表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レゾナンス   作者: AQUINAS
第二章 ハンザ王国~冒険者~
37/145

第三十二話 似た力を持つ者

 アメイジア新暦745年10月9日の午後、大輝たちはハンザ王国はエレベ山脈の南にある名もなき村へと無事到着した。村はハルガダ帝国側の名もなき村と同様に村の中心から3キロ程を魔除けの魔道具によって守られており、獣人と異世界人以外は入れないようになっている。そこに住むのはおよそ80世帯250人ほどだが、彼らによって槍を突き付けられたり囲まれるような事態にはならなかった。


「ただいまなの。」


「無事任務を終えて戻りました。」


 出迎えに集まって来た村民たちに向かってココとマイルが帰還の報告をする。


「おじい様、行かせてくれてありがとなの。お蔭で大輝を連れて来れたの。」


 老齢の男性に向かってココが飛びかかるように抱き着いてまるでお土産ですと言わんばかりの視線を大輝に向ける。


「こちらの方は?」


 見た目に獣人の特徴を持たない大輝へと視線を向けるココの祖父だが、その瞳に警戒心はなかった。それは出迎えた村民たちも同様だ。ココとマイルが同行しているからなのか、魔除けの魔道具への信頼感からなのか、はたまた異世界人の可能性に思い至らないからなのか、大輝にはその理由はわからなかったがとりあえず挨拶は必要だと思い、村の代表と思われるココの祖父の前に出る。


「大輝といいます。ハルガダ帝国の名もなき村へ滞在しているところでココさんたちにお会いし、こちらまで同行させていただきました。」


 いきなり異世界人であると宣言して混乱させる必要はないと考え、簡潔に挨拶を済ませる大輝。いずれにせよこの後は1週間教師役を務める約束になっており、じっくり話す時間があるだろうと思ったのだ。


「大輝は凄いの。魔法も身体強化も一流だからこの村でも教えてもらおうと思って来てもらったの。」


 ココは空気を読まない時がある。大輝はそれをここ数日で学んだはずなのだがすっかり忘れていた。


「ま、魔法がすごい?」


「着火の魔法が10連続で使えるとか?」


「まさか獣人じゃない?」


 案の定集まっている村民たちに誤解と動揺が広がるものの不思議と怖れたり警戒したりといった様子は見られない。それを不思議そうな顔で見渡す大輝だがすぐにマイルが説明を始めたために騒ぎは収まる。


「村長のお宅へ行ってからお話ししようと思いましたが、ここで説明させていただきます。」


 マイルは村長が頷くのを確認してから大輝について説明を始める。ハルガダ帝国によって召喚された異世界人であること。他にも6人の異世界人がいるが彼らは帝国軍に所属したこと。戦争の気運が帝国内で高まっていること。大輝がイース少年たちを魔獣から救って村へ送り届けたということ。獣人でも訓練次第で魔法が使える可能性があり、身体強化の効率化とともに大輝が教えてくれること。実際にハルガダ帝国側の名もなき村では1週間で成果を上げてること。それらを一気に話し終えたマイルが改めて村長に許可を願い出る。


「以上のこととともにガイル殿もココ様も大輝殿を信用しておられますのでお連れした次第です。」


「そうか。ご苦労だった。大輝殿、私はココの祖父であるとともにこの村の村長を務めるロイズという。歓迎いたしましょう。皆もよいな?」


 やはりこの村でも村長の言葉は重く受け止められるようで誰も反対はしない。それでも浮かべる表情はそれぞれ大きく異なる。ハルガダ帝国が異世界人6人を抱え込んで戦争を始める可能性が高いことに不安を覚える者は暗く、大輝が同胞の少年たちを救ったことへ関心を抱き歓迎する者は明るい。また、年少者を中心に魔法を使えるようになれるかもしれないことから期待の眼差しを向けている者も多い。


(ガイル村長の村でも似た感じだったかな。)


 数日前に体験したことを思い出す大輝は早速訓練メニューを最適化しはじめる。ガイルの村での経験を活かしてさらに効率化するつもりだったのだ。なにしろ滞在予定は1週間だけなのだから。







 しかし、大輝の滞在は大幅に延びることとなった。ココが大輝の旅立ちを断固阻止すべきであると進言したのが発端だった。


 村へ来てからの5日間、ココは寝る時以外は大輝の側を離れなかった。大輝は村長の家の裏にある来客用の離れを借りて生活をしていたのだが、朝は必ずココが起こしに来たし、すでに受講済みの日中の訓練にも全て参加していた。朝昼晩の3食も全て大輝と一緒に過ごす徹底ぶりだった。あまりの懐き具合に心配になり祖父であり村長でもあるロイズにこっそり相談したほどだった。孫娘が離れてくれなくて困ってますとは言い辛かった大輝だが懐かれる理由がわからなかったために意を決して切り出したのだ。


「迷惑を掛けてすまない。他言無用の話だが聞いてもらえないかな?」


 前置きをしたロイズの顔は苦渋に満ちているように感じられた。


「ココの家系は特別なのだよ。私の家系ではない。特別なのは女系だけだから。」


 頭の中で話が纏まらないのか細かく区切るように話し始めるロイズ。


「ココの女系を数百年遡ると当時存在した獣人の国の占い師に行き着くらしい。その占いの力は凄かったらしい。天候を読ませれば100日先まで的中させたとか、戦士たちの模擬戦の勝敗を全て言い当てたとかとにかく凄かったらしいのだ。そしてそれは次第に政治にも取り入れられ、やがて彼女の言葉は全て真実として扱われるようになったそうだ。」


 ここまで聞いて大輝は心臓の鼓動が高鳴っているのを自覚していた。


(まさか、未来視を意識的に使いこなしてた?)


 大輝がかつて持っていた能力。それに囚われすぎて失敗した大輝。しかし話しを聞く限りその占い師は能力を意識的に使えていたようだ。


「未来が視えていたんですか?」


「詳しくは伝わっていないが、妻や娘、孫のココに聞く限りでは直感に近いらしい。これ以上の詳しいことは私も言えないのだ。ただ、ココについて言えばいくつかの条件が揃わないと『直感』は働かないらしい。」


(『未来視』に似てはいるが別物なのかな。)


「話しを戻すが、村では妻たちの『直感』は基本的に言わないで貰っている。特に個人についての言及は厳禁なのだ。人間は1人では生きられない。だからこそこうして集まって生活している。だが、個人がどの道へ進むかは自由でなければならないというのが我々獣人の考え方だ。私はその考え方の根源は占い師に頼りっきりになり彼女亡き後の獣人の国の衰退にあると思っている。」 


 占い師の力が凄すぎたために思考停止になってしまったのだろうと思う大輝。彼女のような突出した人物がいなくなった後の獣人の国の混乱具合については想像がついてしまう。 


「もちろん対象の本人が望むならば妻たちが行う個人的なアドバイスとして認めているが、妻たちはそれを控えているようだ。ただし例外として村の命運に係わる事については『直感』がこう告げていると意思表示した上で意見を述べてもらうことにはなっている。」


「これも苦肉の策なのだがな。大輝殿、私の娘でありココの母親をこの5日間見たことがないだろう?ほとんど家から出て来ないのだよ。下手に『直感』が発動してしまい、それを言えないままに対象者が命を落としたりしたら耐えられないことを知っているから人に会わないようにしているのだよ。」


 ロイズの言葉は痛いほど大輝には理解出来た。天災や事故、事件等の未来を見ても何もできなかった頃の自分を思い出せば当然のことだった。そして自分はそれに耐えられないからなんとかしようと努力したのだ。しかし、今思い返せば努力するという行為で心の痛みを和らげていたのかもしれないと思う大輝。


「私だってもしそんな状況になれば耐えられるかわからないからね。だから村の一大事になることについては積極的に発言してもらうようにしている。個人の意志を尊重しつつ、集団の安全を守るという名目でね。」


(確かに苦肉の策だな。でもバランスとしては悪くない。ココたちには心の負担が大きいけど。)


 そう思いながらもそれ以上の方法が思いつかない。思い付けば自分もあんなに精神的に追い込まれなかっただろうと自嘲の笑みを浮かべてしまう大輝。


「そういう取り決めの中での出来事なんだよ。ココがハルガダ帝国側の村への定期連絡隊に同行したいと主張したのは。」 


 苦渋の表情から真剣な眼差しに切り替わって大輝を見るロイズ。


「『直感』を盾に取った言い方はしなかったが、私にはわかったんだ。ココ自身が自身の『直感』に従って行動を起こしたということがね。」


 ココたちの『直感』に基づいた発言は制限されているが、自分自身が望んでそれに従うのは自由なのだ。


「私はそれを認めて隊に加えた。そして君を連れて帰って来たし以後君にべったりだ。それを見ればココが君を求めて隊に加わったと考えるのは自然だと思わないかな?」


 ロイズの言葉には明確な根拠はない。あくまで感じたことと目で見たことを元に推測しているにすぎない。実際、ココにそこまでの能力がないことはロイズも知っている。ココの『直感』は確かにここ数代の占い師の女系においては強力だと言われているが、あくまで勘が働くという程度だ。見たもの、聞いたことの中からなんとなくイメージが湧くという程度であり、その発動も完全にランダム。大輝がかつて苦しんだ『未来視』の劣化版というのがココの現在の『直感』である。


「そうだとして、ココは何を求めているんですか?」


 肯定も否定も材料がないために出来ない大輝は仮定の話をするしかない。


「それは私にもわからない。ココ自身もわかってないと思う。ただ、ココは大輝は自分と同じ匂いがすると言っていたよ。」


 その言葉にドキッとしてしまう大輝。近しい力を持っていたことが知られていると勘違いしたのだ。


「ココは自分と同じように大輝殿の心が抑圧されていると思ったようだ。大輝はもっと自由になるべきだと言っていたからね。ちょっとしゃべりすぎたな。それ以上はココに直接聞いて欲しい。」


 ロイズはそこで口を閉じたがタイミングよくココが数人を連れてやってくる。


「ノルトの街からシリアたちが帰って来たから連れて来たの。それと、みんなに話しがあるの。」




 ココたちの名もなき村はハルガダ帝国側の村だけではなく最も近いノルトの街とも定期連絡を取っており、そこの連絡隊が戻って来たのだ。大輝も参加を認められロイズの家に主だった者たちが集められて報告を聞く限りでは異世界人召喚の情報はノルトの街では聞かれなかったようだが、ハルガダ帝国側の国境砦マラウィーには兵が増強され実質国境封鎖に近いらしく、それに対してハンザ王国側も警戒レベルを引き上げノルト砦に騎士団を派遣する準備が整ったらしいとの情報がもたらされた。それらの報告がなされた後にココが告げる。


「大輝はしばらくこの村に居るべきなの。これは私の『直感』なの。」


 ココたちの『直感』を個人へ告げることは禁止されていたため、異論が出る。


「ココ様、それはいけません。」


「そうです。村の決まりですぞ。」


「違うの。大輝個人だけじゃなく、村に係わることなの。」


 ココの表情はいつにも増して真剣であり、集まった者たちもとりあえず最後まで聞くことに同意する。


「シリアたちの報告にもあったの。国境が騒がしいって。私の『直感』だと何が起こるかまではわからないけど、国境の兵が増えていることと大輝が村を出ることで悪いことが起こると思うの。」


 具体的なことはわからないようだが、関連付けて考えると可能性が浮かぶ。


「やっぱりハルガダ帝国側の国境封鎖はオレを国外に行かせないためか。」


「もしそうなら、ハンザ王国軍に見つかるのも避けた方がいいのだろうな。」


「でも、大輝殿の情報はノルトの街にはなかったんでしょ?」


「この村からノルトへ行く途中で大輝殿が異世界人であるとバレると村の危険度が上がるか。」


 様々な予想と危惧が活発に発言される。


「だからしばらくは村に留まって欲しいの。1月後の定期連絡で情報を集めてから動いた方がお互いの為なの。」


 大輝としても村の存在が明らかになるリスクを取るつもりはなかったし、急ぐ旅でもない。さらにいえば、ハンザ、ハルガダ両国の動向が明らかになるなら1月位滞在が延びても問題ないためココの『直感』を受け入れることにする。ロイズを始めとする村の主だった者たちも納得したことで大輝の滞在延期が決まった。


 そして大輝はその1月を村民の訓練と自身の訓練に費やすことにした。アメイジアに来てからは監視者の目を気にして本格的な訓練や魔法の実験を行えなかったため、自分自身の力を把握できていなかったのだ。師匠の元に居た頃と今の違いを確かめ、さらに新たな便利魔法を編み出すことに注力することにした大輝が村を旅立ったのはアメイジア大陸745年11月25日だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ