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レゾナンス   作者: AQUINAS
第二章 ハンザ王国~冒険者~
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第四十八話 開戦前

 アメイジア新暦745年12月7日11時。ハンザ王国ノルトの街の北に急遽造られた高台の周りには騎士団、警備隊、冒険者と3種の戦闘者たちが集結していた。その高台の中心にいるのはそれぞれの戦闘者たちを直接指揮するマインツ副団長、クロッカス警備隊長、Bランク冒険者のラフター、総指揮を執るシハス戦闘統括者と予備隊の代表であるグラート王子、ノルトの街の領主アッシュ公、冒険者ギルドのマスタースレインの7人だ。後方支援に回る騎兵500を預かるサロン部隊長はこの場には来ていなかった。


「私がこの街の領主を務めるアッシュ・リューベックだ。皆の者、聞いてくれ。」


 高台の周囲にいる戦闘者たちに声を張り上げるアッシュ公に全員の注目が集まる。


「まずはこれだけ多くの者が集まってくれたことに感謝する。」


 迎撃を担当する騎士団500、警備隊700、冒険者500を前にして頭を下げるアッシュ公。


「あと2時間もすれば『山崩し』がこの街へ向かって発生する。すでに各部隊の作戦は頭に入っていると思うがもう一度スレインに状況を説明してもらう。」


 アッシュ公に代わってローブ姿のスレインが前に出る。


「冒険者ギルドの長を務めるスレインだ。最新の情報を伝える。魔獣の群れはおよそ2時間後にこの陣地へと到着すると思われる。敵の総数はおよそ2,000、12年前の2倍近い数だ。だが、こちらも後方からの挟撃部隊、包囲部隊、予備兵らを含めて総数3,700が揃っている。必ずや撃退できるだろう。」


 スレインの力強い声が響き渡る。


「次は魔獣の群れの詳細と対応の注意点だ。『山崩し』では魔獣の種類ごとに波状攻撃を仕掛けて来ることはすでに知っているだろう。今回は少なくとも5波だ。第一波はフォレストドックが400以上来るはずだ。これは司令部たる高台の北100メートルに掘られた第一塹壕の外で即刻蹴散らしてもらたい。第二波が来る前に蹴散らして第一塹壕の内側に戻ってくれ。」


 Gランク魔獣であるフォレストドックが相手であれば鎧袖一触だ。そして塹壕だけではなく魔獣の死体も次に襲来する魔獣の足止めに使う作戦であった。突進力が売りのロックボア、ロックアイベックス対策である。


「第二波はフォレストウルフが500だ。第一塹壕の手前に陣取り、奴らが飛び込んで来るところを狙って切り伏せろ!だが、まだ魔法は使うなよ。Eランク程度軽く捻ってやれ。第二波までは出来るだけ体力と魔力を温存しろ!勝負はそこからだ!」


 統率者の支配下にある魔獣たちは余程追い詰められない限りは命令に従って前に進むのみだ。フォレストウルフは何の考えもなしに塹壕を飛び越えて来るだろう。幅2メートル程度の塹壕とはいえ空中に浮いた身体を狙えばフォレストウルフの敏捷性に手古摺る心配はない。


「第三波はフォレストエイプが500だ。こいつらのトリッキーな動きに時間を取られると殲滅する前に後続と合流されてしまう。だからここからは塹壕の手前と高台からの弓、魔法攻撃を活用し、手傷を負わせてから接近戦とする。第二波を討ち取ったら即座に高台前方50メートルにある第二塹壕内へ退避しろ。後方の味方からの攻撃に当たったら笑えないからな!」


 身体強化を施した場合の弓の有効射程距離はおよそ150メートル前後、魔法の場合は個人差が大きいが弓の半分程度の有効射程となる。第一、二波で弓や魔法を使わないのは誤射を防ぐためと魔力温存のためである。


「フォレストエイプへの一斉射が終わった後は塹壕を出て可及的速やかに殲滅してもらいたい!」


 手傷を負ったEランク魔獣など問題ないだろう?というスレインの言葉に戦闘者たちは余裕の笑みを浮かべて応えている。


「問題は第四、五波だ。Dランク魔獣であるロックボア400とロックアイベックス600の進軍スピードはそんなに変わらない。最悪の場合2種同時に相手をしなければならないことを頭に入れて置いてくれ。」


 Dランク魔獣1、000を同時に相手をするという可能性にここまで浮かべていた笑みが消えていく戦闘者たち。だがスレインは彼らを鼓舞する。


「そんな顔をしなくても大丈夫だ。第三波の掃討を終えたら即座に高台を中心に東西へ伸びる防護柵の内側へ入ってくれ。魔道具の国ハンザの神髄を見せてやる。魔道具と魔法、弓の攻撃を加えた後は掃討戦だ。いいか、伝令と指揮官の声をよく聴け!退くタイミング、打って出るタイミングを間違うなよ!それさえ出来ていれば生き残れる確率は大きく上がる!」


 スレインの確信を持った口調に戦闘者たちに余裕が戻って行く。


「最大の注意点だ!おそらく最終波にCランク魔獣フォレストベアーが10頭前後混じって来る。フォレストベアーは遊撃隊に任せろ!上空から来るロックイーグルは高台の魔法士が対応する!奴らの近くには出来るだけ近寄るな!そしてDランク以下の魔獣と引き離せ!」


 戦闘者たちはスレインの話を真剣に聞いている。街を守る為、自分の命を守る為に。


「最後に統率者だ。偵察でも魔獣の数が多すぎて確認出来ていないがこの規模の『山崩し』となるとBランク、もしくはCランクの上位種であることは間違いない。そいつには絶対に手を出すな!」


 統率者に手を出さない理由は2つある。1つ目はBランクもしくはCランクの上位種ともなると並の騎士や冒険者では束になっても敵わないため、死傷者が増えるだけだからだ。もう1つは統率者が倒されると魔獣の群れが支配下から逃れ無軌道な動きをすることになり乱戦となったり、逃亡を図り近隣の村へ向かう可能性があるからだ。だから統率者を倒すのは少なくとも魔獣の群れの大多数が殲滅された後でないといけない。


「統率者はその特性に合わせてこちらで討伐隊を選抜して送り込む。声を掛けられた者に拒否権は認めるが出来る限り参加して欲しい。」 


 統率者の討伐。12年前にその討伐隊に参加して統率者を討ち取ったスレインとシハスはそれぞれAランクとBランクに昇格し、現在はギルドマスターと戦闘統括者になっている。それを知る冒険者たちは討伐隊に選ばれれば殆どの者が参加を希望するだろう。危険と隣り合わせだとしても。


「私からは以上だ。皆の健闘を祈る!」


 スレインの話が終わった後に前に出たのはグラート王子だった。


「私はグラート・ハンザ・ミュンスター。今回の『山崩し』の予備隊1000名の指揮官を務める事になっている。」


 金髪青眼の長身の男であるグラート王子は全身を意匠をこらした銀色に輝く甲冑で覆っており、その背には漆黒のマントを羽織っている。一目で身分の高い人物であることがわかる格好であったが、名乗る前に王子であることを見抜いた戦闘者は殆どいない。テレビや写真という物が存在しないこの世界で王族の顔を見たことのある者など上流階級に位置する者たち以外は殆どいないのだから。だからこそ驚く。この場に王子がいることに。


「国境が騒がしいと聞いてノルト砦に昨日到着したのだが、大規模な『山崩し』がこの街を襲うと聞いて居ても立っても居られず駆けつけた。出来れば最初から迎撃部隊として参戦したいところだが、国境を疎かに出来ない。だが、国境とこの陣の中間地点にて待機し、皆の危機には私が王都より連れて来た部隊1、000名と共に必ず駆けつけるとこの場で約束しよう。」

 

 スレインが最初に双方の戦力を説明した際、王子率いる予備隊の数は紹介されているのだがそれとは別に援軍を連れて来たかのように話すグラート王子。直前までの北方騎士団の対応を知っていることと合わせて苦笑いを浮かべる者も多いがグラート王子に悪意も他意もなかった。単純に用意して置いた演説をしているだけだったからだ。


「皆と共に魔獣の脅威を退けようぞ!」


 3分ほどの演説を終えたグラート王子へと大きな歓声が湧きあがる。次期国王と目される人物の参戦は士気向上に大いに役立っていることを証明していた。アッシュ公にしてもスレインにしても士気が上がる事は好ましいため笑顔で王子を迎える。そして最後に領主としてアッシュ公が開戦前の締めを行う。


「我々からの話は以上だ!あと2時間もしないうちに戦闘に入ることになるだろう。それぞれの持ち場で戦前の腹ごしらえをしてもらいたい。もちろん私からの驕りだ!ただ、酒は戦後の楽しみにしてくれ!」 

 戦闘前だけに酒は出せないが、撃退出来たときに振る舞うことを約束するアッシュ公にも歓声が届けられる。


 そして騎士団と警備隊は隊列を組んで、冒険者はバラバラにそれぞれの布陣先に用意されている昼食を受け取り対決の時を待つことになった。




 左翼の騎士団500と右翼の冒険者500がそれぞれ受け持つのは東西の全長500メートルの塹壕の西端と東端から200メートルであり、高台を中心とした中央を受け持つのは警備隊だ。左翼右翼の後ろにはそれぞれ騎兵が250騎控えており、回り込もうとする魔獣が現れた場合や逃亡する魔獣を討ち取る予定である。そして警備隊の中から弓や魔法を扱える者と共に遊撃隊として各隊の支援とCランク魔獣を撃破するために集められた精鋭が高台に集められている。そしてその中に大輝がいた。


「へ~、あんたが『破砕の剣』をソロで倒したっていうEランクの奇術士かい?」


「私も知ってます。不思議な魔法を使ってアルドさんたちを相手に倒した少年がいると・・・。」


「奇術士って聞いた割には双剣?」


「剣を持っているからといって剣士とは限らないのでは?ルビーさんもそうですし。」


 調査依頼でいち早く『山崩し』の情報を持ち帰って報告したルビーとリルが興味深そうな視線を大輝に向けていた。2組しかいないBランクパーティーの代表である彼女たちも当然ながら遊撃隊に配属されていたのだ。


(奇術士ってことになってるのか・・・)


 自分がイロモノ扱いされていることにやや肩を落としながらも2人のBランク冒険者を観察する大輝。2人のことはそれぞれのパーティーメンバーと共にシハスから聞いている。この戦いの最高戦力と目されている2つのBランクパーティーのリーダーなのだから当然の調査である。


「Bランクパーティー『紅玉の輝き』の魔法剣士ルビーさんと、同じく『瑠璃の彼方』の魔法士リルさんですよね?御二方と同じく遊撃隊に配属された大輝といいます。よろしくお願いします。」


 初対面であり冒険者としての先輩でもある2人の女性に自分から自己紹介を始めて頭を下げる大輝。その振舞いは相手への敬意が含まれていることを十分に感じさせる丁寧なものであった。それを見たルビーも態度を改める。


「名乗りもせずいきなり値踏みするような真似をしてすまなかったね。知っているようだけど自己紹介させてもらうよ。あたしは『紅玉の輝き』のリーダを務めるルビー。仲間にはBランクが2人とCランクが2人いる。今回は大輝と同じく遊撃任務についている。よろしく頼むよ。」


 そういって手を差し出すルビーに大輝も応える。


「よろしくお願いします。」


「私は『瑠璃の彼方』のリル。BランクとCランクの仲間と3人パーティーを組んでいます。こちらこそよろしくお願いします。」


 どうやらルビーとリルは2人で遊撃隊に配属されたメンバーの性格と戦闘力を計るために挨拶周りをしているようだった。遊撃隊の指揮官はシハスが務めることになっているが、現場の最高戦力として共に戦うメンバーの状態を把握しておきたかったのだろう。


(戦闘力だけでなく有能だな。)


 短い歓談を終え、次の相手へ話しかけに行く2人の背中を見ながら大輝は思った。ルビーの右腰には魔石の埋め込まれた片手剣が下げられており、左腰には魔法剣以上に存在感を放つ魔法士用の杖が差してあった。歩き方を見るだけで一流の体術を持っていることはわかったが、魔法の方が得意なのだろうと装備が示唆している。それに対してリルの方は純然たる魔法士なのだろう。魔法を発動するときに無駄に魔力を霧散させないための装備で固めているからだ。全身を覆うローブと大きな魔石を先端に据えた杖だけではなく、シャツやキュロット、靴下までが魔力抵抗の効果を持つ鉱物を混ぜた素材で作られていることに気付く大輝。アース魔道具店に通っているからこそわかるようになったのだ。 


 一流の装備だけではなく、それを使いこなす力量を見て取ったから評価したわけではない。短い会話の中に各人の性格や戦闘スタイルを見極める姿勢が見えるのだ。彼女たちは集団戦の中で重要な役目を負う遊撃隊の中でも最高戦力であるという自覚を持っている。その上で慢心せず最高の結果をもたらす努力を続けていることに好感を持ったのだ。


(オレもそうしなきゃダメだよな・・・)


 シハスを通して騎士団の引き込みや陣地構築、戦闘方法の助言を行い、アース魔道具店協力の元で魔道具の兵器化を行った大輝はすでに十分な貢献をしていると言える。だから、あとは遊撃隊の中で魔獣を討伐すればいいと思っていた。


(指示だけしてあとはお任せ、というのはオレの悪いクセだよな。)


 『未来視』で得た情報を元に指示することに慣れ、自ら前線で動く機会が少なかったことが反感や嫉妬といった人の負の感情を敏感に感じられなくなった原因の1つであると考える大輝。そしてその結果、負の感情が爆発した周囲の人間に悪意をぶつけられたことで『未来視』を失ったのだ。


(『未来視』を失ったこと自体はいいけど、悪意の相手をするのはもう御免被りたいよなぁ。)

 

 思い出すだけで気分が悪くなる過去の悪意たち。それに晒されないためには一生閉じこもるか、悪意を上回る好意に囲まれるかだ。前者のように人との接触が無く生きることは難しいし、群れて生きる人間にとって全く悪意に出会わないなんていうことは不可能だ。もちろん分かり合えない者も多いだろうが、それでも好意を受けられる努力をしようと思う大輝は行動を開始する。共に戦う仲間と交流するために。




 

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