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レゾナンス   作者: AQUINAS
第二章 ハンザ王国~冒険者~
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第四十一話 ベテランの技

 大輝の魔法の応用力と身体能力だけではなく、言葉によって打ちのめされたゾルはすぐに自らの負けを宣言した。大輝はきちんと負けさせることが必要だと思い、攻撃を続行しようとしたのだが立会人であるシハスがゾルの負けを認めたために仕方なく諦める。


「次はビストだっけ? こっちは連戦でも休憩なしでいいから早く闘技場に上がりなよ。」


 アメイジアの人々よりも魔力保有量の多い異世界人である大輝にはゾルとの魔法戦程度では消耗を感じていないため即座に次の対戦相手を闘技場へと上がらせる。今はごちゃごちゃ考えさせるよりも肉体言語によって刻み込むことが優先だと思ったからだ。


「では第二試合はじめ!」




 アルドと同じ大剣を得物とするビストとミラーには双剣と身体強化だけで対戦した大輝。それぞれの土俵で完膚なきまでに叩きのめし、指導を加えることを選択したのだ。大剣を振り回しパワー重視の2人だが身体強化された大輝の細腕と双剣によって悉く受け止め、受け流され、躱されることで改めて上下関係を刻まれる。その上で言語によるダメ出しが課された。


「ビスト! その程度の膂力で魔獣に対抗出来ると本気で思ってるのか? 通じるのはせいぜいDランク魔獣だろうが!」


「振りかぶりすぎだ! 隙だらけじゃないか! 大振りするなら相手の体勢を崩してからしろ!」


「ミラーは足元が疎かなんだよ! 体術を磨け!」


「目で追いすぎだ! そんなだからこんなフェイントに引っ掛かるんだ!」


 何度も寸止めで生き延びさせられ、心が折れる寸前で闘技場の外へ蹴りだされた2人は外傷がほとんどないにもかかわらず息も絶え絶えといった様子であった。そしていよいよ初対戦の2人へと試合が進んでいく。


「第四試合大輝対ユーゼン、始め!」


 シハスの掛け声で試合開始が告げられるが双方がすぐには動かない。大輝はいつもの装備である長さの異なる双剣に黒く染められた魔獣の革鎧と革靴。ユーゼンの方は刃渡り60センチ程の小剣を右手に持ち、左手には短剣が握られている。投擲にも使うのであろう、腰には同じ短剣が3本ぶら下がっている。やはり大輝と同じように魔獣の皮を重ねて作られた革鎧で急所だけを覆っている。斥候役が好んで着る身軽さを重視した装備であった。


「行くぞ。」


 短く言ったその瞬間にユーゼンが動く。一直線に大輝に向かうのではなく、小刻みに身体を揺らしながら徐々に大輝へと近づくユーゼンのステップは不規則であり1秒後の位置ですら予測できないように組み立てられている。


(ベテランだけあって対人戦の経験もあるみたいだな。)


 魔獣とは違って人間は相手の行動を予測して反応する。視線や重心、筋肉の動き等の予備動作までを観察して予測するのだ。そしてユーゼンはそれをさせないための動きを混ぜながら大輝へと迫ってくる。本気の戦いであれば完全に接近される前に魔法で牽制を行う大輝だが、折角の機会だからと対人戦の技術を学ぶつもりだった。ユーゼンとの対戦はミラーたちへの指導を交えた試合とは違うのだから。


ッシュ!


 大輝まで5メートルというところまで迫ったユーゼンが左手の短剣を大輝の左腕目掛けて投擲する。


(うぉ! 予備動作なしで手首だけで投げたのか!)


 もちろん手首を返す動作だけで投げられたものだからそれ程のスピードはないし威力もないが、刃物が飛んでくるということに反応しない人間はまずいない。ましてやこの世界には身体強化という反応速度でさえ高められる技術があるのだ。そしてこの時状況で大輝の選べる選択肢は2つであろうとユーゼンは予測していた。1つは右へ回避すること。さすがに左腕を狙って放たれた短剣を左へ回避する余裕はない。もう1つは左手に持つ剣で打ち払うこと。ユーゼンが短剣を投擲することを予測していたためにやや上方に構えていたからこそできる対応だ。

 

 そしてそれは当然次の大輝の行動を自分の有利になるように誘導するための牽制だ。複数の魔獣を相手にしたときに大輝が牽制の魔法を放つのと同じ理由である。それがわかっている大輝が予測通りに行動をするわけがなかった。


ジュジュッ!


 ユーゼンによって投擲された短剣が一瞬にして溶かされる音が聞こえてくる。見れば大輝の左手にある小剣の剣先に白い炎が灯っている。そしてその炎に近づいた短剣が一瞬にして溶けていた。


(理論がよくわかってないから心配だったけど上手くいったみたいだ。)


 大輝は色温度というものを正確に理解していなかった。知っているのは赤やオレンジの炎よりも白い炎の方が熱量が多いということ。またさらに寒色になるほど熱量が多いということだ。ガスバーナーの炎の色が違うのは供給される酸素の量のせいだということを知っていたこともこの高温の炎を出す火魔法を具現化できた理由なのだがそこまで考えている余裕はなかった。


 一瞬にして短剣を消失させた大輝は剣を掲げたままユーゼンに突撃する。相手の意表を突いた隙を見逃すようなことはしないのだ。だが自身の魔法に不安を感じて一瞬短剣の行方を確認してしまった大輝はユーゼンへ一撃を加えることはできなかった。


「驚きはしたがそれだけでやられるわけにはいかないな。」


 ユーゼンの呟くような小声が大輝の左側から聞こえてくる。短剣が溶かされたことにさしたる動揺を見せなかったユーゼンは誘導が失敗したとみるや素早く大輝の左側へと退避していたのだ。


(さすがはベテラン。自分の思惑が外れたらすぐに攻撃範囲外へ離脱とは・・・)


 すでにユーゼンは腰から新たな短剣を引き抜き終えており、次の機会を狙っていた。そしてすぐに身体を揺すって次の動きを悟られないように不規則に動き始める。逆に大輝はその場を動かずにどっしりと構えて迎え撃つ姿勢を取る。


 日本に居た頃に身を守ることを学ばなければいけなかったことに起因して大輝は後の先を得意としている。しかし、今はユーゼンからベテランの技と思考を学びたいという思いの方が強く、それゆえに受けに回ることを優先していた。もちろん隙があればカウンターを撃ち込むつもりだったが。


「ふむ、そういうつもりなら・・・」


 大輝の心を読んだのかユーゼンから仕掛ける。


 やはり大輝の5メートル程前方から短剣の投擲を行うが今度はいつのまに取りだしたのか2本同時の投擲だった。その見事な投擲は、腕は大輝の心臓に向かって伸ばされながらも2本の短剣は左右に分かれて大輝の両方の肩口へと向かって飛んでくる。左右どちらに避けても1本は傷を負わせようという意図のようだった。


(凄いな・・・)


 ユーゼンの技術の高さが一投に集約されていた。それに目を見開いて感心する大輝。しかし一朝一夕では完成しない見事な投擲だが、それを喰らう訳にはいかない。至近距離からの投擲と腕を振る方向と真の狙いがずれていることでより回避や打ち払いが困難になっているこの状況を脱するには身をかがめることが一番である。そしてそれを狙っていることは明白なのだが、敢えて大輝はその行動を選択する。先ほどの攻防でユーゼンの思惑から外れた行動を大輝が取った場合はすぐに離脱されるだろうことが予想できたからだ。


 投擲された2本の短剣を身をかがめて回避する大輝は頭まで下げたため視界にユーゼンが映らなくなる。ユーゼンの狙い通りであり、右手の小剣を持って大輝へと一歩踏み出す。


ドォーン!


 ユーゼンを見失ったはずの大輝が短剣回避のために身をかがめたのをジャンプの予備動作に変えて身体強化によって倍化された脚力と風魔法の放出によって上空へと飛び上がる。その足元には小さなクレーターが出来る程の威力のジャンプで4メートル近く舞い上がる大輝。そのまま身を捻ってユーゼンの位置を確認した大輝は無詠唱で風の刃を放つ。火や水、土といった系統と違い威力こそ低いが視認しにくい風魔法は使い勝手がいい。


「誘われたのはこっちか!」


 狙い通りと思わされたことに気付いたユーゼンは悪態を吐きながらも僅かな空間の揺らぎや魔力を感じ取ってぎりぎりで風の刃を回避していく。それでも次の大輝の行動までは注意が回らなかった。空中で右手の小剣手放した大輝は解体用のナイフをユーゼンに向かって先ほどの投擲の仕返しとばかりに投げたのだ。ナイフが投げられた先は風の刃を全て回避できた場合にユーゼンが居るであろう位置だ。


「うっ!」


 予想外の上空への離脱と連続した風の刃の攻撃によって狂わされたユーゼンの動きは回避に精一杯でナイフまでは避けられず、左の肩へダメージを与えた。もっとも、解体用のナイフであり傷自体は深くないのだが精密な投擲には大きな影響が出ることは間違いなかった。


「さすがにやるな・・・」


 着地を決めた大輝に向かって言葉を掛けるユーゼンはまだ戦闘続行可能だし、大輝もここで終わりだとは思っていなかった。しかし、


「オレはここまでにさせてもらう。」


 それだけ言って自ら闘技場を下りて負けを宣言するユーゼン。大輝としてはもっとベテランの技を見たかったのだが、本来の目的からすればユーゼンとの対戦はなくてもよいものだと思い直す。そしてそこに立会人であるシハスから試合終了を告げる声が掛かる。


「勝者大輝。」


 改善が必要なのはあくまでもミラーたち若手とそれを束ねるアルドである。そして最も戦闘力の高いアルドが次に控えており、大輝はすでに4戦しているのだから無理をする必要はないのだ。


「あぁ。よろしく頼む。」


 闘技場に上がって来たアルドはそう言って大剣を鞘から引き抜く。


「お前やユーゼン、それにシハスさんが何を言いたいかは大体わかってるつもりだ。そしてそれが正しいんだろうことも理解してる。だが、オレは生粋の戦闘者だ。だからこれから先のことはこの試合次第だと思ってくれ。」


 戦闘者、戦闘狂とも言われる冒険者の中でも実力だけが価値基準の人たちを指す言葉だ。自分の体験したことしか信じない者たちとも言える。つまりアルドは実力で従わせろと言っているのだ。それが戦闘力はBランクであると評されるアルドのプライドだと理解した大輝はそれに応えることを宣言する。


「わかったよ。力によって理解してもらうしかないみたいだな。」


 


 

  



















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