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レゾナンス   作者: AQUINAS
第一章 ハルガダ帝国~召喚と脱出~
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another point of view 4 ~侑斗・拓海・志帆・七海~

~~依頼~~


 すでに約束の3か月も残すところ3週間を切っており、侑斗たち高校生組と一郎二郎はハルガダ帝国軍に所属することが決まったことで、大輝の動向のみが不明という状況になっていた。そんな時にアンナ第一皇女から侑斗たちへ持ち込まれた依頼があった。帝国側はこれまで高校生組、兄弟、大輝と3グループに分断する方針を取った上でそれぞれに異なるアプローチをしていたのだが、いよいよ最後の1人である大輝へ注意を向けたのだ。といっても、侑斗たちに依頼したのはあくまでも大輝が帝国に対してどのような感情を持っているかを知りたいということであり、勧誘を依頼したわけではない。しかも依頼の内容は「残り3週間を切っているにもかかわらず、最近の大輝殿は迎賓館に閉じこもっており心配だから相談に乗ってあげて欲しい。」というものだった。


 この帝国側の持ちかけに対しては大輝に良い感情を持っていない侑斗ですら快く受けた。


「あいつ最初は威勢良かったけど、きっと日本に帰れないっていう現実を実感して落ち込んでんだろ。」


 見方によっては随分上から目線の言い方だと思うだろうが、実際大輝は最近部屋から出ることは殆どなく引き籠もりと思われても仕方ない生活をしているのだ。侑斗は侑斗で面倒見のいい先輩として振る舞おうとしているだけなのだ。それを理解している七海は侑斗を諌めない。彼女こそが最も大輝の今後の身の振り方に注目していたため、帝国から依頼されたことは渡りに船であったのだ。


 しかし、夕食の場で大輝へ身の振り方を尋ねた侑斗たちに対しての答えは不明瞭としか言えないものだった。


「オレはまだどうするか決めてないかな。」


 そんな大輝の返答を聞いた侑斗たちは呆れた顔を浮かべて大輝を諭しているが、七海だけはじっと視線を向けるだけだった。


(そんなはずない。『フェイスレス』がなにも考えてないなんてありえない。)


 黒崎大輝という人物について唯一知識のある七海は続けて発せられた大輝の言葉を真に受けなかった。


「・・・なんかお勧めがあったら教えてもらえると助かるな。」


 侑斗たちは先に就職活動を終えた先達として説教じみた話し方をしているが、それを受け入れている風な大輝の姿が七海には茶番に見えて仕方なかった。侑斗たちが真剣に帝国騎士団や魔法隊のことを説明し、魔獣の脅威に晒されている帝国民のことを話しているのを時折質問を交えて聞いている大輝の姿が目の前にあるにもかかわらず・・・。


(大輝さんは何を考えているの?)


 結局、夕食間七海が言葉を発することはなかった。





~~期日~~ 


 侑斗たちは連日大輝を騎士団や魔法隊の訓練に誘い、街へ出る大輝に付き合いもしたが、結局迎賓館に居られる最後の夜になっても結論を聞けなかった。ギリギリまで考えたい、という言葉を繰り返すのみの大輝に押し切られた格好だった。そしていよいよお客様扱いが終わる日が来た。


 召喚された当日以来の謁見の間において侑斗を筆頭に次々と帝国軍に入ることを表明する異世界人の最後に大輝が述べる。


「6人も異世界人がいれば帝国も安泰ですね。これで私は心置きなく旅に出られます。」


 侑斗たちはすぐに気付く。大輝以外の6人が帝国に所属することはすでに知っていたはずなのだ。2週間以上前に全員がそれぞれの口で宣言したのだから。怒りが湧きあがるのも当然だ。


 侑斗たち他の日本人の進む道をさも今知ったかのように話す大輝。


 2週間に渡って面倒を見て来てやった相手に対する気遣いのない大輝。


 おそらく最初から帝国軍に就く気がないのに2週間ずっと欺いてきたであろう大輝。


 侑斗たちが怒りと侮蔑の表情で大輝を振り返っているが謁見の間に大勢の権力者がいることを考慮して言葉を発しない。彼らもこの3か月で学習しているのだ。むやみやたらに喚いていた姿はもうない。ただ、七海だけは少し違う捉え方をしていた。


(きっと最初から色々なパターンを想定したんだ。大輝さんは6人の異世界人が一緒にいれば安泰と言った。つまり、私たちが一緒のグループで行動している限りは安全だと判断したんだ。きっとそうでなければ別の行動を取ったはず。それがどういうものかはわからないけど。)


 召喚初日の契約魔法から自分たちを救ってくれたという事実と、侑斗たちの知らない大輝の経歴を知っていることから、見捨てられたのではないかという思いを隠し必死に大輝を肯定的に見ようとしている自分に気付かぬままに結論を出す七海の瞳にはわずかに光るものが浮かんでいた。


 こうして大輝の離脱をそれぞれの思いで見送ることになった。





~~遊撃隊~~


 大輝が退室したのを見届けた後、謁見の間で任命式が行われていた。


「侑斗、拓海、志帆、七海、4名を遊撃隊としてアンナ・ハルガダ第一皇女直下の独立部隊とする。」


「一郎、二郎の2名は傭兵隊の監督任務を任せる。平時はバルト・ハルガダ第一皇子の旗下とする。」


 遊撃隊は対魔獣専門の部隊として新設されることになった。アンナ指揮下となり侑斗たち4人だけの部隊だが、任務内容によって帝都を守護する騎士団および魔法隊から都度追加メンバーが加わる変則的な部隊である。しばらくは旧壁内での訓練を続け、北東の森や南西の森で実戦経験を積む事が合わせて発表された。保有するスキル的には騎士団長に匹敵するがまだまだ経験不足だからだ。そのため、侑斗と拓海は騎士団預かりとなって共に訓練を行い、志帆や七海は魔法隊での訓練を続けることになった。


「一応、身分的には騎士と魔法士ってことだよな?」


 任命式の終わった侑斗が誰とはなしに口に出すがすぐさま拓海が応じる。


「そういうこった。頑張ろうや。」


 彼らはこれから迎賓館を出てアンナ第一皇女の離宮へと住まいを移すことになるため私物の整理に迎賓館へ向かって歩いていた。


「それにしても大輝のやつふざけてるよな。」


「そうね、さすがに頭に来たわ。」


 拓海に志帆が同意する。


「もうあいつのことはいいよ。最初から合わなかったんだよオレたちは。」


 侑斗はすでにいなくなった者のことを考えるつもりはなかった。これからは自分たちもこの世界でサバイバルしなければならないのだから前を向くことだけを考えようと仲間を諭す。森への遠征までにもっと強さを磨かなければならないのだ。


「了解!」


「そうね。切り替えましょう。」


 拓海と志帆も今後訪れることが確実な魔獣との戦いを意識して気が昂ぶっているおり、その感情の矛先を大輝に向けていたことを自覚していたため素直に侑斗の言葉に頷く。大輝の言動に怒りを覚えたのは間違いないのだが。


「できることをやりましょう。」


 ずっと頭の中の整理が出来なかった七海もようやく声を出す。不安がなくなったわけではないが、大輝には大輝の考えがあるのだろうと無理やり心を納得させる。


「大丈夫だよ。オレたちは強くなれる。4人で組んでる限りオレたちはこの世界で生きていけるさ!」


 七海の不安そうな顔を見て侑斗が笑顔で声を掛ける。


「あぁ。侑斗の言う通りだ。オレたちが前衛でお前らを守るから安心しろよ。」


 拓海がその太い二の腕を叩きながらニカっと笑いかける。


「そうね。1人じゃ心細いけど4人なら大丈夫。ちょっと前衛がバカっぽいのが心配だけどね!」


 志帆が拓海へ視線を向けながら言うが、その顔は微笑んでいる。


「うん。みんなが一緒で良かったよ。」


 七海も召喚されたのが自分1人だったら心が押し潰されていただろうと思い友人たちを頼もしく思う。


「んじゃ、がんばりましょ!」


「「「おぅ!」」」


 侑斗がおどけた調子で掛け声を掛け、3人がそれに乗る。こうして4人の帝国軍遊撃隊の活動が始まった。



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