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レゾナンス   作者: AQUINAS
第二章 ハンザ王国~冒険者~
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第三十八話 魔道具の歴史と要求

「さて、まずは魔道具というものの定義を知っていますか?」


「魔力を利用した道具のことなの。」


「・・・。」


 アース魔道具店での最初の質問に対してココは元気よく答えるが大輝には即答出来なかった。


「間違ってはいないけど、正確には、魔力を流すことによって一定の効果を発揮する魔法陣を刻んだ物を指します。そして僕たち魔道具職人というのは、魔法陣を刻む者のことを指します。もちろん誰もが知っている通りその技術を確立したのは『魔職の匠』であり、500年経った今も彼以上の魔道具職人は現れたことがありません。また魔術というのは魔法陣を利用した魔法ということになるから魔道具と被ることも多いことも覚えて置いてください。」


 ナイルの言葉を真剣に聞いている大輝は早くも疑問が頭をよぎっていた。


(オレたちをこの世界に連れて来た召喚魔術は魔法陣を利用していた。じゃあ、『魔職の匠』たちはどうやってこの世界に来た? いや、それより前から魔法陣自体はあったのか。『魔職の匠』は魔法陣を研究して、道具として刻み利用する技術を確立しただけかもしれないな。それに魔法陣を利用しないで召喚をする方法が他にもあるかもしれないか・・・。)


 どうしても魔法陣と聞くとこの世界で最初に目にした召喚魔術用の巨大魔法陣を連想してしまう大輝だった。


「さて、魔道具の歴史に戻りましょうか。」 


 ナイルの入門初日講座が始まった。




 魔道具の歴史に関して避けては通れないのが魔法陣と『魔職の匠』の存在だった。しかし、どちらも完全な記録は残っていないらしいことがナイルの解説からわかる。


「魔法陣についての資料はほとんどありません。ただ、少なくとも『魔職の匠』のいたアメイジア新暦250年頃にはすでに存在していたことは確かです。伝記によれば『魔職の匠』は数少ない現存する魔法陣を研究しその法則性を解明したとされているとともに、「過去の遺物の解析」という言葉がかなりの回数出てきていることから、魔法陣とは旧暦の遺産ではないかと言われています。」


 地球では紀元前に当たる旧暦時代についての資料は全くないと言われているらしい。そして魔法陣は旧暦の遺産と目されている。俄然興味の湧いてきた大輝だがナイルの話は続く。


「『魔職の匠』は魔法陣を全て解き明かしたとされていますが、残念ながらそれを証明することは出来ていません。なぜなら、研究を止めた後に魔道具として使えそうな魔法陣構築技術を記した本を秘伝書として弟子たちに託して姿を隠されたそうです。親方、店長のカイゼルのことですが、親方の言っていた見せることの出来ない秘伝書というのがこれに当たります。もちろん原本ではありませんが。」


「弟子たちの前から消えた理由は伝わってなのですか?」


「はい。当時は『救国の魔女』と行動を共にしてらしたようですが彼女も時を同じくして表舞台から姿を消しており、以降消息不明となっています。一部では大国の陰謀説や旧暦の遺産探しに出掛けた等様々な憶測があったそうですが何一つ確証はないそうです。」


 歴代最強の魔法士と魔道具の生みの親の2人が同時に姿を消せばさぞや大騒ぎになったであろうことは想像しやすい。しかしその理由を推察することは難しい。あまりにも時間が経ちすぎているのだから。


「現在の魔道具は全て『魔職の匠』の残した秘伝書に沿ったものです。この500年の間、多くの魔道具職人が新たな可能性を求めて魔法陣の完全解明を目指しましたが秘伝書を越える発見は成されていません。」


「秘伝書を見せていただけないのは当然だと思いますが、どんな内容が記されているかだけでも教えてもらえませんか?具体的じゃなくてもいいので。」


「えぇ。一般に知られていることも多いですから構いませんよ。魔法陣を機能させるには2つの条件があり、それを体系的にまとめたものが秘伝書になります。条件の1つが魔法陣を有効な形で描くことです。魔法陣を見たことがあると思いますが、陣内の直線、曲線、記号は全て意味を持っています。それらを完全な形で組み合わせる事が必要になります。僅かでも間違っていれば発動しませんし、場合によっては重大な事故が起こります。」


 街灯代わりに利用されている明かりの魔道具でさえ間違った魔法陣を描くと爆発することがあるらしい。その危険性が魔法陣の解明を妨げているのだろうことは容易に想像がつく。


「2つ目の条件が魔法陣を描く際に使われるインクですね。これは冒険者をされている大輝さんはご存知かもしれませんが、薬師ギルドや魔道具ギルドは冒険者ギルドに持ち込まれる魔獣の素材を購入しています。そして我々が素材を購入する理由が魔法陣用のインク作成なのですよ。そして作成するインクの種類は100を超えます。なぜなら、魔法陣で機能させたい内容に見合ったインクを使用しないと魔法陣自体が起動しないからです。」 


「専用のインクを用いて専用の魔法陣を描くことが必要ということですか?」


「はい。併用できるものもあるのですが、その認識でいいと思います。」


 どうやら大輝が想像していたよりも魔道具には必要条件が多いらしい。


「秘伝書にはインクの調合方法や実用的な魔法陣の例示、それらの組み合わせ方等が載っていてまるで辞書のようなものと言えますね。」


「現在出回っている魔道具の種類ってどのくらいあるのですか?」


「どこまでを1種類に加えるかによって大きく数が変わりますね。500年間魔道具職人たちも研究はしていますので改良を加えられたものもそれなりにあるんですよ。」


 当然のことだった。いくら事故の危険性があっても全く研究されていないわけではない。地球の科学だって同じなのだから。


「出来れば冒険者や戦闘職に必要なものを重点的に教えてもらえませんか?」


 歴史も興味深いが今必要なのは戦闘系の魔道具の知識であることを思い出して大輝がナイルへ願いを出す。


「えぇ。わかりました。でも明日からにしましょうかね。入門時に取っていたメモがここにはないので、明日には用意しておきますよ。それを見ながらの方が効率がいいはずですから。」


「はい。よろしくお願いします。」


「よろしくなの!」


 ココは歴史よりも実用的な知識を欲しているようで難しい顔をして聞いていたのが嘘のような晴れやかな顔を見せる。


 アース魔道具店を出た時にはすでに太陽は西に傾き、空はオレンジ色に輝いていた。ナイルの話が上手かったからか、または大輝が集中して聞いていたからか、時間が経つのが早かったように感じる大輝。 


「とりあえず宿に戻ってコメを食べよう!」


 希望通り魔道具について知る術を得たことと今夜もコメを食べられることを思い出し自然と足取りが軽くなる大輝だったが、宿ですぐに胃が重くなることになる。



 

 コメ処『食道楽の郷』に着いた大輝とココを待っていたのはアース魔道具店で別れたシリアだけではなかった。2人が一旦それぞれの部屋へ戻ろうと食堂の奥にある階段へ向かおうとしたときに目に入ったのは階段近くのテーブル席にいるシリアとその正面に座る男の2人だった。


「ただいまなの。」


 シリアを見つけたココが嬉しそうに近寄って行く。大輝が一緒だったとはいえ、14年間の殆どを全員顔見知りの村の中で暮らしていたココにとって魔道具店での数時間は心細かったのかもしれないと姉貴分兼護衛を務めるシリアへ抱き着くように挨拶をしてすぐさま隣に座るココを見ながら思う大輝。続けてそのココを値踏みするかのような視線で見ている正面の男へと注意を向ける。男は濃藍色の髪を短く切りそろえた30代中程の冒険者と思われるが大輝の記憶にこの男は存在しなかった。


(シリアと一緒のテーブルについている以上は知り合いなのだろうが・・・)


 昨夜のシハスに続いて連日大輝に断りもなく人を連れてくるシリアには後で少し話をしておかないといけないと思う大輝。その心を読み取ったのかシリアがすぐに正面の男を紹介する。


「大輝さん、こちらは冒険者のアルドさんです。パーティー『破砕の剣』のリーダーです。ギルドに寄った際に声を掛けられまして昨日の件について和解を申し出られたのでお連れしました。」


「あんたが噂の奇術士か?まぁ座りな。」


(あぁ。シリアさんもまだ自覚がなかったのか。)


 大輝は自分が思い違いをしていたことに気付いた。ハンザ王国側の名もなき村とノルトの街の連絡係を務めているというシリア。名もなき村からはココの護衛兼案内係として紹介されていたために大輝はシリアを一人前の人物と思い込んでいたのだが、月に1回村と街を行き来して村長とシハスの間を繋いでいただけの20歳の女の子なのだ。その身体能力こそ一級品だが、処世術については経験不足なのだということを理解した。初対面の武装した男を自分たちの宿に連れてくるということ。しかもその相手は昨日自分たちに絡んできた男たちのリーダーであり、大輝によって大勢の証人たちの前で仲間たちが一蹴されて大恥を掻いている。いくら和解を希望していると相手が言っていても拠点に案内するなど危機感が無さすぎるのだ。


(ココの村外研修だけじゃなく、シリアの研修も兼ねてるのかな?)


 おそらく、シリアはノルトの街に来たら決まった協力者とだけコンタクトを取っていたのだろうと予想する大輝。冒険者ギルドの幹部職員であるシハスや生活に必須な魔道具関係を扱うカイゼル等安心してやり取りの出来る相手とだけ接触してすぐに村へ戻る。だから昨日のギルドでのトラブルも今の状況にも危機感がないのだろうと。


「おい。聞いてるのかい?ボーっと突っ立ちやがって。」


 大輝がなかなか席につかないことに苛立ち始める『破砕の剣』のリーダーアルド。どうみても謝罪に来たわけではないようだった。大輝は溜息をつきながら席につくことにする。放って置きたいという願望を押し殺して。


「ったく、わざわざこっちが出向いてるんだ。あんまり時間取らせるなよ。」


 血の気が多いのが特徴らしいと『破砕の剣』を評価する大輝だが、いきなり喧嘩腰で対応しないように自制心を働かせる大輝。昨日の対応は素っ気なさすぎたと反省していたのだ。そして招かれざる客とは言えシリアが連れて来てしまった以上は一応話を聞かねばならない。


「それで『破砕の剣』のリーダーさんがオレにどのようなご用件ですか?」


 すでに一人称が『私』ではなく『オレ』になっている時点で大輝はアルドを評価していない。初対面の年長者相手には『私』が大輝の標準仕様だからだ。


「ギルドから手打ちをして来いって言われてるからな。それに決闘もどきまでやってウチのメンツを潰したんだからそれなりのことは要求しないとな。」


「アルドさんは昨日はギルドに居ませんでしたよね?昨日の件はどういう風に聞いてますか?」


「んあ?ミラーたちがそっちのお嬢さんたちを仕事に誘った。それをお前が邪魔したから起こった騒ぎだろ。そしてその結果ミラーたちが怪我を負った。当然あいつらの治療費の他に仕事に出られなかった分の補償もしてもらうからな。オレたちはこの街を拠点にしてもう10年近い。あまり怒らせるなよ。」


 不愉快だと言わんばかりの表情とともに大輝を睨むアルド。それを聞いているシリアとココの表情は強張っている。


(アホらしい・・・日本に居た時もこんな奴らばっかり相手してた気がするなぁ・・・。)


 提携を断った企業からの恨み言に寄付金狙いの自称慈善団体の罵倒、他にも自称親友に親族と多くの者たちが不可解な理論で集って来たことを思い出す大輝は遠い目をしていた。それを見たアルドは自分たちの力を恐れて委縮しているとでも思ったのかさらに言葉を続ける。


「あぁ、迷惑掛けた分の慰謝料も貰わないとな。もちろん全部飲んだ上でギルドに報告しとけよ。」


 どうやらギルドには和解内容を報告するように指示されているらしい。冒険者同士の争いには不干渉のはずのギルドだが、決闘もどきにギルド幹部職員が立ち会った以上は解決しないといけないという方針のようだった。 


(そういえば、和解しにきたのであって謝罪しに来たとは言ってないな。その和解とやらも自分たちに都合のいい内容なのがどうしようもないけど。)

 

 こういう輩へのこれまでの大輝の対処は大きく分けて2つ。潰すか放置である。筋の通る、もしくは大輝が多少でも納得できる主張をする相手であれば歩み寄るのだが、ここまでのアルドの言葉には大輝の心に響くモノが何一つなかった。そうなれば潰すか放置なのだが、今後もノルトの街へ来る機会があるだろうココとシリアのことを考えると何か手を打たなければならないとも思う大輝。


(アルドだっけ?こいつを決闘で潰してもいいけど、血の気の多いこいつらのパーティーじゃ逆恨み確率100%だろうからな。)


 『食道楽の郷』の食堂へ入って何度目かの溜息を心の中で吐いた大輝が方針を決める。



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