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レゾナンス   作者: AQUINAS
第一章 ハルガダ帝国~召喚と脱出~
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第四話 召喚魔術

 白い大地に白い空がどこまでも続く空間。


 大輝がウルティマフィールドで57か月に渡る修行を終えて扉を開けると、それと同時に他の3つの扉から計7名の人間が同じように白き空間に戻って来た。


(どうやら戻ってくるタイミングは同じになるように設定されてるようだな。)


 大輝を含めた7人は自然と自称神の遣いの元へと歩みを進める。高校生組が互いの無事を確かめた以外は来たばかりの時のように騒ぐ者はおらず、どうやら、フィールドにいた間に全員がある程度の覚悟を決めたようだった。


(まあ、どうせ()()()()のメンバーはここでの記憶は無くなるんだろうけどな。)


「諸君。お疲れ様。」


 大輝が内心でそんなことを思っていると、7人が集まったのを確認した自称神の遣いが話し始めた。


「もうあまり時間が残っていなくて申し訳ない。これよりアメイジアの地へと旅立つ諸君にせめてもの贈り物をさせてもらう。」


 その瞬間、7人の身体を白光が包む。7人が突然光に包まれたことに固まっているところに自称神の遣いの声が届く。


「各人の持つ能力が完全に発揮できるよう、全盛期の年齢にてアメイジアに召喚されるようにさせてもらった。せめてもの餞別である。皆の無事を・・・」 


 段々と聞こえる声が小さくなり、電車内から召喚された時のような浮遊感を感じ、そのまま意識が落ちるのだった。


















(あぁ~、やっぱりそう全部は都合良くはいかないよな。)


 大輝が目を開けると、召喚された7人を中心に白光を放っている半径10メートル程の円形の複雑な魔法陣があった。そしてその魔法陣の外周を等間隔で囲うようにローブを纏った人間が20人程見えた。彼らの顔は、いや全身は疲労困憊を表現していた。その今にも倒れそうに見える彼らの後ろには銀色に統一された装備の騎士と思しき50名程が控えている。騎士たちは剣こそ抜いていないが、明らかに警戒態勢で大輝たちを見ているのがわかる。


(これはプランAは無理だな。)  

 

 大輝は早々に自身にとって最も安全性の高い展開を諦めた。


 プランA、それは記憶を保持したままアメイジアの地に降り、周囲に召喚者側の人数が少なかった場合に実行しようと思っていた計画だ。簡単に言うと、帝国からの逃亡だった。


 地球からアメイジアへの召喚途中の記憶喪失についての問題は、ウルティマフィールド初日に行った師匠とのやり取りで高確率でクリアできると思っていた。フィールド内での鍛錬が魂に刻み込まれるのであれば記憶だって刻まれるはず。さらに、自称神の遣いは記憶が失われると言ったが、師匠に詳しく質問を重ねて実際は記憶を薄れさせる、つまり朝起きるとよく覚えていない夢と同じ状態になるということを聞き出せたのだ。 そして大輝が取った行動はフィールド特典を自身の脳強化に使ったのだ。


 魔法陣の中で目覚めてすぐに大輝は周囲を見渡しながら記憶問題については己の目論見がほぼ達成されたことを感じていた。願わくば、と思っていた完全記憶とまではいかなかったが、フィールド内での出来事を目次や索引のように任意に自身の記憶から引っ張り出せることを確認した。


(まあ、師匠のお墨付きと、万一情報を漏らさないように、契約魔法まで使われた時点でほぼ達成できるとは思ってたけど。)


 とはいえ、プランA実行の第2条件は満たされなかった。疲労困憊とはいえ、召喚魔術を実行した20人のローブたちの外側に50人規模の完全武装の騎士たちがいるからだ。さらにここは屋外ではなく、地下なのか洞窟なのかわからないが出入口は一番騎士の囲みの厚い1箇所しかないようだ。


(仕方ない。不安要素はあるけど、次の機会を作ろう。)


 大輝は周囲に気付かれないように溜息をつき、この後起こるであろう混乱に備えることにした。














 巨大な魔法陣が強烈な白光を放ち始めた時、アンナ・ハルガダは成功を確信した。


 2年前、帝都ハルディアから馬車でわずか2時間の距離にある農村で起きた大洪水、それに端を発するこの計画の第一段階。


 異世界人の召喚。


 最終目標を達成するにはまだまだ時間がかかるだろうが、偉大な一歩を踏み出したことは間違いない。


 アンナは遠くない未来に覇業達成の中心にいるであろう自身の姿を思い浮かべ思わず微笑を浮かべる。


「姫様、間もなくかと。」


 アンナの傍らに控えている精悍な顔つきの騎士から声が掛かる。


「わかりましたわ。皆、予定通りに。」


「「 はっ 」」


 アンナの声に緊張した騎士たちの声が答える。


 騎士たちが警戒するのも当然であった。文献によれば、召喚された異世界人たちの多くは獣人の戦士を凌駕する身体能力を持ち、エルフにも優る魔法適性を持ち、さらに異界の知識を持つというのだ。実際、子供の頃に聞かされるお伽噺の主人公は異世界人であることも多い。竜と拳一つで戦って勝利した竜殺しの英雄、北の大海を渡って来た異国の船100艘を魔法一つで壊滅させた救国の魔女、魔道具の作成技術を編み出した魔職の匠。他にも亜人の王や魔獣の友と呼ばれる者までいる。そんな者を数百年ぶりに召喚するというのだ。いかに召喚時はそこまでの非常識な力を持つわけではなく、成長限界がアメイジアに住まう人種よりも高いだけだと聞かされていたとしても、騎士たちが魔法陣の白光が収まるのを神経が擦り切れる思いで眺めるのも無理はなかった。


 そして、白光が収まり始めたところで騎士たちは背筋の凍る思いをする。


「ひ、1人じゃないのか・・・」


 白光の中に7つの人影を見つけたのだ。















「異世界人が現れたら友好的に振る舞うように。」


 アンナが事前に発していたこの命令が両者を救った。


 召喚された側は大いに取り乱した。彼らにしてみれば、電車に乗っていたはずがいきなり武装集団に囲まれていたのだから当然だ。まあ、注意深く見れば1人の男の行動は演技っぽく見えたかもしれないが。


 召喚を行った側も内心は大いに取り乱していた。指揮を執っていたアンナも含めて。 召喚できるのは1人だと思っていたのだ。7人も召喚されるとわかっていたら5個小隊(100名☓5小隊)は連れて来ただろう。


 この時、アンナの命令がなかったら、騎士たちが異世界人たちに対する恐怖に負けて剣を抜いていたら、日本人側の混乱を大輝が収める側に回らなかったら・・・どれか一つでも欠けていたら多数の死傷者が出た上、帝国とアンナの計画は頓挫し日本人側もこの地で生きていく道を絶たれていた可能性が高い。


 結局、なんとか立ち直ったアンナが誰もが見惚れる笑顔で友好をアピールし、大輝がそれに乗っかって高校生組を鼓舞し、強面組を追従させたのだ。





 そして現在、大輝は荷馬車に揺られて帝都ハルディアに向かっていた。予想外に大所帯の召喚となってしまったため、馬車の用意がなかったのだ。そこで仕方なく、女性陣がアンナと同乗し、大輝、侑斗、拓海、強面2人が荷馬車に乗っていた。


 荷馬車での移動中、大輝の心が休まることはなかった。


 侑斗と拓海が異世界に召喚されたことへの不安で神経が昂ぶっているところをフォローし、そこにちょっかいを出す強面2人組を諌め、餞別で若返っていたせいで電車内でのトラブル相手と気付いていなかった侑斗と拓海が強面に気付いて突っかかっていくのを止め、自己紹介に辿り着いたと思ったら、強面2人が兄弟で一郎、二郎という名前だと知ると侑斗と拓海が揶揄しはじめて喧嘩になり、最後には匙を投げた。


 本来なら、この後起こるであろう事についての注意点や対策をある程度話しておきたかったのだが、彼らが話を聞く体勢をとれないならば仕方ないと大輝は諦めたのだった。


 そして、荷馬車の揺れにお尻が痛くなって来た頃、ようやく目的地である帝都ハルディアが眼前に迫って来た。


 


 帝都ハルディア。アメイジア大陸西部にある3大大国の一つハルガダ帝国の帝都であり、人口は30万を超えると言われ、1辺5キロにも及ぶ新壁と呼ばれる高さ5メートルの城壁に囲まれた正方形に近い形をしている。また、新壁の内側には帝都の中心部を囲うように旧壁といわれる高さ8メートル1辺1キロの区画があり、そこが帝国の政治、軍事の中枢である。そしてその中枢に向けて大輝は荷馬車に揺られている。 


 どうやら文字は読めるようだ。大通りを移動中の大輝は通りに並び立つ商店の看板を見て安堵していた。武器屋、防具屋、宿屋、魔道具店、奴隷商店、食料品店が所狭しと並んでいる。大通りに面した店舗はどれも石造りでほとんどが2階建てであった。


「おぉ~なんか映画の中かゲームの中に入り込んだみたいだな。」


「だな!なんかちょっと感動かも。」


 侑斗と拓海がそんな感想を口にしているのを横目で見て大輝は肩を落としていた。


 古代遺跡を出てからここまで3時間弱、召喚の事実に落ち込み、誘拐だと騒ぎ、騎士の武装を見て竦み、中世のような街並みを見てはしゃぐ。気持ちはわからなくはないが、あまりにも危機感が足りないと思ってしまう大輝。


(一回り位年齢が違うとギャップ感じるのも当然か。あ、今は見た目同じ位なんだろうけど。)


 そんなことを思いながらも旧壁に向かって大通りを進む荷馬車から瞼に焼き付けるが如く街中を忙しなく行き交う人々を観察していた。


 旧壁から中は帝国中枢ということもあって、門の前には10人の完全武装の兵士が立っていた。たとえアンナが率いる部隊であってもきちんとした手続きなしでは通れないようで門を越えるのに時間が掛かっている。


(それにしても時間掛かってるよな。アンナって第一皇女って言ってたはずだけど。)


 旧壁の門に到着してから20分、ようやく門を通過できない理由がわかった。


(原因はオレらだわ。)


 アメイジアでは身分証明書代わりに認証プレートという魔道具が使われている。お伽噺に出てくる異世界人『魔職の匠』が作成した魔道具である。これは半透明の20×10センチのプレートで成人として認められる15歳までに全員が持つことを義務付けられている。生体認証のシステムに近いのだが、人種が必ず持っている魔力で識別されている。この認証プレートで身分証明、各種ギルドの会員証明、保持スキルの確認等を行っているのだ。そして、当然の如く都市に入る際の身分証明にも使われるわけで、現在アンナ第一皇女ご一行には認証プレート不所持者が7人もいるわけで。


(入れないよね~きっと皇女様は召喚予定の1人分は事前に話を通してあったんだろうけど、一気に7倍の不審者じゃ流石に門番に止められるよな。)


 結局、それから30分掛かって日が暮れて来た頃にようやく皇女様の押しが優ったように見えた。




「皆さまお時間掛かってしまい申し訳ありませんでした。これより私の父でありこの国を統べる皇帝陛下並びに重鎮と呼べる者たちとお会いいただきます。詳しいお話はその場にてさせていただきます。」


 宮殿と思われる豪華な建物を前にしてアンナが全員に聞こえるように声を張る。


 その有無を言わせない雰囲気、口調は流石皇女殿下、といった堂々っぷりであり、普段そのような威厳ある、または命令することに慣れた者と接する機会が少ない者たちは気圧されているようだが、大輝には戦闘開始の合図にしか聞こえなかった。


 


 

 

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