって落下の勢いをつけたまま小剣を突き刺す。


 フォレストベアーは最期の声を上げる事なく絶命した。それを見届けた大輝は次の相手を探し始める。Cランク魔獣のフォレストベアーは10頭、遊撃隊のパーティー数は7。つまり3頭は上空のロックイーグルを牽制している魔法士の護衛についている者たちが相手をしているのだ。すぐに援護に向かう必要があった。



 


「助かった!」


「援護感謝する。」


 口々に礼を述べる上空牽制の任を負っている者たち。感謝されているのは、ルビー、リル、大輝の3パーティーだ。この3パーティーがほぼ同時に1頭目のフォレストベアーを倒して援護に駆けつけ、瞬く間に3頭のフォレストベアーを屠ったのだ。撃破スピードから考えて彼らが選抜された遊撃隊の中でも突出した力を持っていると言える。しかし大輝は別のことを思っていた。


(7パーティー全部が魔石爆弾・手榴弾バージョンで無傷だったフォレストベアーへ向かって行ったな。手傷を負っていた3頭を後回しにした判断力があったから牽制部隊が無事だったんだ。アルドのところはユーゼンが指示したんだろうけど・・・)


 シハスが選抜したパーティーだけあって優れた判断力を持っている、と感心していたのだ。そこにルビーとリルが話し掛けて来る。


「上空のロックイーグルはCランクで厄介だけど慎重な魔獣だから魔法士たちが牽制の魔法を放っていれば近寄ってこないみたいだね。」


「地上と空の違いが影響しているのか統率者の支配が薄いのかもしれません。」


 2人の言葉通り、上空を旋回しているロックイーグルは無謀な攻撃を仕掛けて来る様子はなかった。


「それならばプレーリーレオ戦に移りましょうか。」


「ロックアイベックスもサロン部隊長に任せておけば大丈夫です。」


「こっちも無傷でフォレストベアーを仕留められたみたいだし、事前の打ち合わせ通りに行くよ!準備しな!」


 7パーティー30人の遊撃隊とプレーリーレオ3頭の戦いが始まる。 



サンタさん・・・感想と評価とかは配ってませんか?


靴下をぶら下げてお待ちしております

<(_ _)><(_ _)>ペコッ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ