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レゾナンス   作者: AQUINAS
第二章 ハンザ王国~冒険者~
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第四十三話 和解と情勢

「ここには誰も入れるなと言っておいたはずだが?」


 シハスが冷たい声で飛び込んできたギルド職員を叱責するが、それに負けずに言い返す職員。


「ギルドマスターからの命令で来ました。緊急招集ですので全てに優先すると仰せです。しかも領主様と砦の方からも騎士団の代表が来る予定ですので、シハスさんには至急戻ってきて欲しいとのことです。」


「むう。アッシュ公もいらっしゃるのか・・・。」


「すでに館を出られているはずです。その前に打ち合わせをしておかねばなりませんのですぐにお越しください。」


「わかった。アルド、大輝。申し訳ないがこの試合ここまでにさせてくれ。2度も立会人側の事情できちんと成立させてやれなかった分の補償はさせてもらう。」


 それだけ言って急いでコロシアムを後にするシハスと職員。本気モードに入った瞬間に邪魔された形となったアルドと大輝は互いに顔を見合わせる。


「仕方がない。ここまでだな。」


「そのようですね。で、延期ってことになるんですかね?」


 アルドが魔法剣の炎を解除したのに合わせて、大輝もまた風魔法を解くことで口調を戦闘モードから丁寧語へと戻す。すでに『破砕の剣』への不快感は消失していたからだった。


「シハス次第だな。」


 大輝の問いにはユーゼンが答えたがアルドがそれを制する。


「いや、オレたちの負けでいい。」


 負けを認めるアルドの顔を見たユーゼンが笑みを浮かべる。そして普段笑わない男と認識されていたユーゼンの笑みを見てミラーたちが驚いた表情を浮かべている。アルドの負け宣言を聞いて困惑顔のココとシリアを含めてコロシアム内の者たちは多種多様な表情を浮かべており、それを見渡した大輝も苦笑する。


「そもそも非はオレたちにある上に5対1の戦いだ。しかも4人抜きされている。中断されたオレの試合だって十中八九オレの負けだろう。もちろん簡単に負けるつもりもなければ奥の手がないわけじゃないがそれは大輝も同じだろう。それにそこまでやったらどちらかが瀕死の重傷になるからな。ここで終わるのが一番さ。」


 アルドの清々しい表情を見てユーゼンはもちろん、ミラーたちも納得する。だが大輝はアルドの負け宣言を否定することにした。


「いや、アルドさん。引き分けですよ。実際問題、もう立会人のシハスさんがいない以上は試合は成立しません。ただ、『破砕の剣』とオレたちの間で手打ちはしましょう。内容はこれまでの遺恨は全て水に流すことと、互いに不利益になることは極力控える、こんなところでどうですか?」


 大輝は彼らを屈服させるより協力関係を築いた方がいいと判断した。アルドとユーゼンの戦闘には目を見張るものがあったし、シハスの言う通り悪い人間でないことも理解したからだ。ミラーたちにしても驕りはあっても決して悪人はないし、戦闘力で勝る相手の言うことは素直に聞く性格である。アルドとユーゼンがしっかりと手綱を握れば問題ないと判断したのだ。


「大輝の言う通りだな。試合は不成立だ。アルドもそれでいいか?」


「・・・わかった。好意に甘えよう。」


 ユーゼンの後押しにアルドが頷く。Cランクパーティー『破砕の剣』にしてもその方が都合がいい。Eランクの大輝に負けたという評判が立てば面子は丸つぶれだし今後の冒険者活動に支障が出ることは間違いないのだから。


「すまなかったな。そっちのお嬢さんたちも迷惑を掛けた。お前らもきちんと謝罪しろ!」


「「「 すいませんでした! 」」」 


 アルドが率先して頭を下げたことでミラーたちが大輝、そしてココとシリアに謝罪する。それを見た大輝は手を差し出して和解成立を宣言する。


「アルドさん、皆さん。これで水に流しましょう。こっちも煽るような真似をしてすいませんでした。」


 アルドとユーゼンは堂々と大輝と握手したものの、完膚なきまでに叩きのめされたミラーたちは若干腰が引けながら順に握手を交わす。決闘を煽った張本人であるココもバツの悪さを隠さずに頭を下げていた。


「ところで、緊急招集って何の件か知ってるか?国境が騒がしいらしいから帝国軍関連か?」


 アルドが遺恨のないことを示すかのように大輝に尋ね、それに大輝も応える。


「その可能性もありますが、『山崩し』の方だと思いますよ。」


「山の調査依頼が出ていることは知っていたが本物の『山崩し』が来るってことか。」


「たぶん調査隊が帰って来てその可能性が高いと判断したんだと思います。そうでなければ領主や砦の騎士団の代表がこの街の冒険者ギルドに集まる事はないでしょうから。」


「確かにそうだな。国境関連なら冒険者ギルドにその面子が集まるはずがないからな。それにしても12年ぶりの『山崩し』か・・・。確か、ユーゼンは前回も参戦したんだよな?」


「あぁ。シハスたちと一緒に戦った。その時は冒険者が500人とアッシュ公配下の警備隊500人が共同で街の北に布陣して迎撃を担い、砦からの応援として騎士団1,000人が魔獣を周辺の村へ行かせないように包囲網を敷いた。」


 こうして大輝たちは『山崩し』の話題を中心にして互いのわだかまりを解くべく情報交換を続けることになった。








 大輝たちが場所をギルド内のカフェへ移して情報交換を続ける中、冒険者ギルド2階にある会議室では調査報告を前にして9人の男女が険しい顔をしていた。


 会議室には長机4つが四角形を組むように配置されており、上座の中央にノルトの街の領主であるアッシュ・リューベック公爵、左にはノルト砦の守護を任されている北方騎士団からマインツ副団長、右にはノルトの街の冒険者ギルドを取り仕切るギルドマスターのスレインが座っている。全員が40歳前後の男性である。


 左側の机にはマインツ副団長と同じく北方騎士団から派遣された補佐官と領主であるアッシュ公の長男であるガーランドが座り、右側には戦闘統括者であるシハスと事務統括者のリリスが冒険者ギルドを代表して座っていた。


 下座には2人の冒険者が座っている。今回の調査依頼を受けて帰還した2つの冒険者パーティーのリーダーたちだ。Bランクパーティー『紅玉の輝き』から魔法剣士のルビー、同じくBランクパーティー『瑠璃の彼方』からは魔法士のリルの女性2人が今回の報告者であった。


「まず情報を整理します。」


 司会進行役を兼ねるスレインが領主であるアッシュ公に確認を取った上で会議を始める。


「例年、11月の末になると食糧を求めてエレベ山脈よりこのノルトの街に魔獣が下りてくることは皆さんご承知のことと思います。全ての魔獣がこの街へ向かって来るわけではありませんが、地形上及び農地の分布上9割以上の魔獣が山を下りるとすればこの街を目指します。しかし、今年は11月末にもかかわらず極端に魔獣の数が少なかったため、異変が起こっている可能性を考慮して彼女たちのパーティーに調査依頼を出しました。」


 ルビーとリルに視線が集中する中、アッシュ公が小声で呟く。


「確か12年前も同じだったな。」


「はい。今年と同じく夏の気温が低かったこと、下りてくる魔獣の数が少ないこと。この2点の共通点があったため、『山崩し』の前兆を疑いました。調査結果については彼女たちの口から直接聞いてください。」


 すでに報告を受けている冒険者ギルド側は共に戦うことになる領主と騎士団側に生の声を聞いてもらおうという意図だった。


「私たちはそれぞれ別経路でエレベ山脈の中腹にあるテーゲル湖まで行って来たわ。現地で一旦合流した後は再び行きとは別経路で今朝戻ってきたところね。」


「テーゲル湖はエレベ山脈では最も魔獣が集まりやすい水場です。過去の『山崩し』でも起点はテーゲル湖だった可能性が高いらしいのでそこを重点的に調査することにしました。」


 ルビーは貴族の中で最高位である公爵家当主を前にしても平然とタメ口で話すがリルは敬語だった。しかし誰もルビーの口調を咎めなかった。誰しもが早く調査結果を聞きたかったのだ。この会議室に集められた時点で12年ぶりに本来の『山崩し』が起こるであろう事はわかっていたが、その規模や時期についてはまだ聞かされていないのだ。


「私たちは前回の『山崩し』の時は子供だったから比較はできないけど、湖にはもちろん、行き帰りの4つ経路はどこも魔獣だらけだったわ。囲まれないように必死に気配を殺したくらいだから。」


「確認できただけで湖には1,000近い魔獣が集まっていました。同族以外には攻撃的になるはずの魔獣が大きな争いもなく集まっている時点で『山崩し』が発生することは確実だと思われます。」


「テーゲル湖よりもノルト寄りの山中にいる魔獣たちがどれだけ合流するかはわからないけど、1,500程度の襲来は覚悟した方がいいわね。」


「それで済めばいい方だと思います。まだ山の上から合流する魔獣が増える可能性あります。」


 ルビーとリルが交互に説明を続けるが、話を聞くにつれて会議室には重い空気が流れる。


「『山崩し』は確定だな。彼女たちの言う通り、複数の魔獣が湖に仲良く集結している時点で統率者が存在していることは間違いない。問題はその統率している魔獣の種類と配下の魔獣の数か。」


 アッシュ公の言う通りであった。通常、魔獣は人間だけではなく同族以外の生き物には積極的に攻撃を加えてくる。ある程度の知能を持つ魔獣であれば自分より強い相手には攻撃を加えずに逃げることもあるが協調することはない。そんな魔獣たちが協調するとすれば統率者と呼ばれる魔獣たちを従える存在がいた場合だけなのだ。そして本来の『山崩し』とは統率者が群れを率いてノルトの街を襲撃することを指している。


「魔獣の数はわかったが、種類についての報告も頼む。」


 ギルドマスターであるスレインが報告の続きを促す。


「統率者の種類は不明です。数が多すぎて中枢と思われる付近には近寄れませんでした。」 


「湖にいた魔獣は主に4種よ。Eランク魔獣のフォレストウルフ、Eランクのフォレストエイプ、Dランク魔獣のロックボア、Dランク魔獣のロックアイベックスね。それぞれ200以上は居たわ。」


「おそらく、その集団が動けば追い立てられるようにフォレストドックなどの下位魔獣とも戦うことになると思います。また、数は少ないようですがCランク魔獣もいました。フォレストベアーやロックイーグルを確認しています。」


「厳しい戦いになりそうだな・・・。」


 ルビーとリルの報告を聞き終えたアッシュ公は率直な感想を漏らす。そこにスレインから追い打ちが掛かる。


「Cランク魔獣が複数種類いるとなると、統率者はBランク以上だと思って間違いありませんな。」


 Bランクの魔獣となると、下位の冒険者では束になっても敵わない。倒すとなるとルビーとやリルの率いるBランクパーティーが当たるしかないのだ。しかし、彼女たちであっても多数の魔獣に囲まれた状態では分が悪いどころか全滅の可能性の方が圧倒的に高くなってしまう。『山崩し』の危険と常に対峙してきた街の領主であるアッシュ公にはそれがわかるだけにスレインとマインツに現有戦力の確認をする。


「スレイン、現在この街にいる冒険者の上位戦力と強制召集可能なEランク以上の人数を教えてくれ。」


「はい。Bランクパーティーはここにいるルビーとリルのところの2つです。個人のランクで言うと、Bランクは全部で6人です。そのうち5人がこの2人のパーティーですが。Cランクについては100名前後、D,Eランクが400人程街に滞在していると思われます。」


「12年前と同じ位の戦力だと思って構わないか?」


「はい。それに加えてギルドの職員にも動員を掛ければほぼ同等の戦力と言えると思います。」


「そうか。私の方でも街の全警備隊を出す。さすがに討ち漏らしのことを考えると領内の他の街から全警備隊を出すことは出来ないが余剰人員を集めるように指示をしておく。最低でも500人以上にはなるはずだ。治安維持に残さなければならないからそれ以上は難しいのが悔しいが。だが、それでも厳しいな。騎士団には前回包囲網を引いてもらったが、今回は一部を迎撃に回してもらいたい。」


 アッシュ公はここまで一言もしゃべらないマインツ北方騎士団副団長へと要請を出す。北方騎士団の主任務はハンザ王国の北側国境線の防衛であり、国境の街であるノルトの街の防衛も任務に含まれるのだ。


「アッシュ公に申し上げます。」


 会議が始まって以来初めて口を開いたマインツ副団長の声には感情が抜け落ちていた。


「現在ハルガダ帝国側の砦であるマラウィー砦に兵が増員されていることはご存知かと思います。そしてそれに対応するために我がノルト砦へも王都アルトナより騎士団が派遣されてきています。」


「それは当然知っている。砦に常駐している貴殿ら北方騎士団4,000に加えて王都より1個中隊1,000名が追加派遣されて砦に向かっているのであろう。」


「はい。現在のようにハルガダ帝国側が不穏な動きをしている以上、砦の戦力を下げるわけにはいかないというのがグーゼル団長のお考えです。」


 淡々とした口調で話すマインツ副団長の表情からは何も読み取れないため、アッシュ公は単刀直入に聞くことにする。


「ノルトの街の危機である『山崩し』に対して北方騎士団は動かないということかね?」


「いえ。そうではありません。街の防衛も我々騎士団の任務ですので。しかし、現状では多くの騎士を派遣することは難しいと団長が判断されました。ですので、魔獣来襲当日のみの参戦とした上で包囲網構築に見習いの騎士から兵500を派遣すると仰せです。」


「ふざけるな!前回の半分の人数でしかも見習いのみの派遣じゃ私たちが勝っても近隣に被害が出るじゃないか!」


 ルビーが激昂して机を蹴り飛ばす勢いで立ち上がるが、マインツと補佐官以外のメンバーは同じように怒りを感じつつも必死に感情を抑えていた。そこにアッシュ公が静かな声で言う。


「マインツ副団長。グーゼル団長がハルガダ帝国を警戒するのは当然だと私も思う。彼の国は実に好戦的だからね。だが、グーゼル団長は今の報告を聞いて判断したわけじゃない。君も聞いていただろう?今回は少なくとも1,500以上の魔獣が来ることが予想されている。しかも統率者がBランクの可能性が高い。若い君は知らないかもしれないが、12年前の『山崩し』では1,200前後の魔獣が下りて来たんだよ。その時の統率者はCランク魔獣の上位種だった。今回の『山崩し』は前回以上の戦力の可能性が高い。それでも北方騎士団は派遣する騎士の質と数を両方減らすのかね?」


 



 


 





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