表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レゾナンス   作者: AQUINAS
第二章 ハンザ王国~冒険者~
52/145

第四十七話 戦闘準備

 ハンザ王国だけではなく、ハルガダ帝国、マデイラ王国、アスワン王国、ロゼッタ公国には共通した貴族制度がある。王や公王または皇帝と呼ばれるものを国のトップに据えながらも国内の各都市を統治する者たちだ。そして2公爵家、4侯爵家、6伯爵家、8子爵家、10男爵家という30家が各国共通の貴族家の上限数である。細かく言えば、1代限りの名誉職である名誉子爵、名誉男爵という爵位もあるが彼らは純然たる貴族とは持っている権力が大きく異なる。 


 貴族制度と対となるのが軍部制度であることもまた各国共通である。王たちをトップに据えているのは同じだが、将軍、騎士団長、大隊長、中隊長、小隊長等と呼ばれる騎士の上級階級の者たちが一般の騎士や兵士たちを率いている。特に将軍は公爵家と同等、騎士団長は侯爵家に匹敵する権勢を誇っているといえる。


 貴族と騎士。それぞれの領分は違えど市民にとってはどちらも支配階級であることは間違いない。そしてその支配階級同士がノルト砦の控室で激しい応酬を繰り広げている。国のトップたる王の子を前にして。


「その情報は古いのだよグーゼル団長。今朝の段階でテーゲル湖に居た魔獣の数は1,500余りに膨れ上がっているとの報告が来ている。山の裾野に追い出された低ランク魔獣を加えれば2,000近くに上る可能性が出ているのだ。」


「ぬ。その程度北方騎士団が蹴散らしてくれるわ!」


「では任務放棄の責任を取って全て騎士団が討ち取ってくれると?」


「街の防衛は警備隊と騎士団の連携にて当たるのが我が国の方針ではないか!」


「その方針を放棄したのが騎士団だろうに。今更なにを言っているのやら。」


 アッシュ公とグーゼル団長が激しく言い争うように話を進めているのはノルト砦の司令部の中枢である作戦会議室の中である。アッシュ公の脅迫とも言える威圧に屈した面会という形ではなく、魔獣襲来の知らせを聞いたグラート王子が北方騎士団に呼び掛けて迎撃作戦を練る、という形を取るためにわざわざ司令部の中枢に移動したのだ。アッシュ公にしてみれば時間が惜しい中で体裁を整えることに拘る彼らに怒りすら感じていたが、今は騎士団を引っ張り出すことが重要であると自身を押さえつけていた。その反動が言葉の端々に出てしまい、グーゼルを挑発する形となってしまっているのは仕方のないことだった。


「責任問題は危機が去ってからに致しましょう。」


「今は明日に迫った『山崩し』撃退策を考える事を優先致しましょう。」 


 アーガスとアリスが間に入って仲裁するかのような口ぶりだが、彼らの言葉はアッシュ公に向けられたメッセージである。


(グーゼル団長の責任問題は山崩し撃退後に王子側で処理するということか・・・)


 面会を求めるアッシュ公が見せた威圧の中に彼の怒りの本気具合を見て取ったアーガスとアリスが軍部グラート王子派の筆頭であるグーゼル団長がアッシュ公の進言で失脚するのを防ぎたいのだろうことは間違いなかった。最も王位に近いとはいえすでに25歳になっているグラート王子が王太子に叙されていない現在、グラート王子派のメンバーを中立派のアッシュ公に糾弾されるというのは大きな失点なのだ。


(グラート王子自らがグーゼル団長を罰することで公平性をアピールするつもりか。)


 双子の兄妹の意図をそう解釈したアッシュ公はこれ以上グーゼル団長に絡むのをやめることにした。重要なのは『山崩し』の撃退なのだから。


「お二人の言う通りですな。グラート王子、申し訳ございません。ここから先は建設的なお話をさせていただきます。」


 恭しく頭を下げたアッシュ公に対してグラート王子は鷹揚に頷くのみだった。それを確認したアッシュ公が話しを続ける。


「今朝の対策会議では、騎士団が参戦して下さる場合の作戦も検討してまいりました。魔獣の群れはノルトの街の北東3キロにある山道付近から攻め寄せて来ると予想されているため、ノルトの街の北門から500メートル程離れた位置に布陣して迎撃する予定です。中央には警備隊700、右翼には冒険者500、そして左翼に北方騎士団500を配置して頂きたい。さらに、魔獣の最後尾が山を下りた後、別働隊の騎士団500で後方に回り込み挟撃をお願いします。また、騎兵500もお借りしたい。半分の250を右翼の後方、残り250を左翼の後方に待機させ、おそらく乱戦となり両翼をすり抜けて行こうとする魔獣が近隣の村々へ被害を出さないための包囲と追撃をお願いしたい。そして、念のため砦の南にて1,000程予備兵を配置しておいて頂きたい。」 


 現在ノルト砦にいる北方騎士団4,000と増援部隊1,000の内3割に当たる1,500の動員を主張するアッシュ公に対してグーゼル団長は否定的な発言をしようと口を開きかけるが、それをグラート王子が手を掲げて制する。


「アッシュ公。魔獣は最大2,000が予想されると言ったが、これは12年前の倍に当たる数だ。こちらも倍にして対処すべきではないのか?相応の数を揃えなければ民に被害が及ぶのではないか心配である。我々王族、貴族、騎士団は民を守るために存在している。出来る限りの対応をしてやりたい。」


 グラート王子は為政者の義務を語る。その心に偽りはないだろうことは澄んだ目を見れば明らかであった。それを確認したアッシュ公が頭を下げながら答える。


「グラート王子の仰る通りです。我々は民を守らねばなりません。そして本音を言えば全軍でとは言いませぬが砦の半数、つまりもう1,000の騎士たちをお借りしたいとも思っております。しかし、最初から布陣させるわけにはいかないのです。」


 ちらりとグーゼル団長へと視線を送ってから頭を上げてグラート王子へと視線を戻す。


「グラート王子がノルト砦に視察にお越しになった理由でもあるハルガダ帝国への警戒は必要です。確かに国境警備が厳しくはなっていますが、侵攻を前提とした増員ではないと思われます。それでも警戒しなければならない理由がおわかりになりますか?」


 アッシュ公は自分の子供を諭すように王子に問いかける。


「侵攻の兆候がなくとも警戒する理由か・・・公よ、教えてくれ。」


「ハルガダ帝国は覇権主義を掲げております。現在は北部の自治領やロゼッタ公国と睨み合っておりますが、彼らとの決着が着けば我が国を狙うでしょう。当然侵攻経路に当たるノルト砦が最初の攻略目標とされます。」


「うむ。それはわかるが、まだまだ先の話であろう?」


「はい。早くても数年後かと。しかし、すでに攻略調査はしているはずです。そこに『山崩し』が起きた時には砦の守備が半数になる、という情報が加わればどうなりますでしょうか?私なら子飼いの冒険者を使って『山崩し』の予兆を調べさせ、発生可能性が高ければマラウィー砦に兵を集めておき『山崩し』発生と同時もしくは撃退直後の疲弊したタイミングで攻撃を仕掛けます。」


「隙をみせるな・・・ということか。しかし、魔獣の群れを撃退出来なければ民や街に被害が出るし、国力が落ちるのではないか?」


「はい。その通りです。そこで予備兵の準備だけをお願いしました。普段、北方騎士団は演習として砦を出ることがあります。といっても砦のすぐ南の演習場ですが。今回も帝国側には演習だと思わせるため、予備兵は演習場にて完全装備にて待機して頂き、魔獣側が優勢な場合は即刻救援に駆けつけていただきたいと思います。」 


「なるほど。公の考えはわかった。最初に布陣した戦力で勝てれば帝国には弱みを見せずに済む。仮に劣勢であれば予備兵1000で救援させてすぐに引き上げさせるのだな。例えば行軍訓練でもさせていたかのようにすぐに砦に戻れば帝国に見せる隙も少なくて済むというわけか。」


「ご推察の通りです。演習場と我々が布陣する場所とは2キロと離れておりません。簡単な合図を決めておけば10分もあれば駆けつけられるでしょう。」 


「うむ。私はそれでいいと思うが、グーゼル団長はどう思う?」


 次期王と目されているグラート王子といえども軍部へ対しての直接命令権はない。騎士団長であるグーゼル団長への命令権を持つのは王であるキール・ハンザ・ミュンスター王と将軍だけである。だからこそグラート王子はグーゼル団長に問いかけるのだ。しかし、例え将軍であろうとも王子の意向を無視することは出来ない。


「っは!グラート王子のお考えに賛同致します。」


「では、砦の守備をグーゼル団長、迎撃隊の指揮をマインツ副団長、予備隊の指揮をグラート王子が取るということでいかがでしょうか?」


「そうですね、グーゼル団長は砦の守備の要。帝国に不穏な動きがある以上はこの場にて指揮をしていただいた方がいいでしょう。次席であるマインツ副団長が前線指揮、増援部隊である我々1,000が予備兵として自由に動いた方がよいでしょう。」


 賛意を示したグーゼル団長の言葉に被せるようにアリスが進言しアーガスが補強する。降格させる予定のグーゼルには対魔獣で功績を上げさせる機会を作らせず、ルード王子が目を掛けているマインツ副団長には激戦地へ行ってもらう。そして予備兵として王子率いる増援部隊が美味しいところを狙おうという腹である。そしてこの兄妹の進言にグラート王子が満足そうに頷いたことで配置が決定した。  







「シハスさんおはようございます。無事に北方騎士団を巻き込めたみたいですね。」 


「おはようなの。今日はいい決戦日和なの。」


 『山崩し』発生予定日の朝、いつものように6時に『食道楽の郷』の食堂に姿を現した大輝、ココ、シリアの3人が同じく朝食の常連となっているシハスに声を掛ける。シハスも獣人であり、コメと味噌汁が大好物であるためこの1週間は毎日共に朝食を食べている。


「あぁ。おはよう。今日は長丁場だから好物を食べなきゃ力が出ないのさ。それにしても大輝のアドバイス通りにしたら騎士団は派兵を決めたよ。しかも予備兵まで入れれば2,500だ。これならなんとか撃退できるだろう。」


 迎撃の態勢が整い、あとは力を振るうだけだと笑顔を見せるシハスだが、その瞬間に違和感を覚える。同時に大輝もいつの間にか食堂に入ってきている人物に警戒態勢を取る。宿の中であるため気配察知スキルを使用していなかったとはいえ、これだけ近づかれるまで気配に気づかなかったことに驚いているのだ。


「ああ、すまない。警戒は不要だ。」


 食堂に入って来た40代の男はそれだけ言うとシハスの座るテーブルに近づいて行く。


「ギルドマスター!どうしてここへ?」


 シハスがその人物が誰だかわかって驚いて立ち上がる。


「防衛線の前にちょっと確認したくてな。時間は取らせないから全員座ってもらえないか?」


 視線を大輝へと固定したまま椅子を引いてテーブルに着く男。


「同じテーブルに座りたいのならまずは名前を名乗るのが礼儀なの。」


 いつも通り物怖じしないココが両手を腰に当てて怒ってますのポーズを取る。


「それはすまなかったね。私はこの街の冒険者ギルドの長を務めるスレインという。よろしく頼む。」


「わかればいいの。私たちは座ってからご挨拶するの。」


 スタスタといつもの自分の席に着くココを見て大輝とシリアは苦笑いで目を合わせ、仕方なく自分たちも席について自己紹介を始める。なぜ決戦当日にギルドマスターが来たのか訝しみながら。


「私はココ。まだ冒険者になって10日のピチピチの新米さんなの。」


「シリアです。同じく新人冒険者です。」


「大輝です。Eランクなので今日の戦いにも参戦します。」


 スレインの来訪目的がわからないため、最小限の挨拶で済ませる大輝たち。それに対してスレインはひとしきり大輝たちの顔を見た後でシハスに向き直る。


「彼女たちが同じ村の出身者でこの大輝という少年がお前の知恵袋ということで間違いないか?」


 突然のことにシハスが答えに窮しているところにスレインが言葉を続ける。


「咎めに来たわけではないということを最初に言うべきだったね。すまない。シハスが獣人の仲間たちにギルド幹部職員としての守秘義務に抵触しない範囲で情報提供していることは最初から黙認しているのだよ。そしてこれからも続けて構わないということを理解してくれ。君にはこのまま私を支えてもらいたいと思っているからね。」


「ご存じだったんですね。」


「あぁ。私が魔法士だということを忘れたわけじゃないだろう?」


 暗に魔法を使って調査していたことを仄めかすスレインだが、言葉も表情も穏やかなままであり問題視していないことを表明していた。


「少年の方はEランクにもかかわらず『破砕の剣』を正面から撃破したという報告は聞いているし、お嬢さんたちの連れであることも知っている。そして今はシハスの知恵袋なのだろうと思っているのだが、違うかな?」


「・・・。」


 ギルドマスターであるスレインが異世界人であることを知っている可能性を考えて出来るだけ沈黙を通そうという大輝に対してスレインは笑みを浮かべながら続ける。


「さっきも言ったが、咎める気など全くないのだよ。むしろ感謝の念しか抱いていない。おそらく君がアドバイスしてくれたのだろう?シハスが騎士団との交渉についてアッシュ公にヒントとなるような発言をするとは思えないし、迎撃隊の布陣についての進言や陣地構築についてのアイディア、ここ数日のシハスの発言は私にとって違和感だらけだったから気付いて当然なのだよ。伊達に12年前から付き合ってるわけではないからね。」


 笑いながら肩を叩くスレインに対してシハスは恥ずかしいのか俯いたままだ。


「最初はちょっと不審に思ったのは確かだよ。あまりにもらしくないからね。だが、進言もアイディアも的確かつ有用なものばかりだった。特に即席の陣地構築に魔法を使うアイディアは斬新かつ秀逸だ。強度的には物足りないが2日で作ったにしては上出来だからね。」


 確かに陣地構築のアイディアを出したのは大輝だった。ロックボアとロックアイベックスの突進を防ぐために塹壕を土魔法で掘る事を提案し、決戦予定地であるノルトの街の北500メートルの地点を東西500メートルに渡って深さ2メートル幅2メートルの溝を2本掘ったのだ。そして掘った土を一か所に集めて中央に高台を作ったのだ。高さは3メートル程だがそこに指揮所を設け、さらに弓や遠距離攻撃魔法が得意な者を集めて上から攻撃を加える算段であった。真田丸にヒントを得た攻撃的な布陣であり、高台の周囲は警備隊が、右翼は冒険者が、左翼は騎士団が受け持ち、北門へ突入を図る魔獣の群れを殲滅する作戦である。


「君のアドバイスがなかったら最初から籠城戦を選択せざるを得なかったかもしれないし、そうなれば砦の騎士団が総出で対応せざるを得なくなりハルガダ帝国に隙を見せることにもなったかもしれない。例えそうならなくても近隣の村々へと魔獣が流れて大きな被害を受ける事だけは確実だ。だから、決戦の前に直接会って礼が言いたくて来たのだよ。ありがとう。」


 そういって軽く頭を下げるスレイン。


「決戦の前にそういうのは縁起が悪いですよ。まずはきっちりと撃退しましょう。」


 スレインが大輝に悪意も害意も持っておらず、純粋に興味と好意で訪ねてきたことがわかり安堵しつつ返事をする。

 

「そうだな。大輝の戦闘力にも期待している。遊撃隊として存分に暴れてくれ。」


 すべきことは終わったと立ち上がるスレインと握手を交わした大輝。いよいよ数時間後に『山崩し』が始まる。

 


 







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ